赤毛




ウィーズリー一家とハリーは、「漏れ鍋」でグレンジャー一家と別れた。
「さあ、私たちも帰ろう」
本屋でルシウス・マルフォイと諍いを起こしてから不機嫌なままのウィーズリー氏は、子供たちを暖炉へと誘った。
「あ!」
さあ帰ろう、という所で夫人が何かを思い出したように声を上げた。
「薬瓶!薬瓶を買ってくるのを忘れてたわ!!」
「薬瓶ならお下がりがあるじゃない」
ロンの言葉に夫人は「一つ足りないの!」と叫んだ。
「ジョージとフレッドが割ってしまったのよ!」
当の双子は我先にと煙突を辿って帰ってしまった。
「先に帰っていて頂戴、買ってくるわ」
夫人はそう言い終るや否やダイアゴン横丁へ駆け戻っていってしまった。
「じゃあお前たちは先に帰っておいで。ハリー、煤を吸わないよう気を付けて」
すっかり毒気を抜かれてしまったウィーズリー氏の言葉に従い、ハリーたちは一足先に隠れ家へと戻っていく。それを見送ったウィーズリー氏は、ぼうっと店内に突っ立って入るわけにも行かず、外に出て薄汚れた石壁に凭れ掛かった。
「……」
切れた唇の端がピリリと痛みを以って自己主張する。


――何処に行っていたんだ、アーサー!


年の差や寮の違いなど歯牙にも掛けず、自分の隣りには常に彼が居て、又その反対も然り。
お互いに、そう思っていた。


――アーサー、血筋の尊さが何故分からない!?お前とてその血を引く者だろう!


彼が根っからの「純血」である事など家名から分かっていた筈だ。
そんな彼と自分が分かり合える事はない。
始めから分かりきった事だったのに、何故自分達はあの日々を共有してしまったのだろう。


――結婚なぞ血筋を遺す為のものだ。愛情など関係ない。…それとも、まさかお前、あの女を愛しているとでも言うのか?


「…当たり前だ」
ウィーズリー氏は甦る声に小さく呟いて手をポケットに突っ込んだ。
右の指先に当たる麻袋の感触。
「ぅん?」
彼はずるっとそれを引き出した。
間違いない、モリーが持っているはずの財布だ。
何故自分が持っているのだろうと考えを巡らし、すぐにその答えにぶち当たった。
「…あの時だ」
モリーがジニーの荷物を確認している時、「ちょっと持ってて」と渡された。そしてそのままポケットへ。
彼女も夫が持っているのなら大丈夫だと思ったのだろう。ポケットに収まったそれは彼女の手元に戻らないまま今に至っている。
そして現在、当のモリーは。
「いかん!」
お金が無ければ薬瓶を買う事は出来ない。
ウィーズリー氏は慌てて人込みを駆けていった。




所変わって文具屋。
「あら?あら??」
モリーはごそごそとポケットというポケットを探った。
いざ支払、という時になって重要な事に気付いた。
財布が無い。
まさかどこかで落したのだろうか。
そんな不安に駆られたが、すぐにそれが杞憂であると察した。
そうだ、アーサーに渡したままだった。
彼の事だ、きっとまだ漏れ鍋に居るはず。
モリーは店主に謝罪して夫の元へと向かおうとした。

「これから取って下さい」

つい、とカウンターに一枚のシックル銀貨が置かれた。
ぽかんとしているモリーを余所に、銀貨を置いた相手は主人から御釣の数枚のクヌート銅貨を受け取る。
「この方が早いと思ったんですけど…要らぬ世話でした?」
その相手…体のラインに沿った白のワンピースを纏った女性は何処か不安げにモリーを伺った。
「えっ!いえ!助かったわ!漏れ鍋に主人が居るはずだから、そこでお金はお返しするわ」
女性が口を開こうとした瞬間、妻を見つけたウィーズリー氏が駆け寄って来た。
「モリー!」
「アーサー!良かった、来てくれたのね」
でももう少し早く来て欲しかったわ、とモリーは肩を竦めて笑った。
「こちらの方が親切にも立て替えて下さったのよ。本当にごめんなさいね」
モリーは店を出るや受け取った麻袋の中から代金の分を取り出し、女性に渡した。
「いえ、こちらこそ御主人がすぐにいらっしゃるなら口出ししない方が良かったかもしれませんし」
彼女はそのお金をポケットに滑り込ませ、不意に何かを思い出したように顔を上げた。
その視線はウィーズリー氏を、というより彼の赤毛を見ている。
「…あら?アーサーって…もしかして、アーサー・ウィーズリー氏?」
「そうですが?」
女性は「あなたが…」と呟きながらまじまじとウィーズリー氏を見詰めている。
「あの?」
「あっ!ごめんなさい、不躾に…私、」


さん!」


女性の声は変声期前の少年の声に遮られてしまった。
さん、探しましたよ!」
人込みを掻き分けて三人の前に現れた少年は、女性の隣りにウィーズリー夫妻が居るのを認めるとそれは怪訝そうな顔をした。
何でお前たちがここに居る、そんな表情だ。
ウィーズリー夫妻も気まずげな顔をする。
この少年が居るという事は。
、うろうろするなと…」
後からやって来た男は言葉を詰らせた。
やはり少年に続いてやって来たのは、先程本屋で諍いを起こしたばかりのルシウス・マルフォイ。
、何故こやつらと居る」
ひくりと顔を引き攣らせる男に、と呼ばれた女性は「偶然知り合ったの」と軽く告げた。
さん、行きましょう」
ドラコがぐいっとの手を引いた。
「え?ええ…それでは」
はきょとんと甥っ子を見下ろしたが、すぐにウィーズリー夫妻に会釈をして彼に引かれるまま通りを進んで行ってしまった。
「……」
「……」
ルシウスとウィーズリー氏が無言で睨み合う。
モリーはまた取っ組み合いの喧嘩を始めるのではないかと夫の腕を引いた。
「ルーシー?置いていくわよ?」
だが、少し離れた所から響いたの声に、ルシウスは踵を返して二人の元へと向かった。
「ああもう、ヒヤヒヤしたわ」
モリーはほっと息を吐くと、未だルシウスの後姿にガン垂れている夫の腕を引っ張って漏れ鍋へと向かった。







(終)
+−+◇+−+
わーい!アールシアールシvv・・・すみません、好きなんです・・・(倒)
取り敢えず、ウィーズリー夫妻とヒロインの出会い編。
恐らくウィーズリー夫妻はヒロインの事をルシウスの愛人だと思ってます。(笑)
関連タイトル:「手紙」
(2003/07/16/高槻桂)

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