あいうえお題
たったひとりのあなたと (??&達海/ジャイアントキリング) ※前中後村越編です。 「母さんはどうして後藤おじさんと結婚しなかったの」 猛人の突然の問いかけに達海は「へ?」と間の抜けた声を上げていた。 「だって後藤おじさんは母さんの事好きじゃない。母さんもおじさんの事好きだよね」 きっぱりと言い切る猛人にちょっと待て、と達海は手を振った。 「おいおい、お前父親の存在忘れてないか」 「忘れてないけど、だって…」 唇を尖らせる猛人に、仕方ない、と達海は溜息を吐いた。 「あのね、見て分かるとおり俺は元々男なの。それなのに死ぬ思いしてまで何でお前ら産んだと思ってんの」 「…なんで?」 探るような視線に、達海はああもうと髪をぐしゃぐしゃとさせながら言う。 「茂幸の子供が欲しかったの!」 最初は勿論当惑した。宿るはずの無いと命が宿ったのだ。 けれど、そんなのは最初だけで、堕ろさなければならないという思いと産みたいという思いで揺れ動いた。 一人で悩んで、悩んで。もうどうしようもない所まで来ていて。 「でもアイツ、気付いてくれたんだ」 産んでいいの、と聞いた達海に、村越は当たり前だと迷い無く答えた。 それがどれだけ救いになったか、村越自身は気付いていないだろう。 「アイツさ、すっげえ可愛いんだ」 達海はそう言って笑う。 作戦や子育てに煮詰まってる時には星の綺麗な夜景スポットに連れて行ってくれたこともあった。 鮮やかな青の海へ連れて行ってくれたこともあった。 そんな時、ふと見た彼の優しい表情にどれだけ癒されたか。 ああ、コイツと結婚してよかった。そう思った。 「だからアイツの子供ならたくさん欲しいって思ったさ…だがな!」 達海はぎりっと拳を握り締めた。 「問題はあの双子どもだ!あの悪ガキども!俺は怪獣を産んだのかと思ったね!」 子育てがバトルだと言われる理由が分かった気がする。 一人一人でも育てるのは大変だったのに、一気に二人も産まれた日にはもうその日から戦争だった。 大きくなれば手がかからなくなるかと思えば寧ろ一層手を焼くようになって。 「しかもあいつら、後藤の前では猫被りやがって!」 達海は心底悔しそうに言う。 「俺らがあいつら捕まえるのに必死になってる時、後藤が来たらゴロニャンだぜ!後藤はマタタビか!」 そこまで叫んで、達海はやれやれ、とソファの背に身を委ねた。 「でもなあ、後藤に頼ったこと、今は少しは反省してるんだぜ。ごめんな」 後藤に頼りきりで、親子の時間が一般家庭と比べて少なかったように思う。 「ううん、いいよ」 猛人は肩を竦めて笑った。 両親が大変なのは幼い頃から見て育っているから知っていたし、理解もしているつもりだ。 「それに、俺は後藤おじさんがいたから寂しいとか余りなかったんだ」 ただ、後藤がその心に一番に留めているのは母なのだと猛人は幼い頃から察していた。 「本人に聞いたのか」 「聞かなくても分かるよ」 どこか寂しそうに苦笑する姿に、ああ、こいつ、もうそんな顔も出来るようになったのかと達海は月日の流れを感じた。 「でもさぁ、お前が考えているのとは違うぜ」 「何が」 「例えばさ、お前、幸乃や双子どもとヤりたいとか思う?」 猛人は数秒の沈黙の後、「ええ?!」と叫んだ。 「そんなわけないじゃん!ていうかあり得ない!」 心底嫌そうに首を横に振る猛人に、達海はくつくつと喉を鳴らして笑う。 「そんな感じだよ、俺にとって後藤は身内ってか家族でさ。茂幸への気持ちとは違うんだよ」 「…だって後藤おじさん、凄く優しい眼で母さんの事見てるんだもん」 「…じゃあさ、お前はさ、後藤が誰か他の女と結婚したらいいと思ってる?」 「………」 達海の質問に猛人は非常に複雑な表情をした後、ぽつりと嫌だ、と呟いた。 「だろ?俺もそう思う。だからこれで良いんだよ」 「うーん…そうなのかなあ…」 「そうなんだよ。そんな事より、お前今日テスト返ってきたんだろ」 「あ、うん、鞄の中」 見せろ、と手を出す達海に、持ってくるね、と猛人は立ち上がった。 「あ、そうだ」 「まだ何かあるのか」 「確認のために聞くけど、母さんは父さんが好きなんだよね?」 すると達海はきょとんとした後、ふっと笑った。 「当たり前だろ」 「…そっか」 よかった。 