選択課題・ベタ
幼児退行(精神的) (後藤×達海/ジャイアントキリング) 達海は満月の夜になると十歳前後の子供になってしまう体質の持ち主だ。 しかし思考の方は変わらずにいる。筈だったのだが。 「あんた誰」 決して初めてではない問いかけに後藤は溜息をついた。 「俺は後藤恒生といって、お前の保護者だよ。達海」 「ふうん」 自分から聞いておいてどうでも良さそうに頷く姿に後藤は溜息を吐きたいのをぐっと堪えた。 基本的に思考は継続されるはずなのだが、時折こうして記憶ごと退行してしまう事がある。 初めての時は戸惑ったものだったが、今ではそれなりに慣れてしまっていた。 「保護者なら、俺が目が覚めたらどうしたいか知ってるだろ」 「飯だろ。サンドイッチ作ってあるから食べろよ」 うん、と頷いて達海が寝室を出て行く。 その後姿を見送って、漸く後藤は深い溜息を吐いた。 ああしてみると、後藤の知っている達海は随分大人しくなったものだと思う。 子供の癖に上から物事を見るのが当たり前という目で後藤を見てくる。 いつも以上に強い光を持った瞳に晒されて心臓に悪いったらない。 すると閉じられたはずの扉がまた開いて後藤はびくりとした。 「ごとー、何してんだよ。早く来いよ」 「はいはい」 「はいは一回でいいって習わなかったの」 「すみませんね」 もう我が物顔で廊下を歩く達海の後ろを歩きながら後藤は今日何度目かになる溜息をまたかみ殺す。 するとふと達海が立ち止まったので後藤も立ち止まった。 「達海?」 達海はくるりと後藤を振り返ると、「あんたと俺って付き合い長いの」と聞いてきた。 「そうだな、長いといえば長いかな」 離れていた十年をどう換算していいのかわからない後藤がそう答えると、ふうん、と達海は後藤をまじまじと見た。 「どうかしたか?」 「ううん。ただ、あんたの顔見たとき、あんたの事覚えてないのにすっげー安心したから」 だから付き合い長いんだなって思っただけ。 言いたいだけ言うと達海はリビングへと入っていった。 取り残された後藤はぽかんとして立ちすくむ。 安心した。 その言葉が後藤の中でリフレインする。 それは、普段達海が後藤に対して思っていることだと取って良いのだろうか。 だとしたら。 「ごとー、早く!」 「あ、ああ」 それは、凄く嬉しい。 後藤は顔がにやけるのを止められないままリビングへと向かった。 *** この後達海に「何にやけてんのおっさん」とか言われれば良い。 媚薬 (杉江×黒田×達海/ジャイアントキリング) すぐに来て、という呼び出しに従って杉江がクラブハウスを訪れると、丁度鍵を開けている黒田と鉢合わせた。 「お前も呼び出されたのか」 「また碌な事考えてないぜ、あの監督」 並んで達海の部屋の前に立ち、軽くノックすると中からどうぞーと間の抜けた声がして黒田が溜息を吐いた。 「何か用かよ」 すると達海はベッドの上でぼんやりと寝そべっていた。 その潤んだ瞳の焦点は微妙に合ってない。 「達海さん、どうかしたんですか」 杉江が近付くと、あれ、と指差した先にある小箱が目に付いた。 テーブルの上にあったのは、一口サイズのチョコレートの詰め合わせ。 十二個入りのそれの殆どが空になっており、達海が食べたことを示していた。 「なんか、それ食べてから身体が変…」 はあ、と吐く息が熱い。 よく見れば寝巻き代わりに着ているスウェットの前は明らかに彼が興奮していることを示していた。 「…達海さん、これ、何かよく分からない成分入ってますけど」 箱の裏の原材料一覧を見ていた杉江がそう言って黒田に渡す。 「これ、アレじゃねえの、一時ネットで話題になった媚薬入りチョコだろ」 「ああ。違法な成分が入ってるとかで騒ぎになったヤツだと思う」 「どこで手に入れたんだよアンタ」 すると達海はんーと暫く考え込んでいた。 