「やきもち焼いたんだ?」
(御剣/逆転裁判夢) 私はお兄ちゃんが大好きだ。 優しい所も、結構おっちょこちょいだったりする所も、勿論、法廷に立っている姿も。 ぜーんぶ大好き! …でも、たった一つだけ、嫌いなコトがある。 それは、お兄ちゃんが悪いんじゃない。 悪いのはそう、あの男。 『御剣 怜侍』 学校帰り、いつものように兄の事務所に向かうべく某駅で降りた私は、その人波に嫌なものを見た気がして目を凝らした。 すると、どんぴしゃり。あの男が改札を抜けていく所だった。 思わず立ち止まってしまった私を邪魔そうに人々が避けていく。はっとして私も改札を抜けた。 視線はあの男に固定したまま、一定の距離を置いてその後ろを歩いていく。 長い前髪にスカしたあのツラ。間違いない。 御剣怜侍だ。 あの男の事は知っている。 私が生まれるより早く兄と出会い、兄の人生を決めた男。 兄の地軸に深く関わっている男。 何処へ行くつもりだ? まさかお兄ちゃんの事務所じゃないだろうな。 でもこの道順はまさに私が辿ろうとしている道。 オイオイオイ待てコラ。 何でそこを左に曲がる。真っ直ぐ進めよ! 何でそこを真っ直ぐ進むんだ!曲がれよ!! 私の思いとは裏腹にあの男と事務所の距離は近づいていく。 そしてあの男が辿りついたのは。 『成歩堂法律事務所』 ヤッパリィィィ!!! ヤツがビルの階段へと足をかけた瞬間、私の中で何かが切れた。 「……」 すっと左足の靴を脱ぎ、大きく振りかぶる。 (ピッチャー成歩堂、振りかぶって……投げました!!!) スパン!! 目標後頭部に見事ヒット! 「グッ」って唸った!ぐって唸った!!ヨシ!! 「すみませぇーん、大丈夫ですかぁ〜?」 ひょこひょこと近寄ってみれば、落ちた靴を拾い上げたあの男は、親族全員が死に絶えたのだろうかと思うくらいのしかめっ面で私を振り返った。 「…この靴は、君のかね」 「はいぃ、小石を蹴ろうとしたらすっぽ抜けちゃってぇー」 ホントにごめんなさーい、と男の手からガラスならぬ革製の靴をひょいと取り上げた。 「ム…気をつけるように」 「気をつけるように」だって!信じてるよこの男!!プフー! そしてくるりと再び私に背を向け、階段を上りだした男の後に私も続く。 ちらりと男が私を訝しげに振り返った。 そりゃそうだろう。女子高生がほいほい入るような店など、このビルにはありはしないのだから。 そして男は『成歩堂法律事務所』と書かれた扉の前で立ち止まると私を振り返った。 「…まだ何か用かね」 「私もこの先に用があるんですー。別にあなたを追いかけてるわけじゃないでーす」 にっこりと笑ってやると、男は少々たじろいたようだった。 「依頼者なのか?」 「あなたに関係ないでーす」 「ム…それもそうだが」 「さっさと開けてくださいよ。後つかえてるんですから」 「う、うム…すまない」 男がこちらを気にしながらも扉を開ける。 「あ、みつるぎ検事だ!いらっしゃい!」 男の背中越しに真宵ちゃんの声が聞こえる。 「こんにちは」 ひょこっと男の影から顔を出すと、真宵ちゃんはわあ!と更に嬉しそうに声を上げた。 「ちゃんも一緒なんだ!あれ?でも二人って知り合いだったっけ?」 「ううん、すぐ下で鉢合わせたの」 「そうなんだ。あ、なるほど君、みつるぎ検事とちゃんが来たよ!」 私は男を追い越すと、所長室から出てきた兄に思い切り飛びついた。 「ただいま!」 「わっとと…おかえり、」 ぎゅー。嗚呼幸せ…。 「御剣も、早かったね」 兄に抱きついたまま振り返れば、あの男は何処かそわそわしながら頷いていた。 「う、うム、予定より早く終わったのでそのまま来たのだが…その…」 ちらりと私を見た。気にしてる気にしてる。 「ああ」 すると兄は彼の言いたい事を理解したらしく、私をするりと引き剥がして背を押した。 「御剣は会うの初めてだったね。この子は。僕の妹だよ」 「…いもうと、だと?」 「うん。、 は公判観に来たりしてるから知ってるだろうけど、彼が御剣検事だよ」 「ええ、知ってるわ。よろしく、御剣検事」 にっこり笑顔で左手を差し出すと、御剣怜侍は何とも言いがたい複雑な顔でその手を見下ろしていた。 「ああ、すみません、握手お嫌いでしたか」 ちょっと寂しげに笑って手を引っ込めると、何にも気付いていない兄が「あれ?お前そういうの苦手だっけ?」と首を傾げていた。 「いや…」 相変わらず複雑そうな目で私を見ている男に、私はにこりとソファを示す。 「どうぞ、お座りになってください。真宵ちゃん、お茶淹れるの手伝うよ」 「わあ、ありがとう!」 真宵ちゃんの後に続いて給湯室へ向かいながら、私は微かに唇を歪めて笑った。 勝負は、これから。 *** なんかミツナルミツに割り込む妹夢っぽくなってきた…。 漸く妹の本性が出てきまスた。(爆) 左手の握手は別れの握手とも決闘の握手とも言われてます。 でもボーイスカウトの人たちは左手握手が標準だそうです。これは心臓により近いからという理由かららしい。 |