休日の過ごし方




ハリーは卒業してから住み込ませてもらっている家の前で立ち止まった。
「ハリー・ポッター、帰宅」
閉ざされた扉に告げると軋んだ音を立てて扉が僅かに開かれる。ハリーは自分が通り抜けられる程度に開かれたその隙間を抜け、家の中へと入って行った。
その足は真っ直ぐに二階へと向かい、一番奥の扉の前で止まった。
「ムーディ先生、今帰りました」
低い応えにハリーは扉を開ける。
明かりの灯っていない薄暗い室内には一人の老人が肱掛椅子に身を委ねていた。
「いつも言いますけど、明かりくらい点けたらどうです」
ハリーがスイッチを押すと同時に室内に白々とした灯りが満ちる。
「あなたは暗くても見えるかもしれないけど、僕には見えないんです」
の家で何かあったな?」
「…人の話聞いてます?」
だがムーディは無言でハリーを見詰めてくる。魔法の目がぎょとぎょととハリーの頭から爪先まで何度も見廻した。
ハリーは仕方ない、と言うように肩を竦め、今日の事を話し始めた。
リドルの記憶が蘇った事、けれど彼にはもう以前のような闇は見受けられなかったという事。
「…そうか」
全て話し終えるとムーディはそれだけ呟いてまた黙り込んでしまった。
彼の反応に既に馴れてしまったハリーは「そうなんです」と返してさっさと話題を変える事にした。
「夕食、何か希望はあります?」
「スープはヴィシソワーズを」
了解、と笑ってハリーはムーディの部屋を後にした。




ムーディは基本的に他人の作った料理は口にしない。飲み物も然り。
これは彼を知る誰もが知っている事だった。
けれど、一人だけ例外がいた。
ハリーだけは彼の食事を作る事を許されていた。
勿論、ハリーがこの家に住むようになったばかりの頃は彼の許可無しにはキッチンにすら近寄らせてもらえなかった。けれど、少しずつ彼の許可を得なくてはならない項目が少なくなっていき、やがて家事を任せてもらえるようになった。

「もうすぐ、夏が終わりますね」

ハリーがブレッドを千切りながらそう言うと、ムーディは片方だけ視線を向けた。(魔法の目は相変わらずあちこち見廻している)
「また貴方と離れ離れだ。どうせ助手なら僕もホグワーツに連れていってくれれば良いのに」
「お前が居るといつも以上に不機嫌になる男が居るからな」
「僕が寂しい思いをするのは良いんですか?」
「鍛練の一環と思え」
全く意に介さないムーディの対応に、ハリーは面白くもなさそうにパンの欠片を口の中へ放り込んだ。
言いたい事は沢山あったが、返って来る答えは同じだろうと予想できてハリーはひたすらブレッドを口にする。
恐らく彼はこう返すだろう。
『わしに依存するな』
そして、
『わしが死んだ時、辛いのはお前だ』
そう、当たり前の様に告げるだろう。
二度とそんな言葉を聞きたくなかったから、ハリーはそれ以上文句を言うのを止めた。
その代わりに彼を呼ぶ。
「ムーディ先生」
彼の左右異なった視線がハリーの視線とぶつかった。
「後で部屋にお邪魔しますから」
彼の魔法の目が再び忙しなく動きまわり始める。彼は「そうか」とだけ返して食事を再開した。
ハリーもそれ以上何も言わず、己の手元へと視線を落した。













(終)
+−+◇+−+
最近は本読むかサイト練り歩いてたので何となく久し振りにSSを書いた気分。
時間的には「夏休み」のその後ですね。ていうか「夏休み」の後書ではムーディ×ハリーじゃないですとか抜かしておきながらさり気にくっ付いててゴメンナサイ。(爆)
ていうかね、本当は予告にもあったように「僕は好きであなたの傍に居るんですよ、先生」というセリフが入る筈だったんですけどネ。言いませんでしたネ。
いや、ハリーの今後についてはまだ色々とネタがあるのですが、何せ具体的な粗筋が決まってないのでいつになる事やら。
え?結局ハリーはムーディ先生の部屋に何をしに行くのかって?ご想像にお任せします。
関連タイトル:「夏休み」
(2003/07/31/高槻桂)

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