「…コンビニの帰りに、知らないおじさんがくれた」 「そんな怪しいもん食うなよ!!」 「だって俺のファンだって言ってたから断れなくて…」 それに既製品だったから食べても大丈夫だって思ったんだもん。 達海の危機感の無さに黒田は項垂れ、杉江は溜息を吐いた。 「まあ相手に悪気があったかどうかはこの際どうでも良いとして、達海さん、辛いですか」 「少し…頭ぼうっとしてるのに体はずくずくしてて変な感じ…」 杉江が達海の頬に手を添えると、それだけで達海の身体がぴくりと震える。 「熱いですね」 「ん…自分でしようかと思ったんだけど、億劫でさ…」 だから呼んだの。 潤んだ目で見つめられて思わず二人の喉が鳴る。 「ちっ…仕方ねえな」 黒田が舌打ちをして達海を起こすと、後ろから抱きすくめるようにしてその胸の突起をシャツの上から擦った。 「あっ」 「こっちもビンビンじゃねえかよ。スギ、そっち頼む」 「ああ」 黒田が達海のシャツを脱がせ、杉江がスウェットを脱がす。 あっという間に裸にされた達海は、しかし身体が火照っているせいか寒さは気にならないようだった。 「いつからこんなにしてたんですか」 杉江が硬く勃ち上がった達海自身を緩やかに握ると、黒田に背中を委ねた達海は喉を鳴らして悦んだ。 「あっ…二人に電話したときから…」 「ずっとこのままだったんですか?先、ぬるぬるですよ」 先端から滲む体液を指の腹で塗り広げてやればそれは次から次へと溢れてくる。 「ぅん…ずっとイきたくて、でもからだ動かなくてつらい…ぁっ」 徐にきゅっと黒田の指が左右の胸の突起を摘んだので達海の身体が跳ねた。 「じゃあ一回イっておけよ」 それが合図だったかのように杉江が達海自身を口内に迎え入れ、達海の口からは悲鳴のような声が漏れた。 「あああっ、あ、や、スギ…クロも、ゆびっ…」 「何がヤ、だよ。こんなに勃たせておいてよく言うぜ」 くりゅりと指の腹で潰すように擦れば達海の唇からは甘い声が漏れる。 じゅぶじゅぶと音を立てての杉江の吸い上げに達海は一層甲高い声を上げ、呆気ないほど簡単にその口内に精を放った。 「…達海さん、まだ硬い」 しかし一度達しても硬さを保ったままのそれに杉江の口角が上がる。 飲み下しきれなかったそれを指に絡め、達海の後ろの蕾に指を当てると杉江は断りも無くそこに突き入れた。 「ひあっ…ああっ…」 「…筋弛緩剤が入ってるって噂、本当みたいだな。いつもより柔らかい」 「だからこんなにくたくたなのか」 「あ、あっ、あっ」 「これなら、ローション無くても入りそうだ」 ゴムの滑りだけでいけそう、という杉江にそんなにかよ、と黒田が笑う。 「や、クロ、指…やめちゃや…」 「さっきから止めろつったり止めるなつったり注文が多いんだよアンタは」 きゅうっと摘み上げてやればきゃう、と悲鳴が上がった。 そこに杉江の指が奥を突いてくるものだから達海には堪ったものじゃない。 「余り苛めるなよ、クロ」 「そういうスギこそいい加減イかせてやれよ」 微妙に達海の感じるポイントをずらした愛撫に先ほどから達海の腰は揺れっぱなしだ。 「あ、スギ、も、だめ…!」 「ああ、ここでしたっけ?」 「ひゃ、ああっ!」 わざとらしく言いながら僅かに膨らんだそこを擦ってやると面白いほどに達海の身体が跳ね、自身からは勢いよく精液が飛んだ。 「二回イってもまだこれですか」 「ぁっ…」 厭らしいですね、と未だ萎えないそれに息を吹きかけてやればぴくりとそれが揺れる。 「クロ、先挿れるか?」 「いや、お前先に挿れろよ。俺は…」 黒田が後ろから達海の唇を撫でると、意を解した様に達海の舌がその指を舐めた。 「こっちでしてもらうから」 「了解」 にゅぷっと音を立てて指を引き抜くと、それだけでまた達海自身の先端から先走りが滲み出る。 