監督生 彼らはその時を待ちわびていた。 「そろそろだぜ、プロングズ」 真っ直ぐな黒髪に端正な顔立ちをした少年が腕の時計を見る。 「カウントダウンでもするかい?ストリクス」 プロングズと呼ばれた、先程の少年と同じく黒髪の、けれどくしゃくしゃの髪をした少年がヘイゼル色の瞳を光らせた。 「良いわね、今…十五秒前」 ストリクスと呼ばれたダークブラウンの髪をした少女がカウントを始める。 それに合わせて先程の二人の少年を合わせた四人の声が加わる。 「「「「「Three――Two――One…」」」」」 パァン!!! 何かの破裂する音と、男の慌てた声が聞えてくる。 彼らはそれに驚く事無く、じっと物陰でその音の出所である部屋の扉を見詰める。 「何なんだ一体!!」 すると扉が勢い良く開き、部屋から一人の壮年の男性が飛び出て来た。 占い学担当のロンドリッツ教授だ。 そして彼と一緒に赤や青の星がぽんぽん跳ねながら飛び出してくる。 それを見た途端、五人はお互いの手を叩き合った。 「成功だ!!」 「さて、我らが新作、時限式長々花火を使用した試みについてだが。まずストリクス、君が一番の鍵を握っている」 ジェームズの言葉には「勿論わかってるわ」と笑った。 「けれど私はそれを教えて上げるわけには行かないの」 そして胸の前で腕を交差させ、大袈裟に 「スリザリン寮への合い言葉が「ヒギンズ」だなんて、他寮生である貴方たちに言う訳には…ああ!何てことでしょう!ついうっかり口を滑らせてしまったわ!」 と嘆いてみせ、そしてと彼らはにやりと笑った。 「よし、では本日最後の授業、薬草学は肝心のベラドノラスの木が風邪をひいてしまって自習。決行にはもってこいの時間帯だ」 「だけどまずレポートをやらないと。テーマが予め分かってれば用意しておけたんだけど…」 「図書館からスリザリン寮への移動に案外時間が掛かるのを考えると、レポートを書き上げる目標タイムは終了二十分前までだな」 リーマスの言葉をシリウスが引き継ぎ、そしてジェームズが再びへと視線を向ける。 「あとは万が一の事を考えて…」 「ええ、私の出番ね」 「そう。君たちは呪文学だ。時間通りに終わってしまうだろうから何かしら理由を付けてスネイプを引き止めておいてくれ。完了したら何かしらの合図を送るから」 「了解」 そして彼らは互いに拳を突き合わせて唇の端を持ち上げた。 「健闘を祈る」 「セブルス、ちょっと待って」 本日最後の授業、呪文学が終わったスリザリン七年生たちはぞろぞろと教室を後にして行く。 その中で同じ様に席を立とうとしたセブルスをは引き止めた。 「この散水の呪文なんだけど、こっちの呪文と掛け合わせる事は出来ないかしら?」 「それじゃなくてこの呪文の方が良いと思うが?」 「そうかしら?これだと威力が殺されると思うんだけど…」 「いや、こっちの呪文を前に持って来て先に発動させるんだ。そうすれば力が殺されずにそのまま発動する」 「じゃあ浮遊系の呪文をここに組み込んだらもっと広範囲の散水が可能になる?」 「…暴発して水が舞い上がるだけなんじゃないか?」 そうかそうか、と話し合った内容を羊皮紙に纏めていくにセブルスは小さく溜息を吐いた。 彼女は三年生辺りまではいつもトップ争いの中にいたが、ある時からはそこから身を引き、今では良い方の部類に留まっている。だが、それを補って尚足りるほど人当たりもよく、判断力もある。 そんな彼女が監督生に選ばれなかったのにはわけがある。 「奴等とつるんでいなければ監督生にだってなれたものを」 そう、彼女はグリフィンドールの悪戯っ子どもと行動を共にしている事が多い。 一緒になって悪戯を仕掛けたりしている事も多々ある為、寮監は彼女を選ばなかったのだろう。 「あら、私、監督生なんて面倒な事したくないから丁度良いと思ってたんだけれど」 するとさらりと返って来た応えにセブルスは更に苦い顔をする。 「折角目立たない様に成績も落したのに、これで選ばれたらお笑いよね」 ホント、選ばれなくて良かったわと続けるに、セブルスはまさか、とを見た。 「突然成績が下がったのは…」 「ええ。三年の終わりにね、先生が言ったのよ。「このまま頑張れば監督生も夢じゃ無いですよ」って。いやあ、あの時は焦ったわ。別に就職先なんて程々で良いのよ。私は魔法省に務めるより片田舎で小さな喫茶店を営みたいの。だから私には監督生の地位は要らないのよ」 「お前は…!」 「待って。分かってるわ。私の居た日本で言う生徒会長とかとは格が違うって分かってる。日本の学校で生徒会長を務めてても余り役に立たないけれど、こっちでの監督生経験の有無がこの先どれほど影響するか分かってる積もりよ。でも要らないの」 むすっと黙り込んでしまったセブルスには苦笑する。 「良いのよ。あなたやジェームズ達がそれを知っていてくれるのならそれで良いわ」 「だが…」 セブルスは何か言いたげだったが、不意に肩を叩かれたは彼から視線を逸らし、顔を上げた。 「、グリフィンドールの子があなたに渡してくれって」 同じスリザリンの女子がそう言って薄茶色のリボンを差し出した。セブルスが知る限りがリボンを結ぶ事は滅多に無い。訝しげにそのリボンを見ていると、は察する所があったのかそれを受け取った。 「ありがとう」 スリザリンの女子が立ち去るとはさも当たり前の様にそのリボンをポケットに入れた。やはり彼女の持物なのだろうか。 「なあに?」 するとその視線に気付いたが首を傾げてセブルスを見た。 「いや…お前がそういった類を身につけるのは余り見ないから…」 「付けた方が良いかしら」 の問いかけにセブルスは言葉を詰らせ、それから逃れるように立ち上った。 「…もう行くぞ」 はくすくすと笑いながら彼の後を追い、教室を出た所で「あっ」と声を上げた。 「どうした」 足を止めて振り返ったセブルスに、は「ごめんなさい」と謝罪する。 「私、リリーに用事があったんだわ。悪いけれど先に帰っていてくれる?」 夕食までには戻るから、と続けると彼は短く頷いてスリザリン寮へと向かった。 「…どんな反応するのか見たい所だけど、あれって結構威力強いのよね」 ごめんねセブルス。 内心で小さく舌を出し、はリリーを捜しにグリフィンドール寮へと歩き出した。 (END) +−+◇+−+ ヒロインがセブルスを引き止めている間の四人組の話が「父親」で、その後は「思い出」へと続きます。つまり、あの後にセブルスのベッドに長々花火を仕掛ける為にスリザリン寮に忍び込み、そこで過去に飛ばされて来たジェムと出会うんですね。ちなみにうちのセブは監督生じゃないです。 関連タイトル:「父親」、「思い出」 (2003/07/28/高槻桂) |