500作記念企画
デキちゃったみたい? (佐倉×女達海/ジャイアントキリング) 佐倉と達海の出会いは偶然から始まった。 そしてその偶然から彼が先天性転換型両性具有という、女にもなれる特殊な体質だと知った。 偶然から始まった出会いが交流へと変わり、交際へと発展した事は佐倉にとって僥倖に等しい。 しかもそれだけに留まらず、生涯を共にして欲しいと申し出た佐倉を達海は受け入れてくれた。 丁度その頃、達海のような体質の者が同性とも結婚できる制度が出来上がった時で。 籍を入れたいと言う佐倉の要望を達海は受け入れた。 混乱を避けるために夫婦別姓のままだったが、満足だった。 だが、どこから嗅ぎ付けたのかある日メディアにそれが流れ、二人は一躍有名人となってしまった。 お互いに一部のサッカーチームの監督という立場である以上、対決は避けられない。 夫婦対決、だなんて面白おかしく書きたてられたが、それでも二人は揺らがなかった。 「サックラー」 上野駅に現れた佐倉に達海が軽く手を振って居場所を知らせる。 結婚してからも達海は相変わらず佐倉を彼独自の愛称で呼んだ。 名前で呼んで欲しい気もするが、達海が愛着を持って呼んでくれているのならそれでいいと佐倉は思う。 「お待たせしました、タッツミー」 そして自分もまた、そんな達海に習って愛称で呼んでいる。 達海に基準をあわせることが楽しいのだ。 「そんなに待ってないから大丈夫」 二人は殆どが佐倉の通い婚状態だが、佐倉はそれでも満足だった。 お互いチームを任されているという責任がある以上、今はこれで十分だ。 「今回はいつまでいられるんだっけ」 「明日の夜までは大丈夫です」 「ホテルは?」 「ホテルは浅草の……」 予約を取ったホテルの場所を告げ、それより、と達海を見る。 「最近、ちゃんとご飯食べてるみたいですね」 後藤さんがほっとしてましたよ。そう続けると、えー、と達海が苦い声を出した。 「何でアイツそんな事まで報告してんだよー」 「私がお願いしてるんです。怒らないであげてくださいね」 「内緒だっつったのにー」 「どうしてですか?」 きょとんとして聞くと、達海はにーっと笑って佐倉の耳元に顔を寄せて囁いた。 「デキちゃったみたい」 ずるっと肩から鞄が落ちて大きな音を立てたが、佐倉の耳には入ってこなかった。 *** 確かにシッター後藤は確実に出現するかと!リクエストありがとうございました!! 恋愛ブレイクスルー (深作×達海/ジャイアントキリング) ※ベタ「獣の耳が生える」続編です。 達海が死んだと聞かされて十年が過ぎた。 養女として迎えた深愛ももう十歳だ。 長かったといえばそうだろうし、あっという間だったという気もする。 猫の遺伝子を持った達海と、同じ境遇の女性から産まれた深愛は気難しい所もあったけれど深作に懐いてくれた。 十年の間に彼らを取り巻く状況は大きく変わっていた。 まず、発情期による性衝動を抑える薬が開発された。 これによってストレスを大幅に減らす事が可能となり、平均寿命が延びた。 次にその寿命自体を延ばす治療が進められた。 そもそも、彼らの寿命が短いのは発情期によるストレスとそれに伴う肉体の変化によるものが大きい。 つまりは肉体の変化を食い止める事ができれば彼らの寿命は格段に延びる。 そしてつい一年ほど前に肉体の変化のメカニズムが解明され、その治療法が確立された。 深愛は今、その治療を受けている真っ最中だ。 週に一度研究所を訪れてカウンセリングと治療を受ける。 もう慣れたものだとしても、痛ましさを覚える。 そしてその度に、思い出すのだ。 フカさん、と呼ぶあの声を。笑顔を。 「深作さん」 はっとして我に返る。 待合室にいつの間にかあの担当の女が入ってきていた。 もうこの女とも十年以上の付き合いになる。 「あ、はい」 「今日はこれからお二人をお連れしたい場所があるのですが」 お時間は大丈夫ですか。そう問う女に、大丈夫です、と頷くと深愛が診察室から出てきた。 「お父さん」 ぱふっと腰に飛びついてきた深愛を抱きとめる。 「お疲れさん」 「うん。あのね、今日は本当のお父さんに会わせてくれるんだって」 嬉々としたその言葉に深作は女を見る。 深愛が深作の養女という事は深愛自身幼い頃から知っている。 そして実父である達海が死んでいることも教えてあった。 それなのに。 「どういう、ことですか」 「……ご案内します」 どうぞ、と促され深作は深愛の手を引いてその後に続く。 