孤独な君へ5のお題

放って置いてくれ、係わるな
(リチャード×達海/ジャイアントキリング)

ああ、もう俺の脚は駄目なのか。
そう実感したのは、通訳越しに医者の言葉を聴いた時だった。
リハビリをすれば日常生活への支障がどうとか、そんなことどうでもよかった。
もうこの脚は走れない。それだけが正しく理解できた。
一緒に診断を聞いていたリチャードは何故か俺に謝った。
俺が君を引き抜いたから、と謝った。
何でそんな謝罪を受けるのか分からなかった。
引き抜きに応じたのは俺で、試合に出る事を望んだのも俺で、あの時阻まれたのも俺だ。
誰かのせい、というならば全ては俺のせいであって、リチャードのせいなんかじゃない。
だけどリチャードの考えは違うようだった。
自分の地位を捨ててまで俺の医療費をフロントからぶんどってきた。
それくらいの貯えはある、と言ったけど変なところで頑固な所があるリチャードは聞かなかった。
結果、解雇はされなかったけど危うい所まで行ったらしい。俺なんかのために。
ありがたい話なんだろうけど、正直な所、放っておいて欲しかった。
だからもう俺に係わるなよ。俺はそう言ったけどリチャードはやっぱり聞いちゃいなかった。
リチャードは殆ど毎日俺の病室を訪れたし、リハビリにも付き合ってくれた。
チキンでナースにも碌に話しかけられない男だけれど、俺のリハビリに付き合ってくれる姿は優しかった。
きっと真面目で優しすぎるんだな、と思ったら一人の男を思い出した。
あー。思い出さないようにしていたのに。
後藤からは時折エアメールが届いた。でも一通も読んでない。
きっと笠っさんから俺の脚の事も聞いているんだと思う。
だからこそ、余計に読めなかった。
今日もリチャードが後藤からの手紙を持ってきた。
だけど読まずに引き出しに仕舞う俺の姿をリチャードは黙って見ていた。
リハビリも順調に進んで退院が間近になった頃、リチャードが言った。
行く当てが無いのなら、僕の家に住みなよ。
リチャードが離婚して母親と二人暮らしなのは知っていた。
そんなところに俺が行ってどうすんだよ。
断ったけど、リチャードは引かなかった。
色んな理由を並べ立てられたけれど良く覚えていない。
ただ、一つだけ。
寂しいんだ、と言ったことだけは覚えている。
その気持ちには、覚えがあったから。
そして俺は退院し、リチャードと一緒に暮らす事になった。



***
監督を始める前までの五年くらいの間が気になる。





隣に居てもいいだろうか?
(村越&??/ジャイアントキリング)

※「過去へタイムスリップ」その後です。


「えいっ!」
玄関先に現れた村越の顔を見るなり、美幸は村越を蹴った。
見事に決まったローキックに、さすが村越はぐらりともしなかったが眼は白黒とさせていた。
「何だ、突然」
「説明は後!それより料理、作ってくれた?」
靴を脱ぎながら問えば、ああ、と短い応えが返ってくる。
今日は美幸の受験合格祝いという事で本当なら何処かへ食べに行く予定だった。
けれど美幸が突如「おじさんの手料理が食べたい」と言い出したので村越のマンションに訪れたのだ。
こうして美幸が村越の部屋を訪れることは珍しくない。
昔から村越と交流のあった美幸にとって、今や村越は第二の父親のようなものだ。
というより、父親そのものだったのだが。
やっぱりちょっと照れるよね。
美幸は手を洗いながら思う。
それにしても。内心で溜息を吐く。
今まで知らなかったとはいえ、不用意に両親の仲の良好ぶりをべらべら喋っていたが、村越はどんな思いで聞いていたのだろう。
大抵、そうか、の一言で終わっていたが、その一言にどれだけ複雑な感情が混じっていたのかと思うと謝りたくなってくる。
当然、謝るようなことでもないと分かっているのだが。
それでも今後は少しは控えようと思った。
「美幸」
「了解」
差し出された杓文字と二つの茶碗を手に炊飯器の前に立つ。
ぺたりとご飯をよそい、それぞれの場所に並べると味噌汁の入った椀を村越がその隣に並べる。
箸も並べて完成。
今日の夕飯はサバの味噌煮にナスとピーマンの煮付け、ほうれん草とシメジのおひたし。あと小物が少し。
お味噌汁はわかめと油揚げ。そして白いご飯。
「いただきまーす!」
とりあえず、今は腹を満たすことに専念するべし!!


