セブルスと共に見合いの座を辞し、そのままぶらりと遊んで来たは我が家に辿り着くなり「あらやだ」と洩らした。
「パパとママったらまだ帰って来てないのね」
夕方だというのに明かりの点っていない自宅には鍵で玄関を開け、セブルスを中に招いた。
「あ、そこで靴脱いでね。はい、スリッパ」
セブルスがスリッパに履き替えている間には廊下や階段の電気を点ける。杖無しに灯りが次々に灯っていく様を、セブルスはどこか感心したような表情で見ていた。
「そんなに珍しいかしら」
苦笑するに、セブルスも同じ様に苦笑する。
「教科書でしか見た事無かったからな」
決まり悪げなセブルスの姿にはくすくす笑いながら二階へと向かった。
「今の内に片付けちゃいましょう。こっちよ」
は三つある扉の一番奥の扉を開け、セブルスはその後に続いた。
初めて入った彼女の私室は至極さっぱりしたものだった。薄いクリーム色の壁に茶のフローリング。薄い水色のベッドが奥に寄せてあり、そのベッドの足元側に衣装箪笥が一つ。基本的にパステル調の薄い色合いで纏まっていた。
一年の殆どをホグワーツで過ごしているのだから物が少ないのは仕方ないのかもしれない。
「えーっと、スーツケースは…」
押し入れの奥から灰色のスーツケースを取り出し、部屋の真ん中で開く。
「普通の荷物は業者に頼むとして、ホグワーツ関連の物は自分達で何とかしないとね。セブルス、そっちの棚にある本や羊皮紙、全部この中に詰めちゃって。こっちには壊れ物ね」
杖を一振りして小振りのダンボール箱をぽぽんと取り出したはそれをセブルスに渡し、自分は他にマグルに見られてはならない物が無いか漁っている。
「ねえ、水晶玉ってどうかしら」
「それくらいならあっても可笑しくはないと思うが?」
「でも普通のお宅にこんな本格的な水晶玉はちょっとねえ…マニアックな人だって思われるかしら。ああ、あとアルバムも出さないと」
が積み上げていく本などを詰込みながら、そこに一年の頃の教科書を見つけたりと懐かしい物が多々溢れていた。
「これで良いか?」
詰め終ったそれを見せると、は「大丈夫」と笑ってガムテープを取り出した。
「はい、ガムテープ貼りまーす」
セブルスが閉じた箱にがびーっとガムテープで封をしていく。後は何をすれば良いのかと問えば「ついでに衣類仕分けしちゃうから」と軽い応えが返って来た。
「私が仕分けするから、セブルスはそのスーツケースに詰めていって。適当で良いわよ」
は衣装ケースの一番上の段から順に物色を始めた。
一度広げては畳み直してセブルスに渡すかまたは同じ場所に戻していく。
「……随分ワンピースが多いな」
それを眺めていたセブルスがぼそりと呟いた。
セブルスの言う通り確かに先程から彼女はワンピースばかり広げている気がする。
サック、シフト、シース等など。色や型は違えどシンプルな物が多い。下手をすると同じ物が二枚あるのではないかという気すら沸いてくる。
「だって楽だもの。ホグワーツに居る時は制服だったし、こっちに居るのなんて夏休みの二ヶ月だけだもの。これで十分よ」
彼女のあっけらかんとした言葉に、そう言えばは年頃の女性の様に着飾ろうという感覚が希薄なのだという事を今更ながらに思い出した。
「あ、これそっちに入れて」
差し出された服を受け取りながら、セブルスは着飾ったを想像してみた。
が、想像できずにすぐに断念。
「これも」
セブルスが見続けた彼女はいつも何かで着飾ったりしない自然体だった。セブルスだけでなく、彼女と時間を共にした者たちはそれを美しいと思い、愛しいと思っている事だろう。
「はい、これも」
「ん…?!」
何気に受け取ったそれが今までと違う質量だった事に視線を上げたセブルスは、手にしたそれが何か認めた途端、耳まで一気に赤くなった。
「お、まえはバカか!」
「はあ?」
それでも手にしたそれを律義に詰込みながら怒鳴ると、当のは何が、と言わんばかりの表情でセブルスを見ていた。
「普通下着は男に晒さない様にするべきだろうが!」
手渡されたもの、それはどう見ても女性の胸部を支えるシロモノで。
薄い水色のレース調で小さなリボンが谷間の部分に付いていた云々ということは置いておいて。思ったよりサイズが大きかっ…いやそうじゃなくて。
「所詮は布製品に何を赤くなってんの?」
「………」
訝しげな視線にまるでこちらが悪い(というか疚しい)ような気がして来てならない。そう、喩えるならあんまんの紅い点を見て良からぬ想像をしてしまったようなそんな気分。
「そう言えばセブルスってトランクス派?ブリーフ派?」
もしここが壁際だったらごすっと頭突きをかましてしまっただろう。まるで「野菜炒めは醤油派?ソース派?」と聞くノリである。
セブルスはくらりと目眩に襲われた。
「……いや、もういい……」
「「もういい」じゃ無くてさ、どっちなわけ?」
「…いや……もう、どっちでも……」
着飾らなくて良い。だが、せめて恥じらいはもう少し持って欲しいとセブルスは痛感した。
がくりとフローリングの床に両手を突いて項垂れるセブルスとは反対に、は大爆笑したいのを必死で堪えていた。






(END)
+−+◇+−+
セブルス、完全に遊ばれてます。アッハッハ、良いんです、それでも彼は幸せでしょうから。(笑)
という事で、一度は没になった「食事」その後の話。チャットで話している内に書きたくなってしまったので書いてしまいました。(爆)
あ、「食事」の時に書き忘れましたがメリッサが言っていた「クモの巣」ですが、「陰謀」を意味します。
で、何でタイトルが「夏」なのかというと、この話が卒業してすぐの話だからです。つまり七月。
二人の新居はマグル界寄りにあるので運送会社の配達地域内という事にしておいて下さい。
あと、「告白」の時点ではルーシー宅に居候する、とか言ってましたがメリッサが新居の金を借してくれました。いや、本文で書くほど重要事項じゃなかったのでここで・・・。(爆)
関連タイトル:「食事」
(2003/07/07/高槻桂)

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