冬に溶けし我が慕情




「サスケ、次はあの店行こうぜ」
「…さっきの店で最後だって言いませんでした?」
「そーんな事とっくに忘れたよ、さあ夜はこれからだ!」
「……明日のフライト早いんじゃ…」
「んなもん飛行機ん中で寝りゃいいんだよ!さ、行くぞ!」
遊佐、羽田、河村の三人に引っ張られ、サスケは夜の渋谷を半強制的に堪能させられていた。
(…迂闊だった…)
パーティーも兼ねた夕飯で酒を無理やりというか摺り変えられてというか、不覚にも飲んでしまい多少ふらふらしながら帰路を辿っていると遊佐が
「こっちの方が近い」
などと言い、サスケを引っ張って明らかに繁華街の方へと足を進めていったのだ。その時は特に何も考えないで付いていったが、暫く経ってからよくメンバーを見てみると、高城を始めとする騒がしいのは好まない面々は行きと同じルートで帰ったらしく、とうに姿はなくなっていた。残るは遊び好きの遊佐と羽田、河村の三人だけであった。
「えーっと、あっちがホテル街だから、こっちに進んで一つ目の角を右…」
羽田が地図と街並みを見比べ、目的の店を探す。サスケは大きな溜息を吐くと、辺りを見回した。
「…目がちかちかする」
夜だというのに眩しいほどの色とりどりの光。特にホテル街の方面は一日の電力が知りたくなるほどだ。
「ん?どうしたサスケ?」
河村が突っ立っているサスケに声を掛ける。
「……いや」
「お?あれは上南の…」
河村の声にサスケはその視線を追う。
「…成瀬…」
視線の先には、ホテル街から笑い合って歩いてくる成瀬と小泉の姿があった。
「ほォ〜。そんな事とは一番無縁そうに見えるのになァ」
スリーメンズフープの存在を知らない遊佐は、にやにやと笑いながら「なあ、サスケ」とわざとらしく聞いてくる。
遊佐は知っているのだ。サスケが成瀬に対して抱いているモノを。
「…別にカンケー無いっす」
そっけなくそう言い返すと「俺、もうホテル帰りますから」とくるりと踵を返しさっさと歩いて行ってしまう。
「お、おいサスケ!」
「いい、いい、ほっとけば」
遊佐がひらひらと手を振る。それでも羽田は食い下がる。
「こんな繁華街の真っ只中で」
「だ〜いじょうぶだって、過保護なんだよお前らは」
「でも、道分かるでしょうか…」
その一言で遊佐は振っていた手をぴたりと止める。そしてにやけ顔は「しまった」という表情に変わる。
「やばいっすよぉ〜」
「……ま、何とかなるだろ」




サスケは早足で人込みの中を駆け抜けていた。道は分からなかったがいざとなったら人に聞けばいい。サスケは万が一の為にホテルの住所と名前を書いたメモを持ち歩いていたのだ。何より、あの場所に居るよりはずっとマシだった。
(成瀬と小泉)
二人が惹かれあっている事は薄々気付いていた。
だが、まだ手は届くと思っていた。一つの事に熱中すると周りが見えなくなる成瀬だから、たとえ友情や競争心だけであったとしても自分の方に向かせる事が出来ると、思っていた…のに……
すたすたと歩いていたその足取りは見る間に速度を落としていき、とうとう立ち止まってしまった。

俺だけを見てほしい。

「…………」
ふわふわして気持ちが悪い。
それを振り切るように空を仰ぐ。数々のビルの合間から見える夜空は遠く、まるで成瀬と自分の距離の様だった。
「あれ、天海?」
声を掛けられ振り返ると、そこにはサスケがこんな所まで来る原因となった成瀬がいた。
「どうしたの、こんなとこで…」
酷く頭痛がする。微かに目を細めて成瀬を見る。

ずっとこの少年に会いたくて、会いたくて…


会いたくなくて…

好きだから会いたい。でも、
自分以外の奴と……あの女と彼がどんどん心を通じあわせて行くのを知りたくなくて。
「………別に…」
そんなサスケの想いにも気付かず、彼はあれ、と首を傾げる。
「天海、何か顔赤くない?」
「いや…」
成瀬は「ちょっとごめん」とサスケの額に手を当てる。ひやりとしたその手が心地よく、その手が驚きの声と共に離れていくのが惜しく思う。
「熱はないなぁ…って、ああっ!酒飲んだだろ!」
「………」
 一つため息をつくと成瀬は顔を顰める。
「もう、土地感無いのにふらふらしてこんなトコまで来ちゃったんでしょ。ホテル、どこ?送っていくよ」
「……いい、自分で帰れる」
さっさと踵を返そうとすると成瀬がとっさにその腕を取る。
「駄目だよ、ほら、途中で倒れたらどうするんだよ」
その腕を少し乱暴に振り払う。
「……お前には関係ない」
「でも…」
ぐらりと視界がぶれる。自分の体を支えていられなくなってしまい成瀬に抱き着く。
「天海?!」
戸惑いの色を滲ませた声を最後にサスケの意識は途切れた。




