真夜中のパーティー 知ってたわよ、あなたたちが私たちに隠れてコソコソやってんのは。 だから、私もあなたたちに内緒でやらせてもらうわ。 私を仲間外れにするなんて、良い度胸じゃない? 「これだわ」 小さく呟いたは、古めかしい一冊の本を目の高さまで持ち上げた。 現在の時間は午後の二つ目の授業真っ最中。 場所はグリフィンドールの男子寮の一室。 何故こんな所にスリザリンの女子生徒が居るのかというと。 「ふふふ、見てらっしゃい」 は手にした分厚い本をローブの中へと隠した。 そう、この本を手に入れる為である。 「さてと、早く帰らなきゃ。じゃあね、ジェームズ」 は主のいないベッドにそう笑いかけ、意気揚々と部屋を出ていった。 は随分前からグリフィンドールの男友達がコソコソと、何やら行なっているのを知っていた。 だが、いつか話してくれるだろうと、はずっと気付かない振りを続けた。 そして一年が過ぎ、二年が過ぎ…。 「三年よ、三年。私たち、もう五年生よ?もう我慢できないわ」 空き教室に入り込んだは、ジェームズのベッドの下から持ち出した本を捲りながら呟いた。 「あった。これね」 目的のページを見つけ、は早速それを羊皮紙に書き移し始める。 この日、本来ならも占い学の授業中であるはずだった。 だが、占い学担当のロンドリッツ教授が、 「今日は日が悪いので自習にする。図書館へ向かうものは静かに移動するように。以上」 と、何とも占い学の教師らしい理由で休講にしてしまったのだ。 「ロンドリッツ様様よね」 そこで、先程のグリフィンドール寮への侵入。 合い言葉はシリウスが雑談の途中でうっかり洩らしたのを覚えていたし、ローブの紋章は外し、ネクタイはお手製だ。 あとはチャンスを待つばかりだった所に転がり込んで来た、ロンドリッツの気紛れ。(彼にとっては気紛れではないのだが) 結果、の目論見は達成され、今に至るという訳だ。 「ああ、これこれ。ここが分からなかったから実験できなかったのよね」 は全て移し終ると、満足げに笑った。 は先日、彼らに尋ねた。 「ねえ、最近何か隠してない?」 気付かない振りを続けて三年。は初めて探りを入れた。 にとって、これは賭けだった。 もしここで彼らが全てを話してくれれば、こんな強硬手段は取らなかっただろう。 けれど、彼らはさも意外だと言わんばかりに、 「え?別に何も無いけど?」 そう答えたのだ。 そりゃあ私は他寮生で、しかもスリザリン生。 だけどね、私と貴方たちは親友だと思ってたの。 なのに、仲間外れって無いと思わない? 彼らにとって所詮私は「守るべき女の子」なのね。 冗談じゃない。 確かに私は貴方たちより非力ですよ。 でもね、心の強さは負けないつもりよ。 「守られているばかりが女じゃないって、思い知るが良いわ」 その夜、はいつもの様にナルシッサと一緒に大広間へ向かった。 「はぁい、リリー」 「ハイ、、ナルシッサ」 グリフィンドールのテーブルでビーフシチューを食べているリリーに声をかけ、「どうしたの?」とは男四人組を指差した。 いつもなら騒がしいジェームズたちが、神妙な顔をしながら夕食を突付いている。 「さあ?さっきからずっとこの調子なのよ」 「拾い食いでもしたんでしょうよ」 ナルシッサがそう言って鼻で笑う。 いつもならシリウス辺りが言い返すのだが、今日はそれすらない。 「詰らないわ。、行きましょう」 ナルシッサが肩を竦めてスリザリンのテーブルへ行ってしまい、はリリーに手を振って彼女の後を追った。 は彼らの消沈の理由を知っている。寧ろ、が原因なのだが。 