あいうえお題

変わるもの変わらないもの
(後藤×達海/ジャイアントキリング)

※前中後のその後です。


先天性転換型両性具有者に限り、戸籍上の性が同じでも籍が入れられるようになった。
それは達海たちにとって大きな一歩だった。
「でさ、結婚するのはいいんだけど」
その夜、達海は後藤にそう切り出した。
「後藤と結婚したら俺、後藤猛になるわけだろ?」
「そうだな」
それがどうかしたのか、と首を傾げる後藤に達海はうーん、と唸る。
「後藤は俺の事、名前で呼びたいの?」
俺自身、自分の名前たまに忘れるくらい「達海」に慣れちゃってるんだけど。
そう続けると、後藤もうーんと唸った。
「確かに達海は達海って感じだしなあ」
「それにさ、俺、後藤が達海って呼ぶの好きだよ」
変に名前呼ばれるよりそっちの方が好きだ。
達海の言葉に、だったら、と後藤は微笑う。
「俺はこれからも達海って呼ぶさ。そういうお前こそどうするんだ。お前も後藤になるんだぞ」
「俺は別に恒生って呼んでやってもいいよ」
「…何でそんな上から目線なんだよ」
「何だよ、嫌なの?」
「そりゃあ、呼んで欲しいけど…」
言葉を濁らせる後藤に、達海は可笑しそうに笑った。



***
美幸が五歳くらいの頃です。両性具有は俗称らしいですが見逃せww





君が大切すぎて
(村越&??/ジャイアントキリング)

※前中後その後です。


六月のある晴れた日、美幸は村越のマンションを訪れていた。
「それでね、バイト先の先輩がね、」
美幸は高校に入ってすぐとある飲食店でアルバイトを始めており、最近はなかなか村越の元を訪れることが出来なくなっていた。
そんな中、久しぶりにオフが重なったので美幸は喜び勇んで村越の元を訪れたのだった。
学校の事やバイト先の事を引っ切り無しに語る美幸に、村越は時折相槌を打ちながらそれを聞き続けた。
「あーあ、喋ったら喉渇いちゃった。おじさん、ココア残ってる?」
「お前しか飲まないんだから残ってるだろう」
じゃあ入れてくる、と立ち上がろうとした美幸を制して村越が立ち上がった。
「入れてきてやる。待ってろ」
「はーい」
キッチンに立つ村越に意識を向けながらもちらりと美幸は己の鞄を見る。
渡すなら、今よね。
村越が戻るのを今か今かと待ちながら、美幸は思う。
そして村越がココアと自分のコーヒーのカップを手に戻った時、美幸は鞄に手を掛けた。
「熱いぞ」
「あ、ありがとう。あの、あのね、」
美幸は鞄からラッピングされた細長い箱を取り出して村越に差し出した。
「これ!おじさんにプレゼント!」
村越は目を見開いてそれを見下ろした後、「俺に?」と美幸を見た。
「うん、貰って欲しいの」
「…わかった。開けてもいいか」
「うん…気に入るかはわかんないけど…」
がさがさと音を立てて開けていく村越を美幸は胸を躍らせながら見守る。
そして現れたのは、箱に包まれた一本のネクタイ。
添えられたメッセージカードには「お父さんありがとう」の文字。
驚きに目を見張って美幸を見ると、美幸は頬を赤く染めながらあのね、と言い訳の様に言い募った。
「あの、来週父の日だし、でも来週は私バイトだし、でもね、おじさんにも凄く感謝してるの。だから、」
おじさんスーツ余り着ないからネクタイも使わないかなって思ったんだけど、でもネクタイなら何本あっても困らないって聞いて。
ほんとはメッセージカードどうしようか迷ったの。でもおじさんは私の本当のお父さんだからいいかなって。
しどろもどろに説明する美幸を呆然と見つめていた村越は、カードへと再び目を落とした。
よく見ればそれは美幸の手書きで、村越は目の奥が痛むのを感じた。
「…美幸」
「え!はい!なに?!」
真っ赤になって俯いていた美幸が顔を上げると、そこには泣きそうな笑みを浮かべた村越がいた。
「…ありがとう」
大切にする、と言う村越に、美幸は赤い顔のまま頷いて笑った。
「どういたしまして!」



***
多分美幸の初恋の相手は村越だと思う。





草木のように育つもの
(??/ジャイアントキリング)

