500作記念企画
どっちにしたって角が立つ (??&達海/ジャイアントキリング) ※前中後村越編その後です。 まだ、お母さんの事が好き? そう問いかければ、返ってくる応えなんて分かっていた。 愚直なまでに母を想い続けるこの人に、その問いは意味の無いものだ。 ああ、今でも愛してる。きっと、死ぬまで愛し続けるだろうな。 そう真摯な顔で頷いた男に、だろうね、と笑って猛人は後藤のマンションを飛び出した。 涙が零れていないか、そればかりが気がかりだった。 そうして部屋に閉じ篭って、母の心配そうな声も無視をして。 ただ泣いた。一番好きな人の一番になれないことが哀しくて泣いた。 いっその事、初めから二人が夫婦であれば良かったのに。 そうすれば初めからこんな思いを抱える事などなかっただろうに。 「じゃあそんな世界を見てみるかい?」 頭上で響いた声に顔を上げると、そこにはETUのマスコットキャラクターのパッカがいた。 「パッカ?」 「君が望むなら、そんな二人の世界を見せてあげるよ」 「パッカはそんな事も出来るの?」 パッカは無表情の向こうで笑ったようだった。 「君たちは特別さ」 「君、たち?」 けれどパッカはそれには答えず「あそーれ」と両手をぶんっと振り上げた。 途端、辺りが光に包まれて猛人は思わず目を閉じた。 そして目を開けると、そこは見慣れた母の「巣」である監督室だった。 誰もいない監督室。傍らには掌サイズのパッカ。 「君の姿は誰にも見えないから好きに動いてみるといい」 言われるがままにそろりと監督室を出る。 人の声に誘われるようにして談話室へと向かうと、そこでは世良や丹波、堀田や石神が何やらわいわいと話していた。 「あれ?あの子、誰?」 堀田の膝の上に座っている小さな女の子の姿に傍らのパッカを見ると、「あ、まずい」とパッカはぺちりと頭の皿を叩いた。 「あの子には私の姿が見えるんだ。君がそっちへ行くなら私はここで待っているよ」 「どうしてあの子にはパッカが見えるの?あの子は誰?」 「あの子は君さ」 「……僕、男の子なんだけど」 「そういう意味じゃない。この世界で産まれた君と同じ存在。それと同時に君が生まれる事になった切っ掛けそのもの」 パッカの言う事はよくわからない。 「まあ簡単に言えば達海の娘だ」 それを早く言ってほしい。 「ええと、つまり、この世界では僕じゃなくてあの子が母さんの子供なんだね?幸乃もしげもたけもいないの?」 「いないね」 「これから生まれるって事?」 「それもない。彼らは村越と達海の子達だ。この世界は後藤と達海が結ばれた世界。彼らが生まれることは無い」 そうか、と猛人は何やら懸命に話している女の子を見る。 「あの子は後藤おじさんとお母さんの子供なんだね……」 どこか羨ましげに見る猛人に、しかしパッカは「いや違う」とあっさり否定する。 「あの子も村越と達海の子供だ」 「……どういう事?」 そこで猛人は自分(とあの女の子)が生まれる事になったそもそもの原因を知る事になり、多感な少年は一気に落ち込んだ。 「なにそれ、僕らって遊びで出来た子なの……」 「結果、幸せなのだからいいじゃないか」 慰めになってない慰めに猛人はぎろりとパッカを睨む。 しかしその視線の先に後藤を見つけて猛人は思わず姿勢を正してしまった。 だが後藤は猛人に気付く事無く目の前を通り過ぎ、談話室を覗いた。 「すまない、こっちに美幸が…あ、美幸」 「おとうさん」 美幸と呼ばれた女の子がすとんと堀田の膝を降りて後藤に駆け寄る。 「遊んでもらってたのか?」 「うんとね、おとうさんとおかあさんがね、いっぱいちゅーしてるよっておはなししてたの」 「なっ」 一気に顔を赤くした後藤に、丹波たちがひひひといやらしい笑みを浮かべる。 「そこんとこ詳しく聞かせてくださいよGM〜」 「そうっすよー監督とラブラブしてるってほんとっすかー」 「ええと、あの、その、い、急いでるから!」 美幸の手を引き、そそくさとその場を立ち去る後藤の後ろを猛人は追いかける。 