大人五題

あれは不完全な人間
(リチャード×達海/ジャイアントキリング)

タツミは不完全な人間だ。
勿論、完全な人間などそうそう存在しない。
けれどタツミは欠損範囲が大きすぎるとリチャードは思う。
彼の全身は余りにもフットボールで占められていて。
それが失われつつある今、彼に何が残るのだろうか。
一つだけ、気になる存在がある。
『後藤恒生』
それをどう読むのかはリチャードには分からない。
タツミに時折届く手紙の差出人の名前だ。
だけどタツミはその手紙を読もうとしない。
興味がないというよりは、読んでしまったら何かが終わってしまう、そんな雰囲気だ。
『後藤恒生』という存在がもしかしたらタツミの最後の砦なのかもしれない。
そう思ったら、少しだけ悔しくなった。



***
後藤が邪魔でなかなかリチャタツにならないwwww





彼はいつも一歩離れて此方を見ている
(後藤×達海/ジャイアントキリング)

達海はいつも一歩離れてこちらを見ている。
チームメイトと一緒になってはしゃいでいるようでも瞳の奥は違う。
いつもどこか冷めた色を湛えて、こちらを見ている。
何が彼をそんなに孤独に追いやるのかは分からない。
どうにかしてそんな達海に近付こうとするのだけれど。
いつもするりとかわされてしまう。
それは十年経ってからも同じだった。
いつも笑いながらも何処かで褪めた目をした達海。
そんな眼をさせたくなくて、好きだと言った。
少しでもそれが和らげばいいのに、と思って。
達海、俺はこんなにもお前を必要としているよ。
サッカーとか関係なしに、お前という個人が欲しいんだ。
達海、達海。
頼む、届いてくれ。



***
「一人だって、大丈夫」の後藤視点のようなそうじゃないような。(爆)





無慈悲を演じる義務
(村越×女達海/ジャイアントキリング)

※前中後の前の後くらいです。


自分の身体が女である間、達海は何度も村越と寝た。
その度に村越が自分への執着を増していくのだと思うと一層快感だった。
やがて何度も情を交わしているうちに愛着がわいたのだろう。
村越を可愛いと思うようになった。
ベッドの中で達海さん、達海さん、とうわ言の様に呼ばれるのが心地よくなった。
堪えきれないといった表情で自分の中で達する姿が愛しかった。
可愛い村越。
でもそれを表に出してはいけない。
だってこの関係に愛は無い。
あるのは執着と密やかな快楽。
ただそれだけ。
だって、村越だって困るだろう。
こんな男とも女ともとれない身体の持ち主に好かれたって面倒な事ばかりだ。
だから言わない。
どんな事になったって、絶対に。
お前の事が好きかもしれない、なんて。
言わないと、決めたのだ。



***
ほんとはぎゅっとかしたいけど我慢してるタッツに萌える。





責務と良心と打算と諦念と
(村越&??/ジャイアントキリング)

こんこん、と軽いノックがして村越が書類から顔を上げると、美幸がそろりと入ってくる所だった。
「こんにちは」
「おや、美幸ちゃんお帰り」
松原や他のコーチ陣の声に美幸はぺこりとお辞儀をする。
「ただいまです」
その背にランドセルが無いという事は既に達海の部屋に寄って来たのだろう。
その代わりに何やらファイルを手にしている。
「村越おじさん」
コーチ陣の中に村越の姿を見つけるとぱっと表情を華やかせ、村越の下へ駆け寄ってくる。
「お帰り」
「ただいま。お母さんがこれ、みんなに見てもらってって」
「そうか、ありがとう」
抱えていたファイルを差し出す美幸からそれを受け取り、頭を撫でてやると美幸は嬉しそうに笑って踵を返した。
「失礼しました」
またぺこりとお辞儀をして出て行く姿を見送って、松原がふやけた顔で溜息をついた。
「美幸ちゃん、ほんとイイコだなあ。うちの末っ子の嫁に来てくれないかな」
「松原さん、いつもそれ言ってますよね」
わいわいと喋っている中、村越は手渡されたファイルを見るふりをして視線を伏せた。
もしここであの子は自分の子だとばらしてしまったらどうなるだろう。
時折、そんな誘惑に駆られる。
そんな事したところで今更どうにもならないと分かっているのだが。
それでも、少しでも楽になりたいという衝動が村越を突き動かす。
「…よなあ、村越」
「!」
はっとして顔を上げると、にこやかな笑みを浮かべた松原と目があった。
「な、にがですか」
「美幸ちゃんは本当にお前に懐いているなぁって話だよ」
「…そうですね」
震えそうになる声を振り絞り、村越はファイルを松原へと手渡した。
「とても、光栄な事です」
今自分はどんな顔をしているのだろうか。
そればかりが気がかりだった。



***
美幸一年生くらい。村越は新任コーチ。





泣く資格など、ない
(村越×達海/ジャイアントキリング)

※前中後の中の後くらいです。


俺に泣く資格なんて、無い。
あの人に背を向け続けた俺に、そんな資格は無い。
思えばあの人は時折何かもの言いたげな顔をした。
時折縋るように伸ばされた手は、何を求めていたのか。
村越、と囁いたその先に、何があったというのか。
今更問うことも出来ないし、許されないけれど。
時折、あの声の先を夢に見る。
それは夢想というよりは妄想としか言いようが無いけれど。
そんな夢で目が覚める時は決まって目尻が濡れている。
俺に泣く資格なんて無い。
無いけれど。
溢れてくるこれを止める術を、俺は持たない。



***
妊娠後期くらい。

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