雪 あの雪の降る夜、私は全てを失った。 「裏切る?誰を」 彼は何処か哀れむような目で私を見下ろした。 「お前は友と信用されているのではない。自分達より格下だと見下されているだけだ。精々、飼い犬に手を噛まれたと思われる程度だろう」 違う、と即座に叫ぶ事が出来なかった。 ――仕方ないなあ、ピーターは… 私が何かミスをすると決まって彼らはそう言って苦笑した。 大丈夫だって、俺らがついてるから。 そう続けられる言葉。 それは、彼らに自覚がなくとも確実に私を自分達より下だと認めているという事。 「ぼ、僕は…」 それでも私にとって彼らは大切な友だ。失いたくない。 「私としては、余り野蛮な方法は取りたくないのだが…」 私の言葉を遮り、彼は杖を取り出して私に向けた。 「禁忌とされる呪文がどんなものなのか、知りたくはないかね」 情けない事に、私の体は震えていた。 怖い。 死にたくない。 ――母さんを知ってるんですか? 不意に、あの少年の事を思い出した。 あの男に似た造作で、そして彼女と同じ雰囲気を纏った少年。 それは、彼女があの男を選んだ何よりの証拠。 あの男とて闇に堕ちた筈なのに、何故彼女と共に居られる。 自ら闇を望み、堕ちた男が。 「………」 震えが、止まった。 愉快だ。 気分が昂揚している。 ――ピーター、私、あなたの事も大切よ。本当よ? この降り積もる雪よりも白い場所で一人の少女が微笑っている。 、君に会えなくなるのは嫌だ。 私はまだ、君に何も伝えていない。 君の言葉とその笑顔に私がどれだけ救われたか。 …君の傍らに、あの男は相応しくない。 「…マルフォイ先輩」 私が顔を上げると彼は微かに片眉を上げ、その杖を仕舞った。 「ペティグリュー家の持てる権力、全て捧げる事を…あの方に誓います」 「あら、スキャバーズ。また抜け出して来たのね」 スネイプの研究室から出てくるなり現れたネズミには苦笑した。 「ロンが怒るわよ?」 はくすくすと笑いながら身を屈め、手を差し伸べた。するとスキャバーズはその手を伝い、彼女の右肩にちょこんと掴まる様にその身を置いた。 「しっかり掴まっててね」 チィ、と短い応えを受けては出たばかりの部屋へと戻る。研究室内に設けられた彼女の私室への扉を潜り、ソファに腰掛けた。 右肩に手を差し伸べると、その手の上にスキャバーズが降り立つ。はスキャバーズを膝の上に乗せ、ゆっくりとその体を撫でた。 「最近毛並みが悪くなったわね。ちゃんと食べてるの?」 その問いかけにはやけに間延びした鳴き声が返って来て、は苦笑した。 「…まあ、分からないでもないけれどね」 ハーマイオニーのペットであるクルックシャンクスが明確な意図を持ってスキャバーズを捕えようとし始めてから、彼の毛並みは見る間にぱさついていき、今ではばさばさとした感触が掌から伝わってくる。 「私、あなたの力になって上げたいけれど、あなたの力になるならシリウスにも協力しなくてはならないわ。二人とも大切な友達だもの。だから私を頼っては駄目よ。私はどちら側にも立てないから」 チチッ、と鳴き声が上がる。 彼の言いたい事を正確に聞き解いたは、ふと何処か悲しげに微笑した。 「ありがとう」 (終わる) +−+◇+−+ いや、もう、うん、なんていうかね、本当はね、こう、もっとさ、うん。(何) ピーターはジェームズ達を英雄視してるようにヒロインを神聖視していたというか、聖域として見ていて、だからセブが(というか誰かが)その隣りに立つのが許せなかったというかね、そういう話が書きたかったはずなんだけどね、駄目でした、玉砕しました、諦めました。(ヘタレ) ピーターは個人的に好きなキャラなんですけどね。学生時代の話でも本当はもう少し贔屓してあげたいのですが、ついうっかり、忘れてしまうのですよ、ええ、ついうっかり。 ああもう眠気で何が何やらサッパリです。 関連タイトル:「犬」、「父親」、「正体」 (2003/07/14/高槻桂) |