意識を無くしたサスケを背負い、タクシー拾った成瀬は金北バスケ部が泊まっているホテルに辿り着いた。高城に知らせるより、サスケを寝かせるのが先決だと判断した成瀬は受付で受け取ったルームキーを鍵穴に差し込む。
(話の分かる人でよかった…)
突然サスケを背負って現れた少年を怪しむより何よりサスケの身を案じてくれたフロントマンに感謝しつつ部屋の中へ入る。
「あれ、ここってサスケだけなのかな?」
部屋の片隅にある荷物は一つだけで、二つあるベッドも一方しか使った形跡が無い。取り敢えず使った形跡のある方にサスケを下ろし、畳んであった毛布を被せてやる。
ベッドサイドに腰掛け、薄っすらと浮かんだ汗によって目元に貼り付いている前髪を掻き上げてやる。こうしてみるとまだ幼さの残る表情をしている。
「……」
そうしているとサスケが薄く目を開ける。
「あ、目、覚めた?身体、大丈夫?」
「…ここは…」
「君の泊まってるホテル。君の持っていたメモ見たんだ」
サスケは暫く天井を見詰めると、頭痛てえ、と呟く。
「お酒飲むキミが悪いだろ」
 サスケはチッと小さく舌打ちする。
「オッサンに騙されたんだよ。でなきゃ誰が飲むか」
成瀬は微かに首を傾げるとそうだったの、と答えた。
「それより、お前、小泉の事好きなのか?」
起き上がりながら問うと、成瀬は一気に動揺してわけの分からない事を言い出す。だが、はっきりと「好き」だという言葉は出てこない。
まだ、間に合うかもしれない。でも、きっと彼の心は彼女へと傾いているのだろう。それがサスケの暗い感情を増幅させていく。
きっと自分のコトバは彼には通じない。
所詮男である自分に、女である小泉に勝つ事は出来ない。
出会った日は同じなのに、女というだけでどんどん彼の中へと入っていけれるのが羨ましかった。
「……お前が女だったらよかったのに」
「はあ?」
素っ頓狂な声を上げる成瀬をサスケは抱き寄せるとぐるりと反転してベッドに押し倒す。
「え?え?」
アルコールの所為か、頭がぼうっとする。
なんだかどうでもよくなってきた。ひた隠しにしていたこの気持ちを成瀬に伝えたら楽になれるだろうか。
「あ、天海?」
どうせこんな不毛な想い、あっても仕方ない。
「女だったら小泉に持っていかれる事なかったのにな」
「なに言んぅっ!?」
何か言おうとする成瀬の口を自分の唇で塞ぐと、成瀬はその大きな瞳を更に見開き、サスケを押し退けようとする。
「んーっ、んっ!」
サスケは成瀬の両腕を片手で掴むと、その頭上で押さえつけ、身動きを取れない様に押え込んでしまう。
「…っぷはっ…ちょっと天海!」
騒ぐ成瀬を無視し、サスケは彼の着ている服を一気にたくし上げ、その小さな突起に舌を這わす。成瀬はびくりと反応し、肩を上げるが押え込まれる。脚で押し退けようとすればその脚にサスケの脚がのっかかり動けない。
「…成瀬…」
微かに粟立っている肌をそっと撫で、サスケはその首筋に歯を立てる。
「っう…なにするんだよ!俺は君の彼女じゃないよ、目、覚ませって!もう!」
「女なんかいないし目は覚めてる」
 憤慨する成瀬の声をさらりと受け流し、そのズボンの上から彼の性器を撫でる。
「ちょっ…やめ、天海!」
怒鳴った成瀬にサスケは、にっと笑う。
「そんなに大声を出すと隣室に気付かれるぞ。見られてもいいのか?こんなトコ」
成瀬が言葉に詰まる。サスケは何だが可笑しくなってきてくくっと笑う。
「ヤらせろよ」
サスケはその言葉に対する成瀬の反応も見ずに行為を再開する。さっさと成瀬の下肢を覆っているズボンと取り払い、その性器を握り込む。
「!やめっ」
少し乱暴に擦り上げると、それは成瀬の意志とは関係無しに熱を帯びていく。
「…んっ…っは、ぁ…」
次第に掠れたような熱っぽい声が漏れ始める。たどたどしく、それでも明確な意思を持って蠢く指は成瀬の性器の先端からとろとろと溢れ始めた液体に濡れていく。
「あ、あっ」
 サスケは今にもはちきれそうにまでなった成瀬の性器から指を離す。
「…っ…」
 成瀬は安堵と共に、微かに落胆している自分を振り払うように首を振る。
「放し…」
 すっと腕が開放される。成瀬が起き上がろうとするとサスケはそれを押し留め、彼の性器を口に含んだ。
「やあ…ぁ…」
成瀬の顔が困惑と快楽の入り混じった、泣きそうな顔をしている。サスケは含んだ性器をねっとりと舐め上げと、そのたびに成瀬はびくびくと震え、頭に置かれた彼の手に力がこもる。最初はそうしたいと思っていたわけではなかった。ただ、こうすれば成瀬は自分も知らない、サスケだけが知っている表情を見せてくれると思った。あの女は手に入れられない成瀬の「カオ」。
「…ぅんっ…」
形をなぞると今度は先端の窪みを舌先で突付く。すると成瀬はびくりと強く震えるとその熱をサスケの口内に熱を吐き出してしまった。
「っは、はぁ…」
「………」
成瀬の放った精液をこくりと飲み下す。苦くて青臭いそれは、自然と気にならなかった。
「も、や…手…放して…痛い…」
成瀬が切れ切れに懇願する。サスケが素直に彼を押さえつけていたその手を離してやると、成瀬は再びサスケを押し退けようとする。
「大人しくしてい」
「やだよっ俺、帰るっ」
パシンッ
しつこく逃げようとする成瀬に業を切らしてその頬を叩いた。成瀬は呆然としてサスケを見上げる。それ程強くは叩かれていなかったが、成瀬を大人しくさせるのにはそれで十分だったらしい。サスケが後部に触れ、指を差しいれても、よほどショックだったのか、もう抵抗らしい抵抗はしなかった。
差し入れた中指をゆっくりと抜き差しさせる。次第にそこは軟らかさを増し、もう一本指を差しいれても楽に入った。
「んんっ…はぁ…ん…」
指先が前立腺を刺激したのか、緊張で身体を強張らせていた成瀬が身を捩りだす。時たま抉るように抜き差しすると、成瀬はまるで体中に電流が走ったかのように跳ね上がった。
「ひっ…あ、あぁ……」
少しずつ解れてきたそこからずるりと指を抜き、サスケは自分の性器をそこにあてる。成瀬はあてがわれたモノの熱さにびくりと反応し、サスケを泣きそうな目で見上げてくる。
「…………」
サスケはその目の訴えには何も答えず、その腰を進めた。
「ひあっ、あぁ、痛い痛い痛い!」
きつく閉じられた成瀬の目から大量の涙が溢れ落ちる。二人を繋げたそこからぬるりとした液体の感触がする。サスケは無理に押し入ったその場所が傷ついた事に気付いたがお構い無しに腰を進めた。もう、サスケ自身何が何だか分からなくなっていた。ただ、成瀬が他人のものになるのが許せなかった。
「…あの女の方がいいのか…俺では、駄目なのか…」
腰を進めながらサスケは呟く。成瀬は激痛に耐えるのが精一杯でサスケの言っている事を理解する事はできなかった。
「痛、ァ……は、ぁ…」
頑なに瞼を閉じていると、自分を犯しているのが本当に天海サスケなのか分からなくなってきた。揺さぶられながらそっと瞼を開いてみる。やはりサスケだった。成瀬はどうして彼がこんな凶行に出たのか分からなかった。こんな暴力じみた…最早これはただの暴力と言っていいのかもしれない…事で何が伝えたいのか分からない。
「…う……アァ…」
一層激しくそこを突かれ、サスケの熱を身体の奥に放たれた。
「…っ…」
「やぁっ…」
かくん、とサスケの肩を掴んでいた腕がベッド上に落ちた。激痛からか、その行為が終わった事への安心感からか、成瀬は気絶してしまった。
サスケは成瀬と繋がったままその意識の無い身体を抱きしめる。
「なぜ…っ」
その問いかけは、小泉の方へと気持ちが行ってしまっているだろう成瀬に対してなのか、それとも自分のしてしまった事に対してか、サスケ自身わからなかった。