「達海さん、四つん這いになってください」 「ん…」 黒田と杉江に支えられながら四つん這いになると、達海は膝立ちした黒田のズボンの中から勃ち上がったそれを取り出した。 ぴちゃりと舌を這わせると、黒田が微かに息を詰めた音を漏らす。 達海が黒田自身を咥えている間に杉江はベッドの下からコンドームの箱を手に取り、包みを二つ取り出した。 「クロ、お前の分」 「おう」 「んっ、ふ…はふ…」 身体に上手く力が入らないのだろう、いつもより弱々しいそれが逆に黒田の嗜虐心を煽る。 「ほら、いつもみたいにもっと奥まで咥えてみろよ」 「んんっ!ん、んむっ…」 「クロ、やりすぎるなよ」 「わかってら」 そう言いながらも口腔の奥を抉るのを止めない黒田に、杉江はやれやれと思いながらゴムを手早く自身に装着させた。 「達海さん、挿れますよ」 「んんっ…!」 ぬるりといつもより抵抗無く入っていく感覚に杉江は息を詰める。 「やっぱりいつもより緩いですね」 「はっ!アンタの穴はガバガバだとさ監督さんよ」 そこまで言ってない、と杉江が言うより早く黒田自身を吐き出した達海が黒田を睨み上げた。 「そういうこと言う。ふーん、そう」 スギ、俺の脚抱えて持ち上げて。 「こうですか?」 言われたとおりにすると、黒田に向かって達海の恥部が丸見えになる。 「なあクロ、俺のナカにスギのがずっぽりはまってるの見えるだろ」 そう妖艶に笑いながら達海は繋がったそこへ己の指を一本捻じ込んだ。 「俺の穴、ユルユルだからクロのも挿れてよ」 「はあ?!」 黒田が素っ頓狂な声をあげ、杉江はまたとんでもない事を言い出したと思った。 「大丈夫だって。ほら、二本目の指も簡単に入ったんだからクロちゃんのくらい入るって」 「てめえバカにしてんのか!」 「あーごめーん俺ガバガバだからそれくらい入るかなーって思ってー」 「やってやろうじゃねえか!後で泣いても知らねえからな!」 乗せられやすいのも問題だな。杉江はこっそりと溜息を吐く。 「ほら、早くゴム着けろよ。スギの腕が痺れちまうぜ」 黒田はちっと舌打ちするとコンドームのパッケージを手荒く破いて自身に被せた。 そして達海が指で広げている所に宛がうと、ぐっと押し込むようにして挿入を始めた。 「あ、あああああっ」 嬌声というよりは最早悲鳴のそれを聞きながら黒田は腰を進める。 どんな悲痛な声を上げようと煽ったのが達海自身である以上、止める気など毛頭無かった。 「ひ、あああっ、あっ、はっ、はあ…!」 いくら筋肉が弛緩しているとはいえさすがに二本挿しはキツイ。 けれど内臓ごと持ち上げられるような圧迫感に達海の唇が笑みの形を象る。 先ほどから達海自身からは白濁とした液がだらだらと流れ落ちている。イキっぱなしだ。 「あ、はあ、すげ…俺んナカ、スギとクロのでいっぱいになってる…」 ぶっ飛びそうなくらいキモチイイ。 達海のとろけるような声音に二人の理性が焼きちぎられる。 黒田が杉江を見ると、杉江が小さく頷いた。こういう時お互いの考えが読めるのが丁度いい。 二人して達海の腰が逃げないように押さえつけ、ぐいっと腰を突き出すとまた達海の唇から悲鳴が漏れた。 「ひあっ!あっ、あっそんな、激し、ああっ!」 達海が足を引き攣らせながら腰を振る。 突き上げながら杉江がその背に歯を立て、黒田が脇腹に噛み付く。 それすらも快感に繋がるようで、達海は一層激しく声を上げた。 「あっ、あっ、や、だめ、もうイっちゃう、だめっ」 「っ…」 「くぅっ…!」 「ああああっ!」 一瞬のスパーク。 杉江と黒田が薄いラテックスの中に精を吐き出すと同時に達海もまた己の腹に向けて、殆ど透明になってしまった精液を吐き出した。 「あ、おい、達海さん?!」 黒田の焦った声を耳に、達海の意識はそこで途切れた。 *** そして「死にかける」に続く。すみませんでした。(再び土下座) 過去へタイムスリップ (??