プレゼント




その日、・スネイプとその息子、リドル・スネイプはダイアゴン横丁で仲良く買い物をしていた。
「本当に父さんに知らせないつもり?」
薬問屋で薬草を買い、マダムマルキンの洋装店で服を買ってさて次は、という所でリドルはそう言って母を見上げた。
だが、彼女は笑うばかりだ。
の夫であり、リドルの父であるセブルス・スネイプはホグワーツの魔法薬学教師だ。
つい一ヶ月ほど前に新学期が始まり、二年生になった長女リリと共に彼はホグワーツへと行ってしまった。
とリドル、そして魔法省勤務の長男ジェムの三人だけの生活に少しずつ馴れて来たのだが、昨日、ホグワーツから手紙が届いた。
それは夫からの物ではなく、ホグワーツの校長であるアルバス・ダンブルドアからの手紙で。
一言で言うなら、「セブルスとハリーを何とかしてくれ。リドルも連れて来て良いから」という内容で。
それを読み終った時の彼女は笑顔で(「何やってんのかしらね、あのバカは」)手紙を握り潰していた。
ジェムもそれに同意し、「いい加減子供じゃないんだから、僕は一人でも大丈夫だよ」と言ってくれたのでは早速ダンブルドアへ了承の手紙を出し、こうして買い出しに来たのだ。
「さあ、今日のメインイベントへ行くわよ」
「何処へ行くんだい」
リストに書かれている物は全て買い終っている。まだ何かあっただろうか。
「あなたにプレゼントがあるの」
はある店の前で立ち止まり、リドルは目を見張った。
「貴方の杖を買うのよ」
そこは、オリバンダーの店だった。
「…良いのかい…?」
「ええ。貴方は私とセブルスの子だもの。悪い事には使わないわ」
悪戯はともかくね、と彼女は笑った。
「…ありがとう」
は嬉しそうに笑い、「さあ、入って」とリドルをオリバンダーの店内へと誘う。
すると奥からオリバンダー翁がやってきて「おや」と声を上げた。
「マダム・スネイプではありませんか。どうなさったね」
「この子の杖を選んで欲しいんです」
オリバンダー翁は「この子のかね?」とリドルを見下ろした。
「まだ早かろう」
「私、来週からまたホグワーツに勤務することになったんですけど、この子も連れていくので必要になると思いまして」
オリバンダー翁はウームと唸りながらとリドルを交互に見ていたが、リドルに杖腕を聞き、無数の杖が詰れている棚へと入っていった。
「これなんかはどうだね。樫の木にドラゴンの心臓の琴線、二十六センチ、よく曲がる」
手渡されたそれをリドルは軽く振る。
「あらあら…」
「…違った様じゃな」
積み上げられている杖の箱が一斉に落ち、オリバンダー翁はリドルからその杖を取上げて箱に戻した。
そしてすぐにまた新しい箱を持って来てリドルに手渡す。
「ではこれはどうかね。柳の木に一角獣の鬣、二十四センチ、振り易い」
リドルが振ると同時にカウンターが真っ二つになる。
「ウーム、では…」
オリバンダー翁は馴れっこらしく、真っ二つになったカウンターを無視して先程崩れ落ちた箱の山の中からまた一箱持って来た。
「これならどうじゃ。マホガニーに不死鳥の尾羽根、三十一センチ。よくしなる」
リドルが杖を受け取った途端、彼の体を柔らかな風が包み込んだ。
「どうやら見つかった様じゃ」
満足げに頷くオリバンダー翁を尻目にリドルはその杖を翳したりして眺めた。
「ふぅん…昔の杖よりは短いけど確かに手に馴染む。また不死鳥の尾羽根という所が何とも因縁めいた繋がりだとは思うけれどね」
その独り言めいた言葉を耳にしたオリバンダー翁が怪訝な表情をした。
「昔の杖、じゃと?」
するとリドルは杖を振り、山となった箱を元の場所へ戻し、真っ二つに割れてしまったカウンターを元どおりに直した。
オリバンダー翁の目が見開かれる。こんな小さな子供が呪文も無く魔法を正確に使えるとは。
「まだ辛うじて記憶に残っているよ。貴方はこう言って「僕」に杖を渡した。『櫟の木と不死鳥の尾羽根。三十四センチ、強靭』」
子供らしくない笑みを浮かべる少年を、オリバンダー翁は「まさか」と一歩退いた。
「駄目よ、リドル。脅かしちゃあ」
この場の雰囲気に合わないおっとりとした声にリドルはひょいと肩を竦めた。
「ちょっと遊んだだけさ。今度ポッターもこれでからかってやろう」
「ダンブルドア先生に怒られちゃうわよ」
「ああ、ダンブルドアにやってみるのもまた一興かもしれないね」
「殺意が無いからすぐ分かるわよ。オリバンダーさん、ありがとうございました」
唖然としていたオリバンダー翁ははっとして「いやいや」と首を振った。
「ダンブルドア先生から少しだけ聞いた事はあったが…そうか、君が…」
「ええ、そうなんです。はい、七ガリオンでしたね」
カウンターにガリオン金貨を置き、はもう一度礼を告げて店の扉を開けた。リドルは杖をポケットに差し、の後に続く。
「リドル・スネイプさん」
オリバンダー翁の呼びかけにリドルは振り返る。
「良い人生を」
リドルは穏かに笑い、「ありがとう」と告げて母親と共に店を出ていった。









(終)
+−+◇+−+
これ、元々は「夢」の前半だったんですけど、後半とあまりにも雰囲気が違うので別個にしました。
という事でリドル坊やは七才の時に杖を買ってもらいました。で、この後ジェムとジニーが同棲するという話が上がり、そして「伝説」へと続きます。
リドル坊やの杖は長さと芯はどうするか決まってたんですけど、木が今一つ決まらなくて結局マホガニーに。樫でも良いかなとは思いましたけど。
ヒロインの杖は特にまだ決めてないです。長さはそれほど長くないだろうな、とは思ってますが。
とりあえず、リドル坊やのヴォルデモートごっこが書きたかっただけとも言える話。
関連タイトル:「家族」、「誕生日」、「夏休み」、「伝説」、「夢」
(2003/08/02/高槻桂)

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