ハリポタ花言葉SSS・10月



10月1日の花:コーヒーの木:一緒に休みましょう

私は記憶を失った。
記憶と共に常識も失っていて、日常生活への復帰だけで一年以上掛かった。
医者達は焦らなくても言いと言った。
ゆっくり時間を掛けて思い出していこう、と。
けれどいつまでもここの世話になるわけにもいかない。
何より、そのマニュアルめいた言葉を吐く医者達が嫌だった。
けれど。
「疲れたら俺が一緒に休んでやるから」
だからそんなに焦んなくていいよ。
君がそう笑ってくれた時、私は嬉しかったんだ。
医者達と似た言葉なのに、とても嬉しかったんだ。
「それに、あんたには悪いんだけど、俺、今のあんたの方が好きなんだ」
だから、記憶を思い出す時はゆっくり、少しずつ思い出してよ。
そうおどけて笑う君。
ずっと、元に戻らなければならないと思っていた。
記憶を取り戻して、以前の自分を取り戻さなければならないと。
でも、君は今のままで良いと言う。
本当なら、「私の気持ちも知らないで!」と怒るべきなのかもしれない。
けれど、私は嬉しかったんだ。
今のままで良いと言ってくれた君。
「ありがとう、ミスタ…ああ、いや…ロン」

関連タイトル:「閑話:りんご」


10月2日の花:アンズ=遠慮、気おくれ

何を考えているんだ、僕は。
有り得ない。有り得てはならない事だ。
あんな気の強い跳ねっ返り。
視線が合えば害虫でも見つけたような目をして。
お前は敵でしかないという目をして。
この僕が声を掛けてやれば腹の立つ事ばかり言って。
なのに、何でだ。
ハーマイオニー・グレンジャー。
僕は君を、

関連タイトル:「???」


10月3日の花:カンガルーポー(黄)=あなたは私を楽しませる

「これが命令だ」
ルシウスの言葉にアーサーはそわそわと落ち着きを無くす。
「お、怒らねえ?」
「内容によるな」
アーサーは数秒唸り声を上げたがやはり誘惑には勝てなかったらしい。
「ルース」
意を決してルシウスをひたと見詰める。
「お前を縛らせてくれ」
暫しの沈黙が落ちた。
「……は?」
SMプレイ?
すると己の間違いに気付いたアーサーは慌てて手と首を振った。
「はっ?!あっいやっそうじゃなくて!」
羞恥に僅かに赤くなりながらアーサーは言い直す。
「お前の髪を縛らせてくれって言いたかったんだ」
「僕の髪を?」
「一度やってみたかったんだ」
ポニーテールとか三つ編みとか。
「………」
ルシウスは視線を逸らし、その手で顔を覆う。
「ルース?!」
俯いてしまったルシウスにアーサーが慌てた声を上げる。
ああ、もう駄目だ。
「…バカだバカだとは思っていたが…!」
震えるルシウスの声。
だが、どう聞いてもそれは非難の色ではなく。
「わっ笑うなよ!」
照れ隠しに憤慨するアーサーを尻目にルシウスはくつくつと笑い続ける。
なんてバカなアーサー!たったそれだけの事に必死になって。
ああ本当にバカだ、僕は。
「ルーシウース!」
そんなお前が、とても愛しいと思えてしまうのだから。

関連タイトル:「閑話:グズマニア・マグニフィカ」


10月4日の花:サルビア(赤)=エネルギー

アーサーは毎朝必ず僕に会いに来る。
他のスリザリン生に冷たい視線を浴びてでもわざわざやってきて、
「グッモーニーン、ルース!」
なんてへらりと笑いながら言い、私が
「おはようございます」
と人前では上級生への言葉使いで返すと彼は
「おう」
と嬉しそうに笑ってまたグリフィンドールテーブルへ戻っていく。
律義にも会いに来るので思わず
「何故毎朝来るんだ」
わざわざスリザリンに睨まれてまで。
別に夜になれば会えるだろうに。
「何言ってんだよルース」
するとアーサーは当たり前の様に胸を張って
「お前の声聞かないと一日を乗り切れないじゃないか」
真顔で言いきられた。
僕は停止した思考を再起動させ、なんだ、と納得した。
「そうか。僕がアーサーの活力源か」