恐らく、彼らは例の本が無くなっている事に気付いたのだろう。 あの本は彼らが無断で持ち出した禁書だ。 持ち出した事がばれるだけでも処罰が下るというのに、更には無くしたとなれば青くなるだろう。 もし持ち出した者が悪用すれば、それはジェームズたちの過失だ。 (悪用なんてしないから安心しなさい) は内心でそう呟いてサラダの上のトマトを齧った。 だが、の心の声が聞えるはずも無い彼らは、意気消沈したまま夕食を摂っていた。 ジェームズたちは結局本を見つけられないまま、次の満月を迎えた。 「よし、行こう」 ジェームズの声と共にピーターはネズミの姿になり、ジェームズの肩の上に乗った。 落ちるなよ、と肩の上のピーターに声をかけ、ジェームズとシリウスは透明マントを被る。 三人は寮を抜け出し、そうっと暴れ柳の元へと向かった。 ポンフリーだ、とジェームズが囁いた。 リーマスを屋敷に送り届けた帰りなのだろう。マダム・ポンフリーはジェームズたちに全く気付かず通り過ぎていく。 彼女の姿が見えなくなると、再び彼らは目的の場所へと急いだ。 いつもの様にホグワーツ中を四匹で駆け巡っていると、不意に犬が空を見上げた。 それに釣られて他の三匹も夜空を見上げた。 月明かりの中、一羽の茶梟がこちらに向かって飛んでくる。 その足は、何かを掴んでいる。 「!」 彼らは驚いて顔を見合わせた。 その梟が掴んでいるのは、何者かによって持ち出された禁書。 梟は牡鹿の頭上に差し掛かると何気なくその本を落した。 牡鹿は咄嗟に落ちてくる分厚い本を避けたが、どうやらその梟は牡鹿に当てるつもりだった様だ。 ごとん、と重い音を立てて地面に落ちた本。 まるで舌打ちするかのように短く鳴き、本を咥えた黒犬の頭上に当たり前の様に舞い下りた。 その嘴で耳を思い切り引っ張られた犬は慌ててその梟を振り落とそうと頭を振る。 だが梟は悠々と空に舞い上がり、低い唸りを上げる犬をからかうように二声鳴いた。 梟は彼らの頭上をゆっくり旋回していたが、不意に急降下し、再び舞い上がった。 キー!と悲鳴が上がり、三匹はぎょっとした。 梟の足には、ネズミがしっかりと捕まっているではないか。 食われる。 四匹ともそう思ったのだろう。ネズミは悲痛な声を上げ、狼と黒犬、牡鹿は慌てて梟の後を追う。 真夜中の追いかけっこはそう長く続かなかった。 梟は真っ直ぐ「叫びの屋敷」へ向かい、その僅かに開いた扉から中へと入っていく。 梟は漸くその翼を休めた。ただし、ネズミはしっかり足で押さえつけている。 三匹はその梟と向かい合いながら、薄々気付き始めていた。 この茶梟はアニメーガスで、この梟こそが本を盗み出した張本人だと。 梟は相変わらずネズミを押さえつけたままだったが、その嘴でそっとあやすようにネズミの背中を擽る。 やがて梟に敵意(というより食欲)が無いと分かったネズミが体の力を抜くと、押さえつけていた足が除けられた。 梟は己が押さえつけていた所為で乱れてしまったネズミの毛並みを嘴で整え、ネズミが擽ったそうに目を細めた。 不意に梟がガラスの割れた窓へ視線を向けた。 空が白み始めている。 梟は短く鳴き声を上げ、再び舞い上がると窓から出ていってしまった。 「誰だったんだろう」 その日の四人の話題は、放課後になっても例の梟の事ばかりだった。 「誰だか知らねえけど、耳を引っ張られた礼はしないとな」 「僕なんて本で撲殺されるかと思ったよ」 「僕なんて食べられるかと…」 四人はひそひそと言葉を交わしながら廊下を進んでいると、「リーマス」と背後から声がかけられた。 