初めての・・・







新学期が始まって五日目の朝。
ハリーたちはどこかそわそわしながら朝食を食べていた。
「特殊声楽ってどんな授業かな?」
「教科書の無い授業なんて始めてだわ。何を持っていけば良いのかしら」
そう、この朝食が終われば待ちに待った特殊声楽の授業があるのだ。
今日まで何度もに話し掛けるべく探したが、見つけられないか、見つける事が出来ても仕事中で声を掛けられなかったりで、今日こそは、という思いが滲んでいる。
「そういえば、あの人ってハリーのお父さんの同級生なのよね?」
手紙の事を全て聞いたハーマイオニーはふとそう告げた。
「そうだけど?」
「ということはあの人、三十歳越えてる可能性が高いわね」
「「ええ?!」」
ハリーとロンが驚きの声を上げる。
確かに写真の頃とは年を重ねてはいたが、精々二十代後半に見える。
「ああでも確かにそう考えてみれば…」
「三十歳、越してるんだろうなあ…」
見えない。
三人は揃ってそう呟いた。




指定された場所は、校庭を横切った先にある、禁じられた森の手前。
飛行訓練の場所のすぐ傍だ。
誰もが困惑気味の表情だ。
それもその筈。
自分達がこれから習うのは声楽のはずだ。
何故屋外。
「はい、みんな集まってますね〜」
そしてやって来たの腕の中では、幼い少女がすやすやと寝入っている。
「出席をとります。あ、座って良いわよ?」
は次々に名を呼んでいき、「はい、全員居ますね」と生徒たちに向き直った。
腕の中の子についての説明は無いらしい。
「今日はオリエンテーションという事で、どんな事を学ぶのか、などを知ってもらいます」
そして自分も芝生の上に腰を下ろす。
「この教科に教科書はありません。なので、次回からは羊皮紙と羽ペン、インク壷だけで良いです。普段は教室でやりますが、偶にこうして外で行なう時もあるのでその時はまた追って連絡します。
では、特殊声楽とは何か。
マクゴナガル先生の紹介にもあったように、私は歌を歌う事で魔法に類似した事が出来ます。
みんなが習っている魔法と同じ効果を起こしたり、植物の成長を促したり、反対に枯らしたり。他には落ち込んだ人を明るい気分にさせたり、またはその反対も出来ます。
簡単に言うと、みんなは杖を構え、呪文を唱える事によって魔法を正しく発動させる事が出来ます。私の場合は、どうしたいのか、を歌にする事で発動させる事が出来ます。
勿論、杖を使った魔法も出来ますけどね。
まあ、これは実際見た方が早いので、実演してみます」
そう言っては用意していた一本の苗を生徒たちに見えるように掲げた。
「ここにけやきの苗があります。これを…(と、彼女は立ち上り、森の直ぐ近くまで歩いていってしまった)この辺に植えてっと。(魔法で苗を植えるだけの穴を掘り、そこに苗を植えた)はい、これで準備完了」
そして彼女はこちらに向かって手で「こっちおいで」と招き、途惑いながらもぞろぞろと近付く。
「この苗が見える所に居てね。これから、私がこの苗を成長させる歌を歌います。…では」


天上の歌声、そんなものがあるとしたら、きっとこの事だ。


透き通るような、そして柔らかく、優しい声。
そのまま彼女の声に包まれて、何処かに連れていかれそうな、そんな歌声が辺りに響き渡る。
その歌声に導かれるように苗が急速に成長していく。
小さな苗だったそれはぐんぐん背丈と幅を増し、座っていた自分達を追い越していく。
けれど、それに気付かないほど生徒たちは歌うに魅入っていた。