「私ねえ、おじさんの作るご飯も好きだよ」
並んで洗い物をしている時にそう言ってみると、何だ突然、と訝しがられた。
「んー、何て言うかね」
きゅっと蛇口を閉めながら美幸は考える。
「村越おじさんは、今でもお母さんの事、好き?」
さっと村越の表情が強張るのを美幸は見た。
「…誰かに、何か言われたのか」
かちゃん、と最後の皿を片付けた村越の声音は固い。
「あのね、全部聞いたの。お父さんとお母さんから」
「……とりあえず、座れ」
「うん」
リビングへ向かい、ソファに並んで座る。
実質的な距離は近いのに、どこか距離を置かれた。美幸はそう感じた。
「さっきの蹴りはね、なんていうか、よくも今まで黙ってたな、みたいな、そんな感じ」
「そうか」
「ねえ、改めて聞くけど、今でもお母さんの事、好き?」
「……」
村越は沈黙を保ち、美幸もまた沈黙で以って待った。
やがて村越は溜息を吐き、わからない、と呟くように言った。
「あの人を想うようになって二十五年以上経つ。もうこの感情が何なのか、よくわからん」
けれど、と村越は言う。
「あの人を見て胸が痛むことは未だある。だがそれを苦しいとはもう思わなくなった」
これが麻痺しただけなのか淘汰されたのかはわからないが、もう、昔のように強くは想えない。
それに、と村越は苦笑する。
「今はあの人よりも、お前の方が気になる」
「私?」
「…俺が父親だと知って、どう思った?」
「別に。最初はショックだったけど、落ち着いてみたらなんとも無かったよ」
だって私はお父さんもお母さんも村越おじさんも大好きなんだもん。あ、ついでに生海も。
「俺は、これからもお前の傍にいてもいいんだろうか」
「勿論よ!お母さんだってそれを望んでるはずよ」
すると村越は苦笑した。
「あの人は…どうだろうな」
「何よ、娘の言う事が信じられないって言うの?」
村越は苦笑を深めると、ふと肩の力を抜いた。
「美幸」
「なあに」
「帰ったら、あの人に伝えてくれないか」
「うん」
「俺は十分幸せだと」
あんたたちが笑っていられることが、何よりの幸せだと。
漸く、思える。



***
村越救済はコシタツ編で行いましたが、やっぱりゴトタツ編での村越の救済もあった方がいいかな、と思って考えてみました。





他人に俺が理解出来る筈がない
(リチャード×達海/ジャイアントキリング)

他人に俺が理解できるはずが無い。
だってそうだろ。
俺の痛みは俺の痛みで、お前の痛みじゃない。
だから同情される謂れなんて無いんだ。
そんなもん、クソくらえだ。
俺の痛みは俺の痛みだ。
だから俺が背負っていくんだ。
そう言ったらリチャードに怒られた。
君のそういう潔い姿勢は好ましいと思う。
けれどそればかりでは余りにも寂しすぎるじゃないか。
人は人を理解するために生きているんじゃないのか。
そう語ったリチャードの眼は真っ直ぐすぎて、やっぱりどっかの誰かを思い出した。



***
リチャタツと見せかけたゴトタツという罠。





独りになりたがるのは失うのが怖いから
(後藤×達海/ジャイアントキリング)

どうしたいんだお前は、と後藤が困ったように言う。
どうもしたくない、と言えば後藤の眉尻が一層下がる。
「何度告白されても俺の答えはノーだよ後藤」
「でもお前も俺の事好きなんだろ」
「好きだけど、でも嫌だ」
何が嫌なんだ、と問われ、唇をきゅっと噛む。
「達海」
「…俺とお前は監督とGMで、友達で、元チームメイトで、沢山の絆があるじゃないか」
もう、それだけで十分じゃないか。
これ以上、増やさなくてもいい。
「でも達海、これから増える絆が、一番大事なんじゃないのか」
「だったら尚更いらない」
そんなの怖くて持てない。
けれど後藤は大丈夫だよ、と微笑う。
「俺も半分持つから。だからお前一人で抱え込まなくて良いんだよ、その気持ちは」
「本当に?」
「本当に」
じゃあ、いいのかな。達海は後藤に手を差し伸べる。
その手を後藤が取り、そっと包み込んだ。
「やっと、捕まえた」



***
恋愛におどおどして逃げるタッツを何とか捕まえたゴトさん。





君を置いて逝ったりしない
(後藤×達海/ジャイアントキリング)

達海を置いて逝ったりしないよ。
お前が逝くのを見届けてからじゃないと死んでも死に切れない。
達海は寂しがりやだから。
後藤がそう笑って言ってからもう何十年も過ぎた。
色々あったけれど、相変わらず俺たちは一緒にいる。
俺も後藤も残りの人生、あとどれだけなのだろうと思うくらいの年になった。
死が、現実のものになりつつある。
後藤はあの時の約束を今でも覚えているんだろうか。
このまま順当にいけば、先に死ぬのは後藤だ。
四つの年の差は、こればかりはどうしようもない。
それとも後藤は、俺の方が身体が弱いから、俺の方が先に死ぬと思っているのだろうか。
俺が先に死ぬ事に関しては賛成だけれど、それはそれで失礼だ。
俺も後藤もきっとどちらかが死んでしまっても生きていけるのだと思う。
人はそこまで弱くは無い。図太いもんなんだ。
けれど、そこまでして生きていたくもない。
「なあ、後藤」
結局、どちらが先に死ぬかなんて、本当のところはさっぱりわからないのだから。
「そろそろ、死のうか」
その時を、自分で選ぶしかないのだ。



***
おじいちゃんになっても「後藤」「達海」呼びのままなのだろうかと無駄に悩む。

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