猛人はにやける顔を抑えきれないまま自室へと向かった。 *** さり気に酷いな達海!だけど後藤はきっと幸せ!(笑)ネタ提供ありがとうございました!! ちょっとだけ、不安になる (村越×達海/ジャイアントキリング) ※前中後村越編です。 達海さんと暮らし始めて、五年が経とうとしている。 あの達海さんと暮らしているなんて、出会った頃の自分からすれば想像もつかないことだ。 しかも達海さんは俺の子供を二人も産んでくれた。 まだ乳飲み子の娘を抱いて微笑むあの人の姿はさながら聖母の様だと本気で思う。 達海さんが娘を抱き、俺が息子の手を引いて。 それだけで至上の幸せを感じる。 …けれど世界は俺たち四人では閉じてくれない。 俺たちの、否、達海さんの傍らには後藤さんがいる。 達海さん、あんた気付いてるんだろ、後藤さんの気持ちに。 あんたの事だ。後藤さんがどんな目であんたを見ているか、知らないはずないよな。 なのに何でだ。 何であんたは後藤さんの傍でそんなに安心しきった顔をするんだ。 何でそんな、優しい顔をするんだ。 ベッドの中でのあんたからは後藤さんの気配はしない。 だが何故なんだ? 服を着たあんたには後藤さんの匂いがべったり染み付いている。 だから、あんたから着てるもん全部剥ぎ取ってやりたくなる。 俺だって、あんたが浮気しているだなんて思っちゃいないさ。 けれど湧き上がってくるこの思いは、きっと間違いなんかじゃない。 俺は後藤さんに嫉妬している。 俺は達海さんの夫という立場を手に入れ、後藤さんは親友という立場を手に入れた。 俺はきっと、その親友という立場も欲しがっているのだろう。 後藤さんが達海さんの夫という立場を手に入れられないように、俺がそれを手に入れることは出来ないと分かっている。 だけど、あんたの想いの全てを手に入れたいと思うこの気持ちはどうしようもないんだ。 なあ、達海さん、俺たちはもういい加減、「こうして幸せに暮らしました、めでたしめでたし」じゃ駄目なのか? 俺はいつまであんたたちを見てなきゃならないんだ? いつまで、この思いを抱えていなくちゃならないんだ。 …全く。俺が何も知らないと思って、あんたらは…。 *** ネタ提供ありがとうございます!最早合作です!!(笑) 繋がりあう気持ち (後藤&達海/ジャイアントキリング) ※前中後村越編その後です。 村越と喧嘩した。 原因は些細な事だ。そんなのはいつもの事で、お互い言いたい事を言い合ったら自然と仲直りする。 そのはずだった。 だけど、今日は耐え切れなかった。もういい、と叫んでマンションを飛び出していた。 タクシーに飛び乗って、通いなれた後藤のマンションへ向かう。 財布持ってきたっけ、と内心で焦ったが、ポケットに入っていた金で何とか賄えた。 勝手知ったる何とやら。合鍵で扉を開けると玄関に猛人の小さな靴を見つけて思わず固まった。 そうだ、今は後藤に猛人を預けてあったんだった。 そんな事すらすっかり忘れていた自分に自己嫌悪に陥って達海は回れ右をした。 ごめん、今は「母親」になれない。 「達海か?」 出て行こうとする後姿に聞き馴染んだ声がぶつかる。 「…ごとう」 「猛人の迎えにしては早すぎるな」 また喧嘩でもしたのか?そう苦笑する後藤に達海は俯いた。 「…猛人は寝てるよ」 上がって来いよ、と勧められ、達海はごそごそと靴を脱いで玄関を上がった。 「おっと」 そのまま後藤の腕の中に飛び込むと、後藤は笑いながら抱きしめてくれた。 「なんだ、甘えっこだなあ」 「うん、甘えっこなの」 しょうがないな、と頭を撫でられて達海は目を閉じる。 「お前、運が良いな。今日はお前の好きな豚汁があるぞ。どうせ何も食べてないんだろ?」 後藤の腕から離れながらそういえばと思う。 「…お腹すいた」 「そうだろう。待ってろ、今よそうから」 おいで、と手を引かれて達海はキッチンへと向かった。 椅子に座らされて待っていると、次々に皿が並べられていく。 豚汁を始めに玄米ご飯、出し巻き卵にインゲンの胡麻和え、アサリとわけぎの味噌和え。 イタダキマス、と手を合わせて豚汁を啜る。 「うまいね、ごとう」 「そういってもらえると助かるよ」 「俺が作るより美味いんじゃない?」 「毎日作ってるお前には適わないよ」 そんな事を喋りながらも達海の箸は着実に進んでいく。 