「」 「お、あの女はいないのか」 ナルシッサが隣りに居ない事に気付いたシリウスが小さくガッツポーズを取る。 だが、はそれに目もくれずリーマスの腕を取って歩き出した。 「?」 「ちょっと来て」 に引き摺られる様に歩きながらリーマスはジェームズたちを振り返る。 彼らもぽかんとしたまま二人を眺めていた。 「、どうしたの?」 問い掛けても彼女は答えてはくれず、空き教室に辿り着くと漸く彼女はリーマスの腕を放した。 「?」 は自分より頭半分高いリーマスを睨み付けるように見上げ、「顔色が悪い」と呟いた。 「顔色が悪いから、グーは勘弁してあげる」 何が、と聞き返すより早くの右手がリーマスの頬を引っ叩いた。 パシン、と乾いた音が室内に響いた途端、「何やってんだ!」とシリウスが室内に入って来た。 続いてジェームズとピーターも入ってくる。どうやら後を追って来たらしい。 リーマスは叩かれた頬を手で押さえ、呆然とを見下ろしている。 はと言えば、いつもの明るさは何処へやら。「ああ?」とシリウスを睨み付ける始末。 ここまで怒っているを見るのは初めてで、シリウスは「え、あ、いや」とたじろいてしまう。 「、どうしたんだい。君が手を上げるなんて」 「本当はあなたたちにも一発ずつ食らわせたい所だけど、リーマス引っ叩いて気が済んだから許してあげるわ」 「俺らが何かしたか?」 シリウスの途惑った声に、は「ええ、しましたとも!」と大仰に告げた。 「私、この前聞いたわよね。「最近何か隠してない?」って。 貴方たち、何て答えたかしら?「え?別に何も無いけど?」そう答えたわ。 そうね、確かに「最近」じゃないわね。三年前からよね」 四人の表情がぎくりと強張る。 彼女の怒りが何処から来るのか、何となく察した。 だが、どうやってそれを知ったのだろう。 「まさか、、君が…!」 ジェームズがはっとして声を上げた。 昨夜、自分達は学校から離れたホグスミード村周辺で駆け回っていた。 生徒がそれを見つけられるはずがない。 けれど、昨夜は奇妙な客が居たではないか。 「古代ローマではね、梟はストリクスって呼ばれてたの。ストリクスって、魔女を意味するんですって」 リーマスが「じゃあ、あの梟は…」と呆然とした声を上げた。 「そうよ。本を持ち出したのも、あの梟も、私よ」 「バカかお前は!」 シリウスが声を荒げる。だが、は昂然とシリウスを見返していた。 「もし失敗したらどうするんだよ!」 「そういう貴方たちはどうなの。危険は同じ事よ」 シリウスはぐっと詰った。 「確かに私は貴方たちと比べたら一緒に居る時間は少ないわ。でも、大切な友達だと思ってた。 リーマスの事も、貴方たちの事も、相談して欲しかったって思うのは傲慢かしら?」 「、黙っていた事は謝る。けど、さっき君が言った通りあれは危険だ。失敗すればとんでもない事になる。僕らは自業自得で済むけれど、君は…」 「私だって失敗したら自業自得よ」 「でも、君は女の子だし…」 「リーマス!」 はその胸倉を掴んで引き寄せた。 「また引っ叩かれたいの?それとも拳が良いかしら?」 額が触れ合いそうな程の間近ではリーマスを睨み付けた。 「女の子に何かあったら可哀相って?じゃあ男ならどうなっても良いってわけ?」 冗談じゃないわ!とはリーマスを突き離した。 「これが力仕事だったら私は役に立てなかったわ。でもね、貴方たちがやったのは魔法よ!性別なんて関係のない魔法なの!結果どうなるかは自分の責任! 女が守られているばかりだと思ったら、大間違いよ!!」 そこまで言い切ると、彼女は杖を取り出して天井に向けて振った。 