関連タイトル:「???」


10月5日の花:ホヤ・カルノーサ=思いがけない出逢い

「さよならだ、ルシウス」
あれから、もう何年も過ぎた。
お互いに結婚し、それから目を背けて来た。
今でも燻っている想いから。
一方は時間がそれを消してくれると信じて。
一方はそれを受け入れつつも心底までしまいこんで。
それで良いと。
「………」
お互いの目が見開かれる。
その唇が音にならない言葉を紡いだ。
アーサー
ルース
そこに枯れた思い出の葉を被せ、火を点したのは。
無責任にも忘却を望んだ男の方で。
まだ生きていたのかウィーズリー
それはこっちのセリフだマルフォイ
もしあの視線が交わった瞬間。
彼が「ルシウス」と呼んでいたのならこの先の未来は。
また違っていた。
そう言いきれる。
ルース
それは彼だけに許された呼称。
お前の声しか知らぬ名を何故。
その唇に乗せた。

関連タイトル:「閑話:チューベローズ」


10月6日の花:アンスリウム(白)=無垢な心

「ロニィ、ロニィ」
記憶を失った彼は子供と同じだった。
善悪の分別すら失った彼にそれをまた一から教え直す。
それはとても大変な作業だった。
幾ら医者達が基本的な事は教えていたとは言え、
「はいはい、今度はなに?」
退院してからというもの彼はロンを離そうとしない。
「君も魔法を使えるのかい?」
そんな事すら分からない彼。
「そうさ」
けれどロンはそれを笑ったり苛立ったりしない。
「僕はまだ学生だから夏休み中は魔法を使っちゃ駄目なんだ」
ゆっくりと言い聞かせるように告げる。
「では私は?」
普段のロンの姿からは些か離れた姿だった。
「ギルデロイはまず杖を探さないと」
けれど、彼の前でのロンは根気よい姿を見せる。
「杖?私の?」
今までに殆ど無かった「教える立場」が楽しいのだろうか。
「そう。荷物の中に無かったの?」
それとも普段の劣等感から解放されるからだろうか。
「うーん…」
確かにそうなのかもしれない。
「これくらいのケースに入ってると思うんだけど」
けれど
「ああ、それなら………何処かに片付けた」
最近、不意に思う事がある。
「仕方ないなあ。じゃあ、後で一緒に探そう」
そんな貴方が愛しいと。

関連タイトル:「閑話:コーヒーの木」


10月7日の花:ヒャクニチソウ=別離した友への想い

その墓標の前、男はただ立ち竦んでいた。
その墓標に刻まれた名が、未だに浮いて見える。
冗談めいている。
それでもこの目に映るその名が変わる事はない。
この墓の下に、彼の肉体は無い。
骨だけがこの下には埋まっている。
この墓場に埋まる殆どの者が土葬であるに関わらず。
禁忌の呪文で死んだからだ。
死の呪文で死んだ者は清めの意を込めて火葬される。
あの肉体に炎を纏わせるのは死の呪文以上の禁忌に思えた。
けれど、同時に。
その炎にこの身を変えたいとも願ってしまう。
己の手が、唇がその体を焦がし白骨と灰に変えていく。
それはまるで眠りに就いた彼の体を開き、貫くような。
「…置き去りにしたのは、私の方だったのか…」
男の手の中で、ローズマリーが悲鳴を上げた。

