あいうえお題
新たな息吹 (ETU/ジャイアントキリング) ※「何ですと?!」その後です。 達海が産気づいた翌日、オフだというのに多くのメンバーがクラブハウスに集まっていた。 トレーニングする者もいれば、ただ話をしているだけの者もいる。 すると突然有里がトレーニングルームに駆け込んできた。 「達海さん、赤ちゃん産まれたって!女の子!」 有里の報告にわあっと室内に声が上がる。 「女の子か〜!監督似だといいな!」 「いやでも女の子は父親に似るって言わないか?」 「それで監督は無事なんですか!?」 次々と騒ぐ声に有里が落ち着いて!と両手を振る。 「母子共に健康!順調に行けば一週間で退院できるって」 ほら、と有里が差し出したのは携帯電話の画面。 そこには赤子を胸に抱く達海の姿が映っていた。 穏やかに微笑う達海の表情に、一同は携帯を奪い合う。 「うっわあ皺くちゃ〜」 「産まれたてって感じっすね〜」 「あ、こら俺まだ見てるっての」 「丹さん早く廻してくださいよー」 「あの、名前って決まってるんですか?」 「名前はみゆきちゃんって付けるらしいわよ」 「みゆきちゃんかぁ。どういう字書くんすか?」 「メールには平仮名で入ってたから平仮名じゃないかな?」 ていうか携帯返して! 有里がそう叫ぶが、有里の元に携帯が戻ってくるのはまだまだ先のようだった。 *** 二月後半という事で、キャンプは終わった直後くらいだと思ってください。(爆) いきなりどうしたの? (後藤×達海/ジャイアントキリング) ※前中後その後です。 「旅行に行かないか?」 後藤の突然の申し出に、美幸にビスケットを渡していた達海はきょとんと目を丸くした。 「旅行?なんでまた」 すると後藤は照れくさそうにあのさ、と切り出した。 「俺ら、新婚旅行とか行ってないだろ?でも美幸も大分大きくなったし、今はオフシーズンだし良いかなって」 「良いけど…何処行くの」 「達海はどこか行きたいところあるか?」 達海はうーんと唸った後、わかんない、と小首を傾げた。 「俺、個人旅行とか殆どしたこと無いから」 だろうな、と後藤は苦笑して鞄から幾つものパンフレットを取り出した。 「だと思って色々貰ってきたんだ」 「へえ…色々あるんだな」 ぱらぱらとそれを見ていくと、一つのパンフレットに目を奪われた。 「なあ、コレ乗りたい」 これ、と差し出されたのは海賊船の映ったパンフレット。 「箱根か…いいかもな。見るところたくさんあるし、温泉も豊富だし」 何より東京から近いのが良い。 「これなら移動で疲れることも無いだろうしな」 「なら箱根に決定だな。美幸、お父さんが旅行に連れてってくれるってさ」 それまでビスケットに夢中だった美幸が達海の腹の上によじ登ってくる。 「りょこうってどこ?」 「旅行って言うのはなあ、遠い所へ行って広い風呂入ってうまいもん食べてのんびりすることだよ」 「おふろ!ごはん!」 「こら、嬉しいのは分かったからビスケット零すな」 後藤が美幸の口元を拭っている達海を微笑ましそうに見ていると、なあ、と達海が後藤を見た。 「いきなりどうしたの。旅行なんて」 「達海が俺の籍に入ってくれた記念、かな…?」 はにかむように笑う後藤に、ふうん、と達海は後藤の肩に凭れ掛かる。 「嬉しいの?」 「嬉しいさ」 「…そっか」 顔を見合わせて微笑む二人を、美幸がきょとんとしながら見守っていた。 *** 「変わるもの変わらないもの」その後です。ネタ提供ありがとうございました! 嬉しい温もり (椿&達海/ジャイアントキリング) ※前中後の中のその後です。 「じゃあ今日はこれで解散ー。コーチ陣は十分後に会議ね」 達海はそう宣言するとさっさと中へと向かってしまった。 その後姿を見送りながら、世良は隣を歩いていた石神に声をかけた。 「ガミさん、監督のお腹大きくなりましたよね」 「ホント、妊娠知らされた時は全然目立たなかったのにさ」 「あれ、マタニティジャージってやつなのかな。なあ、椿」 突然話を振られた椿はえと、あの、としどろもどろになりながら言う。 「あの…お腹、ぽこんってなってて可愛いッス…」 「ええ?!お前、あれ可愛いの」 「椿は監督の事なら何でも可愛く見えるんスよ、世良さん」 「あーあ、それでか。監督は初恋の人だもんな、椿!」 「そそそそんなこと無いッス!」 赤崎と世良の言葉に椿が真っ赤になって否定する。 しかし世良たちはからかいの手を緩めることは無い。 「だってお前、監督が子供で来たってバラした後、泣いてただろ」 「その後も後藤さんと顔合わすたび真っ赤になってたしな」 ひひひ、と意地悪く笑う石神と世良に椿は半泣きで「違うッス!」と叫んだ。 「ほ、ほんとに違うんですー!」 