傍らを見ると、パッカの姿が消えていた。どうやら美幸に姿を見られるのは都合が悪いらしい。 二人の後について事務室に入ると、そこには後藤の椅子に座った達海がいた。 「お疲れさん」 「なんだ、結局お前もこっちに来たのか」 「やること終わっちまったし」 三人(と猛人)しかいない空間で気を抜いているのだろう、母親の表情は家に居るときのそれだ。 「んー?」 がたんと達海が立ち上がり、後藤の顔を下から覗き込む。 「ど、どうかしたのか」 「なんかお前、顔赤くね?」 「あ、ああ……さっきちょっとな」 「ふうん?」 「あのね、たんちゃんたちとね、おとうさんとおかあさんがいっぱいちゅーしてるっておはなししてたの」 娘の暴露に達海はふうん、と笑ってするりと後藤の首に腕を絡ませる。 「いっぱいちゅーしてるってお話してたわけ」 「お、俺はしてないぞ。美幸が、その、俺が見つけたときにはもう、」 「うん、それで?」 「おかあさん、みゆも。みゆもちゅーする」 にまにまとしている達海としどろもどろな後藤、そしてそんな二人にしがみ付く美幸の姿に猛人は見てられない、と肩を竦める。 確かに二人が夫婦だという世界を見てみたいと思った。 けれど実際見てみても余り楽しいものではない。 だって自分はそこに入っていけないのだ。 あくまで彼らには彼らの世界があり、猛人は異分子なのだ。 元の世界に帰りたいな、と思ったその時、ノック音がして二人はするりと離れた。 「どうぞ」 入ってきたのは猛人の父親であるはずの村越だった。 難しい顔をした彼は達海の姿を見つけると溜息をかみ殺したような顔をした。 「今日の報告、まだ終わってないんすけど」 「あ、そうだった」 ここでいーよ、と後藤の椅子に座る達海に、村越が報告を済ませていく。 「……以上だ」 「うん。お疲れさん」 美幸を膝に乗せた達海が娘の手を取ってばいばいと手を振る。 「ばいばい」 にっこりと笑顔を送る美幸に、村越は無言で小さく頷いて部屋を出て行こうとする。 猛人はその後に続いて部屋を出ると、足早にロッカーへと向かう父親の後を追いかけた。傍らにはパッカが戻ってきていた。 ロッカールームには村越以外残っておらず、村越もまた鞄を肩から提げる。 しかし提げたそれをもう一度ロッカーにおろすと、くそ、と小さく呟いた。 「達海さん……!」 ロッカーに腕をもたせ掛けて苦しげに呟くその後姿に猛人は胸が締め付けられた。 後藤に受け入れてもらえなかった自分と、父親の後姿がリンクしたからだ。 「どうしてお父さんはお母さんと別れちゃったの?僕……ううん、あの子がお腹にいたのに」 「そういうこともあるさ」 すると扉が開いてあの子が入ってきた。 「美幸。どうした。達海さんの所にいたんじゃないのか」 「むらこし、いたいいたいなの?」 あの小さな女の子は膝をついた村越の頭に手を伸ばし、いいこいいこと撫でた。 「だいじょうぶよ。むらこしにはみゆきがいるんだから。だからいたいのとんでくの」 村越は一瞬目を見張った後、泣きそうな微笑みを浮かべ、そうだな、と震える声で囁いた。 「ありがとう、美幸」 美幸は嬉しそうに笑い、おみおくりしてあげる、と村越のバッグを持ち上げようとして失敗していた。 村越は今度こそバッグをしっかりと肩から提げ、美幸と並んでロッカールームを出て行く。 その後姿を見送って、猛人は傍らのパッカを見た。 「ねえパッカ。僕が後藤おじさんを好きになったのはいけないことだったのかな」 「いけなくはないけれど、相手が悪かったね」 肩を竦めるパッカに、そうだね、そうだったね、と猛人は苦笑した。 「はじめからそんなこと、わかってたんだけどなあ」 猛人はパッカと同じ様にひょいと肩を竦めた。 「もういいや。帰ろう。違う世界を見たって羨ましくなるだけだよ」 「それなら迎えが来てるよ」 パッカの言葉に迎え?と猛人は小首を傾げる。 「達海が来てる筈なんだが……どこかで寄り道してるな」 「お母さんが来てるの?どうやって?」 