星空




恋人になって一ヶ月がったった。
しかし二人の間には、なんの変化も起きていない。
確かに、普段はいつもどおりにすることと、彼に言った。
しかし二人きりの時くらい、恋人らしくしてもいいではないか。
恋人同士の逢瀬は真夜中で。
月明かりだけを頼りに、暗い教室でお茶会をしたり、散歩をしたりした。
二言三言話をして、時間がきたら寮へと帰る。
その間、かろうじて手を握ることはしてくれたが、それ以上は何もない。
初めは僕もどきどきして何も出来なかったけれど、時がたった今、何もないことがだんだんもどかしくなってきていた。
二人きりの時かけられるのは、いつもの敵意を含んだものでなく、柔らかな声。
僕には確かに甘い恋人の声に聞こえて。
それを聞くだけで恋人なのだと思うほど、彼を愛していると言う事実を、彼に会うたび実感する。
だからこそ、一人空回りしているようで腹が立つ。
ふと彼を見やれば、今もただ星空を眺めるだけで、何かをしようという気はまったく感じられない。
今夜もこのまま終わるのだろうか。
これではロンやハーマイオニーと話しているときと、同じじゃないか。

友とは違う行為をしたいと思うのは、僕の我がまま?
それとも僕が、飢えているだけ?
君は、これで満足なの?
僕はやっぱり、物足りないよ。

「ねえ、ドラコ」
「な、なんだ?」
名を呼べば、彼の顔に赤みが差す。
照れてる。
そう、彼は今だ名を呼ぶと照れるのだ。
そして僕の名前を言えと言うと、二人きりのとき以外も呼びそうだからと否定されるのだ。
これもイラつきはしたが、許してしまうのは、そんな彼が好きだったから。
頬を染める彼が、純粋に見えて好きだから。

「僕さ、したいことがあるんだ」
「したいこと?」
「うん、恋人同士のキスがしたい」

無言になる。
恥ずかしがっているのだろう。
なにしろ名前だけであんなになる君だもの。
思ったとおり、彼は耳まで赤くなっていた。
ねえ、知っている?
いつだって、どうしようか迷っている僕の背を押すのは、君なんだよ。
真っ白で、真っ直ぐな君の反応が、いつも僕を突き動かすんだ。

「ドラコ」

もう一度名前を呼んで、彼の肩を掴んで押し倒す。
自然と僕は彼に馬乗りになる形になる。
突然のことに戸惑う彼に、僕はそっと顔を近づける。
彼はぎゅっと目を閉じた。
かわいい。
かわいい。
かわいくてたまらない。
そう思うくらい、愛しいんだ。
だからこれくらいしたって、罰は当たらないはず。
否、むしろ当然のことだろう。

だって僕達は恋人同士なんだもの。


「大好き」


そっとキスをした。
軽い、触れるだけのものだったけど、僕はすごくどきどきした。
彼も、きっとそうだと思う。
体を起こしたときに見た、ぼうっと僕を見つめ返す瞳が、夢見心地に見えたから。
「ファーストキス?」
僕の言葉に、彼は我に返ったようにはっとして、僕を押しやり起き上がる。
「だとしたら」
半分怒鳴るかの様に言われたことを、照れ隠しとして受け取った。
うつむく彼の顔を掴み上を向かせ、僕と視線を合わさせる。
「僕もそうだから、同じだったらうれしいと思って」
君は?と聞くと、彼の頬に添えた手を握られて。
「…うれしい」
短い答えの後に、そのまま彼からもキスをされた。
なんだ、やればできるじゃないか。
「今までできなかったのは、きっかけがなかったから?それとも臆病だったから?」
「うるさい。これで満足なんだろう」
「足りないよ」
去ろうとする彼を引きとめ、にこりと笑い囁いた。
「もっとしたい」
「もっとって…じゃあ、どれくらい?」
真面目な顔で訪ねられて、僕は思わず笑い出してしまった。
笑うなと怒られても笑っていたら、彼はとうとう怒り出し背をむけてしまった。
さすがにまずいと思い、ごめんと良いながら彼の背中に抱きつき質問に答える。
「じゃあ、あれくらい」
肩越しに指差したのは、頭上に広がる星空。
「星の数ほどって言うのは、どう?」
「今日一日で?」
「まあ、出来なかった分は、明日に繰越とか」
「後で後悔してもしらないぞ」
「しないよ、だから、キスして」
理由になっていないと文句を言いながらも、抱きつく腕を緩めれば、彼はくるりと振り向きキスをしてくれた。
一度やってしまえば、次々と出来てしまうものなんだと実感した。
その日、僕らは何度もキスをした。
星の数を目指して。




君が好きです。
だから、ねえ、明日もどうかキスをして。









あとがき
ドラちゃま普及計画第三弾!
ドラハリかどうか怪しいですが、ドラハリです。ハリーがドラコを押し倒していようともドラハリなのです!乙女チックモード全開なのは、いつもの事と流してください〜。
私の書くハリーはちゅー好きです。この後さらにした模様。そして確実に明日以降もするでしょう(笑)
第四弾、さり気なく計画中です★

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