恋人




別に来いって言われている訳じゃない。
寧ろ、用も無いのに来るなって言われた。
お茶を飲みつつ先生を眺めるっていう立派な用件があるんです。
冗談半分でそう言ったら、あなたは呆れ返ってそれ以来何も言わなくなった。
ふらりと訪れて、勝手に紅茶を入れて。
何か話しかけても、先生にとって下らないと判断された内容には目もくれない。
だけど、それは僕の話をきちんと聞いていてくれるという事で。
それが、嬉しかった。


僕の問いかけに、あなたは羊皮紙に走らせていた羽根ペンを止めた。
「何だそれは」
眉根を寄せて僕を見る。
「だから、スネイプ先生、恋人が居るって本当ですか?って」
僕の所為で添削の手を止められたのが癇に障っているらしい。
とても不機嫌そうだ。
「今日、スリザリン生が噂しているのを聞いたんです」
けれど、僕の為にその手を休めてくれた事。
僕はそれがとても嬉しかった。
「下らん」
だけど、先生はまた羊皮紙と睨めっこを再開させてしまう。
「ねえ先生、どうなんです?」
反応を返してくれたって事は、少なくとも彼の気を引くものであるって事で。
「スネーェイプせぇーんせぇーい」
僕の間延びした声に、彼は舌打ちした。
よし、僕の勝ち。
「で、どうなんですか?」
スネイプ先生は添削の手を止めないまま、「そうあって欲しい者は居る」と答えた。
……は?
「えっ、まさか片想い?!似合わない!!」
おっと、思わず本音が。
「……」
だけど先生は無言でひたすら添削を進めている。
余計なお世話だ、って感じの顔してる。
湧き起こる好奇心。
「ねえ、どんな人?年上?年下?」
「年下だ。かなりのな」
思いの外、あっさり返事が返って来た。
ていうか、年下。かなりの年下。
「…まさか生徒とか?」
「そうだ」
うわ、生徒に手を出すなよ。
「よくここに来るの?」
「時折放り出したくなるがな」
…ていうか、ムカツク。先生じゃなくて、相手が。
だって、先生とこうしてるのって、僕だけだと思ってたんだ。
僕だけが、許された事だと思ってたんだ。
「スリザリン?」
「いや」
「レイブンクロー?」
「……」
「ハップルパフ?」
「……」
「……グリフィンドール?」
「そうだ」
余計むかつく。
スリザリンだったらこの人らしいなあ、って思っただろうし、レイブンクローやハッフルパフならそれほど知ってる人居ないし。
寄りによってグリフィンドール。
「どんな子?明るい子?大人しい子?」
僕の知ってるヤツだったら、凄いイヤ。
…まあ、結局の所誰でもイヤなんだけど。
「……」
カリカリカリカリ…
コノヤロウ、無視し始めやがった。
仕方ない。…まあいいや。
知りたいとは思うけど、具体的な名前とか出てきたら…ショックだし。
「……」
ムカムカとイライラとあとアレやらコレやら、色んな気持ちがぐるぐる回って気持ち悪くなった。
僕は唐突に立ち上ると、何も言わず先生の部屋を出ていく。
「ポッター?」
先生の声が聞えたけど、無視して扉を閉める。
だって先生。
「…先生のばーか」
僕、先生のこと好き…かもしれないのに。
もう少し、夢見させてよ。





来い、と言った覚えはない。
寧ろ、用も無いのに来るな、と告げた筈だ。
「お茶を飲みつつ先生を眺めるっていう立派な用件があるんです」
どこまで冗談か知らんが、馬鹿げた事を。
ふらりと訪れては勝手に寛いでいく。
忙しなく話し掛けてくるが、殆どが下らない内容ばかりだ。
それでもあの少年はそれをとても楽しそうに話す。
それが、微笑ましかった。


