期末試験




期末試験が近付くと自然、図書館の利用者数は増加する。
借りて行って寮で読む者、図書館内で済ませる者と様々だ。
「……ぁ?」
図書館内で問題集と羊皮紙を広げる一人、ジェム・タカツキは思わずガラの悪い声を上げた。
(「学名で『Adenophora triphylla』と言われる植物の薬効、及び調整の仕方を答えよ」?は?)
いつ習ったっけ。
いつも何も、自分はまだこのホグワーツに入学してまだ二年目だ。例え一年の始めに習ったのだとしても覚えていても良さそうなものだが。
「ぅ〜……」
羽根ペンで頬を叩きながらジェムは小さく唸る。
やはり分からない。

「ツリガネニンジンは生のうちに薄切りにするか、細かく刻んでから干すんだ。外皮のコルク層を剥いで天日で充分乾燥させる事。薬効は持続性のある去痰作用と、強心作用や皮膚に寄生する真菌の発育抑制作用がある」

頭上からの声にジェムは顔を上げた。
そこには黒髪にグレーの目の整った顔立ちをした少年がジェムを見下ろしている。
自分より幾ばか年上に見える少年のネクタイを見る。ハッフルパフ。
「…ありがとうございます」
眼を見張ったまま礼を述べると、彼はにこりと笑った。
「いや、ついでだったから」
「ついで?」
うん、そう、と彼はジェムの傍らに置かれた一冊の本を指差した。(「湿地帯の薬草」という本だ)
「それ、良かったら次に貸してくれないかな」
「あっ、借りっぱなしにしててごめんなさい。もう必要な所は写したから、どうぞ」
「ありがとう。僕はハッフルパフ四年のセドリック・ディゴリー」
君は?と聞かれ、ジェムは慌てて名乗った。
「ジェム・タカツキ。スリザリンの二年です」
すると彼はきょとんとして「二年?」と繰り返した。
「え?ええ…」
セドリックはジェムの開いていた問題集のある一点を指差した。
「これ、三年生用だよ」
一瞬、頭の中が真っ白になった。
「……三年?」
セドリックが指し示す個所には確かに「第三学年復習問題」と書かれている。
まさか、と表紙を見てみれば、「ホグワーツ期末試験、対策と傾向・三年(薬草学)」とある。
間違えた。
本棚から取り出す際、考え事をしながらひょいと手に取った。その時に目的の二年用の隣りを手にとってしまったのだろう。更に言うなら始めの方の問題が解けたのは一、二年の復習問題だったからだろう。
「…バカだ…」
一気に力が抜けた。
くすくすとセドリックが笑っている。ジェムの気恥ずかしげな視線に気付いたのか、無理矢理笑いを抑え込んで「ごめん」と謝罪した。
「いや、お詫びと言っては何だけど」
セドリックは抱えていたテキストや羊皮紙の中から一枚の羊皮紙を取り出した。
「これ、僕が二年の時の期末問題の写し。これの半分以上は違う問題が出ると思うけれど、参考にはなると思う」
差し出されたその羊皮紙とセドリックの顔を交互に見詰める。
ありがとうと受け取るべきだろうか、大きなお世話だと断るべきだろうか。
「……」
ジェムは迷った末、その羊皮紙を受け取った。
「ありがとうございます、ミスター・ディゴリー」
僕たちは社交辞令より一歩親しんだ笑顔を交わした。
「セドリックでいいよ」
「じゃあ、セドリック先輩」
彼は苦笑する。


もしこの友情の結末を知っていたら、僕は彼の手を跳ね除けただろうか。


「もう一声」
「…セドリック?」
「そう」


それでも僕は、この手を取っていたと思う。
何度でも、きっと。








(END)
+−+◇+−+
セドリックが偽者でスミマセン。(土下座)
えーっと、強いて言うならジェムのこれからの為の布石と言うか。セドリック大好きです。(何)
ていうか、ジェム主役の話で第三者視点で書いたのって始めてかも。
そして彼らの勉強は無駄になる・・・(秘密の部屋事件解決の為、期末試験がキャンセルになるので)
そんな事より、セドリックはもう少し消極的だと思うのですが・・・どうでしょう。
関連タイトル:「ドラゴン」、「大切なひと」
(2003/07/17/高槻桂)

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