「と、まあこんな感じです」

歌が終わり、余韻に引き摺られていた生徒たちははっとして自分達が囲んでいた苗へ視線を向ける。
「うわっ」
「凄い!」
歌が始まる前までは掌に収まる大きさだったそれが、今では自分達と同じくらいの高さまで育っていた。
驚きにざわめく生徒たちに、は「でもね」とそのけやきの根元を指差した。
「見て」
彼女の指差した先には、先程までは青々としていたはずの、枯れた芝生があった。
「何かを成長させるにはその分の栄養もいる。だから急激に栄養を吸われると、こうして周りの植物に影響を及ぼすの。
勿論、回りに影響を出さない様、魔力を糧にして育てる事も出来ます。
それと、育てるのとは反対に、枯らす為の歌もありますが、可哀相なので歌いません。
はい、次は皆さんが体験してみましょう」
にっこり。
はい?
「えっと、体験する、というと…?」
一番の近くに居たグリフィンドール生が恐る恐る問い掛けると、彼女は相変わらずの笑顔のまま。
「私があなたたちを眠らせる歌を歌います」
「そんな事も出来るんですか?」
「勿論。私の歌は歌えばそれだけで効果を発揮します。ちなみに防ぐ方法は耳をしっかり塞いで歌を聴かない事です。が、今回は塞いじゃダメですよ?こういうのは実際に体験してみないとわかりませんから」
そう告げると、ぶつからない様に広がるよう指示した。
「はい。じゃあ眠くなったら素直に寝て良いからね。すぐ起こしてあげるから」
そしてまた彼女は歌い始めた。
先程とはまた違っていて、暖かな羊水の中に居るような、産まれる前に回帰させられるような歌声に、生徒たちは次々と眠りに落ちていく。
物の五分と経たない内に全員眠りに落ち、の「はい起きて〜」という声が響くまで誰一人として目を覚まさなかった。




先生!」
授業が終わり、それぞれが城内へ戻っていく中、ハリーたちはに駆け寄った。
「ハリー!」
は嬉しそうにハリーたちを迎えた。
「敢えて嬉しいわ、ハリー。本当にジェームズそっくり。でも目はリリー譲りね。そして貴方たちがロンとハーマイオニーね」
「はい、写真ありがとうございました」
「先生、先生、その子って先生の子なんですか?」
ロンが未だの腕の中で寝こけている幼女を指差すと、「そうよ」と彼女は笑った。
「ダンブルドア先生がね、リリも一緒で良いからって言って下さったの」
「あっ!そうだ、先生、僕らと同学年の息子って、ジェム?」
ジェム・
ドラコ・マルフォイと仲の良いスリザリン生だが、賢者の石に関する事件以来友達になった。
だが、彼は大抵ドラコ・マルフォイたちと一緒に居る(というかドラコがハリーたちから遠ざけようとしている)為に、結局今日まで真相が分からず終いだったのだ。
そんなハリーたちの苦労を知っているのかいないのか、彼女はくすくすと笑いながらその問いかけを肯定した。
「内緒でここに来たから、「どうして知らせてくれなかったんだ!」って怒られちゃったわ」
「旦那さんは何も言わなかったんですか?先生も子供もホグワーツに行っちゃうなんて」
ハリーの問いかけには一瞬きょとんとした後、声を上げて笑い出した。
「僕、何か変な事聞いたかな?」
ハリーがロンとハーマイオニーに問い掛けると、「ああ、ごめんなさい」とは笑いを抑え込んだ。
「そう言えば言って無かったわね。私の旦那、この学校に居るわよ」
「「「ええ?!」」」
「だからダンブルドア先生が子連れを認めてくれたのよ」
「で、でもなんて先生いないよね?」
は旧姓なの」
「誰ですか?!先生ですよね?!」
だが、はふふふと笑い、答えようとしない。
「それはまたその内、という事で」
そろそろ行かないと、遅刻するよ?
の進言に三人は慌てて城内へと駆け出した。
「先生、今度部屋に遊びに行って良いですか?!」
振り返ってそう聞いて来たハリーに、は微笑んで手を振った。
「待ってるわ!」
嬉しそうに笑って駆けていく三人を見送り、あら?とは首を傾げた。
「そういえば、部屋の場所知ってるのかしら?誰かから聞いたのかしら」
首を傾げる
だが、知っていれば部屋に行きたいなどとは言わなかっただろう。
の私室、それはスネイプの研究室の奥にあったりするのだから。







(END)
+−+◇+−+
これ書いてて「僕の地球を守って」を思い出しました。あーそう言えば。
歌ですが、特に歌詞はないです。AhーとかLaーとか。
何かを指示する場合は歌詞が入ります。
雰囲気としてはル●ティアとか?(疑問系)
関連タイトル:「子連れの新任教師」
(2003/06/05/高槻桂)

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