ドラゴン






「セドリック、第一の課題はドラゴンだ」



「セドリック?」
「えっ…?」
はっとして視線を上げると、隣りに座っていたジェムが「どうしたんだい」とセドリックの顔を覗き込んだ。どうやら知らず俯いて考え込んでしまったらしい。
一瞬、ここが何処だか分からなくなる。
ここは?図書館だ。自分達は一番隅の長椅子に並んで腰掛けている。(マダム・ピンズの姿もここからは見えない)
何故?それは調べ物をする為。(ジェムは『魔法薬調合応用編』、セドリックは『ドラゴンの生体』を読んでいた)
大丈夫、僕は落ち着いている。
思考がそこまで辿り着くと、セドリックは深い溜息を吐いた。
「顔色が悪い」
「…大丈夫」
セドリックは無理に笑おうとしたが、頬を引き攣らせただけに終わった。
「第一の課題の事、考えてた?」
「……ああ」
セドリックはそう返してから何かを言いたそうに視線を彷徨わせた。それを察したジェムはじっと彼の言葉を待つ。
「……実は」
長い沈黙の後、セドリックはすぐ隣りに座るジェムにしか聞えない程小さな声で告げた。
「第一の課題は、ドラゴンを出し抜く事なんだ」
「ドラゴンを?」
ジェムもセドリックに負けず劣らずの小さな声で聞き返した。(お陰で聴き取る事も困難で、二人はぴったりと体を寄せ、顔がくっ付きそうな距離でひそひそと言葉を交わした。)
「でもどうして知ってるの?直前まで知らされないはずじゃ…」
「ハリーが教えてくれた」
「ハリーが?」思わず大きくなりそうになる声を慌てて抑える。「どうやって知ったんだろう」
「それは僕にも分からない。でも、他の二人も既に知っているらしい。僕は…」
ちらりとセドリックが開かれたままの本に視線を向けた。そこにはドラゴンが火を噴くしくみの図式が描かれている。
「だから君はずっとドラゴン関連の本ばかり読んでいたんだね」
「ドラゴンと戦うなんて…」
この対抗試合がどんなに危険なものか、承知していたはずだ。
それでもセドリックは自らの手であのゴブレットに名前を投じた。
選ばれた時は本当に嬉しかった。誇らしかった。
それでも、やはり本能的な恐怖は拭えない。
「セドリック」
ジェムはぎゅっとセドリックの手を握った。
「僕がこう言う事で君のプレッシャーを重くするのかもしれない。けれど、僕は君に言いたい。
…大丈夫、君は必ず血路を拓ける。
君が代表として選ばれたから大丈夫だと思ってるんじゃない。代表に選ばれた君がそれに添えるよう努力する事を僕は知っている。だから、君を信じてる」
「ジェム…」
ほんの少しだけ、セドリックの強張りが解けた。
握った手がもぞりと動き、ジェムがその手を握る力を緩めると今度はセドリックの手がジェムの手を取る。
「…ありがとう…」
やはり引き攣ってはいたが、今度はちゃんと微笑む事が出来たセドリックに、ジェムは柔らかな微笑み返した。










(END)
+−+◇+−+
オリキャラでここまでやるのは反則ですか?(爆)
もしここで「セドリック×ジェムですか?」と聞かれたら私、何も言えません。
あくまで親愛の路線で行きたいのですが、何処で道を踏み外すか分かりません。私、踏み外してばかりですから。(遠い目)
あ〜・・・セドリック話、本当はこの話を含む三作で終わるはずなんですが・・・増えそう。
どっかの誰かさんが喜ぶ姿がありありと浮かぶのは気のせいでしょうか。(ねえ?)
関連タイトル:「期末試験」、「大切なひと」
(2003/07/17/高槻桂)

戻る