伝説




魔法薬学教師、セブルス・スネイプの娘であるリリ・スネイプは両親や兄と同じスリザリン生として二年目を迎えた。
新学期、リリが何より喜んだのは友人との再会でも宴の御馳走でもなく、アラスター・ムーディ教授に代わり、彼の助手であった青年が新たに「闇の魔術に対する防衛術」の教師として就任した事だった。
その青年の名は、ハリー・ポッター。
が、その喜びは束の間だった。

「おやおや、我らが英雄殿ではありませんか。貴公が教師ですと?貴公の得意の分野といえば校則破りくらいだったと記憶しておりますが?」
「アッハッハ。相変わらず嫌味が達者なスネイプ先生、痴呆にはまだ早いのでは?」

そうだった。
リリはスリザリンテーブルの片隅でがくりと項垂れた。
あの二人は徹底的に、これ以上に無く仲が悪いのだった。
しかも教員席は隣同士。
食事で顔を合わせる度、火花と皮肉を飛ばし有っている。
ハリーが生徒として在籍して居た頃の様に怒鳴り散らしあったりはしなかったが、正直な話、そのピリピリとした空気に晒されるこちらの精神が辛い。
そんな日が一月ほど過ぎたある日の夕食にて。


「突然じゃが、新たにもう一人先生を迎える事となった」


ダンブルドアの言葉に誰しもがきょとんとした。
今頃?何の教科の?
リリは父とハリーへ視線を向けるが、彼らも訝しげな表情でダンブルドアを見ている。
どうやら彼らも初めて聞いたらしい。
ダンブルドアが教員席の後ろにある扉へ声を掛ける。
その扉を潜って現れた「新しい教師」の姿にリリは思わず立ち上っていた。
「ママ!」
リリの叫びに生徒達の視線が一斉に集まる。我に返ったリリは顔を紅くして再び腰を下ろした。
だが、当の本人は笑顔で娘にひらりと手を振っている。しかもその傍らには末弟、リドルまで居る。
「上級生達には懐かしかろう。各教科の助手をしてくれる・スネイプ先生とリドル・スネイプ君じゃ」
にこにこと笑顔を振り撒くとは反対に、リドルは天井に浮かぶ蝋燭を詰まらなさそうに眺めている。
「はじめましての人も久し振りの人もこんにちは。今回、某薬学教授と防衛術教授のストッパーとして就任しました。宜しくお願いします」

途端、どっと拍手が沸いた。(主に上級生)

スネイプとハリーの低レベルな喧嘩を止められるのはだけだと知っているからだ。確かに彼女は敢えて止めずに放っておく事も多々有ったが、それでも一度制止に回れば確実に騒ぎを収めてくれる。
多くの生徒はこれで漸く飯の味が分かる!と涙を零さんばかりの勢いだ。
それを見たとリドルはちらりと原因である男二人へと視線を向けた。
「「………」」
彼らはそれぞれ有らぬ方向へ視線を向け、二人の冷たい視線から逃れようとしていた。
取り敢えず自覚はあったようだ。
とリドルの席はスネイプとハリーの間に設けられた。
向かって左からスネイプ、、リドル、ハリー。
何だか凄い面子だ。
しかも、長男のジェムは卒業してしまったものの、スネイプ一家ほぼ勢揃い。
またあの日々が始まるのだ、と「先生」を知る生徒達は胸躍らせた。




「…で、何で君がここに居るんだい」
翌日、ハリーが授業の為教室へ向かうと、そこには生徒達に紛れてちゃっかり席に就いているスネイプ家の末っ子、リドルが居た。
「何って、高名なるハリー・ポッター殿の授業を拝聴しに来たのさ」
脱力するハリーにリドルは平然として答える。
「その嫌味は元から?それともスネイプ先生に似て来た?」
「両方」
「最悪だね」
「誉め言葉として受け取っておくよ」
教師と八歳児の応酬に、生徒達がぽかんとして居る事に気付いたハリーは慌てて「出欠を取ります」とリドルから視線を逸らした。


一方、その頃スネイプはというと。


「…なぜここに居るんだね」
スネイプは地下牢教室に足を踏み入れるなりその表情を一層険しくした。
「何って、久し振りにあなたの授業を聞きに来たのよ」
苦々しい表情で教壇に上がるスネイプには相変わらずの笑顔で答える。
「助手ならそれらしくしたらどうだね。リドルはどうした」
「必要なら呼んでちょうだい。リドルはハリーの所に行ってるわ」
途端、スネイプの表情から険しさが僅かに薄れた。
「ポッターの所に?それならば良い」
「嬉しそうね」
それには答えずにスネイプは出席を採り始めた。
彼を身近に知る者しか気付かなかっただろうが、その時の彼の声は僅かに嬉しそうだったという。






+−+◇+−+
大広間バトルにならなかった・・・まあ、微妙なバトルはあったのでそれでいいや。
本当は、ハリーがリドルに昔話をして、「伝説って言うか、最早名物だったよアレは…」と遠い目をするはずだったんですが、書いてる内に何かこう、「伝説」の意味合いが分からなくなって来たというか、どこからどこまでがそうなのか境界線が分からなくなったというか・・・なので削除。
しまった、そんな事したらタイトルと噛み合わない話になってしまうじゃないか!
・・・あ、今更か。(爆)
関連タイトル:「気の合わないひと」、「自慢の・・・」、「バレンタインデー」、「誕生日」、「夏休み」
(2003/07/10/高槻桂)

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