あいうえお題

さあ、説得だ。
(後藤×達海/ジャイアントキリング)

達海は風呂場に玩具を持ち込むのが好きらしかった。
水鉄砲であったり、アヒルの親子であったり、船の形をした温度計であったり。
それらを湯船の中で弄ったり、眺めたりして入るのが好きなようだった。
おかげで後藤のマンションの風呂場は玩具だらけだ。
特に最近のお気に入りはアヒルの親子らしくて。
何処で買ってくるのかアヒルの雛の浮き人形を来るたびに一羽連れてくる。
現在、親一羽と雛が九羽。
そして今日、また達海は新たな雛を連れて後藤のマンションへとやってきた。
これで、雛が十羽。
いい加減にしてくれ。後藤は大きな溜息を付いた。
多少の事なら可愛さも手伝って見逃せたが、これはさすがに違うだろう。
「達海、少し話がある」
新しく持ち込んだアヒルの子を弄って遊んでいた達海にそう言うと、彼は胡乱げな目で後藤を見上げてきた。
さあ、どう説得するべきか?
後藤はどこか間の抜けた顔のアヒルの子を見下ろして口を開いた。



***
そして憂01へ続くわけです。





しあわせのことば
(後藤×達海/ジャイアントキリング)

朝飯を頼んだついでに好きだ、と言って電話を切ってやった。
それから然程しない内に後藤はクラブハウスへやってきて、達海の部屋に飛び込んできた。
それでも後藤の手にはコンビニの袋が下がっているのだから律儀といえば律儀だ。
その表情はどこか硬い。
「速いじゃん。急いで来ちゃった?」
茶化して言う達海に、後藤は歩み寄るとその身体を抱きしめた。
「…達海」
がさりとコンビニの袋が鳴る。
「お前はそうやって軽く好きだとか言うけれど、俺にはそんなに軽く受け止められないんだ」
腕の中で聞く低音に、達海はばかだなあ後藤は、と笑った。
「重く受け止めて良いんだよ」
それくらいにはお前の事、好きなんだぜ。



***
憂04続きみたいな。





素敵な星空ね
(後藤×達海/ジャイアントキリング)


知ってるか、達海。
あそこに見えるのが有名な北斗七星。
そう、そこ。あーいってこう。そうそう、それ。
あれ、星座じゃないんだぜ。
本来はおおぐま座の一部で、おおぐまの胴体から尻尾の事を言うんだ。
だけどよく光ってて形が柄杓型で見つけやすいだろ。
だからおおぐま座より北斗七星って呼び方が定着しちゃってるんだ。
北斗の斗っていうのが柄杓って意味でな、北の斗型の七つの星。だから北斗七星。
え?酔ってないさ。そこまで飲んでないよ。
良いだろ別に。偶にはロマンチックな事言ったって。
あ、こら、笑うな。
こら、達海!



***
名04関連。





セピア色の思い出
(後藤×達海/ジャイアントキリング)

ボールペンのインクが切れたので後藤に借りようとスタッフルームを覗くと、そこには誰もいなかった。
後藤の机の上には開きっぱなしのパソコン。電源も入りっぱなしだ。
恐らくトイレか何かだろう。
達海はそう見当をつけて後藤の机の上をざっと見た。
ボールペンらしきが見当たらない。
机の中はどうだろうか。
何気なく引き出しを引いて達海は軽く目を見開いた。
書類の上にちょんと置かれた花の栞。
あいつ、こんなもの使ってんのか、とそれを摘んでみるとそれが絵ではなく押し花だと気付く。
それが余計に少女趣味に思えて達海はくつくつと喉を鳴らして笑う。
どんなツラしてこんな可愛げのあるもん使ってんだよ。
そう思ってふと昔を思い出した。
昔、後藤に花をやったことがあった。
と言っても川縁に咲いていた、名も知らぬ花だ。
どんな花だったかは覚えていないが、ふざけて差し出したそれを後藤は大切そうに胸ポケットに挿していた。
今まですっかり忘れていたのに。
そんな事もあったな、なんて思いながら栞を元の場所に戻し、改めてボールペン探しを再開した。



***
名07その後。タッツが気付くわけが無いwww





その祈りの行方は
(後藤×達海/ジャイアントキリング)

後藤はいつも、なにか難しい顔をして眠りに就く。
それがきっと、自分と関係していることは達海も気付いていた。
後藤恒生という存在は、達海にとってそれなりの比重を持つ存在であった。
フットボールとは比べ物にならないけれど、それでも他の何かと比べれば格段にその存在は大きかった。
達海は基本的に羽の様に軽い生き方をしている。
風の吹くまま気の向くままにふらふらと人と人の間をすり抜けていく。
そんな生き方をしているからか、人の心に鈍感だ。
否、敏感なのに鈍感であろうとしている。
だから後藤から愛の言葉を囁かれても、うん、とだけ頷いて終わらせる。
達海からそれを返すことは無い。
それが後藤を苦しめているのかもしれない。ということは達海にも分かっている。
けれど返してしまったら、今までのような生き方が出来ないような気がして。
だけど、それでも達海は後藤の元へ戻ってくるだろう。
どれだけ回り道をしても、結局は後藤の元に帰ってきてしまう。
それくらいには達海の中での後藤は大きかった。
しかしそれは口にしなければ伝わらない。
達海は口にしない。
だから後藤はまた今日も難しい顔をして眠りに就く。
それが自分の所為であると知りながら。
達海は何もせず、ただ彼に擦り寄るのだ。



***
海05の達海視点。

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