あいうえお題

間近に迫るもの
(??&達海/ジャイアントキリング)

※前中後のその後


生海が将来は料理する人になりたい、と言い出したのはまだ七歳の頃だった。
生海は姉と一緒になって野菜を洗ったり、ピーラーで皮を剥いたりしている内にその楽しさに目覚めていったらしい。
家族は基本的には個々の考えを尊重する人たちだったので、生海の意見を否定する人はいなかった。
だからいつか立派な料理人になって家族に美味しいものを食べさせてやるのだ、と幼い心で思っていた。
しかし高校に入って進路を問われた時、生海は某大学の栄養科学科を口にしていた。
何、お前栄養士になるの?ちょっと前までシェフになるとか言ってなかったっけ。
小首を傾げて聞いてきた母に、管理栄養士になる、と生海は告げた。
病院や福祉施設の栄養士になりたい、と。
いつか父さんと母さんがよぼよぼになっても僕が面倒を見たいから、そのためにまずは栄養士の資格が欲しい。
そう言う生海に、母はうーん、と頬を掻いた。
別に俺らはそれなりに貯えもあるし、いざとなったら老人ホームに放り込んでくれていいんだけど。母はそう苦笑する。
驚くほどの若さを保っている母は、それでもあと数年で六十歳だ。足だって最近では歩き方がおかしい。
介護でお前らを縛るつもりは無いんだから、自由にしていいんだぜ。
そう言う母に、生海はいいんだ、と笑う。
二人を最期まで面倒見ることが、僕が選んだ「自由」だから。
「だから、少しでも長生きしてよ」
「…うん」
母は、どこか恥ずかしそうに笑った。
美しい笑顔だと、生海は思った。



***
マザコン脱却ならず。(笑)





皆とさよならする日
(後藤×達海/ジャイアントキリング)

※前中後のその後


今月も女性化しなかった。
これで三ヶ月目だ。
転換は、細胞の活性化によって行われる。
それが無くなったという事は、身体がもう、転換に耐えられなくなったという事だ。
分かってたことだ。
だって俺、もうすぐ七十だ。
比較的短命だと言われている俺たちの平均寿命は男が六十、女が六十六。
主治医はあと一年持つかどうか、と言った。
俺はいい、俺はいいんだ。
好き勝手生きて、なのに後藤恒生という伴侶も得て、子供まで授かって。
娘の結婚式だって参列したし、初孫だって抱いたし、息子ももうすぐ結婚だし。
しかも長生きした方だ。良い事尽くめの人生じゃないか。
だけど。
恒生。
恒生。
お前をおいていくのが、こんなにも辛い。
人間というものは自分で思っているより強い生物で。
お前だっていつかはきっと俺の死を受け入れる日が来るだろう。
けれどそのいつかの日まで、お前がどれだけ悲しんで苦しむのか、それを思うと胸が痛い。
いっそその時に一緒に連れて逝けたら良いんだけれど。
でもそうなると子供たちは両親を一度に失う事になる。それも辛いな。
何にしたって、どうしたって、辛い事に変わりは無いんだから。
俺は、ひとりでいくよ。
お前は俺を見送ってくれれば良い。
それだけで良い。



***
しんみりしてしまった…。





群れを離れる時
(??&達海/ジャイアントキリング)

