いたずら




次男・リドルが無事に生まれ、間も無い頃。
「お前もアニメーガスだと言うのは本当か」
すると赤子と戯れていたはきょとんしてと己の夫を見上げ、「ああ!」と手を叩いた。
「そうだったわ、ええ、そうよ、私、アニメーガスだわ」
「……まさかとは思うが、自分でも忘れていたのか」
「ええ。卒業してから滅多に変身しなかったから、自分がアニメーガスだってすっかり忘れてたわ」
あっけらかんとしてそう告げるに、スネイプは一気に脱力した。
「…二十年近くも…」
無登録だったのかと言いたいのか、隠していたのかと言いたいのかは分からないが、彼はどっと疲れがその身に圧し掛かるのを感じた。
「それで、何のアニメーガスだ」
彼女の事だから蛇とか言いそうだ。そう思ったのが顔に出ていたのか、彼女はくすくすと笑った。
「蛇じゃない事は確かよ。ゲドが居るのに自分まで蛇になってどうするのよ」
彼女はそれ以上を答えなかった。


あれから六年近くが過ぎた。


スネイプ自身、既にその事を記憶の片隅に追いやって忘れていた。
そんなある朝、いつもの様に大広間には無数の梟が飛び交っていた。
手紙だけであったり荷物も一緒だったりとそれぞれだ。
生徒達が挙って受け取った物を確認していく中、教員席にも一羽の梟が降り立った。
その茶梟は迷わずセブルス・スネイプの元に舞い降りる。
スネイプは妻であるからの手紙かと思ったが、彼女からの手紙ならいつもはの飼っている梟、ガーナードがそれを運んでくる筈だ。
だが、この梟に見覚えはない。
「我輩に?」
訝しげな声に梟は短く鳴く。スネイプはぽとりとテーブルに落された白い封筒を手に取り、宛名の見覚えのある文字に、やはりからの手紙だと確信する。
ガーナードに何かあったのだろうかと思いつつ手紙を開封する。
中にはカードが一枚。
四隅に蔦が描かれた薄いクリーム色のカード。
そこにたった一行。


『会いに行っても良いかしら?』


日時は一切書かれていない。
「………」
二度三度と読み返し、ちらりと茶梟へ視線を向ける。
茶梟は返事を貰うまで帰る気は無い様だ。
スネイプは小さく溜息を吐き、席を立った。自分を見上げている茶梟へ片腕を伸ばすと、その梟は彼の意を汲んでその腕に飛び乗った。
未だ朝食を摂っているものが殆どの大広間を横切り、足早に自室へと向かう。
茶梟は彼の腕を伝ってその肩に辿り着くと、ホゥと小さく鳴いた。
スネイプは自室に辿り着くと余っている羊皮紙を取り出し、手早く返事を書き始めた。
肩の茶梟はまるで読んでいるかのようにその文面を見下ろしていたが、スネイプがそれを書き終る頃にはその羽を広げて彼の肩から飛び立った。
スネイプが何か言うより早く、茶梟がその姿を変えた。


「ああ良かった。来るなとか言われたらどうしようかと思ったわ」


茶梟は一瞬の後、彼の妻、へと姿を変えた。
スネイプは驚きに眼を見張り、小さく「そうだった」と呟いた。
「お前もアニメーガスだったな…」
忘れていた、と言外に洩らすと、彼女は声を立てて笑った。
「私も今朝まで忘れてたのよね」
彼女曰く、昔の夢を見たそうで。(満月の夜に駆け回っていた頃の夢を見たらしい)
そういえば、と思っている所にガーナードに目が行って。
そうだ、折角ふくろうなんだから、手紙を届けてみよう。
その考えに至ったらしい。
「まさか梟だったとはな」
「言ってなかったかしら。私のあだ名はストリクスだったのよ」
聞いてないぞ、と彼は不平を洩らす。
「それを知っていればすぐに分かったものを…それで、リリとリドルはどうした」
「家で大人しくしてるわよ」
「で?何の用だね。遊びに付き合っていられるほど暇では無いのだがね」
はぶつぶつと文句を言う夫の背後に回り、その背に凭れ掛かるように抱き着いた。
「逢いたかったのは本当よ?」
するとスネイプは黙り込んでしまい、けれどそれが不機嫌から来るものでは無いと察したは小さく笑ってその広い背に擦り寄った。
「教師だった頃が懐かしいわ」
の言葉にスネイプは己の体に廻された妻の手を取り、その甲に口付ける。
「リリがこのホグワーツに入学したらまた教師になるかね?」
「リドルを連れて?」
「ダンブルドアが喜びそうだ」
苦笑混じりの言葉に、は「考えておくわ」と笑った。








(END)
+−+◇+−+
後半の話の時期はジェムやハリーたちが卒業して二年後位です。
ヒロインはいつ自分がアニメーガスである事をセブに教えたかという話と、ふくろう姿でホグワーツの夫の元へやってくるという話。
彼女にしてみれば内緒にしていたというよりただ単に言い忘れていただけなんですけどね。
で、これの最後に冗談で言っていた事が「伝説」で実現される、と。冗談から出た真と言うか。
この時点で既にリドルの記憶は戻っているのでリリと二人でお留守番している時はリリがリドルの面倒を見る、と言うよりリドルがリリの面倒を見る、という形になります。(笑)
関連タイトル:「正体」、「真夜中のパーティー」
(2003/07/16/高槻桂)

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