あいうえお題

確かなもの
(深作×達海/ジャイアントキリング)

今でもたまに、思い出す。
あの歩道橋の上で微笑っていた達海の姿を。
あれから十年が過ぎて、再会して、身体を重ねて。
それでもたまにあの笑顔を思い出す。
思い出して、胸が締め付けられる。
達海はここに居るのに、また何処かへ行ってしまいそうな。
そんな気分になる。
十年前は言えなかったけれど。
今なら言える。
行くな、達海。
俺を好きだって言うなら、俺の傍に居てくれ。
だけどきっと、それを口にする日は来ない。
達海はもう、俺から離れることは無いのだから。
だからそれを口にする日は来ないのだ。



***
優04繋がり。今も昔も盲目的に。





小さな吐息
(黒田×達海/ジャイアントキリング)

ぎゅってして、ぎゅって。
そうせがまれて抱きしめれば、ぎゅーと彼の口から間の抜けた声が漏れた。
これで本当に三十五かよ。
そう思いながら黒田が抱く手に力を籠めれば腕の中の三十五歳は可笑しそうに笑う。
クロ、キスしていい?
耳元で囁くそれにびくりとしながらも黙っていると、それを肯定と受け取った男が首筋にキスを落としてきた。
首筋から顎のラインへ、顎から頬へ、頬から唇の端へ。
そして、唇へ。
啄ばむようなそれに、慣れていない黒田は体を強張らせてしまう。
しかしそれすらも楽しむように達海は何度も黒田の唇を食む。
そうして漸く開かれたそこへ舌を差し入れると、先ほどまでの消極ぶりが嘘のように黒田は達海に覆いかぶさっていた。
「ん、ん…」
ぬるりと入り込んできた舌が上顎を舐め上げ、歯列をなぞり、絡めあう。
口内を一通り蹂躙して出て行くそれを惜しみながら達海が目を開けると、そこには欲を滲ませた黒田の目があった。
「…来いよ、クロ」
達海の誘いに黒田の喉が鳴る。
「…いいのかよ」
「いいぜ…抱けよ」
欲と途惑いに揺れる眼の端に唇を落とし、達海は笑った。



***
優06その後。まだデキてません。





ついに捕らえた
(成田×達海/ジャイアントキリング)

達海とのキスはいつもドクター・ペッパーの味がした。
それ位、達海はあの炭酸飲料を愛飲していた。
仮にもスポーツ選手だというのに、彼はそれを止めようとしない。
だから達海とのキスは、いつも甘い味がした。
それから十年が過ぎて。
再会した達海の唇からは、やはりあの懐かしい味がして。
お前まだ飲んでるのか、と問えば当たり前じゃん、と笑い声と共に返って来て。
ああ、達海だ。成田は彼を抱きしめて何度も口付ける。
その甘い味が自分に移ってしまうくらい、成田は達海の唇を貪った。



***
オノマトペ03関連みたいな。





ていうか態とです。
(村越×女達海/ジャイアントキリング)

※前中後の前です。


偶々ノックをしなかった。
たったそれだけの事が全ての始まりになるだなんて、その時の村越には想像もつかなかった。
いつもの報告に来て、ついノックを忘れて扉を開けてしまった。
「あ」
そんな達海の声が聞こえた気がする。
だが村越はそれすらまともに知覚出来ないまま硬直していた。
着替えの途中だったのだろう、上半身裸に穿きかけのズボン。
男の着替えなど見慣れている村越にとって、何でもないはずだった。
が、それは男の着替えであればの話だ。
むき出しの上半身は男のとそれと違ってなだらかなラインを描き、腰の括れへと繋がっていた。
丸みを帯びた肩、細い腕、きゅっと括れた腰のライン。
そして何より、胸元の二つの膨らみ。
それほど大きくは無いが確かにその存在を示していた。
「…!」
「待て村越!」
咄嗟に出て行こうとした村越を達海が呼び止める。
「とりあえず、中入れ、閉めろ」
命令するその声がいつもより僅かに高い気がするのは気のせいか。
言われるがままに扉を閉めると、鍵も、と言われて鍵もかける。
その間に達海はいつもの白いシャツを纏い、村越は内心でほっと息を吐いた。
「まあ、とりあえず座れ」
ぽん、とベッドを叩かれ、拒否するともう一度同じ言葉を強く繰り返されて村越は諦めて達海の隣に座った。
「んー、まあ、見たわな」
「…どういう事だ」
先天性転換型両性具有者って知ってる?と達海は問う。
その言葉に少しだけ覚えがあった。何年か前に何かしらの法案が通って喜ぶ人たちのニュースを見た覚えがある。
世の中にはそんな人たちも居るのだと思ったような記憶がある。
「まあ簡単に言えば定期的に身体が本来の性別と違う性別に変わる人たちの事」
男だったら女に、女だったら男に。
「あんたもそうだって言うのか」
「そ。話早くていいね」
いつから、と問いかけかけて先ほど達海が先天性と言っていたのを思い出す。
では、村越と出会ったあの時も既に達海はそうであったという事だ。
「どうして…」
村越自身、何に対しての問いかけだったのか分からない。
けれど達海は勝手に解釈してくれて、わかんない、と少しだけ笑った。
「家系的には問題ないはずなんだけどね。突然変異ってヤツかもな」
それよりさ、とするりと達海が村越の膝の上に乗ってきて村越はぎょっとした。
「これ、ばれるとよくないんだよね、俺の立場的に」
己の膝の上で妖艶に笑う達海の姿にごくりと村越の喉が鳴る。
スウェット越しに感じる達海の体温。
薄いシャツ越しに透けて見える二つの尖り。
「…別に、言ったりしない」
それから視線を逸らしてそう言えば、頬を挟まれて視線を合わせられる。
「俺ね、そういう言葉って信用しないの」
すっと顔が近付いてきて、唇を食まれた。
初めて触れる達海の唇の感触に、村越は背筋が震えるのを感じた。
「…なあ、俺の事、欲しくねえ?」
間近で艶やかに笑う達海に、村越は思わず口付けていた。



***
そして前中後の前に続くわけです。





とても愛しいから
(後藤×女達海/ジャイアントキリング)

※前中後の中の後です。


胎の子は女の子らしい、と聞いたときから後藤の中には一つの名前があった。
美しい幸せ、と書いて美幸、だ。
字面を見た途端、達海は全てを理解して反対した。
けれど後藤は譲るつもりは無かった。
妊娠騒ぎがなければ後藤は永遠に達海に想いを告げることは無かっただろう。
今の幸せは、村越無くしてあり得ない。
だからせめて、生まれてくる子の名は村越に基づきたかった。
おこがましいのかもしれない。
それでもこの名前が最良であるように後藤には思えたのだ。
そう説得すると、達海は仕方ないなあと苦笑してそれを受け入れた。
そうして生まれてきた子はやはり女の子で。
赤子は美幸と名づけられた。



***
名前って大切ですよね。

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