グリフィンドール




「では、レポートは今週中に仕上げておくように」
時間になると同時にビンズ教授が授業の終わりを宣言する。
「ああ、やっと終わった…」
は大きく伸びをして強張った体を伸ばした。
「もう少しで寝る所だったわ」
「毎回寝かかっているくせにきっちり要点をメモしている所はある意味、芸だな」
隣りで呆れたように話し掛けてくるのは、の親友であるセブルス・スネイプ。
「芸達者ですって?あら嬉しい」
「誉めてない」
苦々しげにそう言って立ち上る彼に釣られる様には立ち上る。
「セブルス、私、夕食の時間までちょっと遊びに行ってくるね」
「また森番の所か」
彼は余りハグリットの事を快く思っていない。
確かに悪い人ではないのだが、如何せん危なっかしい。
「大丈夫だって。もう、セブルスは心配性ね」
それじゃあ、また後でね、とは笑って教室を出ていった。
「全く…」
取り残されたセブルスは溜息と共に肩を落した。
がハグリットの元へ行く事を快く思わない理由。
それはもう一つある。
「鈍い」
セブルスは口の中でそう呟き、他の生徒に混じって教室を出ていく。

と過ごす時間が減るじゃないか。

彼は仏頂面をいつも以上に不機嫌そうに歪めながら足早に寮へと向かった。




「あらら?」
ハグリットの小屋へ駆けていたは、扉の前に見知った姿を見つけて声を上げた。
!」
こちらに手を振るのは、つい最近友達になったばかりのシリウス・ブラック。
ちなみにグリフィンドール生。
「ハイ、シリウス!」
はにこやかに挨拶をしながら、内心ではセブルスにばれたら「寄りによってグリフィンドールだと?!」とか怒られそう、と思っていた。
「シリウス、どうしたの?ハグリット、いないの?」
扉の前で突っ立っていた彼にそう問うと、彼は何故か言い難そうに言葉を濁した。
「友達にを紹介したいんだ。彼らは信用できる。駄目か?」
「何人?友達百人とか言われたらさすがに困るけど」
の言葉に、シリウスは「いや、それはないから」と笑った。
「四人だよ。全員、俺と同じグリフィンドール二年だ」
これはますますセブルスに言えない。
だが、はあっさりと「良いわよ」とそれを承諾した。
「で、小屋の中にその四人が居る訳ね?」
「まあ、そういう事。アイツらにはまだ何も言ってない。お前の名前すら教えてないさ」
「そのわりにさっき大声で呼んでくれたわね」
あっ悪い、と口元に手を当てるシリウスに、は気にしないで、と笑った。
「じゃあ、乗り込ませて頂くとするわ」



「ええと、確認するわね。左からピーター、ジェームズ、リーマスね」
簡単な自己紹介が終わると、「君の事は知ってるよ」とジェームズが言った。
「組み分けの時、君はレイブンクローかグリフィンドールだと思ったんだ。少なくとも、スリザリンにはならないだろうって」
「ところがどっこい、私はスリザリン以外に行くつもりは始めから無かったわ」
「へえ?どうして?」
リーマスの言葉に、はハグリットが入れてくれた紅茶を啜りながら「決まってるわ」と片眉を跳ね上げた。
「シンボルが蛇だからよ」
「……それだけで、か?」
シリウスのぽかんとした声音に、「何か文句ある?」とは小首を傾げた。
「蛇って可愛いと思わない?つるっとしてて目なんか真ん丸で。卵飲み込む姿なんてもう写真に納めたいくらいよ!だから組み分け帽子が何かを言うより早く「スリザリンじゃなきゃイヤ!絶対スリザリン!蛇最高!」って叫んでやったわ」
そこまで唖然として聞いていた四人は、一斉に吹き出して笑い出した。
「いや、もうキミ良いね!」
「ホント、蛇好きってだけであのスリザリンを希望するなんて!」
「だって重要な事よ?スリザリンになればローブやネクタイに蛇のマークが付くのよ?素晴らしいじゃない」
失礼しちゃうわね、と唇を尖らせるに、ジェームズが「いやいや、」と笑いを漸く納めて言った。
「ホント、ウチに欲しかったなあ」
「グリフィンドールの紋章も蛇になったら考えてあげるわ」
有り得ない、と肩を竦めるジェームズに、それは残念ね、とも同じ様に肩を竦めてみせた。
そして雑談に花を咲かせていると、そういえば、とハグリットがを見た。
「今日はやんねえのか?」
そう言ってしまってから、はっとして口を噤んだ。
「良いのよハグリット。三人にも話すつもりだったから」
はローブに手を突っ込んで杖を取り出すと、天井に向けて一振りした。
途端、僅かな圧迫感が身を包む。彼女お得意の防音魔法だ。
「さて、ちょっと私の事について話すわね」
そしては己の声の事を話し始めた。
三人はそれをからかう事無く聞き、話し終る頃にはその瞳には期待の色が浮かんでいた。
「ねえ、
「わかってるわよ、歌ってくれって言うんでしょう?」
ジェームズの言葉を遮ってそう続けたに、彼らは勿論、と言わんばかりに頷いた。
その上、ハグリットとシリウスが「の歌は凄い」だの「一度聞いたら他の歌なんか目じゃない」とか言い出すものだから、三人の目の輝きは増すばかりだ。
「歌わないと体調に響くし、歌うけど…音外しても笑わないでよ?」
そう照れ臭そうに忠告し、は椅子に腰掛けたまま歌い始めた。




「いやに上機嫌だな」
夕食の時間、大広間に現れたは今にもスキップをしそうなほど上機嫌だった。
セブルスの言葉に彼女は「そうなの!」と嬉しそうな声を上げて彼の隣りに座る。
「新しい友達が出来たの」
そう言ってマッシュポテトを皿に盛り分けるに、「友達?」とセブルスが訝しげに問い掛けた。
「そう、四人も!」
上機嫌なとは反対に、セブルスの機嫌は急降下して行く。
「…それは良かったな」
全く持って良いと思っていないだろう声音で吐き捨てるセブルスに、はくすくすと笑い出した。
「親友は今の所セブルスだけだから安心しなさいよ」
今の所って何だ、今の所って。
そう思いながらも急降下していた機嫌が再び上昇しつつある己の現金さに、セブルスは僅かに顔を顰めた。







(終)
+−+◇+−+
セブルス、微妙にヒロインに片想い。ヒロイン、セブルスの不機嫌は友達を取られそうだもんで拗ねているんだ、くらいにしか思ってません。(笑)
ていうか、この話を書くまでヒロインが蛇好きという設定、すっかり忘れてました。それ程重要な設定じゃないのでつい忘れがちに。
関連タイトル:「スリザリン」、「ストレス」
(2003/06/18/高槻桂)

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