「…好きだ…」

涙が、溢れた。

 

「………ん………」
ふ、と目を覚ます。夜明けが近いのか、それとも明けかけているのか…薄暗い中、身を捩ると下半身に鋭い痛みが走る。この身体の痛みさえなければ、たとえ自分たちが裸でも、昨晩の事など夢と思い込もうとしたであろう。だが、実際はその一縷の望みさえも切り捨てられていた。
「あま、み」
隣で眠るサスケをそっと呼んでみる。起きる気配はない。規則正しい寝息が微かに聞えるだけである。

――なぜ…っ

聞いた覚えはないのに、耳が覚えている声。

――…好きだ…

初めて聞く、苦しそうな声。
 これは幻聴だったのだろうか。それとも、意識を失っている時に本当に聞いたのか……はっきりとしない。
「なんで、なんて…俺のセリフだ、よ…」
声が咽喉の奥で詰まって出てこない。
「…っは……くぅ…」
込み上げてくる鳴咽を押し殺し、涙の溢れる目をぎゅっと閉じる。
「自分だけ伝えたい事伝えて、ズルイよ…」

俺は…

「俺は、君のことを…」






(END)

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え〜っと、これはかなり昔、企画本をやろうとした時の冬用に書いたSSです。(結局本は金銭の問題から取りやめましたが)ホントは先に夏(三上×成瀬)と秋(小林×成瀬)を書かなきゃいけなかったんですが、なんかこれはネタが浮かんだその日にガガガっと書き上げたものです。夏なんか進まなくなってどれぐらいの時が経つ事やら…(汗)秋に至ってはネタはあってもプロットすら出来てない…そして春なんかもう全く。カップリングが澤成だって事くらい……(滝汗)
…………っ!!!!(ダッシュで逃げ!!)
(2000/06/06/高槻桂)



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