×達海/ジャイアントキリング) ※前中後その後の何かよく分からない話です。(え) 村越おじさんが私の本当の父親だと知ったのは、進むべき高校が決まったその夜だった。 受験合格のお祝いにお母さんがケーキを買ってきてくれて、お父さんがたくさんの料理を作ってくれた。 弟の生海(いくみ)も珍しくお父さんのお手伝いをしていた。 四人でご飯も食べて、ケーキも食べ終わるって頃、お父さんが言い出した。 美幸、お前にはもう一人お父さんがいるんだ、って。 私とお父さんは血が繋がっていなくて、本当のお父さんは村越おじさんだって。 ショックだった。 そりゃあ私はお母さん似でお父さんに似たところなんて一つも無かったけれど、お父さんの本当の子だって信じてたから。 一通り話を聞いて、頭では納得した。 今までたくさん愛してもらった事は事実で、これからもきっと変わらないって事もわかってる。 けれど気持ちがついていかない。 村越おじさんが私の本当のお父さん? 村越おじさんとは今日だって電話で話したばかりだ。 受験に受かったって話したら、おめでとうって言ってくれて。 今度一緒にご飯食べに行く約束もした。 ちょっと無愛想だけど優しいおじさん。 その村越おじさんが私の本当のお父さん。 どうしてお母さんと村越おじさんは別れちゃったんだろう。 私がお腹にいたのに。 「それは君のお母さんが村越を理解できていなかったからだよ」 突然聞こえた声に私はびっくりして顔を上げた。 「…パッカ君?」 そこにはETUのマスコットキャラのパッカ君がいた。 「お母さんが村越おじさんを理解できてないってどういうこと?」 「達海は村越に愛されていないと思い込んでいた。同時に村越も達海に愛されていないと思ってた。だから別れちゃったのさ」 「恋人同士だったのに?」 するとパッカ君はうーん、と首を傾げた。 「恋人同士って言うのも違うんだけど…まだ君には早いかなあ」 「何よ、私、もう高校生になるのよ」 「うーん。だったら直接会ってきたらどうだい」 え。私は目を丸くした。 「君を過去に連れて行ってあげよう」 「パッカ君、そんな事もできるの?」 君は特別さ。パッカ君が笑う。 「達海にはまだ借りを返してないからね」 「どういうこと?」 けれどパッカ君は私の話なんて聞いてない風で、腕をぶんっと振り上げた。 「じゃあ、行こう!君が生まれるまでの物語へ!」 途端、辺りが光に包まれて私は眼をきつく閉じた。 「ただし、一つだけ注意がある」 過去は変えてはいけないよ。パッカ君の声が遠くなる。 「過去が変わってしまったら、君の存在も危うくなるからね」 そうして私は十五年前の世界にやってきた。 私の周りには掌サイズのパッカ君がいつもいて、色々と教えてくれた。 つまりお母さんと村越さんは所謂身体だけのお付き合いってヤツだったらしい。 お母さん、軽い所あるって思ってたけどそういう所も軽かったなんて。 ちょっと軽蔑。あ、この時のお母さんを、ね。 私の知ってるお母さんはお父さんにベタ惚れだって知ってるもん。 こっそり見る限り、この時点ではまだお父さんとお母さんは友達同士みたい。 で、お母さんと村越おじさんはビミョーな空気。重たい空気というか。 どうやらこの時のお母さんのお腹にはもう私がいて、お母さんはそれで悩んでいたみたい。 私がここ居いる限り、結局産んでくれたって分かってるけど、でも堕ろそうか悩んでるお母さんを見るのは辛い。 何より、険しい顔をした村越おじさんを見るのが辛かった。 あんなに怖くて辛そうな顔をした村越おじさん、初めて見た。 もうホント、一人の時なんて鬱状態なんじゃないのっていうくらい暗い顔して座り込んでいる姿をたくさん見た。 「村越と話したい?」 「いいの?」 「君にその覚悟があるのなら」 何の覚悟かなんて、聞かなくても分かった。 でも。 「いいよ。