500作記念企画

お母さんのお仕事
(後藤×女達海/ジャイアントキリング)

※前中後その後です。


「親の仕事の作文?」
そう、と真っ白の作文用紙をひらひらとさせながら生海が頷く。
「あー俺も書いたな、昔」
「そうだっけ」
生海に同意するように頷く後藤に達海は欠伸をしながら応える。
「そういえばお父さんはGMで、お母さんは監督だけど、結局どっちが偉い人なの?」
すると達海がこっち、と後藤を指差し、後藤も苦笑で以ってそれに答えた。
「俺は恒生に雇われてんの。恒生がこんな監督いらなーいって言ったら俺のお仕事はそれまで」
言うわけ無いだろう、と後藤が達海の手を取り、引き寄せる。
どーだか、と笑う達海も満更じゃない様で、後藤の腕の中でにひひっと笑った。
「あーはいはい、ラブラブするのは後にして、僕の宿題をどうにかさせてよ」
それもそうか、と後藤が達海を見下ろし、達海は「じゃあ見に来いよ」と笑った。
「?何を?」
「だから、試合を」
そうして生海は姉と一緒にETUの試合を見に行く事となった。


サポーター達の歓声と熱気に包まれながら生海はうわあと声を上げて喜んだ。
生で試合を見るのは初めてではなかったが、こんな位置、ベンチに限りなく近い最前列で見るのは初めてで。
チャントに混じって時折聞こえる母親の声。
母が家であんな風に声を張り上げることなど無い。
すっと立った後姿に、生海はやっぱりお母さんはかわいくてカッコよくてステキなんだ!と拳を握り締めた。
後日、作文を読んだ担任に「お父さんの事は?」と聞かれ、すっかり忘れていた事に気づくのだった。



***
後藤の出番が殆ど無かった…すみませ;;リクエストありがとうございました!





これからもよろしくね?
(佐倉×女達海/ジャイアントキリング)

今日の試合はあの達海猛が出場しなかった。
負傷のニュースは入ってきていないが、どこか痛めたのかもしれない。
あんなに芝の上で輝く選手を使わない理由なんてそれしか思いつかない。
けれど、折角来たのだからと新作のグッズを買い込んだ。
新作のグッズは達海に関わるものが多く、ブロマイドも達海が写っているものが一気に増えていた。
勿論それらを全て買い込んだ佐倉は今月も生活厳しいかも、と思いながらもそれでも浮き足立つのを抑えられずにいた。
今日は少し歩いて帰ろう、なんて偶々思って下町を歩いていると、人だかりが出来ている事に気づいた。
あれは。あの中心にいる青年は。
達海だ。周りにいるのはサポーターだろう、怪我を心配する声が聞こえてきた。
「あーだから軽ーい捻挫で大した事……」
ふと達海がこちらを見た。目があった!佐倉が眼をそらせずにいると、何と達海が人込みを掻き分けてこちらへとやってきた。
「えーっと悪い、俺これからこいつの約束あるから!じゃあ!」
ゴメンネ!と手を顔の前で振って達海は佐倉の腕を引いて歩き出した。「え?え?」と戸惑う佐倉の声など知った事ではないと言わんばかりに。
さっき捻挫とか聞こえたのだが。それにしては達海の足取りはしっかりとしていて佐倉を一層戸惑わせた。


「あーしくじった」
人気の無い川沿いに辿り着くと漸く達海は佐倉を開放した。
良かったのかと問えば、達海はいいのいいの、と手を振った。
「それにしても悪かったね。付き合せちゃって」
「い、いえ、とんでもない!」
真っ赤になりながら首を振ると、達海はきょとんとして佐倉を見た後、ぶっと吹き出して笑った。
「見るからにアンタの方が年上なのになんで敬語使ってんの」
いいよ、ふつーで。そう笑う達海に佐倉は見惚れた。
ああ、なんて、なんて。
そこではっとする。い、今、自分は何と思った?
なんて、可愛い、と思わなかったか?
何て失礼な事を!佐倉があわあわしていると、変な奴、と達海が一層笑う。
「あ、あの、今日はどうして欠場なんですか」
すると達海はうーんとね、と腕を組んで首を傾げた。
「一応捻挫って事になってるけどおにーさんには助けてもらったし、教えてあげる」
俺ね、先天性転換型両性具有なの。さらりと告げられた事実にぱかりと佐倉の口が開く。
「は」
「で、今日はオンナノコの日だから公式戦は出られないの。わかる?」
「は、はい」
「そういうこと。これ、トップシークレットだから人に教えちゃダメだよ」
ダメだよ、と人差し指を唇に当てる姿は幼さの中に妖艶さも備えていて佐倉は思わず何度も頷いていた。
「それじゃ、ありがとね、おにーさん」
くるりと踵を返した達海に佐倉です、と佐倉は思わず声をかけていた。
「私は佐倉、と言います」
達海は軽く眼を見開いた後、佐倉さんね、とふっと笑った。
「また、ね?」
そして今度こそ達海は佐倉に背を向けて歩き出した。
その後姿を、佐倉はいつまでも眺め続けていた。



