驚かせたくって






ある日の午後、ハリーたちの最後の授業は魔法薬学。
またスネイプに嫌味を言われて減点され、マルフォイにはからかわれる。
そんな授業、誰が好んで行くものか。
だが、行かなければならないのは分かりきった事で。
ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人は他の授業の何倍も気合を入れてその地下牢教室へと足を踏み入れた。
相変わらず薄暗く、気が滅入る教室。
「あれ?!」
だが、いつもとは違う何かに三人は足を止めた。
先生?!」
そう、最後列の隅っこに特殊声楽教師のが座っていたのだ。
「あ、ハリー、ロン、ハーマイオニー、こんにちは」
三人は律義に挨拶を返してから「どうしてここに?」と問い掛けた。
「ほら、私突然教師になったでしょう?だから他の先生の授業を見て参考にしようと思って」
笑顔でそう応えるに、三人は揃って「魔法薬学は止めた方がいい」と詰め寄った。
「スネイプの授業なんて得るもの無いですよ!」と、ハリー。
「スネイプはスリザリン贔屓とグリフィンドール苛めが生き甲斐のヤツなんだから!」これはロン。
「特にハリーのね」そしてハーマイオニー。
「見るだけ無駄だと思います」再びハリー。
取り敢えずそのスネイプの担当する教室だという事で小声ではあるが。
だが、はというと、
「それが見たいのよね」
と笑ったのだ。
「その見事なまでの贔屓っぷりを一度見てみたくて」
「……そうですか」
がくっと肩を落して三人はいつもの席へと向かった。
そして暫くして毎度同じくバターン!と心臓に悪い登場をしたスネイプ教授は、教壇に立つなり侵入者に気付いて表情を険しくした。
「ミズ・、何故ここに居るのかね」
これがネビルだったら萎縮して何も言えなくなっただろうが、は平然といつもの笑顔を浮かべたまま、
「私は教師として未熟者ですから、ダンブルドア先生が他の先生方の授業を見て回ってみたらどうかと提案してくださったので、早速実践している所です」
そう言って退け、スネイプの表情が更に苦いものへと変わっていくのがハリーたちにも分かった。
「あ、ちなみにリリはマクゴナガル先生が遊んでくれています」
のその一言に、ハリーたちは「スネイプの嫌味が付け入る隙を与えるなんて!」と内心で叫んだが、何故かスネイプは何も言わなかった。
「…なら邪魔をしない様に見ているがいい」
チッと舌打ちでも聞えてきそうな表情に、は「そうさせて頂きます」と微笑んだ。



驚く事に、その時間のスネイプは大人しかった。
スリザリン贔屓は相変わらずだったが、グリフィンドールへの嫌味と減点は嘘のようだが全く無かったのだ。
ハリーを代表とするグリフィンドール生が、これからもに居て欲しいと心底願ったという。
「では、その状態の鍋に鰻の目玉を加えるとどうなるか」
スネイプが言葉を区切ると同時に毎度お馴染み、ハーマイオニーの手がぴしっと挙がる。
だが、これまた毎度同じくスネイプはそれを無視し、ハリーに…
「……」
…と思ったらもう一本、手が挙がった。
最後列の端に座る、だ。
正直な話、無視してハリーを指名したい。そして答えられなかった場合はいつもの様に減点してやろうと思っているのだが。
彼は知っていた。
これを無視したら、後が面倒だという事を。
「…ミズ・
スネイプが溜息と共に指名すると、は短く返事をして立ち上った。
「鰻の目玉が一摘みだった場合、透き通った赤銅色になり、効能が上昇します。ですが、それ以上になると黒っぽく濁り、体に軽い痺れを齎します」
合ってる?と視線で問い掛けられ、スネイプは疲れたような声音で「正解だ」と告げた。
だが、彼女は座らず、「先生に質問があります」と続けた。
「何だね」
「私、もう一人くらい子供が欲しいんですけど、駄目ですか?」