話してみたいし」 私の姿は誰にも見えないらしくて、まだ若い(って言ったら失礼かな?)有里さんの後ろに付いてまんまとクラブハウスの中に入った。 ロッカーには丁度村越おじさん一人で、そこで漸く私はパッカ君に頼んで姿を現してもらった。 「村越おじさん」 ばっと村越おじさんが振り返る。その顔は驚きに染まっていた。 自分以外誰もいないはずのロッカーに突然見知らぬ少女がいたらそりゃ驚くよね。 「誰だ。ここは関係者以外立ち入り禁止だ」 「関係者って言ったら?」 「何?」 「私の顔、誰かに似てない?」 すると村越おじさんはじっと私を見た後、達海さん、と小さく呟いた。 「正解」 「達海さんの親戚か何かか」 「ちょっと違うけどまあそんなとこ」 「俺に何の用だ」 「ちょっと話がしたくて」 俺と?村越おじさんが訝しげな顔をする。 「おか…達海サンが今どういう状態か知ってる?」 「状態、だと?」 (これ以上は危険だよ) パッカ君が耳元で囁く。うん、分かってる。 でも、もういいの。 「あの人、お腹に赤ちゃんがいるよ」 村越おじさんは目を目一杯開いて私を見た。 「子供、だと…」 「誰の子、なんて聞かないでよ?わかってるでしょ?」 まさか、と村越おじさんが呟く。まさかもさかさまもないでしょ、やることやっといて。 「あの人、迷ってる。村越おじさんの気持ちが分からなくて一人で悩んでる。堕ろそうか産もうかって」 「!」 「待って!」 咄嗟にロッカーを飛び出そうとした村越おじさんを引き止める。 「あの人に言う前に教えて。村越おじさんはあの人の事、愛してるの?」 すると村越おじさんは少しの沈黙の後、はっきりと言った。 「…愛している」 途端、私の手が透けて村越おじさんがぎょっとした。 ああ、もうだめなのね。 半透明になってしまった私をまじまじと見つめ、君は一体、と村越おじさんが言う。 「私、お父さんとお母さんの事も好きだけど、村越おじさんの事も大好きなの」 だから村越おじさんにも幸せになってほしい。そんな未来があってほしい。 「私はもう消えてしまうけれど、私の分まで幸せにしてあげて」 もうさようならだね。 「ありがとう…もう一人のお父さん」 そうして私の意識は途絶えた。 ハズだったのになあ。 気付いたら私は自分の部屋のベッドにいた。 むくりと起き上がると、小さなパッカ君が私の前に現れた。 「おはよう、お姫様」 「どういうこと?私は未来を変えたから存在が消えちゃったんじゃないの?」 「そうさ。あの世界では君は産まれなかった。産まれたのは違う君だ。だから君はあの世界から弾き飛ばされた」 「この世界とあの世界は違うの?」 「時間なんてものは曖昧で多様なもので、どうにでも変わっていくものさ」 パッカ君の言う事はよくわからない。 「じゃあ今はいつなの?」 「君が本当のお父さんを知らされて、拗ねてベッドに飛び込んだ直後さ」 「じゃあ…」 するとコンコン、と控えめなノックがして扉が開かれた。 「美幸、その、入るぞ」 お父さんだった。パッカ君はいつの間にか消えていた。 「何」 「その、やっぱり、ショックだよな」 しゅんとしたお父さんの姿に思わず笑みがこみ上げる。 「うん。ショックだったけど、もういいの」 「え?」 私は起き上がるとお父さんの胸に飛び込んだ。 「村越おじさんも好きだけど、お父さんの事も大好きだから良いの!」 「美幸…」 ありがとう、と私を抱きしめるお父さんの声が震えていたのを私は気付かない振りをした。 「ほら、達海も美幸に何か言ってやれよ」 え?と顔を上げると、扉の陰に隠れるようにしてお母さんが立っていた。 決まり悪げな顔でお母さんは悪かったな、とだけ言ってぷいっと横を向いてしまう。 「こら、達海!」 「いいの、お母さんも大好き!」 今度はお母さんの胸に飛び込む。 お母さんは足が弱いから、思い切りは飛び込めないけれど、ぎゅってしてもらえて凄く嬉しい。 