ぴゅーと効果音が付きそうな勢いで駆けていってしまったその後姿に世良たちは腹を抱えて笑った。 「それじゃバレバレだってえの!」 恥ずかしい! 椿は世良たちの笑い声を背に、スパイクを脱ぐ手も慌しく中に駆け込む。 そのままロッカールームに駆け込もうとすると先を行っていた達海に追いついてしまい、慌ててブレーキをかけた。 「ん?」 「す、すみません!」 気配に気付いた達海が振り返ると、椿は反射的に謝っていた。 「?何が」 「いえ、あの、ぶつかりそうになってしまって、その!」 「あーいいよ、ぶつかってないし。それで、何か用?」 「あ、あの、監督のお腹がジャージで、あれ?そうじゃなくて、あのっ、お腹、触らせてください!」 すると達海はあっさりとそれを了承してくれた。 「へ?いいけど」 ほら、と手を取られ大きく膨れた腹に当てられる。 その張り詰めた感触に、うわあ、と椿は声を上げる。 この中に新しい命がいるのだ。 「硬い、んすね…」 「そりゃそうでしょ。フニャフニャでどうすんの」 松ちゃんのお腹じゃあるまいし。 そう笑う達海の腹を撫でていると、掌にぽこりと何かが当たった感触がして椿は慌てて手を引いた。 「い、今、何かぽこって…!」 「ん、胎動ってヤツ。椿に挨拶したんだな、きっと」 よかったな、と笑う達海に、椿はこくこくと頷く。 すると会議室から顔を出した松原が「監督、会議始まりますよ〜」と声を上げていた。 「あ、忘れてた。それじゃあな、椿。身体冷やすなよ」 「ウ、ウス!ありがとうございました!」 ひらひらと手を振って去っていく後姿に頭を下げ、椿は先ほど達海に触れた掌を見る。 やっぱり俺、監督の事、好きなのかな。 掌には、まだ達海の温もりが残っているようで、椿はぎゅっとその手を握り締めた。 *** 産まれるちょっと前くらいだから…キャンプ中かな?ネタ提供ありがとうございました!! 冤罪 (佐倉×達海/ジャイアントキリング) 最初は可愛いと思っていた。 キス一つ自分から出来ない佐倉が可愛くて、自分がリードしてやるのだと思っていた。 けれど。 「タッツミー、今日はそういうのじゃなくて、お話をしませんか」 圧し掛かる達海を押し返してそう言う佐倉にちょっとだけむっとする。 「話なんて電話でも出来るじゃん」 触れ合うのは今しか出来ないんだぜ? 「そうじゃなくて…」 「いいから黙って」 しどろもどろに説明しようとする唇に口付けて言葉を奪った。 「達…ん、ん…」 「…ふ…大丈夫、俺が良くしてやるから」 かちゃかちゃと佐倉のベルトを外してズボンの前を寛げる。 すると抵抗された。 「や、止めてください、達海さん」 「どうして」 「あなたにそんな事させるなんて…」 「サックラーだってしてくれるじゃん。どうして俺がしたらいけないの」 「それは、その…」 言いよどむ佐倉に達海は言い表しようの無い苛立ちを感じた。 可愛いサックラー。 奥手なサックラー。 しかし最初は愛しかったそれも、今では不信に繋がっていた。 ねえサックラー、本当に俺の事、好きなの。 好きならキスしたいって思うんじゃないの。 好きならセックスしたいって思うんじゃないの。 俺の価値観が間違ってるの? もやもやした思いを抱えたまま、けれどそれを口に出来ないまま達海は佐倉自身を撫で上げる。 「ぁっ」 「硬くしておいて、何言ってるの。期待してたんじゃないの」 「そ、んなこと…あぁっ…」 ぬろりと口内に招き入れれば佐倉の口から切なげな声が漏れる。 ほら、こっちはこんなに喜んでるのに。 どうして。 「あ、あ…達海さん…!」 どうして、ねえ。 「…きもちいい?」 お願いだから、俺を拒まないで。 *** メンタルを大事にするサックラーと肉体的繋がりに縋るタッツ。 置いてけぼりの愛 (成田×達海/ジャイアントキリング) 「お前を誰にも渡したくない」 そう言うと、達海はさも可笑しそうに微笑った。 「まるで俺が成さんのものみたいな言い方だね」 「…そうであれば良いと、思ってるんだがな」 自嘲気味に笑いながらその細い腕を引き寄せて抱きこむと、達海はされるがままになっていた。 「…いいよ、成さんのものになってあげても」 成田の腕に頬を寄せて言う達海に、成田は思わず失笑する。 「…嘘は人を傷つけるって、習わなかったか」 笑う声に混じった冷たい色に、達海は短くごめん、と言った。 「そんなつもりじゃないよ」 「じゃあどんなつもりだったんだ」 「…そうなれたら、楽だったのにって」 そう、思ったんだ。 消え入りそうな声で言う達海に、それはそれで失礼だな、と返すと腕の中の男は小さく笑った。 「そうだね。…本当にそう」 *** 「ろくでなしの恋」の続き。「置いてけぼり」には「執念深い人」という意味もあるそうです。 |