気の合わないひと




スネイプ一家は、全員このホグワーツに居る。
とは言ってもそれぞれ授業や仕事が在る為、そうそう一緒に居る姿は拝めない。
そんな中、全員が揃うのは食事の時だ。
長男のジェムはスリザリン席だが、スネイプ先生とその妻、先生、そして四歳になったばかりの長女リリは教員席だ。
ちなみにこの一家(特に夫婦)、揃うと高い確率で何かやらかす。
本人達は自覚ゼロなのだが、親子、または痴話喧嘩や惚気は少しは人目を気にして欲しい。
だが、それでも苦情が一件も出ないのは正直な話、見ていて面白いからだ。
ただでさえ娯楽の少ない寮生活。中には次はどんな騒動が起こるか、と賭けを繰り広げる者も居る。
特にあの陰険教師、セブルス・スネイプが妻には勝てないと言うのがまた痛快だ。

そして、今日も今日とて彼らは相変わらずだった。

「それでね、リリはね!」
とスネイプの間でリリはとにかく喋り手繰った。
四歳にもなると、とにかく喋る。「あれは何?」の質問系から今日の出来事まで様々な事を話したがる。
食事中はさすがにリリも黙々と食べていたが、デザートを食べ終る頃にはこれでもかと言うほど喋り出した。
そして幼児の声は大きく甲高い。グリフィンドール席に居るハリーたちにもリリが話している内容ははっきりと聞き取れた。
夕食が始まるまでの時間、リリはグリフィンドールの談話室でハリーたちと遊んでいた。
どうやらその時の話をしているようだ。
クィディッチの話を聞いたらしく、観たいと言い出したり(「クィディッチ」が上手く発音できず「キヂッチ」と舌足らずに言うのがまた愛らしい)、他愛も無い話をしていた。
だが。
「それでね、あのね、リリね、大きくなったらハリーとけっこんすゆの!」
シン…
一瞬にして大広間が静まり返った。
「あらそうなの?良かったわね〜」
だけはのんびりと言葉を返す。
大広間のほぼ全員が分かっていた。
この時期の女児は大抵そういう事を言い出すものだと。
しかも翌日には違う子と結婚すると言い出す事も多々ある。
言った本人ですら、覚えていない事が多い。
そんな、子供の他愛も無い言葉遊び。
の様に軽く受け流すのが有るべき姿だ。

だが、ここにそれが通用しない男がいた。

「……」
スネイプは手にしていたゴブレットをテーブルに戻した。
カタン、とその僅かな音すら静まり返った室内にはとても良く響いた。
ガタ、と更に響く音を立ててスネイプが立ち上がる。
それと同時にグリフィンドール席で立ち上がった者が三名。
ハリー、ロン、ハーマイオニーだ。
彼らは引き攣った笑みを浮かべながら「さ、そろそろ戻ろうか」「そうね、レポートもやらなきゃいけないし」「そういえばチェス片付けて無かったなァ」と口々に言いながら大広間を出ていこうとする。
「ミスター・ポッター」
だが、それを見逃すほど彼の心は広くない。
「……ナンデショウ、スネイプセンセイ」
爽やかな笑み(引き攣ってはいたが)を浮かべながら振り返るハリーに、スネイプはゆっくりと歩み寄って睥睨する。
「高名なハリー・ポッター殿。その名を轟かせるだけでは飽き足らず、我輩の娘まで誑かすとはどういった了見ですかな?」
「たっ、たぶっ…」
ハリーは目眩がした。
バカかこの人は。
ああ、確かにバカだ。親馬鹿と言うバカだ。
「あのですね、スネイプ先生。小さい女の子って言うのは一度はそういうことを言い出すものでしてね」
何で僕がこんなことをスネイプに説明しなきゃならないのだろうか。
救いを求めてへ視線を向けるが、生憎彼女は笑いを堪えるので精一杯でハリーの視線に気付いてはくれない。
「戯言だろうが冗談だろうが聞き捨てならん」
「それって僕の所為なんですか?!」
「当たり前だ。リリに責があるわけなかろう」
「じゃあどうすれば良いんですか!責任を取って結婚しろとでも言うんですか?!」
「誰が貴様なんぞにくれてやるか!第一貴様に義父などと呼ばれた日には卒倒するわ!!」
「頼まれたって呼びませんよ!確かにリリは先生似で可愛いけど、」
「ポッタァァァ!キサマッ」
「人の話は最後まで聞いてください!僕と彼女は一回りも年が違うんですよ?!」

白熱していく男二人とは裏腹に、教員席の女二人は呑気なもので。

「ねえマァマ、パパとハリーはなんでケンカしてゆの?」
「あれはね、ケンカじゃなくてただのスキンシップよ」
「でもパパとハリー怒ってゆよ?」
「あの二人にはあれで丁度良いのよ」
「ふーん?」
「それより、フルーツまだ食べる?」
「食べゆ!りんごが食べたい!」
「はぁい、どうぞ召し上がれ」

一人離れ小島の長男も、「バカばっかだ」と文句を言いながらヨーグルトにストロベリーソースをぶっかけていた。








(終)
+−+◇+−+
えーっと、これは夜中にメールでスネイプ一家に付いてやり取りしていた時に浮かんだネタです。
取り敢えず、スネ先生は親馬鹿だな、と。
ちなみに、ダンブルドアは大抵微笑ましく見守っているか、気にしてません。(爆)
元々、リリーの「ハリーと結婚する」発言と怒るパパスネってだけで書き始めた小話なので、まあこの終わり方で良いや、と。最初は最後の方ももう少し行数あったんですけど、無い方がいっその事スッキリする、と思って消しました。
(2003/06/18/高槻桂)

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