「余りにも煩いから私が連れてきた」 どうやら姿を消している間に達海ともコンタクトを取っていたらしい。 猛人は慌ててロッカールームを出ると最初に飛ばされてきた監督室へと向かう。 しかし監督室には誰もいない。 「事務室じゃないかな。あそこにはもう一人の達海がいるからね」 早く言ってよ、と方向転換をして事務室へと向かうと、何やら騒がしい。 達海、やめてくれ、だの、だーめ、と笑う二つの声だの。 「……また達海の悪ふざけが出たな」 溜息をついているパッカに猛人がどうにかならないの?と扉の前でうろうろする。 「君の姿を見えるようにしてあげるから自分で止めておいで」 「とんでもない状態だったらどうするの」 「なんとかなるさ」 パッカは時々ひどく投げやりだ。猛人はむうっとしながらも意を決して扉を開けた。 そこには椅子に座った後藤と、その上に横座りする達海と後ろから後藤の首に腕を絡めて顔を寄せている達海。 「あれ、猛人じゃん」 後藤の上に座っている達海がきょとんとして猛人を見る。どうやら本来の目的を忘れているようだ。 それにしたってマシな状態でよかった、と猛人は思う。 いつだったかうっかり両親のベッドシーンを覗いてしまった時の衝撃は未だに忘れられない。 猛人はすうっと息を吸い込むと「お母さん何してるの!」と怒鳴り声を上げた。 「何って、後藤で遊んでた」 しれっとして答える達海に「僕を迎えに来たんじゃないの」と更に怒鳴る。 「そうだったんだけど、お前見つからないから待ってた方が早いと思って」 「結果的にそうなったんだからいいんじゃねえの」 なーと二人の達海が顔を見合わせて笑う。 もう、と脱力して肩を落とすと、後藤の上から降りた達海がほら、と手を差し伸べてきた。 「帰るぞ」 「……うん」 何となく納得が行かないまま差し出された手を取り、後藤ともう一人の達海を見る。 もう一人の達海は後藤の首に腕を絡めたままひらひらと手を振った。 「僕ね、いっそ最初からお母さんと後藤おじさんが夫婦だったら良かったのにって思ったの」 傍らの達海を見上げると、うん、と母親は頷いて先を促す。 「でもこっちの二人を見ていてね、やっぱり僕のお父さんは茂幸父さんがいいなって思ったんだ」 だって、と猛人は笑う。 「こっちのお母さんと後藤おじさんラブラブすぎて腹が立つんだもん」 「俺と茂幸がラブラブじゃないみたいな言い方すんなよー」 「だってあんな風にくっついたりしないじゃん」 「お前らの前では節度を保ってるんですー」 そんな事を話しているうちに二人の身体はきらきらとした光に包まれ、あ、と思った時には眩い光に目を焼かれた。 「うわあ眩しい……」 「てめえパッカ、飛ばすときは飛ばすって言えよ!」 しぱしぱする目をゆっくりと開けると、そこは猛人の部屋だった。 「放っておいたらいつまでも話していそうだったからね」 ひらりと目の前に飛んできた小さなパッカがそれよりと達海を見る。 「これで借りは返したよ」 借り?猛人が達海を見るが、しかし達海は不敵に笑って「何の話だ?」と首を傾げて見せた。 するとパッカは溜息をついて。 「やれやれ、君は私をこき使う気だね」 「惚れたほうが負けって言葉知ってるか?」 にやにやと笑う達海に、パッカも満更でも無い様子で仕方ないねえと肩を竦めた。 「とにかく、今回は私も疲れた。これで帰らせてもらうよ」 ぱちん、と弾くような音がしてパッカは消えてしまった。 「ねえお母さん」 「うん?」 「あのパッカは何だったの」 すると母親は何故だか優しい微笑みを浮かべ、猛人の髪を撫でた。 「パッカはパッカだろ」 それより、と達海が猛人の耳に顔を寄せ、そっと囁いた。 「今日、後藤で遊んでた事、お父さんには内緒な」 猛人はきょとんとした後、にっこりと笑って頷いた。 「その代わり、今日の夕ご飯はハンバーグにしてね!」 *** 色々迷走した感がwwリクエストありがとうございました!! 傾倒情動 (深作×達海/ジャイアントキリング) 深作の恋人はどんな人なのか。 職場の同僚と飲みに行ったりすると、独身の深作はよくそういった話題の的にされる。 