※前中後、その後です。


生海が姉と血が半分しか繋がっていないと知ったのは、八歳の時だった。
両親は色々と説明してくれたけれど、まだ幼い頭でははっきりとそれを理解できず、ただ呆然としたのを覚えている。
だけどそれからも何かが変わったという事もなく、姉は姉であったし、両親は両親であった。
生海もまたそれを受け入れていたし、何事もなく時は過ぎていった。
それから五年。
生海は中学生になり、姉は大学への道を蹴って地元の診療所に勤めていた。
成長期の訪れた生海の背はぐんぐん高くなり、今では女性にしては高身長のはずの姉を軽く追い抜いた。
姉はそれが気に食わないらしく文句を言っていたが、こればかりは父親の血だろう、未だに伸び続けている。
そうして姉を見下ろすようになって初めて気付いた。
あんなに大きく頼もしく見えた姉は今では自分より小さくて細い。
幼い頃、ゲイの子だと苛められた自分を守ってくれたあの背は、手は、こんなに小さかっただろうか。
そうだ、守らなくては。
今まで姉が自分を守ってくれた分、今度は自分が姉を守らなくては。
きっと姉はそんなこと考えなくたっていいのよ、と笑うだろうけれど。
少しくらい、頼りがいのある弟になりたいのだ。
いつまでも守られてばかりの存在じゃないと。
姉に、気付いて欲しい。



***
いつも美幸はダブルファザコン、生海はマザコンシスコンだと思って書いてます。(爆)






決して見るつもりじゃ!
(椿&女達海/ジャイアントキリング)

※前中後の中の後です。


椿がそれを見てしまったのは偶然だった。
今日も一人反省会に呼ばれて達海の部屋を訪れていたのだが。
一緒になってボードを覗き込んだときにそれに気付いた。
(か、かかか監督ブラつけてない!)
シャツの隙間から見えてしまった二つの膨らみに、椿のサッカーへの意識は一気に吹っ飛んだ。
「…が…で、そうなった時に…」
達海が何かを説明しているが全く頭に入らない。
見てはいけないと思いつつもちらちらとそこへと視線が向かってしまう。
(監督のって小ぶりで可愛い…じゃなくて!)
「椿、聞いてるか?」
「はははははい!!すみません!!!!」
真っ赤になって思わず立ち上がると、訝しげな表情をした達海と目があった。
そしてやっぱり視線は胸元に向かってしまい。
更にそこに二つの尖りを見つけてしまってはもうどうしようもない。
「〜〜〜〜!!」
「椿?」
「すみません!頭冷やしてくるッス!!」
椿は耐え切れず達海の部屋を飛び出した。
何も考えずロッカーに飛び込むと、そこには未だ何人かのチームメイトが残っていて、突然駆け込んできた椿に目を丸くしていた。
「どうしたんだよ椿」
丹波の問いかけに椿は真っ赤な顔のまま「いいい今、監督の部屋で…!」と説明を始めた。
「それで、か、監督、ノーブラで…見えたッス…」
「マジでか!」
石神がひゅうと口笛を吹く。
「確かに監督、そういうの無頓着そうだしなー」
「俺もう監督の顔見れないッス…」
「良かったな椿、いいもん見れて」
恥ずかしさから顔を両手で覆ってしまった椿の背を堀田がばしばしと叩いた。



***
「薄着厳禁」のちょっと前くらい。ネタ提供ありがとうございます!





この痛みすらも
(深作×達海←後藤/ジャイアントキリング)


深作と達海が再会を果たした事を知った時、とうとうこの日が来てしまった、と後藤は何処かぼんやりとした頭でそう思った。
現役時代、達海が深作に入れあげているのは誰の目にも明らかだった。
あのサッカー以外に執着を持たなかった達海が、深作の前でだけはその目を輝かせていた。
だからこそ後藤は身を引き、達海の親友の座を得ることで全てを堪えた。
いずれ時が全てを薄らげてくれるだろうと信じて。
けれど十年経っても後藤の中で達海の存在位置は変わらぬままで。
再会した達海は相変わらずサッカー以外には興味がなさそうで、後藤の胸を抉った。
寧ろ後藤の想いに気付いていて、それをかわそうとしている節すらあった。
しかし達海が誰のものでもないのであれば、それで良いと自分に言い聞かせてきた。
だが、深作と再会してからの達海の表情はどうだ。
あの、穏やかで幸せにとろけそうな表情は。
後藤では決して引き出すことの出来なかった表情を、深作はいとも簡単に引き出してみせた。
悔しい、そう正直に思った。
それと同時にやはりな、と達観した部分もあった。
自分では駄目なのだ。深作でなくては駄目なのだと。
ああ、ならばせめて。
達海がいつまでも幸せであるようにと。
彼を愛し、祈ることだけは許して欲しい。
達海が幸せであることが、自分の何よりもの幸せであると。
いつかきっと、この胸の痛みがなくなるまで。
そう、想わせて欲しい。



***
一度は没になったのですがサルベージしてきたw

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