※前中後その後です。死にネタ注意。


達也は母方の祖父母が大好きだった。
二人とも元サッカー選手で、祖母に至っては長年ETUを導いてきた人だった。
だから父が遠征で居ない時も、祖父母の家に預けられると聞くと浮き足立ったものだった。
祖父母は色んなサッカーの試合を見せてくれたし、最近サッカーを始めた達也にアドバイスもくれた。
祖母は年の割りにテレビゲームも好きで、サッカーゲームや色々なゲームを達也に教えてくれた。
ある日、祖母が言った。お前に頼みがある、と。
俺が死んだら、お前がおじいちゃんを元気付けてやってくれ、と。
ショックだった。冗談にしてはリアルすぎた。
だけど、冗談でもなかった。
約束だ、と小指を差し出した祖母の元から達也は逃げ出した。
祖母は追いかけてこなかった。祖母はもう殆ど一人で歩ける身体じゃなかった。
それから一ヶ月も経たないうちに、祖母は起き上がることも出来なくなった。
達也は真っ白い病室で横たわる祖母の小指を握って泣いた。
約束するから、約束するから死なないで。
すると祖母は微かに笑った。達也の好きな、祖母の笑みだった。
おじいちゃんと二人にしてあげましょう。
母がそっと達也の手を引く。
達也は母に連れられて病室を出た。
祖父を優しく見上げる祖母の表情が、達也が最後に見た、生きている祖母の姿だった。



***
孫まで出してしまいましたよ…orz



面倒だらけ
(??/ジャイアントキリング)

※前中後その後です。達海は死んでますので注意。


達也の父と母は年が一回りほど離れている。
そんな二人がどうやって出会ったのかと問われると、達也はいつもこう言う事にしている。
「父さんが所属するETUの元監督だっだ人の娘が母さん。そういう事」
誰に似たのか面倒くさがりの達也はそれで察しろ、と思う。
ただでさえ我が家は色々とややこしいのだ。人に説明できるほど整頓されていない。
先日、村越おじさんが母の本当の父親だと知らされたばかりだ。
他の人には内緒だからね、と言い聞かせる母親に、言える訳が無い、と思う。
突然増えた「おじいちゃん」に達也の頭はパンクしそうだった。
普通一般家庭ではおじいちゃんは二人までなんじゃないでしょうか。
俺、将来グレるかもしれない。達也は思う。
ああ駄目だ、死んだおばあちゃんが悲しむ。
…悲しむ、かなあ?あのおばあちゃんだしなあ。面白がって終わりそう。
そもそもおばあちゃんだって戸籍上の性別ではおじいちゃんだし。え、俺おじいちゃん四人いるってこと?
ていうか全ての原因っておばあちゃんだよな、コレ。
おばあちゃん、その辺の事きっちり説明してから死んで欲しかったかも。
今でも大好きだけど、ねえ、おばあちゃん。
お願いだから純粋だったあの頃の俺を返して。



***
孫、中学生くらい。





もう少し
(杉江×黒田×達海/ジャイアントキリング)


三人で大阪対東京VのDVDを見ているとき、不意に達海が言った。
「ヴィクトリーの平泉監督、あれ、俺のハジメテの人」
男のね、と付け加える達海の横顔に両隣から視線が向けられる。
「俺が勝手に熱上げて、押しまくって落とした人」
「…平泉監督って結婚してましたよね」
杉江の言葉に何でもない事の様に達海は頷いた。
「うん、子供もいる。息子さん。でも好きだったんだもん」
好きで好きで堪らなくて、初めて身体を繋げた時は嬉しくて仕方がなかった。
人目を忍んでドライブに出たり、食事をしたり。
平泉自身もそれなりに楽しんでいたと思う。
彼の方から連絡してくることもあったくらいだ。それくらいには達海に価値を見出していたのだろう。
「でもある日やっぱり家族が大切だってさ。まあ、当然だよね」
それで俺はお役御免で終わり。
「それでアンタ捻くれたのか」
「捻くれたって言い方止めてくれる?傷付いたって言ってよね」
それで、と杉江が達海を見る。
「それを話してくれたという事は、少しは傷は癒えたってことですか?」
どうだろうね。達海は笑って二人の手を取る。
「見えないもんは確かめようが無いけれど、でも、こうして二人と一緒に居られるのは楽しいよ」
だから、まだ独りにしないでね、と微笑う達海に二人はもどかしさを感じる。
まだだ。まだこの人には足りていない。届ききっていない。
けれど。
「いつまでも、傍にいます」
「俺らを舐めんじゃねえ」
そう彼の手に口付けると、彼は嬉しそうに笑った。



***
もう少しで届きそうなのに。

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