関連タイトル:「閑話:まんねんろう」


10月8日の花:センブリ=安らぎ

「……?」
ルシウスはふと本から視線を上げた。
視線の先、向かいに座っているアーサー。
「………」
何時の間にやらテーブルに突っ伏して寝入っている。
「……」
アーサー、とルシウスの唇が動く。
声を紡ぐつもりだったそれは僅かに空気を揺らしただけで。
「………」
視線の先の赤毛が反応する事はない。
ルシウスはそっと本を閉じ、膝に乗せる。
腕を伸ばせば容易に届く所にある彼の赤毛。
ルシウスはその欲求に逆らう事無く腕を伸ばす。
「……」
自分の髪より幾分か硬いその髪を指先で撫で、
「…アーサー」
徐にひっぱった。
「っ!」
びくっと上半身が揺れて突っ伏した赤毛が持ち上がる。
「へっ?!俺、寝てた?!」
素っ頓狂な声を発して慌てるアーサーをルシウスはじっと見詰めた。
「いや、あのさ、その」
それを責める視線と勘違いしたアーサーが一層慌てる。
「アーサー」
「はいっ!」
だが、ルシウスはふわりとその表情を崩し。
「おはよう」

関連タイトル:「閑話:バラ(淡紫)」


10月9日の花:コルチカム=悔いなき青春

僕、卒業したらこの家を出るよ。
ううん、そうじゃなくて。
ギルデロイの家に住む事にしたんだ。
違うんだ。シェアじゃなくて、その…。
ギルデロイと、一緒に生きていくって決めたんだ。
うん。そうだよ。
愛とか、そういうのはまだよく分からないけど…。
でも、ギルデロイが好きだって事くらいはわかる。
パパ。
僕は後悔したくないんだ。
失ってからじゃないと気付けないような、
そんな愛し方だけはしたくない。
彼を好きになった事を後悔する日が来るとしても。
気持ちを置き去りにするような別れ方をするよりマシだ。
ねえ、パパ。
それに気付かせてくれたのは、パパなんだよ。
それにもう決めたんだ。
だからさ、パパ。
もし泣いて帰ってくるような事になったら、その時は。
バカだなあって。
笑ってよ。

関連タイトル:「閑話:ヒャクニチソウ」


10月10日の花:イソギク=大切に思う

「父上!」
彼の私室に幼い子供が駆け込んで来た。
まだ五つの歳すら迎えていない彼の息子、ドラコだ。
ドラコは父親に駆け寄るとその整った顔をくしゃくしゃにして喚いた。
「アヴァロンがぼくの手を噛んだ!」
涙を滲ませながら訴える子供。
開けっ放しにされた扉の向こうから、のそっと一匹の大きな犬が姿を現わす。
「アヴァロン」
扉の所でじっとこちらを窺っていた犬の耳が男の声にぴくりと反応した。
「来い」
主の呼び声にふっさりとした赤銅色の尻尾を揺らし、それは駆け寄る。
「ドラコ」
犬を睨み付ける幼子の髪を柔らかく撫で、そっとその背を押しやった。
「ナルシッサに手当てをしてもらいなさい。
私はアヴァロンにお仕置きをしておくから」
「はい、父上」
幼子が出ていき、扉が閉ざされる。
「アヴァロン」
視線を落とした先には大人しく座っている赤銅色の大型犬。
男はその視線を和らげ、首筋を優しく撫でる。
「駄目だろう?ドラコに牙を剥いては」
けれど諌めの色の無いその言葉。
アヴァロンは気持ち良さそうに目を細めている。
「アヴァロン。私が捨て切れなかったモノ」
撫でる手を引くと、榛色の目がじっと見上げてくる。
「お前は私の≪未練≫なのだよ。アヴァロン」

関連タイトル:「閑話:りんどう」


10月11日の花:トルコギキョウ(濃紫)=希望

彼は屋敷に居る時はいつもその犬を連れていた。
ベッドやソファに上がる事は許されていなくとも専用のスペースが用意されている。
だが、彼がその犬を敷地から出す事はなかった。
庭ですら執事が決められた時間放すだけで殆ど室内に居る。
そして彼が帰宅すればその犬はひたすらに彼の後を追う。
彼の妻や息子ですら立ち入る事の許されない場所にもその犬は付いて行く。
その犬の名は、アヴァロン。
幼い息子が彼に問い掛けた事があった。
「なぜアヴァロンはいつも父上と一緒なのですか?」
その問い掛けに彼は僅かに唇の端を持ち上げた。
「ドラコ。本は好きか?」
「?はい、好きです」
唐突なそれに彼の息子は首を傾げる。
だが、彼は「ならば」と視線を足元に蹲るアヴァロンへ落とした。
「いつかそれに辿り着くかもしれないな」
彼がアヴァロンについてそれ以上を語る事はなかった。