ポッターの問いかけに、我輩は思わずペンを止めてしまった。
今、彼は何と言った?
「何だそれは」
すると彼は何でも無い様に繰り返す。
「だから、スネイプ先生、恋人が居るって本当ですか?って」
何を馬鹿げた事を。
そんな事で我輩の手を止めさせたのか。
ばかばかしい。
「今日、スリザリン生が噂しているのを聞いたんです」
きっと我輩は不機嫌な顔をしているだろう。
だが、目の前の少年はどこか嬉しそうだ。
「下らん」
再び添削を再開すると、ポッターは拗ねたような声を出した。
声まで父親とよく似ている。腹立たしい。
「ねえ先生、どうなんです?」
だが、ポッターはしつこい。(こんな所まで似なくとも良いものを)
下らなさ過ぎて手を止めてしまったのを、今更ながらに後悔した。
「スネーェイプせぇーんせぇーい」
ええい煩い。
思わず舌打ちすると、ポッターは僅かに唇の端を持ち上げた。
「で、どうなんですか?」
こうなると意地だ。
意地でも添削の手は止めない。
だが、苛立ち混じりに「そうあって欲しい者は居る」とだけ答えた。
するとお前は大仰に驚いて。
「えっ、まさか片想い?!似合わない!!」
「……」
我輩は如何ともし難い思いで羽根ペンを動かす。
その似合わない事をさせているのは誰だと思っているのだ。
「ねえ、どんな人?年上?年下?」
だがお前は未だ気付こうとしない。
「年下だ。かなりのな」
苛立ち混じりに答えると、彼は一瞬ぽかんとして。
「…まさか生徒とか?」
「そうだ」
「よくここに来るの?」
「時折放り出したくなるがな」
それにも軽く答える。
視界の端で好奇心に輝いていた表情が微かに曇った。
ああ、あの顔はまた見当違いな事を考えている。
「スリザリン?」
「いや」
「レイブンクロー?」
「……」
「ハップルパフ?」
「……」
「……グリフィンドール?」
「そうだ」
ちらりとポッターを盗み見ると、「不機嫌です」とその顔にありありと書いてある。
「どんな子?明るい子?大人しい子?」
先程までの好奇心はどこへやら。真剣そのものの声音で問い掛けてくる。
全く、いい加減気付いても良いと思うのだが?
お前以外の生徒をこの部屋で寛がせた事など一度たりともないというのに。
「……」
苛付きを誤魔化すように羽根ペンを動かすと、どうやらポッターはそれを無視の姿勢と受け取ったらしい。
「……」
十数秒ほどむすっとしていたようだったが、ポッターは唐突に部屋を出ていった。
「ポッター?」
バタン。
閉じられた扉に、我輩は羽根ペンをインク壷に戻して立ち上った。
全く、世話の焼ける。
駆けて行く足音は聞えない。ならば、まだ近くに居るのだろう。
扉を開けると、案の定。
「ぅわわっ」
扉に凭れ掛かっていたポッターがバランスを崩して慌てていた。
「ポッター、一つだけ教えてやろう」
まるで授業の時の様に腕を組み、睥睨する。
「相手はシーカーだ」
ここまで言って気付かない様なら、我輩はもう知らん。
勝手に空回りでもなんでもするがいい。
我輩は言うだけ言って扉を閉めると、扉の向こうから「先生」と控え目な声が伝わって来た。
『先生、大好きです』
照れ臭そうに告げるそれに背を向け、我輩は再び添削作業を行なうべく椅子に腰掛ける。
パタパタと軽い足音が遠ざかっていく。
我輩はペンを持つ気になれず、背凭れにゆっくりと体を預けた。
今頃は耳まで朱に染まって廊下を駆け抜けているだろう少年を思う。
フィルチに見つからなければ良いのだが。
そう思いながらも、その原因は己である事に奇妙な喜びを感じた我輩は喉の奥で微かに笑う。
そして漸く、我輩はペンを手に取った。







(終)
+−+◇+−+
初のスネハリ。
判明した事。私にスネハリは向いてません。(爆)
なんつーか、スネ先生が書き難い。ハリーも思ったように動いてくれない。そして何よりラブ度低!!
特に最後!普通そう来たらどっちかが扉開けて抱き合うとかするだろ!何二人とも戻ってんの!
ていうか、この話し書き始めた途端、急激に眠くなり、寝て起きてみれば体調崩してました。呪われてるとしか思えません。(笑)
という事で、スネハリはこなおに任せます。(笑顔)
(2003/06/23/高槻桂)

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