「後藤、レパートリー増えたよね」 やがて最後の一口を食べ終えた達海がそう言うと、そりゃあな、と後藤は笑う。 「結婚しないの」 温かい緑茶を啜りながらの言葉に、後藤は少しだけ困ったような顔をした。 「…今のところ、予定は無いな。して、欲しいのか?」 後藤の問いかけに、達海は首を横に振って否定する。 「してほしくない」 なあ、後藤。達海は湯飲みに視線を落としたまま言う。 「呆れてる?」 「何がだ」 「俺、すぐここへ来るからさ」 そうだなあ。後藤は優しい声で笑った。 「俺は頼ってくれて嬉しいよ。まあ、実家みたいなもんだと思ってくれればいいと思ってる」 「へ、実家?」 「テレビとかでよくあるだろ、実家に帰らせていただきます!ってヤツ。ここがお前の逃げ込める場所なら、それほど嬉しいことはないよ」 照れくさそうに言う後藤に、達海はきょとんとした後、ははっと笑った。 「そっか、実家か…」 ばかだなあ、後藤は。そう思ったら気が緩んで目の前がぼやけた。 後藤が立ち上がり、達海の隣に立つ。達海はその腰に腕を廻し、後藤の腹に頬を押し付けた。 「だから、いつでも帰って来い、達海」 よしよし、と頭を撫でられる感触に達海はこくりと頷いて抱きしめる腕に力をこめた。 *** 後藤さんも達海に甘いけど、達海も後藤さんに甘いと思う。ネタ提供ありがとうございました! 掌を合わせて (後藤×女達海/ジャイアントキリング) ※「何ですと?!」その後です。 有里が達海に宛がわれた部屋を訪れると、ピンク調の可愛らしい部屋で達海は爆睡していた。 「達海さん、まだ寝てるの?」 付き添っている後藤に声をかけると、彼は苦笑して頷いた。 「授乳の時以外はずっと寝てるんだ」 「そっか、疲れてるんだね、達海さん。産休も取らないで寸前まで仕事してくれてたし」 何てったって女の大仕事をやり遂げたんだもん。有里はそう言って笑う。 ゆっくり休んでね、達海さん。そう眠る達海に声をかけて有里は後藤へと向き直った。 「後藤さん、私帰るね。達海さんによろしく伝えておいて」 「ありがとう、有里ちゃん」 出て行く有里を見送って、後藤は小さな溜息を吐いた。 出産間もなく、赤ん坊を抱き上げた達海は疲れた、眠い、と言ってそのまま気を失うようにして眠ってしまった。 それっきり、看護師が授乳のたびにたたき起こさない限り達海は眠りっぱなしだ。 授乳中だって意識が本当にあるのか疑わしいくらいに達海はうつらうつらとしていた。 当然、後藤がそこにいることすら気付いていないだろう。 寝かせてやりたいと思う気持ちの反面、早く目覚めてくれ、と後藤は強く願う。 眠り続ける達海の姿を見ていると、いつかこのまま目が覚めないのではないかとすら思えてきて、後藤は不安に押しつぶされそうだった。 そんな達海の手をぎゅっと握ると、その感触に気付いたのか達海が小さく呻いた。 「達海?!」 「…う…ん…あれ、ごとぉ…?」 むにゃむにゃとした口調で達海が後藤を見る。 出産以来、丸一日ぶりの達海の視線に後藤は握る手を己の頬に押し当てた。 「よかった…達海…」 「へ…あれ、こども、こどもは?」 「大丈夫だ、元気に寝てるよ。それより身体は大丈夫か?痛いところは無いか?」 「うーん…まあそりゃあまだ痛いけど、これくらいなら大丈夫」 ていうか何で後藤半泣きなの。 きょとんとして言う達海に、ばか、と後藤は泣き笑いを浮かべる。 「お前がなかなか起きないからだよ。授乳中の記憶も殆ど無いだろ」 「あー、何かそんなような気もする」 「あんまり眠り続けるもんだからこのまま目が覚めなくなったらって心配したんだぞ」 「そんなわけないじゃん。寝てるだけなんだし」 すると医者にもそう言われた、と後藤は苦笑した。 「だけど、本当に心配だったんだ」 そう達海の手を両手で包み込む後藤に達海は大丈夫だって、と笑う。 「ごとう、おれ、どっこも行かないよ。俺、家族は置いていかないから」 家族、の言葉に後藤はまた引っ込んだはずの涙が滲んでくるのが分かった。 「これからは、俺たち二人でこども育てていくんだぜ?わかってる?」 「ああ…そうだな、そうだな」 達海と後藤は指を絡めあい、顔を見合わせて微笑った。 *** 眠気でぐらんぐらんしながら授乳してたんでしょうねきっと。