「あ、ついでに生海の事も大好きだよ」 「ついでって何だよついでって」 お母さんの陰で見守っていた生海がぶすくれた声を上げる。 生海だってどうしていいかわかんないよね。そうだよね。 「美幸、ごめんな。隠してて」 申し訳なさそうなお母さんに、「いいのって言ったじゃん」と私は笑う。 「村越おじさんは知ってるんでしょう?私が自分の子供って」 「んー…まあ」 「よっし、じゃあ明後日ご飯食べに行く時、一発蹴飛ばしてやるんだから!」 「美幸、それどういう感情からなの?」 「わかんないけど!蹴飛ばしたい気分なの!!」 笑顔で言うと、お父さんは「お前の悪影響が…」とお母さんに零していた。 「ねえお父さん、私ココアが飲みたい」 「じゃあミルク温めようか」 すると生海も「僕も飲む」と手を上げる。 「わかった。達海は?」 「俺ドクペ」 「ドクペは一日一缶です」 「じゃあココアでいーよ」 私達がそんな事を話しながら部屋から出て行くと、静かになった室内にあのパッカ君が現れた。 「…これで右足分くらいの借りは返せたかな?達海」 そんな事を言ってたなんて、知らないまま。 私達はキッチンで並んでミルクを温めていた。 *** 美幸がいたからこそ猛人が生まれて、ゴトタツ編があったからこそコシタツ編があったのかもしれない。みたいな話。 惚れ薬 (後藤×達海/ジャイアントキリング) 今、達海の手の中には所謂惚れ薬というものが存在している。 アンプルに入ったピンク色の液体。 これを達海にくれたのはイングランドのある老婆だ。 孫のフットボールを見てやったらお礼にと渡された。 いつかあなたに必要になるときが来るから、と渡してきた老婆の顔はもうあやふやだ。 けれどにんまりと笑っていた口元だけは良く覚えている。 胡散臭いことこの上ないのだが、魔法や呪術を信じている彼らの事だ。この薬も本気で惚れ薬だと思っているのだろう。 もしかしたらこの液体には本当にそんな効果があるのかもしれない。 少なくとも、捨てたと思っていた薬が何故かDVDの海から発掘されたことに関しては不思議としか言いようが無い。 いつか、と老婆は行った。 その時が今だとでも言うのだろうか。 確かに達海は少々煮詰まっていた。 後藤の煮え切らない態度にイライラとしていたのだ。 あんなに熱い視線を向けてくるくせに、こちらが隙を作ってやっても襲ってくるどころか想いを告げてこようともしない。 これを使ってやろうか。達海は思う。 達海は惚れ薬というものは媚薬の一種だと思っている。 だからそういう使い方もアリではなかろうかと達海は思う。 けれど。 「……」 達海はもう一度手の中のアンプルを見つめ、やがて溜息を付いてそれをゴミ箱へ放り投げた。 「仕方ねえなあ」 達海は立ち上がると部屋を出た。 後藤に会いに行こう。 そしてあんなものなど使わずに、ただ問い詰めればいいのだ。 「なあ後藤、お前俺の事好きなんだろ?」 いい加減、俺の前で認めろよ。 *** 惚れ薬の定義がよく分からなくてこんな事になりました。(爆) 猫(犬)を拾う (??×達海/ジャイアントキリング) 雨の日、達海はいつものようにコンビニに行っていた。 今日は傘を持っていたのでのんびりと帰路に着くことができた。 すると、なう、と声がして達海は立ち止まる。 道の隅にずぶ濡れの猫がこちらを見ていた。 身体は真っ白で、尻尾の先だけが黒い猫だった。 「……」 普段、達海は野良猫などには見向きもしない。 けれど、どこかこの猫には達海を惹きつける何かがあった。 「…来るか?」 ごとーんちだけど。 そう言うと、また猫はにゃう、と鳴いた。 達海はそれを了承と取って歩き出した。 後ろから猫が付いてくるのを感じながら、達海は後藤のマンションへと向かった。 *** 「動物と遊ぶ」その後、みたいな。 |