雰囲気的な10の御題:憂

01.伏せた両眼
(後藤×達海/ジャイアントキリング)

達海と喧嘩した。
きっかけは些細な意見の相違だった。
どっちが先に喧嘩腰になったのかだなんて、そんな事は今となってはどうでも良い。
今大事なのは、目の前でぶすくれている達海をどうするか、だった。
いつもは人の気持ちを射抜くように見つめてくる視線も、今は伏せられて床の一点を見つめている。
「なあ、達海」
ぴくりと達海の肩が揺れる、が、視線は依然として床の上。
「お前の言い分も分かるけど、でもお前だって俺の言い分を分かってくれているんだろう?」
我ながら狡い言い方だと思う。
けれど俺にだって譲れない一線というものがある。
達海だって分かっているのだろう。彼はぼそぼそと床に向かって呟いた。
「…わかったよ。後藤が困るなら、やめる」
「達海…」
腕を伸ばすとそこに達海がとすんと入り込んでくる。
細い体をぎゅっと抱きしめてありがとうと言うと、彼はうん、と小さく頷いた。




***
どうせ風呂場におもちゃを増やすなとかそんな程度の喧嘩。






02.新月の夜
(村越×達海/ジャイアントキリング)

村越が風呂から上がるとリビングに目的の人物の姿は無かった。
視線だけを動かして部屋を見回すと、カーテンが揺らいでいるのが目に付く。
ベランダか。
近付いていくと生温い風が頬を撫でた。
「何してんだアンタは」
揺れるカーテンを開けば、そこには思ったとおりの後姿。
ベランダの柵に両腕を預け、彼は顎で上を示した。
「今日、新月だってさ」
言われるがまま夜空を見上げると、確かに星こそ散っていたが月は見えない。
しかしそれがどうかしたのか。
満月ならまだしも、見えやしない月を見上げて何が楽しいのか。
「風邪引くぞ」
そんなものより彼の髪の先から滴る雫の方が余程気にかかる。
何度きちんと拭けと言っても彼は適当に済ませてしまう。
「いーよ。どうせすぐ乾く」
「シーツが濡れる」
「まだDVD見るからすぐには寝ないし」
ああ言えばこう言う。
この男の口が達者なのは嫌というほど身に沁みているのでそれ以上の言及は避けて溜息を一つ吐いた。
「好きにしろ」
村越は達海をその場に残したまま室内に戻った。
そのまま寝室へ向かい、ベッドに潜り込む。
目を閉じると、瞼の裏には彼の後姿が焼きついていた。
あの人はいつまで見えない月を探すつもりなのか。
新月など、あの人に似合わない。
あの人にはもっと、そう、太陽の光の下で不適に笑う姿が良く似合う。
夜が早く明けてしまえば良いのに。
そう願って村越はきつく目を閉じた。



***
これでも事後です。(笑)





03.エンドレスリピート
(後藤×達海/ジャイアントキリング)

達海が歌を歌っている。
DVDの樹海から目的の一枚を探しながら、達海は軽やかに歌う。
英語のそれは後藤には耳慣れない曲だった。
しかも途中までしか覚えていないのか、少し歌ってはまた最初からを繰り返している。
何度も、何度もその部分を歌いながら達海はDVDの束をひっくり返す。
後藤の知る達海は、英語なんてからきし出来なかった。
それから十年。
達海は英語の歌を流暢に歌っている。
十年。
それはとてつもなく長い時間であり、しかし今思えば一瞬の間だったような気がする。
達海の存在しない時間など、始めから無かったかのように感じるくらいに。
けれど忘却することなんて出来ない。
その十年で、達海だって生きていたのだ。
生きてきたからこそ、今ここに居るのだ。
それはとてつもない僥倖のように思えて、後藤は込み上げるものを堪えるように口元を手で覆った。
「〜〜ってうわ!後藤、いつからいたの…どうしたんだよ。具合悪いのか?」
そうじゃない、そうじゃないんだ達海。
「ごとう」
ずるずるとその場に座り込んでしまった後藤の前に達海がしゃがみ込む。
ハーフパンツから覗く左の膝、そこに走る手術痕。
「どうしたんだよ、後藤」
ああ、泣いてしまいそうだ。


***
歌うタッツミーに禿げ萌える。




04.ひとりぼっち
(後藤×達海/ジャイアントキリング)

びくりと体が揺れる衝撃で眼が覚めた。
しまった、寝てしまった。
しぱしぱと眼を瞬かせながら達海は大きな欠伸をした。
どこからだっけ。
意識が落ちてしまう直前までの記憶を手繰り、リモコンを操作する。
早送りで試合を見ながらあれ、と視線を上げた。
空が白んでいる。
ああ、こりゃ随分長い時間寝てしまったなあ。
どおりで明るいと思った。
まあ寝てしまったものは仕方ない。達海はそう一人で頷いて早送りを止めた。
選手一人一人の動きを見ながらメモを取っていく。
それらが全て終わる頃には日は大分昇ってしまったようだった。
時計を見るともう一時間もしないうちに誰かしら来るだろう。
すると突然机の上の携帯が鳴り出して、達海は手にしていたDVDを落とすくらい驚いた。
ディスプレイには「後藤」の文字。
慣れない手つきで通話ボタンを押して耳に当てると「おはよう」と達海の好きな声がした。
「おはよーってどったの、こんな朝から」
『昨日お前が言ったんだろ?ひとりぼっちで寂しいからモーニングコールをくれって』
「そうだっけ。…そうだった気がする」
『それにしてもよく起きてたな。まさか徹夜したのか』
「うーん…一応寝たよ?」
寝たと言うか、意識が途切れたというか。
『とにかく、これから出勤するから何かいるものあるか?』
「ん、朝飯買ってきて。いつもの」
『はいはい。じゃあ切るぞ』
溜息が聞こえてきそうな口調にちょっとした悪戯心が湧いてくる。
「あ、後藤」
『何だ』
「好きだ」
『たつ』
ぷちっ。
切ってやった。反応も聞かないまま切ってやった。
さて、後藤が駆け込んでくるまで後何分?


***
うちのタッツは結構軽く好き好き大好きー言います。





05.小さな溜息
(羽田×達海/ジャイアントキリング)

どうしたら信じてもらえるのだろう。
達海は小さな溜息を吐いた。
羽田と付き合うようになって三ヶ月。
達海の告白は未だに羽田に信じてもらえていない。
今付き合っているのだって、達海の気まぐれだと思われている。
その上、どうも羽田は達海が男と付き合うのは初めてではないと思っている節がある。
確かに男と寝るのは初めてではない。
けれどそこに感情がついてきたのは羽田が初めてだったのだ。
しかしそれを幾らこの男に説明した所で無駄だった。
達海自身の態度や言い方にも問題があったのかもしれない。
だが、達海にとって真摯という言葉は程遠い存在にしか思えなくて。
へらりと笑って好きだといえば、ああそうかよと軽く流される。
そんな所も好きなんだから、もう仕方ない。
切ないなあなんて思いながら、また一つ溜息を吐いた。



***
羽田って誰?という方へ。羽田はサポーターのリーダーです。(爆)

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