関連タイトル:「閑話:イソギク」


10月12日の花:コケモモ=心の痛みを治すもの、不実

「ルシウス」
伏せた視線の向こうで囁く声が耳を擽る。
「…っ…」
不規則な呼吸。
それを正常に戻そうと幾ら喘いでも鼓動は早まるばかりで。
彼の手によって剥がされていく衣服と同じ様に理性も剥がされていく。
それと同時に、ああ、
「アーサー…!」
引き裂いた想いが一つになってゆく。
彼こそがこの体の水なのだと言わんばかりに。
少しずつ。少しずつ。
彼の舌がこの体を這いずる。
裂かれたそこを縫い合わすように。
けれどアーサー。
「ルシウス…」
ルシウス。
その名が私を今へと引き戻す。
幾度体を重ねようとあの頃には戻れないと。
あの頃の様には、笑えないのだと。

関連タイトル:「閑話:ホヤ・カルノーサ」


10月13日の花:ネリネ=幸せな思い出

「アヴァロン」
主の声にその犬は嬉しそうに彼を見上げた。
ふっさりとした尻尾がその喜びを表してぱたんぱたんと揺れる。
彼は手にしていた杖をその犬の眼前へと向ける。
杖を突きつけられた犬はそれを認識しようと鼻面を杖先へと寄せ、
「アヴァダ・ケタブラ」
杖先から噴出した鮮やかな碧の光に驚くより早く力を失った。
毛足の長い上質の絨毯の上に倒れこみ、そして二度と動くことは無かった。
「アヴァロン」
彼はその傍らにしゃがみ込み、動きを止めた犬の毛並みに触れる。
手入れされたその艶やかな毛並みを何度も何度も撫で、彼はその犬を抱き上げた。
恐らく彼の息子より重いだろうその大きな犬を抱え、窓から庭へと降りる。
「ご主人様!」
彼に気づいたしもべ妖精が現れる。
「今ローブを…」
だが彼がそのしもべ妖精に視線を向ける事はない。
「要らん」
彼は庭を横切り、そのまま森の中へと消えていった。

関連タイトル:「閑話:トルコギキョウ(濃紫)」


10月14日の花:ヒメリンゴ=永久の幸せ

「いつかそれに辿り着くかもしれないな」
そう言った父の表情は、もう覚えていない。
「そういう事か…」
彼は手の中のそれを見下ろす。
古ぼけた銀の懐中時計。
マルフォイ家の当主が身に付けるにしては安物の懐中時計。
それでも父が肌身離さず身に付けていたもの。
ああ、そうだ…アヴァロンと同じだ。
そう、あの赤銅色の大きな犬とこの銀の懐中時計は同じだ。
「……」
すっと視線がテーブルへと流れる。
視線の先には、一冊の古ぼけた本。
彼はその本の上に懐中時計を置いた。
本のタイトルは、「ブリタニア列王記」
「アーサー王伝説、か…」
ゆっくりと息を吐き、眼を閉じる。
ある日突然その姿を消したアヴァロン。
蓋の裏側に刻まれたローズマリー。
「父上…」
父がそれに何を思っていたのか、漸く分かった気がする。
けれど。
「今は、幸せですか…?」
答えを持つ者は、既に亡く。