ぱき、と軽い音がして空気の流れが止まる。 彼女お得意の防音魔法だ。 は杖をしまうと「あのね」と続けた。 「リーマスが人狼だって事はもうずっと前から感付いていたわ。 人狼、だから何?満月の夜だけ気を付ければ何も問題ないじゃないの」 そして彼女は「いっその事、人間全員が人狼になってしまえば良いのよ」とのたまった。 「?!」 「何よ。そうすれば誰も襲われる心配ないじゃない。第一、普段は人間なんだから何も問題ないと思うけど?」 唇をツンと尖らせて見上げる少女に、リーマスは「ごめん」と俯いた。 「僕は怖かったんだ…ジェームズたちは僕を受け入れてくれた。それだけでも十分奇跡に近い。だから、これ以上は望んではいけないと思った…」 「馬鹿ね、リーマス」 そして漸く彼女は少しだけ微笑んだ。 「誰だって幸せになる権利はあるのよ。幸せに対して貪欲にならなきゃ。 でもまあ、万が一私があなたを拒んで言い触らしたらあなたはここに居られなくなる。折角の理解者であるジェームズたちとも別れなくてはならない。 あなたが恐れるのも分からないでもないわ。 結局、私はあなたの本当の親友足るにはまだ足りなかったって事ね」 「そういう訳じゃ…」 「そういう事よ。心底信頼していれば、自然と打ち明ける勇気は湧いてくるものよ。 あなたの心に今一歩届かなかった事は、私に責任があるわ。 私、せめてジェームズ達くらいは信頼して貰いたいの。 だから、その為に努力する事を許してもらえるかしら?」 の言葉に、リーマスは強張りの抜けた笑みを浮かべた。 「許すも何も、もう十分君は僕の大切な人だよ。だから、万に一つでも君を失うような事はしたくなかったんだ」 その言葉の意味を正確に読み取った男三人は揃ってリーマスを見るが、当のは言葉通りに受け取ったらしく、「それなら嬉しいわ」と微笑んだ。 (強制終了) +−+◇+−+ 今回の話は「ヒロインがアニメーガスに」というテーマだけで書き始めたので途中から難産。そしてオチは毎度同じくやっつけ仕事に。 ふと「四匹じゃなくて、二匹と二頭?」とも思ったんですが、四匹でいいや、と。 ヒロイン、最初はイタチにしようかな、と思ったんですが、「イタチはドラコだろう」と思って止めました。(笑) 他にもあれこれ考えたんですが、ホグワーツで一番自然な動物って言ったら梟かな、と。梟と決まった時はヘドウィグと同じ白梟、と思ってたんですが、白梟って目立つじゃないですか。なので一般的な茶。 ところで、「梟」より「ふくろう」の方が良いですかね? ヒロインは卒業してからは滅多に変身しなかったので、今では自分がアニメーガスだということ自体忘れている時があります。(爆) ヒロインはアニメーガスになれるくらいなので頭は良いです。が、監督生に指名されると面倒なのでそこそこの成績で通ってます。 元々このヒロインがスリザリンなのは、マルフォイの血筋で、ナルシッサと仲良くさせる為に元々グリフィンドールだったのを、スリザリンに変更しました。最初は「やっぱグリフィンドールだろ、この女」と、違和感を持って書いてたんですが、細かい出来事や性格の設定が出来て来てからは「ああ、コイツは確実にスリザリンだ」と思うようになりました。 そしてリーマス、さりげに告白してます。が、ヒロイン全く気付いてない。リーマス自身、ヒロインがこれで気付いてくれるとは思って無いので、そう哀れでもないですが。ちなみに、このすぐ後にヒロインはセブルスとお付き合いし始めます。アハハ。 関連タイトル:「ストレス」 (2003/06/17/高槻桂) |