インフォームド・コンセント

 






注:この話はゲーム中盤あたりですが、ソロンは何とか処刑されずに生きているという設定の元で成り立っています。




ここはハイランド皇都ルルノイエの一角にある大会議室。
「…により、こうなる事が確実である」
今回の作戦についての質疑応答が終り、司会役の男ががたりと立ちあがる。
「…では、これにて会議を終了いたします」
司会役の男が予定時間ちょうどにそう告げると、辺りの空気はピンと張り詰める。

来るぞ。

一同の考えている事は同じだった。ひたすら辺りを窺い、席を立つか否かを迷っている素振りである。

「ぅわぁ?!」

突然頭上から声が上がり、シードは慌ててその場を飛び退く。

どすっ

「いった〜い!!」
落下してきたその人物は打ち付けた腰を撫でながら
「もう!!ビッキーのバカ!!」
と、ここに居ない人物に悪態を吐きながら辺りを見回して目の前に居たシードと視線が合うと、にぱっと笑う。
「はろはろ〜シード!」
ひらひらと手を振るカッツェに、シードを始めとする会議場の全員が大きな溜息を吐いた。
突然降って涌いたこの少年こそが今まで会議で話題に登っていたジョツカ軍のリーダーであるカッツェであった。
彼がこの城に潜入してくる様になったのは、まだ彼がジョツカ軍のリーダーになるだなんて思いもしなかった頃。
最初こそ変装して来たりしていたのだが、最近は周りが咎めない所為か堂々とこうやって出入りするようになっていた。
この少年は敵対する軍のリーダー。
捕らえなくてはならない筈なのだが…

「?どうしたの?」

黙りこくった一同を、小首を傾げて不思議そうに見上げてくる少年。
捕らえたら拷問にかけなくてはならないとわかっているのにこんな愛らしい少年を捕らえられる人間が何処に居ようか。いや居まい。
(あの胸くそ悪いロンゲ軍師ならまだしも、こんなあどけない少年を辛い目に合わせるなど…俺達はそこまで非情にはなれない!!)
「??」
むーんと異様な雰囲気になっている一同を不思議そうに眺めると、「ま、いっか」と立ち上り、きょろきょろと目的の人物を探す。
「あ!!」
カッツェはその人物の姿を認めた瞬間、その背に向けて駆け出した。
「ソロン!なんで逃げるの!!」
机も何も飛び越え、こそこそと逃げようとしている背に、タックルするように抱き着いたカッツェは頬を膨らます。
「い、いや、会議が終ったからさっさと帰ろうかと思ってだな…」
「僕を置いていかないでよね!」
そう、カッツェがこの城に来るのは、その髪型は図々しいくせに、物腰は低いソロン・ジーに会うためなのだ。
「ま、いいよ、お茶しよ、お茶!!」
「あ、ああ……」
ソロンは曖昧な返事をしながらさりげに突き刺さってくる嫉妬やら羨望やら嘲りやらの様々な視線を一身に受け止めながら大きな溜息を吐いた。
「きょっおのおっちゃはサックラッティー♪」
そんなソロンや周りの空気に気付いていないのか無視しているのか、とにかく上機嫌のカッツェはソロンの腕に自分の腕を絡ませると、ぐいっと引っ張って部屋を出て行ってしまった。ええ、それはもう我が物顔で。