「深作さんはコールドスリープという言葉をご存知ですか」 「ああ……はい、映画とかで……」 「達海さんがその状態にある、と言ったら信じますか」 は、と思わず深作は声を漏らしていた。 あの時、十年前、確かに深作は達海の遺体とは対面していない。 「正確には、その状態にあった、と言うべきでしょうか」 まさか、と深作は深愛を見下ろす。 すると深愛は嬉しそうにこっくりと頷いた。 「あのね、達海お父さん、目が覚めたんだって」 「全てにおいての技術的ブレイクスルーが可能となった今、達海さんには目覚めてもらう事になりました」 今の技術なら、達海さんをもっと長く生かせることができますから、と女は言う。 「では、達海は……」 「先月に漸く無菌室を出て、今はリハビリ室にいるはずです」 ここです、と案内された先、そのガラス越しに、懐かしい後姿が見えた。 医師らしき男に脚の曲げ伸ばしをされているその後姿は間違いない。 どうぞ、と扉を開かれ、深作は恐る恐るリハビリ室へと踏み入れた。 物音に気付いたその後姿がゆっくりと振り返る。 目が、合った。 記憶にある姿と寸分たがわぬ姿の彼は、目を見開いて唇を振るわせた。 音にはならなかったが、深作には分かった。フカさん、と彼が呟いた事を。 「……達海」 震える声で呼ぶと、彼は医師の手を借りてゆっくりと立ち上がった。 よろり、と不安定な足取りで歩み寄ってきた彼に、深作はそっと手を伸ばしていた。 触れた指先は確かにそこに達海がいることを深作に伝えてくる。 「本当に、お前なんだな」 確かめるようにしてその頬を撫でると、すり、と頬を寄せてきた。達海がよくしていた仕草だ。 「……ただいま、フカさん」 「……っ……」 深作は堪らず達海を抱きしめた。 壊れ物に触れるようにそっと、そっと抱きしめた。 「お前に、伝えたかった事があるんだ……」 「うん」 「俺は、ずっとお前の事を……」 そっと囁かれたその言葉に、達海は嬉しそうに微笑んで深作の身体を抱き返した。 「俺もだよ、フカさん」 これからは、何度でも聞かせてね。 そう笑う達海に、ああ、何度でも聞かせてやる。深作はそう頷いた。 *** 色々ブレイクスルーしました。(爆)リクエストありがとうございました!! いつかの恋人 (村越×女達海/ジャイアントキリング) ※前中後村越編その後です。 「うちの娘が彼氏連れてきたんですよー!」 うわーんと泣きついてくる男を押し退けながら達海ははいはいと頷く。 「それさっきも聞いた」 「まあ年頃なんだし、仕方ないだろう」 押し退けられても尚、腰にへばりついている夏木と諦めた達海を眺めながら松原が苦笑した。 「わかってるんすけどー!それでも悔しいー!」 「別に変な男じゃなかったんだろ?」 「当たり前です!うちの娘の見る目は確かですからね!」 妙に自身ありげに言う夏木に、じゃあもう放って置けよ、と達海は溜息をつく。 「なるようにしかならないんだから」 「そんなあー」 「監督もあと五、六年もすれば猛人が恋人連れてきたりしますよ」 松原の言葉にうーんと達海は首を傾げる。 「できるかなー。あいつ後藤べったりだしなー」 「監督、その内猛人に後藤さん奪われちゃいますよ」 冗談めかして言う夏木にそれはないよと達海は笑う。 「後藤が他の誰かを俺の事以上好きになるなんてこと無いからね」 それがたとえ猛人であっても。 そう言い切るくせに応えてやるつもりは無い達海に夏木と松原は後藤GM可哀想に、と内心で思った。 しかし本人はそれでも幸せなのだから一概に可哀想とは言い切れないかもしれないのだが。 寧ろ可哀想なのはそんな二人にやきもきさせられている村越か。 「とにかく、俺はいつか猛人が恋人連れてきても別にお前みたいに慌てたりはしないよ」 「わっかりませんよ監督ー」 松原がにやにやとして言う。 「私もそのつもりでしたが実際に長女が彼氏を連れて来た時は動揺しましたからね」 「松ちゃんと一緒にしないでよ」 「監督ひどい!」 ショックを受けている松原を尻目に達海は今何時?と夏木を見る。 返ってきた応えに、じゃあそろそろか、と達海は駐車場へと目を向ける。 すると丁度タイミングよく入ってきた見慣れた車の姿に達海はふっと顔をほころばせた。 保育園に双子を迎えに行っていた村越が戻ってきたのだ。 「じゃあ俺帰るね。あとヨロシク」 「あ、はい。お疲れさまです」 「お疲れっす!」 ひらりと手を振り、達海は夫と息子たちの待つ駐車場へと向かった。 *** 何だかんだで達海は夏木の事嫌いじゃないと思う。リクエストありがとうございました!! |