初めてそれを自覚したのは、僕が二十一の頃だった。

妹に、初潮が訪れた。

始まったばかりの夏休み。
何処へ行こうか、たくさん遊びに行こう、なんて笑いあっていた。
ある朝、トイレに起きた妹が布団を抜け出して暫く、まだ寝ていた僕のところへ駆け戻ってきた。
変なトコを怪我した、と恥ずかしそうに泣く妹に、一瞬意味を図り損ねて問い返した。
そして指し示された先に、一気に寝惚けていた頭が覚醒して飛び起きた。
生理だ、と気付いたものの、どうしていいのか分からずこちらも泣きたい気持ちであわあわしていた。
わんわんと泣く妹。
パジャマの上だけを羽織ったその裾から延びる日本の白い脚。

朱が、伝った。

それに気付いた途端、かあっと頭に血が上ったのが分かった。
真っ白になりかけた頭で、必死に必要なものを買いに行かなければ、と己に言い聞かせてベッドを飛び降りた。
妹を風呂場に閉じ込め、自分は慌てて着替えて家を飛び出した。
顔も洗わず、髪も梳かずくしゃくしゃのまま薬局へと走った。
薬局へと向かう途中、妹の内腿を鮮血が伝う光景がフラッシュバックする。
それを振り払うように首を左右に激しく振った。
おかげで電柱にぶつかりそうになったけれど、いっそぶつかってしまったほうが良かったのかもしれない、と思った。

わけが分からず無く妹。
パジャマの裾から延びる白い脚。
その内股を伝う、赤い、赤い血。

その光景に、ぞっとするほどの情欲を掻き立てられただなんて。
辺りの壁に頭をぶつけてしまいたかった。
そうして忘れてしまいたかった。


妹に、欲情したなんて。


あってはならないことだった。
忘れなければならないことだった。
薬局の店員に無駄に詳しく事情を説明して生理用品一式を選んでもらう間も脳裏をちらついて離れなかった。
忘れなければならない。
無かったことにしなければならない。




そして運命は僕に味方したかに見えた。



それから暫くして、僕は美柳ちなみと出会ったのだから。









***
無駄に詳しい事情。
「あの!すいません!妹に生理が来たんですけど何が必要なんでしょうか!?あのウチ父子家庭でしかも父も余り家に居なくてだから僕が妹の面倒を見てあげなきゃならなくて妹は五年生なんですけどどれを買っていけばいいんでしょうか?!」
テンパってて超必死。店員ドン引き。

 

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