関連タイトル:「閑話:とらゆり」


10月15日の花:マツムシソウ=恵まれない恋
「ルース!」
赤毛の男はルシウスに駆け寄るなり手にしていたそれをテーブルに放った。
「読んだか?今度の台本!」
テーブルに放られた小冊子。
そこには「ホヤ・カルノーサ台本」と書かれている。
「ああ」
「私はまたこんな役だよ、あー」
ぼやきながら彼はルシウスの向かいに腰を下ろし、肘を突く。
「最近「アーサー最低」とかいう手紙が来るんだ」
また苦情が増える、と彼は溜息を洩らした。
「仕方ないだろう。実際お前は最低だ」
「はぁ?!何処がだ!」
「では聞くが」
ルシウスは脚を組み替え、アーサーと向き直る。
「もしあの時、私がマルフォイ家を捨てなかったらお前はどうしていた?」
「…えー…掻っ攫う?」
小首を傾げての応えにルシウスは苦笑する。
「どうだか」
その反応にアーサーは不貞腐れたように「だったら、」とルシウスを見る。
「もしあの時私がキレなかったら?」
その問いにルシウスは「簡単な事だ」と台本を指先でトトン、と叩いた。
「こうなるだけだ」


関連タイトル:「閑話:ホヤ・カルノーサ他」
スミマセン、パラレルですパラレル。


10月16日の花:ブドウ=人間愛

「ルース、一緒にホグズミードに行こうぜ」
やってくるなりそう告げた男にルシウスは溜息を吐いた。
「ミスター・ウィーズリー。貴方は僕の学年を忘れたのですか?」
「勿論覚えているさ。つーかいい加減名前で呼んでくれよな」
「僕の勝手です」
「その敬語も」
「二度同じ事を言わせるつもりですか?」
軽く睨み上げてみてもアーサーは全く気に留めずに続ける。
「それでさ、抜け道を見つけたんだ」
「抜け道?」
「そう、ホグズミード直通の!」
だから一緒に行こう、と彼は嬉々として言う。
だがルシウスはまた一つ溜息を落とすだけだ。
「お一人でどうぞ」
「寂しいだろうが」
「だったら他の方を誘ったらどうです」
「お前が良いんだって」
「申し訳ないのですが人込みは苦手ですので」
「ルゥースゥー」
情けない声を出す年上の少年にルシウスは三度目の溜息を吐く。
けれどそれは先の溜息より遥かに軽く。
「仕方ない」
ルシウスは苦笑を浮かべ、アーサーを見上げる。
「一度だけだ。良いな?アーサー」
一変した口調と呼称にアーサーは一瞬ぽかんとした後、
「了解!」
ルシウスを思い切り抱きしめた。

関連タイトル:「???」


10月17日の花:カランコエ=幸福を告げる

「………」
その日、彼は視線を有らぬ方向へ固定したままだった。
「…へえ、そう…」
逸らされた視線の反対側には一人喋り捲るルームメイトである赤毛の少年。
それを聞き流そうと努力しながらも生気の無い相槌を打つ。
「…ふーん…」
口元だけ張り付いたような笑みを浮かべ、
それでも彼は手にしたクロワッサンを千切っては口に放り込む。
ごくり、と飴玉でも飲み込んだような音を立てて喉仏が上下する。
夜食用に、とくすねて来た筈なのに食べている気がしない。
「……そう、」
ちらり、と少年へと視線を向けてみる。
「…よかったね」
崩れきった少年の相好に彼は再び視線を逸らしてクロワッサン最後の一欠片を口にした。
「それでさ、ルースが…」
「ペトリフィカス・トタルス」
ばたん。
「……さて、寝るか」

関連タイトル:「閑話:ブドウ」


10月18日の花:ブバルディア=空想、夢

夢?
そうだな…。
やっぱり、アレだろ。
遠くへ行きたい。
お前と一緒にどこか、遠い遠い所へ。
山間の小さな村。
村が一つの家族。
そんな小さな村。
俺とお前はそこで小さなパブを営むんだ。
その村で唯一のパブ。
朝は二人でコーヒーを飲んで。
夜は村の人達と遅くまで語り合って。
そして俺とお前、一緒のベッドで眠るんだ。
しかもそのベッドはセミダブルなんだぜ?
そう。最初は別々の部屋で寝てるんだよ。
だからセミダブル。
でも結局俺がお前のベッドに潜り込むんだ。
独り寝は寂しいーってね。
それでお前が文句を言うんだ。
「これなら初めからキングサイズを買っておくんだった」
で、ある日二人で俺の部屋からベッドを運ぶんだ。
勿論、お前の部屋にだよ。
二つのベッドを並べて俺たちは漸くゆったりと眠れる事になる。
でもその夜、やっぱりお前のベッドしか使わなくて。
そうそう、俺がお前にひっついて寝るのが癖になってるんだ。
それでお前も結局「仕方ないな」とか言って流されるわけ。
アハハ、ごめんごめん。
………。
そう、夢だよ。
叶う筈も無い。
だから、夢なんだよ。