***
佐倉の出身地って神奈川なのかな。リクエストありがとうございました!





受け継がれるもの
(成田×女達海/ジャイアントキリング)

※「だって独りは寂しい」続編です。


練習が休憩に入ると、何やらグラウンドの外が騒がしい事に気づいた。
「何だアレ」
丹波が手を額にあてて遠くを見るようにする。
その視線の先には、一人の男がサポーターに囲まれている姿があった。
困ったように笑いながらサポーターと話しているその男に、多くの者が見覚えがあった。
「あれって……元日本代表の成田じゃないか?」
「マジで?!」
堺と石神の言葉にチームメイトはお互いに顔を見合わせた。
何でそんな人がこんな所に。
「あっれ、何で成さんいんのー?」
すると達海の間延びした声に一同の視線が集中する。
ネット越しに二人が向き合う。成田の両脇には男の子と女の子。
「二人がどうしてもお前の仕事ぶりを見たいって言うからな」
「母さんがサボってないか見に来たんだよ」
「ママ、サボっちゃダメよ」
「サボってねえし!」
べーと子供のように舌を出す達海に、丹波があの、と声をかける。
「監督、その子たちって……」
「ん、俺の息子と娘」
けろっとして告げられたそれにええ!と辺りから驚きの声が上がる。
「ていうか何で監督がママなんですか?」
達海は一から説明しなければならない事に気づいてめんどくさいなーもう、と頭を掻いた。


「そういうワケで、旦那と子供です」
俺、奥さんね。にひーと笑う姿にただただ驚くばかりで。
「じゃあ、海斗君はサラブレッドってことか」
「まあ、そこそこうまいよ、コイツ」
「どうも。そこそこうまいカイト・タツミです」
「アリーも!アリーはアリア・タツミなの!」
「お前ら惜しいなー。ここは日本だから苗字が先なんだよ」
「あ、そうだった」
「そうだった」
海斗の言葉を山彦のように返す亜梨亜を抱き上げ、達海は言う。
「時間も丁度良いし、お前らちょっとウチのちびと遊んでやってよ」
「はあ」
「海斗に抜かれた奴はダッシュ十本追加な」
海斗はやる気らしく、ボールで軽くリフティングをしている。
その姿は随分馴れていて、切り替えもスムーズだ。
「で、誰からやる?」
にっと笑った顔は、確かに達海に似ていた。


「はーい、じゃあ海斗に抜かれた奴はダッシュ行ってこーい!」
若手数人が逃げるように走っていく中、海斗はあーあと汗を手の甲で拭った。
「シューズ持ってこれば良かった」
運動靴じゃ滑るよーと不平を洩らす息子の額をぴんと達海の指が弾く。
「ばーか、シューズに敗因求めてるようじゃまだまだだな」
「はあい」
「それにしてもさすが監督と成田さんの子供ッスね。テクが半端無いわ」
「やばかったですもんね、ガミさん」
「うるさいよ、同じくやばかった堀田君」
「こりゃウチのスクール入ったら一気にレギュラーだな」
すると海斗はそれなんだよねーと腕を組んで首を傾げた。
「東京Vのスクールも魅力的だし、どうしようかなーって」
「え、何、お前敵のところ行くのかよ」
丹波の言葉に敵じゃないよ、と海斗はネットの外からこちらを見ている父親を指差して言った。
「だって父さん東京Vのコーチだもん」
「「「はあああ?!」」」
無茶苦茶だこの夫婦!丹波の叫び声がグラウンドに響き渡った。



***
海斗は顔立ちは成田似ですが笑い方は達海似。亜梨亜は達海似。リクエストありがとうございました!

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