ソロンの部屋でお茶を楽しんだ後、カッツェはいつもの様にソロンの髪を弄り始める。
「今日はポニーテールかな?」
嬉々として髪を結い、ゴムでとめていくカッツェにソロンは憔悴の色と共に少年の名を呼ぶ。
「……カッツェ…」
「なぁに〜?」
「……リボンをつけるのは止めてくれ……」
そう、カッツェはその手に幅の広い真っ赤なリボンを掴んでいたのだ。
「え〜〜!もう、しょうがないなぁ」
カッツェは心底残念そうにリボンをしまうと、再びゴムを外す。
「ポニーテールとかも好きだけどさ……」
櫛で細い髪を梳き終わると、カッツェはソロンの前へ行き、その膝の上にちょこんと向き合う形で座る。
「…髪を下ろしてるソロンが一番大好きだよ」
そう言うと、二人は暫く見詰め合ったのち、どちらかともなく顔を寄せ、そっと口付ける。
侵入してきた舌をカッツェは迎え入れるように自分から絡めていく。
舌はカッツェの歯列をなぞったり舌を擦り上げたりとして、カッツェは背筋がゾクゾクするのを感じた。
「ふ………はぅ、ん……」
カッツェはソロンの髪に指を絡め、玩びながら唇の合わさる角度を変える。
「……ん……」
二人の交わりが深い事を示すかのように、ぴちゃりと唾液の絡まる音が響く。
「……はぁ……」
「……今日はどうするんだ?」
唇を放した途端の質問にカッツェは「お泊り」と笑った。
「だから……ねえ……?」
しゅるりと黄色のスカーフを外して誘うようにソロンを見上げると、ソロンは口の端を微かに吊り上げ、カッツェの赤い服をゆったりと脱がせて…

カチャ

「ソロン、こっちにカッツェが来ていると……」
これはもうお約束といわんばかりに現れたナイスタイミングな訪問者は、ノックをするという礼儀を知らないのか、イイトコ育ちのジョウイ。そして暇つぶしに何と無く付いてきたシード。


「「「「あ」」」」


四人が四人とも同じように口を「あ」の形に開けて固まった。
ソロンは情事を見られたという事から失語症もどきに陥り、シードは二人がいちゃついているとかではなく、
(玉ねぎが枯れてる?!)
とかなりのショック。
ジョウイに至ってはソロンの髪型なぞ眼中に無く、ただ露わになっているカッツェの肌に見惚れていた。
そしてカッツェは……
「髪降ろしてるソロンを見ていいのは僕だけなの!!!」
とソロンの頭を着衣のはだけられた胸に抱き寄せ、見せない様にすると何かを呟き始める。それはすぐ側に居るソロンならば聞き取れただろうが、如何せんソロンの頭の中は一時停止状態。理解能力などゼロに等しい。
「ちょ、カッツェ?何を……」
何やら魔法を唱えていると気付いたジョウイは慌ててカッツェを止めようとして近寄ったが、近寄られたくない(ソロンを見られたくない)カッツェ相手には、それは逆効果だった。
「カッ…げ」
カッツェの左手がぽうっと黄色く光を発し、その浮き上がった紋章を見てジョウイは咄嗟に回れ右をして逃げ出す。

だが、時既に遅し。

「雷のあらし!!!」



そう、カッツェが左手に装備していたのは雷鳴の紋章だったのだ。
「ジョウイの馬鹿ぁーーー!!!見ちゃダメだって言ってるのにーー!!」
ソロンの頭を抱えたままぎゃんぎゃん喚くカッツェと、頭を抱えられているせいで息が出来なくてもがくソロンを眺めながらシードは爆風によって乱れた髪を片手で梳きながら「ははっ…」と乾いた笑いを洩らす。
「あ〜……もう、どうでもいいわ、俺」
ジョウイと同じく髪を降ろしたソロンを見た筈なのに、全くの無傷のシードは疲れた気分で魔法被害の中心で真っ黒に焦げて伸びているジョウイの首根っこを掴むとずるずると引き摺る。そして何とか原形を留めている扉の前まで行くと、まだまだ喚き続けているカッツェと、もうそろそろ何だかヤバイ感じのソロンに律義にも一礼して部屋を後にした。

容赦無く雷鳴の紋章の最高魔法を食らわされて瀕死状態のジョウイを引き摺りながらシードはつくづく思った。


ドアを開ける時はノックをしましょう。






(了)

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な〜んかギャグになってしまった…最初は単なるほのぼのだったのよ?本当にほのぼので、ルカ様も出てきてたのよ?ルカ様と主人公が仲良しさんでタッグを組んだ二人は最強だという事を知らしめるような話だったのよ?(でもソロン主)
あっら〜?ジョウイ、さりげに哀れ。ま、良いけどさ。
それでは、pomka様、遅くなった上にこんな駄文で申し訳ありません(>_<)
1600HIT、ありがとうございました!
(2000/06/15/高槻桂)

 

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