思い出







「貴様等ァ!!」
廊下にセブルス・スネイプの怒声が響き渡った。
「そら逃げろー!」
「つーか、俺らがスネイプに捕まる訳ないだろ」
「いやぁ、そうとも言いきれないよ?約一名だけど」
「そ、それって、ぼ、僕のこと…?」
「セブルスの体力からしてピーター、お前はギリギリだ!万が一の時は潔く散れ!」
「そ、そんなぁ…」
「大丈夫、何とかしてあげるよ、シリウスが」
「俺?!」
セブルスの先を走るジェームズたちは軽やかに言葉を交わしながら怒りの手から逃げている。
「お!先方に救いの神発見!」
シリウスの視線を追うと、壁に凭れ掛かって何やら楽しそうに話しているリリーとの姿が映った。
「あっ、とリリーだ!」
「良かったね、ピーター、生き長らえれるよ」
「よ、良かった…」
四人はちょうど通り掛かったとリリーの後ろに隠れ、「助けて〜スネイプに殺される〜」と技とらしい声を上げた。
「あら皆さんお揃いで」
「今度は何をしたの?」
「僕のベッドに長々花火を仕掛けたんだ!」
リリーの問い掛けに答えたのは、漸く追いついたセブルスだった。
文系の彼は喘ぐように呼吸を整えている。
「そんな事より、二人で何話してたんだい?随分楽しそうに話し込んでいたね」
そんなセブルスを無視してジェームズは二人に笑いかける。
「ポッター!貴様…」
「結婚式は一緒に挙げようねって話してたの」
の発言に、セブルスだけでなく、ジェームズたちも目を丸くした。
「…結婚式?」
セブルスの訝しげな声に、は「そうよ」と肯定する。
「ルーシーとナルシッサの時は騒いだり出来なかったから、私たちの時はぱーっとやろうと思って」
「それって、ジェームズとリリー、セブルスとの結婚式って事?」
リーマスの問いかけに、二人は僅かに気を害したような顔をした。
「それ以外の組み合わせの方が良かったかしら?」
「そんな無いじゃないかリリー!君との結婚式なら例えノクターン横丁でだって構わないよ!」
「私が嫌よ、そんな所」
、だが、僕は…」
一同の視線がセブルスに集まる。だが、セブルスはただ一人を見ている。
「あら、私とじゃ不満?それともジェームズと一緒は嫌?」
の穏かな笑みに、彼は「違う」と痛みを堪えるような表情で首を振る。
「そうじゃなくて、僕は…」
「ルーシーだってナルシッサと結婚したわ」
「だが、僕は君に幸せになって欲しい」

「大丈夫、君たちは幸せになれるよ」

二人の視線がリーマスへ集まる。
すると、ジェームズが意を得たように笑った。
「そうだ、子供が産まれたらジェムって付けろよ。俺の「ジェームズ」を捩ってジェム」
ジェームズの軽口に、セブルスが「誰の子供だと思ってるんだ」と睨み付ける。
「勿論お前との子供さ」
「で、二人目がリリで、三人目がリウス」
「四人目がマーリスで」
「ご、五人目が、ターピー…?」
「「「「…ぷっ」」」」
ジェームズ、シリウス、リーマス、ピーターはまるで打ち合わせたようにそう続け、そして顔を見合わせて笑い出した。
「アハハハハ!最高だね!大家族だ!」
ジェームズが壁をばんばん叩きながら笑う。
他の三人も何がそんなに可笑しいのか、腹を抱えて笑っている。
「頭は大丈夫か?貴様ら」
「何がそんなに可笑しいのかしらね?」
リリーは馬鹿笑いを続ける四人に苦笑を洩らす。
はくすくすと洩らしていた笑みを抑え、セブルスに向き直った。
「ねえセブルス。誰にだって、幸せになる権利はあるのよ。さっき貴方は私に幸せになって欲しいって言ったけれど、私の幸せには貴方は必要不可欠なの。だから覚悟を決めなさい」
それが耳に入った四人は漸く笑いから復帰して背を伸ばす。
「おいおいスネイプ、女にここまで言われて断ったらクズだぜ、クズ」
「ていうかスネイプって案外尻に引かれそうだよね」
「ああ、言えてるかも」
ピーターはけらけら笑う三人とセブルスを交互に見詰め、またセブルスがキレるんじゃないかと慌てている。



ああ、そんな日々もあった。



「…?」
ゆっくりと瞼を持ち上げ、ぼうっと天井を見詰めていると隣りから声が掛かった。
視線だけ声のした方へ向けると、自分を見下ろしているセブルスと目が合う。
「まだ夜が明けるには早い。まだ寝ていろ」
そっと髪を梳かれ、再びは眼を閉じる。
「…あの子は?」
まだ名前の付いていない赤子の事を問うと、大丈夫だ、と応えが返っていた。
「ぐっすり寝ている。心配しなくても良い」
「そう…」
暫く髪を梳く感触に身を委ねていたが、は再び言葉を紡いだ。
「…ねえ、夢を見たの」
「夢?」
「昔の夢…リリーたちと、結婚式、一緒に挙げようねって…その時の、夢…」
髪を梳いていた手が止まる。
「……」
「…あの子の名前、ジェムって付けたら、だめ…?」
「……もう、決めたのだろう?」
諦めたような声音で彼は再び梳く手を動かし始め、は目を閉じたまま小さく笑った。
「ええ。あの子はジェムよ。もう私、その名前以外、思い浮かばないわ」
セブルスは小さく溜息を吐き、籠の中で眠る赤子へ視線を注ぐ。
一度「この子はジェムだ」と言われてしまうと、もうその赤子は「ジェム」という存在に見えてしまうのだから不思議なものだ。
「…いつか、ジェムを連れてジェームズたちに会いに行きたい…行けるかしら…?」
彼女はこの屋敷から出る事は出来ない。
二人の本来の家に帰る事も許されない。
あの方が、それを許さない。
「…行けるさ、必ず…」
祈りを込めて、セブルスはの額に口付けた。
今は強固な檻でも、いつかきっと、崩れる時が来る。
その時まで、とジェム、そして自分自身を守り抜く。
それが彼女の幸せに、繋がるのだから。









(終)
+−+◇+−+
オチが浮かばなかったので、もういいや、と適当な所で終わらせました。(最悪)
ヒロイン幽閉時代編(なんじゃそりゃ)はまあ他にもいくつか書くのでそれで全貌が分かるかと。
以上。(ダッシュで逃亡)
関連タイトル:「告白」、「父親」、「第一印象」
(2003/06/07/高槻桂)

戻る