関連タイトル:「???」


10月19日の花:シオン=遠い人を思う

知ってたわ。
貴方が誰を忘れようとしていたのか。
誰を、愛していたのか。
グリフィンドールとスリザリン。
ウィーズリーとマルフォイ。
二人は有名だったもの。
まだ貴方が私を知る前。
そのずっとずっと前から私は貴方たちの事を見ていたわ。
ひょろっとのっぽで暖かな赤毛くん。
冷たいまでの綺麗な顔立ちとプラチナブロンド。
まだ貴方と付き合い始めたばかりの頃、友達に言われたの。
あの男は止めておきなさい、と。
スリザリンと、寄りによってマルフォイと仲良くするような男なんて、と。
それでも貴方が好きだったのよ。
でも、卒業して、結婚して。
一緒に過ごしてわかったのよ。
私が好きだったのは、彼と一緒に居る時の貴方だって。
私がプロポーズをOKした時、貴方はとても嬉しそうだったわ。
ビルがお腹に居ると分かった時も貴方はとても嬉しそうだったわ。
本当に嬉しそうだった。
でも、何かが違うのよ。
彼に見せたような無邪気さとか、笑顔とか。
何となく、違うのよ。
でも貴方は本当に私たちを愛してくれたし、彼を忘れようとしてくれた。
だからこれで良いんだと思ってたわ。
けれど、彼の死を貴方の口から知った時、はっきりと分かったのよ。
「ごめんなさい…ルシウス…」
ああ、あの時私がすべきだったのは貴方の手を取る事じゃなくて。
貴方の背中を押してあげる事だったのね。
「アーサー…」
それでも私は幸せになりたかった。
「ごめんなさい…」
貴方と幸せになりたかったのよ。

関連タイトル:「閑話:彼岸花」


10月20日の花:ホトトギス=永遠にあなたのもの

私は死ぬだろう。
主によって殺されるだろう。
それも良しとしよう。
私は死に、そしてそれはお前の元へも運ばれる。
背を向けたお前の背を食い破り、その心を乱してやろう。
そして今でも私に囚われているのだと。
今でも私を愛しているのだと。
思い知り泣き叫ぶがいい。
私に背を向けた事を悔い病むがいい。
そしてその悲しみを抱いたまま老いて逝くがいい。
私に囚われ、一生を終えるがいい。
私の様に。

関連タイトル:「???」
今までのとは別シリーズとして考えて頂ければ…


10月21日の花:ピンクッション=どこでも成功を

どうやら記憶を失う前の私は常に評価されていたかったみたいだ。
自分は素晴らしいのだと吹聴して廻り、崇められるのが好きだったらしい。
嫌だなあ、そんな人生。
迂闊な事は出来ない。
神経が磨り減りそうだ。
因みに私の部屋には所狭しと色々なものが並べてある。
賞状、トロフィー、賞盾、自画像、メダルなどなど…。
よくこんな落ち着きの無い部屋に居られたものだ。
「ロニィ、ロニィ」
私は扉から顔を出し、丁度こちらに歩いてくる所だったロンに声を掛ける。
「トロフィーは燃えないゴミになるのかね?」

関連タイトル:「閑話:コーヒーの木」


10月22日の花:ハナイ=信じて疑わない

ギルデロイ・ロックハートがまだ入院して居た頃。
「あんなにボクの事を好きだって言ってくれたのに忘れたの?!」
と、冗談でそう言ってみたら。
「そうだったのか!」
奴さんはあっさり信用した。
待て待て待て。
「疑えよな、頼むから」
すると奴は心底残念そうに。
「え、違うのかい?」
「本当の方が良かったのかよ」
そして今度は心底嬉しそうに。
「本当だったら良かったのに。ロンと一緒に居ると楽しいのだよ」
俺の倍以上生きてる男がまるで子供の様に笑うので。
「…うん」
本当になっても良いかもしれない。
そう思ってしまった。