(笑)ネタ提供ありがとうございました! とりまきやきもき (村越×達海/ジャイアントキリング) ※前中後村越編その後。 口論なんていつもの事だ。 そして決まって達海は後藤の所へ駆け込む。 それが分かっていたからクラブハウスの廊下を早足で去っていく姿を村越は見送った。 やれやれ、と溜息を吐いて達海の「我が家」を見渡す。 相変わらずここで生活することもある彼の巣は、最早本当に巣と言い表せる有様になっている。 本人曰く、何処に何があるか自分なりに分かりやすくしてある、そうなのだが。どうだか。 積み上げられたDVDの山は触らないようにして、ゴミだけ軽く片付けて村越は部屋を出た。 さて、そろそろ機嫌も治っているころだろうか。 後藤任せにするのは癪だが、村越は達海が自分より後藤の方が言う事を聞く事を知っている。 本当に癪だが。村越はそう思いながら事務室に向かった。 けれど、そこには達海どころか後藤の姿も無かった。 「後藤さん?今日は大阪出張で直帰だから明日にならないと来ないわよ?」 有里の言葉に村越はクラブハウス内を歩き回る。 後藤がいないとなると、途端に達海の居場所が分からなくなる。 ピッチ、屋上、もう一度彼の部屋…やはり戻っていない。 そしてふと時計が目に入ってもしかして、と思う。 今日は後藤がいない。そしてこの時間というと。 猛人の保育園のお迎え時間だ。 急ぎ車を走らせクラブハウスからすぐ近くの保育園へと向かう。 駐車場に車を置き、門をくぐると耳に馴染んだ声が聞こえた。 「せんせい、さようなら」 「はい、猛人君さようなら」 達海に手を引かれ、手を振っている猛人。 その二人の姿に村越はほっとする。 すると猛人がいち早く父親の姿に気付いて駆けて来た。 「おとうさん!」 「村越?どったの」 「…探した」 すると達海は一時間も満たない前の事をすっかり忘れたように「何言ってんの」と笑った。 「お迎えの時間だろ?」 すると背後から数人の母親が近付いてきて「あの!」と声をかけてきた。 「村越さん、この間の試合、とってもカッコよかったです!」 「後半残り十分のあのシュート!とても素敵でした!」 「指揮されている達海さんもとても凛々しかったです!」 「次の試合も絶対見に行きます!」 「そう?あんがとね」 きゃあきゃあと騒ぐ母親達に囲まれ、達海は愛想の良い笑顔を振りまいている。 そんな達海の笑顔にまた母親達が浮き足立つ。 「あっ」 そんな中、一人の母親が他の母親に押されるようにして達海の前に倒れこんできた。 「おっと」 その身体を達海が抱きとめると、ごめんなさい、と彼女は顔を赤くして離れた。 「大丈夫?」 「は、はい、ありがとうございました」 どういたしまして、と達海が笑うと周りの母親たちまで顔を赤くして達海を見ている。 やめてくれ、と村越は思う。 その笑顔は、たとえ愛想笑いであっても自分のものなのだ。そんな風に安く振舞われるべきものではない。 村越はさりげなく達海の腰に手を回し、引き寄せた。 「いつも応援ありがとうございます。では、俺たちはこれで失礼します」 「じゃあね」 達海がひらひらと手を振る姿にサービスしすぎだと思う。 サポーターを大切に、などという心がけは達海に対しては効力を無くすらしい。 「あんた、相変わらずモテるんだな」 ぼそりと呟いたそれに、達海は何言ってんの、と笑った。 「お前こそとってもカッコイイーとか素敵でしたーとか言われてたじゃねえか」 「俺は選手だからな。あんたはフェロモン出しすぎなんだよ」 「何だよそれ、意味わかんない」 もう、と達海は唇を尖らせる。 「それにしても何で来たんだよ」 「探したんだ。あんたの姿が見えないと不安になる」 いなくならないでくれ。 そう言う村越に、達海はバカ言うな、とその頭をべしりと叩いた。 「お前何言ってんの。全く、いつまでひっついてんだ。離せよ」 「おかあさん、おかおまっか」 達海に手を引かれながら指摘してくる猛人に二人は思わず顔を見合わせ、やがて達海がぷいっと顔を背けた。 「もう!帰るぞ!お前車で来てるんだろうな?!」 村越を追い抜いて車へと向かう達海と、そんな達海に手を引かれてきょとんとしている猛人に村越は喉を鳴らして笑った。 *** 村越編の達海は子供っぽいくらいが丁度いい。ネタ提供ありがとうございました! |