けれど元チームメイトの男だとはさすがに言えない深作は色々とぼかしてその人なりを伝えるしかない。 曰く、どこかぼーっとしてるとか、なのにきっちり要点は押さえてて油断できない、とか。 フカさん、と笑う顔が可愛いとか、今は半同棲状態だとか。 結婚しちまえよ、と肘で突いてくる同僚に、そのうちに、なんて答えながら。 そんな時に携帯電話が鳴って、深作は席を立った。 すぐに帰ってきた彼は、件の恋人からの電話だったと苦笑した。 いつも一時間に一度はメールをしているのが来なかったので心配になったらしい、と。 お熱いね、なんて周りが笑っていたのもその辺りまでだった。 聞けば携帯電話は毎日チェックされるし会う人、場所時間全て報告しているという。 少しでも遅くなるなら即連絡。 それを怠ると部屋を締め出されるという。 それちょっと酷くないか、と言う同僚に、何が、と深作は首を傾げる。 アイツは寂しがりやなんだ。だから仕方ないさ。 そう笑う深作に、その内トイレにまで着いてくるぞ、と冗談めかして言えば、ついてくるぜ、と平然と返される。 いつも扉の前で待ってる。もう慣れたよ。 それ引くわー。本当にその子大丈夫かよ。同僚の言葉にむっとして深作が言い返す。 タツミは本当にいい奴なんだよ。俺の事を何より愛してるし、俺だってタツミの事を愛してる。 むきになる深作を宥めていると再び携帯電話が鳴った。噂のタツミちゃんからのメールらしい。 速攻で返事を返すと、深作は「俺、帰るわ」といくらかの紙幣を置いて席を立った。 「タツミが近くまで来てるから」 「ここに呼べば良いじゃん」 「ダメだ、お前らに見せたら減る」 何だよそれ、とげらげら笑いながら彼らは深作を見送る。 そしてその翌日、会社の仲間内では深作の恋人は束縛系らしいという噂が立った。 けれどそれを否定する事もなく、深作はそれを受け入れた。 データフォルダに保存された、愛しい恋人の画像を眺めながら。 *** 大抵隠し撮りかハメ撮り。リクエストありがとうございました!! はいはいご馳走様 (村越×女達海/ジャイアントキリング) ※前中後村越編その後です。 「監督、機嫌悪いっすね」 石神の言葉に達海は別に、と眉を顰めた。 「ほら、そういう所が機嫌が悪い」 越さんとと喧嘩でもしましたか。 今は保育園に猛人を迎えにいってここには居ない男の名前を出すと達海の機嫌は一層降下していく。 「今村越の名前は聞きたくない」 「今度は一体何をやらかしたんすか監督」 「何だよガミ、俺が悪いみたいじゃん」 「違うんですか」 堀田がそう返せば、違うよーとぶーたれた応えが返ってきて。 「俺もうダメだって言ったのにアイツ無視して三回もしやがってさー」 しかも生だぜ、生。 「……」 堀田は一瞬何の話かを考え、そしてそれが夜の話だと察して口を噤んだ。反面、石神はひゅうと口笛を吹く。 「越さんやるじゃん」 「いい加減年考えろって話だよなー。俺もうすぐ四十だぜ?」 堀田が聞くんじゃなかった、と思っていると保育園から猛人を連れ帰ってきた村越が戻ってきた。 「……何だ」 場の微妙な視線を受けた村越が眉を顰める。 お前の話してたんだよ、と達海が不機嫌そうに唇を尖らせた。 「お前が横暴だって話をしてたんだよ」 すると村越はすぐに何の事を言っているのか気付いたらしく、あれは、と口を開いた。 「アンタが可愛いこと言うから……!」 「ばっ……可愛いのはお前だろうが!」 「いいや、アンタだ」 「お前だ」 「アンタだ」 「お前だ」 「はいはいはいご馳走様ー」 睨みあう二人の間に手刀を入れて石神が馬鹿馬鹿しい言い合いを終わらせる。 「二人の仲が宜しいのはよっくわかったから後はおウチでお願いしまーす」 堀田に遅れて石神もまた聞くんじゃなかった、と内心で舌を出した。 *** 惚気の定義って意外と難しい。リクエストありがとうございました!! 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