沈黙。

「……は?」
珍しくスネイプが間の抜けた声を上げる。
「三人目が欲しいなって」
笑顔で続ける
スネイプは数秒呆けたように固まっていたが、我に返ると同時にがたんと立ち上った。
「なっ、こんっ、ばっ…」
言葉が詰って出てこない様だが、恐らく「何を突然!こんな所で言い出すバカが何処にいる!」とでも言いたいのだろう。
「自習だ!、来い!」
そう怒鳴るや否やばんっと教科書を閉じ、スネイプは準備室へ引っ込んでしまった。
「あらあら、あの人ったら照れてるわ」
そうくすくす笑ってはスネイプの後を追って準備室へと入っていってしまった。
『どうしてお前はそう突拍子もない事をするんだ!』
薄い扉越しにスネイプの怒鳴り声と、恐らく机を叩いたのだろう音が微かに聞えてくる。
そして暫くの間があり、
『だったら二人の時に言えばいいだろうが!』
そして再び静かになり、それからは一向にスネイプの怒鳴り声は聞えてこなかった。
「……僕としては信じたくないんだけどさ、もしかして、先生の旦那さんって、スネイプ?」
ロンの引き攣った声に、ハリーは「そういえば」と青ざめる。
「ほら、初めて来た時の手紙、あれ、「・S」って…」
・S=・スネイプ
三人が、というより一部を除いた全員が愕然としている中、「今頃気付いたのか」と高飛車な声が響いた。
言わずもがな、ドラコ・マルフォイだ。(ちなみに息子であるジェムはドラコの影で「恥だ…」と顔を両手で覆って俯き嘆いている)
「ポッター、お前らあれだけさんに纏わりついておきながら、あの人の私室が何処にあるのか知らないのか?スネイプ先生の部屋の隣りだぞ。勿論続き部屋でな」
「つーかマルフォイ、先生を馴れ馴れしく呼ぶな!」
ロンの喚きにドラコはこれまた勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「血の繋がった叔母を、親しみ込めて呼んで何が悪い?」
ロンは、否、ロンだけでなくハリーも、ハーマイオニーですら一瞬何を言われたか分からなかった。
血の繋がった叔母。
「ううう嘘だ!先生がお前なんかと血が繋がってるだなんてありえない!」
ドラコは喚くロンと呆然とするハリーとハーマイオニーが可笑しくて堪らないらしい。
「残念だったな。僕の御爺様とさんの母上が兄妹でね。昔はよく遊びに来てくれたよ。まあ、今でも十分可愛がってくれるけどね!」
さんにとって僕は可愛い甥っ子って訳さ!
ドラコが高らかに勝利宣言を唱える影では、ジェムが「僕は他人、僕は他人」と呟いていた。



さて、準備室の二人はというと。
「どうしてお前はそう突拍子もない事をするんだ!」
ばんっと勢いに任せて机を叩く。だが、はそれを気にした様子はない。
「ダンブルドア先生の所からの帰りにね、無性にもう一人欲しくなったのよ。だから忘れない内にって思って」
「だったら二人の時に言えばいいだろうが!」
「あなた今日は見廻りで遅いでしょう?それまでにもし私が忘れちゃったら困るじゃない」
一向に怯む気配の無いに、スネイプは心の底から溜息を吐いた。
「…お前が夫婦である事を伏せたんだろうが。それをわざわざ生徒たちの前で言うなど」
「だって、始めに夫婦だって紹介されたら、私も「スネイプ先生」って呼ばれちゃうじゃない。「スネイプ先生」が二人いるより、「先生」の方が良いかなって思ったのよ。
でも、何だか隠しておくのが勿体無くなっちゃって」
そこで初めて「ごめんなさい」と告げた妻に、スネイプは仕方ないと言うように嘆息し、その体を抱き寄せる。
「それで、お前はもう一人子供が欲しいのか?」
唇の端に触れるだけの口付けを落す。
「どうしてかしら。無性にもう一人欲しいのよ。きっと男の子よ」
「まだ作ってもいないのにわかるのか?」
小さく笑いながらそう囁く声に、「私の感は当たるのよ」と笑い返す。
扉の向こうでドラコが高らかに勝利宣言をしているのも露知らず、二人はじゃれ合うように軽い口付けを何度も繰り返した。








(終わります)
+−+◇+−+
魔法薬学での調合方法ですが、嘘っぱちですので信じない様に。
取り敢えず、出てくる事はないですが、ヒロインの母親の名前はメリッサ・マルフォイで、ルシウスの父親と兄妹。が、ヒロインの母がマルフォイ家に愛想を尽かして家を飛び出し、マグル界で仕事を見つけ、その時知り合ったのがヒロインの父。
・・・という設定が取り敢えずあるのですが、出てくる機会は無し。
関連タイトル:「夏休み」、「家族」
(2003/06/05/高槻桂)

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