ネクタイ




放課後、ハリーはスネイプの研究室にいた。

「先生、僕、しばらくここにはこれません。」

部屋に入ると、机に座り羊皮紙にペンを走らせる彼のもとへと向かい、そう告げる。
いきなりの言葉に驚いたのか顔を上げた彼を見ながら、ハリーは話を続けた。
「もちろん先生の私室にもですよ。明日からクィディッチの練習があるんです」
それを聞いてスネイプは、そうかと言う顔をしただけで、また羊皮紙に視線を戻した。
ハリーは予想通りの展開に、少しだけ物悲しさを感じながら、予定していた行動を実行する。
今自分が締めているネクタイを解くと、スネイプの首にかける。
その行動にまた、スネイプがハリーに視線を移した。
「何がしたいのだね」
「終わってから説明します。こちらを向いてください」
スネイプはこのことにかなりの疑問を持ったようだが、とりあえずは大人しく従うことにしたらしい。
彼は体ごと向きを変え、向い合う形になる。
ハリーはたどたどしい手つきで、ネクタイを結んでいった。
赤と黄色のグリフィンドールカラーのネクタイ。
「先生・・・やっぱり似合いませんね」
ハリーは思わず顔がにやけてしまった。
スネイプの着ている詰襟の黒服にも当然似合わないのだが、彼自身にどうしてもグリフィンドールカラーが似合わない。
必死に笑いを堪えるハリーにスネイプがぼそりと呟いた。
「・・・不器用だな」
確かに結われたネクタイはかなりのゆがみがある。
「仕方ないでしょう。人にするの初めてなんですから」
ゆがみを直そうとハリーは手を加えるが、どうにもならないとわかると早々と手を引いた。
それを待っていたかのように、スネイプは彼に尋ねる。
「それでは、理由を聞こうか」
じっと見つめてくるスネイプの視線。
ハリーは思わず視線をはずす為に俯いた。
そして小さな声で答える。
「えっと・・・持っていて欲しいんです。僕を忘れてしまわないように」
「我輩はそこまで記憶力がないと思われているということか、ポッター」
「え!?ち、違いますっ・・・」
返ってきた言葉を慌てて否定しようと顔を上げると、スネイプはすでに羊皮紙に向かっていた。
ネクタイを取ろうという様子はない。
これは、了解と言うことではないだろうか。
「今日も練習ではないのかね。さっさと行ったらどうだ」
「・・・よくご存知ですね」
ハリーは笑顔が耐え切れなかった。
口にださない彼の優しさが、うれしくてたまらない。
だからもう少しだけ、子供になってもいいだろうかとハリーは考えた。

もう少しだけ、甘えたい。

「いってきます、先生」

そう言うと同時に、ハリーはスネイプの頬に軽くキスを落とした。
スネイプは驚いた訳でもなく、ただ声をなくしてしまったのか様に呆然としていた。
固まったままの彼を残し、ハリーは足早に部屋を出る。
閉じたドア越しに、「まったく」と言う声と大きなため息を聞いたが、今の彼にはそれすらも嬉しく思えた。
「さてと、練習頑張らなくちゃな」
顔に笑みを浮かべたまま、ハリーはクィディッチの練習へと向かった。







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