関連タイトル:「閑話:コーヒーの木」


10月23日の花:ヘリオトロープ=愛よ永遠なれ

お前の声が私に届いたあの瞬間。
私たちの祈りはすれ違ったまま、
永遠となった

関連タイトル:「閑話:トリトマ」
一度はやってみたかった三行モノ。


10月24日の花:カキ=美しい自然の中に私を埋めて

私は帰らない。
お前の元へは帰らない。
私は空を喰らって燃え盛る炎となり。
私は空に流れる一筋の煙となり。
私は空を舞う無数の灰となり。
けれど私は星の様に瞬かず。
けれど私は月の様に移ろわず。
けれど私は太陽の様に光を放つ事はない。
私はこの世界に埋もれる。
私の全てを抱いたままこの世界に埋もれる。
そして私の欠片を一つも持たないお前は私を見つける事は出来ない。
だから私は還らない。
お前の心(なか)へは還らない。

関連タイトル:「閑話:ホトトギス」
これも別物として…


10月25日の花:クマツヅラ=魔力、魔法

緑鮮やかな光が私を抱いた瞬間、
私の声はお前を貫くだろう。
まるで、魔法の様に。

関連タイトル:「閑話:ヘリオトロープ」
三行モノ、ルシウス版(手抜きとか言うな。作風だってば作風)


10月26日の花:バラ=楽しみと苦痛

わかっているんだろう?
ああ、わかっているさ。
ならばなぜ触れた?
お前が望んだからだ。
そしてお前が望んだ。
だから触れた。
けれど知っている。
そう、知っていた。
それが決して安らかなものでは無いと。
それが決して穏かなものでは有り得ないと。
例えば、出会う前からそれを理解していたとする。
そうすれば出会わない様にしただろうか?
それもまた有り得ないな。
そう、有り得ない。
痛みが無ければ意味を成さない。
痛みがあるからこそ理解できる。
その幸せの大きさを。

関連タイトル:「???」


10月27日の花:フジバカマ=あの日を思い出す

どうぞ、開いてるよ。
ああ、君か。
どうしたんだい、君が尋ねてくるなんて。
……唐突だね。どうかしたのかい?
…まあ、確かに彼はそういう性格だからね。
いや、彼が入学して来た頃にはもう私は卒業していたからね。
その頃の彼の事は知らないけれど。
ははっ、確かに想像が付かないな。
ルシウスと親しかったという噂は聞いた事あるけど。
……そうだね……。
勿論モリーも子供たちも愛しているよ。
それでは駄目かな?
私は卑怯な大人だからね。
けど…そうだなぁ…。
私の学生時代の記憶とルシウスは繋がっているんだ。
ダンブルドアでもホグワーツ城でもなく。
どうしてかな。
私がルシウスと出会ったのは、五年の時だった。
そして私が七年の時、違えた。
二年足らずなんだよ、ホグワーツで彼と過ごしたのは。
七年の内の、二年足らず。
なのに学生時代を思い出すと必ずそこに彼が居る。
うん?うーん……両方、かな。
もしあの瞬間に戻れたら、とは思わないよ。
それはとても魅力的だけど、今を捨てれるだけの勇気が私には無い。
どちらも大切だからね。
そう、言っただろう?
私は卑怯な大人なんだと。

関連タイトル「???」


10月28日の花:オキザリス=決してあなたを捨てません

忘れてしまおう。
捨ててしまおう。
無かった事にしてしまおう。
何度もそう思った。
何度もそうしようとした。
けれどその度に踏み止まった。
忘れる事など出来ない。
捨てる事など出来ない。
無かった事になど出来はしない。
あの時間が今の私を形成している。
あの笑顔が今の私を支えている。
けれどその優しさが私を追い込む。
遠ざかろうとすれば阻まれる。
近付こうとすれば背を向けられる。
ここから私は動けない。
私が捨てられるまで、動けない。

