髪型




魔法薬学教授のセブルス・スネイプと、特殊声楽教授のは夫婦である。
それが判明した時、誰もがその事実に驚いた。
だが、彼らはある事実に気付いた。
とスリザリン生のジェム・は親子である。
これ自体はが就任した時からその分かって居た事だ。
だが、始めに述べた事実をそこへ加えてみると、新たな事実が浮き上がる。
つまり、
スネイプとは夫婦。
とジェムは親子。
イコール、スネイプとジェムも親子。
数名の生徒がそれに気付いた途端、噂はあっという間に流れ、夕食が終わる頃には全校生徒が知る所となっていた。
ジェムの性格はどちらかというと母親寄りで、雰囲気も柔らかい為に気付かなかったが、じっくり見てみると確かに外見はセブルス・スネイプに似ている。
今までどうして誰も気付かなかったんだろうと思うくらいよく似ている。
(単にあの「スネイプ先生」が結婚していて、息子までいるだなんて誰も思わなかったからだろうが)
まあ色々とあったものの、日が経てば生徒達もそれを普通に受け止める者の方が多くなり、次第に騒がれる事はなくなって来た。
だが、一部の生徒の間で密やかに交わされる疑問があった。
スネイプ先生のあの髪は体質なのか、整髪剤なのか。
と、いう疑問である。
何しろ息子であるジェムは父親と同じ黒髪(ちなみに母親はダークブラウン)だというのに、見るだけでさらさらだと分かるストレートだ。(是非触ってみたいものである)
それに引き換え、父親であるセブルス・スネイプは例によってあの脂っこいというか湿気ったようなというか、ぶっちゃけ、触りたくない。そんな髪をしている。
そんな本人達に聞くほどでもないささやかな疑問は、ある日突然解明された。




ある朝、セブルス・スネイプは洗面台の前で唸っていた。
「どうしたの?」
ひょいと鏡を覗き込んだのは、彼の妻・だ。
「香油が無い」
彼の指す香油とは、首筋や手首の内側に塗り込めるそれではなく、香りも遥かに抑えられた整髪用の油の事である。
「あら、もう一つくらいあると思ったんだけど、無かったみたいね」
戸棚をがたがたと閉開して目的の小壷が無いのを確かめた彼女は「あらあら」と全く困っていないような声を上げた。
「昨日リリが割ってしまったのが最後だったのね」
昨夜、二人の娘であるリリが誤って落し、割ってしまったのだ。
まだ四歳になったばかりのリリだが、好奇心はやはり旺盛で、が目を離した隙に洗面台によじ登り、がそれに気付いたのは、がしゃんと何かが割れる音がしてからだった。
「このままで行くとちょっと見苦しいわよね」
そう苦笑して彼女は夫の頭を見上げる。
彼の髪は某グリフィンドールのシーカーとまでは行かなくとも、幾筋か好き勝手な方向へ向いている。
櫛で梳かしても何処と無く彼方此方ふわふわしていて落ち着きが無い。
「セヴィー、結ってあげるから座ってちょうだい」
彼女は自分の結い紐の中から出来るだけシンプルな物を取り出し、セブルスをソファに座らせた。
「一つと二つ、どっちが良い?それとも三つ?ポニーも良いわね」
「…
夫のうんざりしたような声音に彼女はくすくすと笑って彼の髪に櫛を通す。
「分かってるわよ。一つに括れば良いのよね?」
「…頼む」
は自分勝手な方向を向いている髪をいとも簡単に整列させ、濃い緑の結い紐でくるくると器用に縛った。
「はい、出来上り」
肩をぽんと叩かれたセブルス立ち上るとに向き直り、「ありがとう」とその唇の端に口付けを落した。
すると、寝室の扉が開いてリリが寄って来た。
「マァマ、ボタンが付けれない」
は膝を付いてリリのボタンを留めてやり、ついでに微妙に歪んでいるスカートを直して「よし」と立ち上った。
「さ、そろそろ朝食の時間だわ。大広間に行きましょう」




三人がいつもの様に揃って大広間に行くと、既に大広間に来ていた何人かの生徒がぎょっとしたような視線を向けて来た。
だが三人はそんなこと気にする事も無く教員席へと向かい、その途中で息子たちの姿に気付いた。
「おはよう、ジェム、ドラコ」
「おはようございます、先生方」
「おはよう、母さん、父さん、リリ」
言いながら顔を上げたジェム達は一瞬ぽかんとしたような表情をしたが、そこは身内。すぐに立ち直ってジェムが苦笑した。
「父さん、珍しいね、縛ってるなんて」
息子の言葉に彼はいつもの仏頂面で「香油が切れた」とだけ返す。
「偶にはそういうのも良いと思うよ」
そう笑うジェムに、彼の父親は一層不機嫌そうな顔をしたが何も言わず教員席へと向かってしまった。
とリリもそれにつられるように教員席へ向かい、自分達の椅子に腰を下ろす。
がこのホグワーツにやって来たばかりの頃は、リリは彼女の膝の上で食べていたが、二人が夫婦だと判明してからはとセブルスの間に子供用の背凭れの付いた椅子が置かれるようになり、今では三人並んでの姿が当たり前となっていた。
が、今日は別の意味で注目を集めていた。
スネイプ先生が髪を結んでいる。(しかも結い紐(女性用品)で)
その上、あの油っぽさが全く見られない。
これが他の誰かだったら特に気にしなかっただろう。
だが、あのスネイプだ。彼を知らない相手に彼を説明するならば必ず「髪が脂っこい」と説明が付くほどの彼なのだ。
「……」
ジェムは朝食を摂りながら、教員席へ視線を向ける多数の生徒の姿を眺めて内心で溜息を吐いた。
ああ、確実に質問される。何があったの?と。
別にそんな騒ぐような事じゃないのに、とジェムは思うものの、彼らにしてみれば大ニュースなのかもしれない。
(あ)
そんなことを考えていると、今度はハリーたちと目が合った。
その目は確実に「何なの?アレ」という目をしている。
(はいはい、後で種明かしするから)
ジェムは僅かに食欲が減退するのを感じながら千切ったクロワッサンを口の中へと押し込んだ。


「スネイプに何があったんだ?」
ドラコの隙を見て一人になって居ると、思った通りハリー、ロン、ハーマイオニーが寄って来た。
「何って、ただ香油が切れただけみたい」
「香油?」
首を傾げるハリーに、ジェムは「整髪用の油」と短く答える。
「えっ!じゃあスネイプのあの髪って整髪油の所為だったのか?!」
性格が表れてるんだと思った!と続けるロンにジェムは苦笑した。
「うん。父さん、寝癖凄いから」
すると彼らは何を想像したのか、ぷっと吹き出した。


結局新しい香油が届いてからはまたいつものあの脂っこい髪に戻り、その時の写真は希少価値としてコリンのアルバムに収まっているという。




(終)
+−+◇+−+
髪型というより、髪質の話になってしまいました。(爆)
ある程度髪が長くなると、その重みで寝癖とかならなくなるんですが、スネ先生の場合、微妙な長さですよね。
(2003/06/12/高槻桂)

戻る