すれ違い






だって、彼はママの事が好きなんだもの。私はママの代わりなのよ。



「リリ?」
その声に私は我に返った。
「あ…」
そうだった、ここは「闇の魔術に対する防衛術」教師の私室、つまり今はハリーの私室だ。
「どうしたんだい?」
「ちょっと、考え事」
私は手にしていたカップの縁に口を付け、まだ暖かい紅茶を少し飲み下す。
去年までのDADA講師はあの気持ち悪い爺さん、マッドアイ・ムーディで、ハリーはその助手として偶にホグワーツを訪れていただけだった。だけどそのムーディ先生が引退し、代わりにハリーが就任したのだ。
それ以来、私はこうして時折ハリーの部屋を訪れている。パパに見つかったらとんでもない事になりそうだけど、今の所バレていない。(怪しんではいるみたいだけどね)
「そういえば、ジェムはどうしてるんだい?ジェム以外はみんなホグワーツに来ちゃったし、あの家で一人で住んでるの?」
ハリーの問いかけに、私は「とんでもない」と肩を竦めた。
「ジニーと同棲してるわ」
あ、ハリーが噎せた。
「ママがね、私たちの私室やパパの書庫と研究室に入らないって約束できるなら二人で住んでみなさいって。一緒に生活してみると色々な面が見えてくるものよって。パパは渋い顔してたけどね」
「ごほっ…あー苦し…えっ、じゃああの二人結婚するの?」
「同棲生活で破綻しなければね」
「へえ〜、あの二人がねえ…まだぎこちない感じだったのになあ〜」
感嘆の溜息を洩らすハリーに、私はバカね、と笑った。
「いつの話をしてるのよ。あの二人が付き合い出してもう四年近くなのよ?未だ結婚してないのが不思議なくらいだわ」
私の言葉に彼はうわあ、と何とも言えない声を上げた。
「何よ」
「いや、周りがどんどん結婚していく事に対して、こう、何て言うか……年取ったなあって…」
「ホグワーツ最年少教師が何言ってるのよ」
「でもこれでジェムとジニーが結婚したらウィーズリー兄弟全員既婚者かあ…」
ハリーは体をソファに投げ出して天井を見上げていたけれど、不意に何か思い付いたらしく私を見た。
「そういえば、リリは好きな人とか居ないの?」
がちゃん。
私は思わず手にしていたカップを叩き付けるようにテーブルに戻してしまった。






ホグズミードのある喫茶店では一人の青年と向き合っていた。
「話って言うのは他でもないリリの事なんだけど」
「はあ…」
の言葉に青年はどこか落ち着きの無い雰囲気で紅茶を一口飲み下す。
「ねえ、あなたはリリの事、どう思ってるのかしら」
「…好きですよ」
「妹の様に?」
間髪続けたの問いに、彼は暫し躊躇うような色を見せ、やがて心を決めたようにそれを否定した。
「いいえ、一人の女性として…好意を抱いています」
「それはリリに伝えたのかしら?」
「……いえ…」
視線を手元に落した青年に、「困った事にね」とはその顔を覗き込むように小首を傾げた。
「あの子はあなたがリリを通して私を見ていると思っているみたいなのよ」
「は?」
青年の顔が跳ね上がる。
「だからね、リリに言わせると、あなたは私が好きで、リリに私の面影を見ているんですって」
彼は数秒ぽかんとを見ていた。だが、その言葉の意味を理解するや否や苦々しげにその端正な顔を歪める。
「何をバカな事を!」
「そうね、バカな事よね。でも、あの子は真剣よ」
笑みの消えたの言葉に彼は視線を逸らし、声を荒げた事を謝罪した。
「……あなたへの想いは、敬愛なんです。彼女の言うような想いじゃ…」
青年の言葉を遮り、知ってるわ、とは微笑った。
「ねえ、まだあの子は十二歳なの。自分の感情で精一杯で、他人の親愛と恋愛の違いを見分けられるほど大人じゃないのよ」
「……」
「ただでさえあなたとあの子は年が離れていて、あの子から見たらあなたは大人なの。子供から見た大人って言うのはね、とっても遠い存在に感じるものなのよ。だから、ちゃんと言葉にしてあげないと」
ね?と笑うに、彼は決まり悪げに乱れてもいない金の髪に手を滑らせる。
「早くしないと、ハリーにとられちゃうわよ?ドラコ」
意地悪く告げると、彼は「それは困ります」とその表情を微かに顰めた。
ところで、とは意地の悪い笑みを浮かべてドラコを覗き込むように見た。
「セブルスにはいつ言うの?」
「!」
すいっとドラコの視線が有らぬ方向へと逸らされる。
の夫でありリリの父であるセブルス・スネイプ。確かに自分は彼に気に入られてはいる。だが彼は極度の親バカだ。親バカを侮ってはいけない。
彼が親バカである事は在学中に嫌というほど見せ付けられたし、息子であるジェムがジニー・ウィーズリーと交際していると知った時もこれ以上になく不機嫌な顔をしていた。(恐らく相手が誰であろうとああなったに違いない)
「…もう少し猶予を頂ければと…」
自分でも情けないと思いつつもそう告げると、は可笑しそうにくすくすと笑った。







(強制終了/またか)
+−+◇+−+
こなおが「そう来やがったかー!」って叫んでくれてたらワタシ、とっても幸せだわvウフフ。
さてハリーは誰とくっ付くでしょうねv(え?バレバレ?/笑)
時間的には「伝説」のちょっと後。
この話の為にイギリスと日本の結婚に対する観念の違いを延々と考え込む羽目に。結局投げ出してどうでもよくなりましたが。(爆)
関連タイトル:「伝説」
(2003/07/10/高槻桂)

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