閑話:「???」


10月29日の花:フォックスフェイス=偽りの言葉

「一日に一つだけ嘘を付こう」
彼は楽しそうにそう言った。
「は?」
ロンがきょとんとして彼を見る。
何時の間にか二人の身長差は無くなっていた。
「私たちはお互いに一つだけ、会話の中に嘘を混ぜるんだ」
「それで?」
「夕食の後にその答えを打ち明ける」
「それだけ?」
「そう、それだけ」
やはり彼は楽しそうだ。
「まあ、良いけど…」
そして翌朝からそれは実践された。
二人が顔を合わせるのは朝の一時。
そこを逃せばロンは仕事で家にいないため夜まで会う事はない。
短い時間で、しかもまだ頭の回転の緩い朝。
そこで一つだけ嘘を付くのは日が経つ毎に困難になっていく。
そして十日が過ぎた頃。
「ギブアップ」
ロンが両手を顔の両側まで挙げて宣言した。
「でもなんでこんな事しようと思ったのさ」
この十日間、聞こうと思いながらもついつい聞きそびれていた事。
「ロニィの事が知りたかったから」
そう彼は笑った。
例えばフランスに行った事があると嘘を付いたとする。
つまりそれは裏を返せばフランスに行った事が無いという事を意味する。
「……そんな事だったのか」
その回りくどい方法にロンは一つ溜息を吐く。
「バカだなあ、ギルディ」
そして仕方ない、と言いたげに苦笑を浮かべた。
「さあ、他には何を知りたいんだい」


関連タイトル:「???」


10月30日の花:ブバルディア(赤)=おめでとう

誕生日というものに何か意味を見出せた事はなかった。
目に見えてそれが分かるわけでもないし。
生きていれば当たり前の事だったし。
まして、プレゼントをねだろうと思った事も無い。
自分が生まれた、ただそれだけの事だ。
浮かれてそれを祝うやつら。
バカらしい。
「Happy Birthday!」
ずいっと差し出されたのは、彼の手に収まるほどの小箱。
「有り難く受け取れ!」
そう笑って彼はルシウスにラッピングされた小箱を押し付けた。
そして踵を返し、
「返品不可!」
逃亡した。
「…何なんだ、アーサーの奴…」
いつもの彼ならその場で「開けてみろよ」くらい言いそうなものだが。
「……懐中時計か」
箱の中にはビロード張りのケースが収まっている。
それを開けると、銀の懐中時計が姿を現わした。
「……」
蓋を開け、そこに刻まれた文字に目を奪われる。
「…っ…」
思わず笑みが漏れ、ルシウスは空いた手で口元を抑えた。


関連タイトル:「閑話:まんねんろう」


10月31日の花:レックスベゴニア=愛される喜び

お前が朴念仁だという事は知っていたが…
全く。私が死なないと分からなかったとは。
め、面目無いです。
大体お前は昔からそうだった。
他人の機微には聡いくせに自分の事はまるで駄目。
私が他の親しくするのすら快く思わないくせに
自分は何時の間にか女を作って果てには卒業と同時に結婚。
その上、何年も経ったくせに出会い頭に呼び止める始末。
結局そのまま済し崩しに肉体関係だけ続けてそのくせ口論ばかり。
何処のフランス映画だ。阿呆が。
それでもお前から離れられない私の気持ちを考えた事はあるのか?
どうせお前の事だ、自分の事で手が一杯だったのだろう。
夫人や子供らからどうやって隠すかとね。
何度貴様のボロ家に乗り込んで洗いざらい言ってやろうと思った事か。
まあ他にも言いたい事は山ほど在るが、さて。
アーサー・ウィーズリー。
私に何か言いたい事は?
も、申し訳御座いません、ハイ。
私が聞いているのは謝罪ではないのだが?
……うん、ごめん。
君を愛してるよ、ルース。


関連タイトル:「???」

 

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