あいうえお題
やっと会えたのに (佐倉/ジャイアントキリング) ※前中後中の後くらい 「もういいです、行ってきてください」 コーチの溜息交じりの言葉に佐倉はびくっとして書類を落としかけた。 「な、な、何がですか」 「気になるんでしょう?達海監督の事。あと書類逆さまです」 指摘されて慌てて書類を正しい方向へと戻す。 そう、憧れのタッツミーこと達海監督が先天性転換型両性具有で、しかも妊娠したと今朝のスポーツ紙で報じられたのだ。 テレビでもこの事はそこそこに取り上げられていて、先天性転換型両性具有とは、なんていう特番が報じられているくらいだ。 記事を見たとき、そんなバカな、と思った。 という事は先日のオールスターでは既に女性であり、そのお腹には赤ちゃんが居たという事だ。 今六ヶ月だというから…と下世話な逆算をしてしまった自分を恥じる。 しかも相手は同じチームのGMだという。十年愛と報じられたそれに負けた、と佐倉に思わせた。 でも、でも、でも!佐倉はやりきれなくて机に突っ伏した。 私だってデビューからタッツミーを追いかけていたのに!一緒にボールを蹴りたかったのに! そりゃ手の届かない人だってわかってるけど、私なんて相手にもしてもらえないだろうけど……。 でも、でも、やっとお近づきになれてこれからなのに!タッツミーと仲良くなりたかったのに! もだもだしているとコーチがまた溜息をついて佐倉ははっとした。しまった、つい取り乱した。 「佐倉監督、ここにいてもどうせ何も手につかないでしょ。だったらETUに行って真実を確かめるなり好きにしてきてください」 そしてさっさと振られてきてください、とズバリと言われ、少しショックを受ける。 「あと、さっきから思ってること声に出てますよ。気付いてます?」 追い討ちをかけるように醒めた目のコーチに言われ、佐倉は真っ赤であろう顔のままクラブハウスを後にした。 そして東京行きの新幹線に飛び乗ったのだった。 *** 一旦切りますー。ネタ提供ありがとうございました! 唯一の人 (佐倉&達海/ジャイアントキリング) ※前中後の中の後 達海はいつも答えをくれた人だった。今回も何か答えが見つかるのだろうか。 佐倉はそう思いながらETUのクラブハウスを訪れた。 「……これはまた……」 クラブハウスに群がる報道陣の数に呆然とする。 幾ら達海もまたメディアに露出のある人間だからと言って、所詮は日本サッカーチームの一監督に過ぎない。 ブランのような日本代表の監督というわけでもないのにこの人だかりは何だ。 先天性転換型両性具有であるという事がここまで騒ぎを大きくしているのだろうか。 確かに、少なくとも佐倉はメディアに露出するような人物の中でそういった体質の人は見たことが無い。 これでは達海自身は勿論、フロントも大変だ。少し時間を置いて出直したほうがいいかもしれない。 佐倉がそう思って川沿いの道をあるいていると、土手に目的の人物が堂々と座っていたので佐倉はぎょっとした。 微かに聞こえる鼻歌に誘われるように佐倉は達海の元へと近付いていった。 「た、タッツミー?」 恐る恐るその横顔に声を掛けると、きょとんとした目が佐倉を捉えた。 「あれ、ええと、サックラー。何でこんな所にいんの」 「あの、その……タッツミーに、会いに来ました」 「俺に?」 「は、はい。その、凄い騒ぎですね」 達海はまあね、と笑った。 「こんな所にいて良いんですか?見つかったらまずいんじゃ……」 けれど達海はいいのいいのと笑うばかりだ。 「……あの、さっき歌っていた歌、何の歌ですか?」 佐倉の問いかけに、達海はんーと考えた後、わかんない、と小首を傾げた。 「イングランドにいた時に覚えたんだけど、詳しい事は知んない」 歌ってみてください、とねだると達海は下手だぜ、と前置きをして再び歌いだした。 佐倉は達海の傍らに座り、それに聴き入っていた。 少し高い達海の声は佐倉の耳によく馴染み、その横顔をじっと見つめた。 でも何故だろう、達海の歌はどこか寂しげで。 気付けば達海は歌うのをやめ、佐倉を見ていた。 「なんでそんな泣きそうな顔してんの」 「わ、わかりません……貴方こそ、どうしてそんな風に歌うんですか?」 まるで、何かと決別しているようです。 佐倉の言葉に達海は微笑った。 「一人で生きていくつもりだった昔の自分と、かな」 その微笑みがとても幸せそうで、佐倉は眩しそうに目を眇めた。 「……今、幸せなんですね」 「ま、ね」 そうですか、と佐倉は視線を伏せる。 貴方はいつも私に答えをくれる人だった。 今回もまた、貴方は私に一つの答えをくれた。 私は貴方に選ばれなかったけれど、私はそれでも貴方を想い続ける。 きっと、永遠に貴方の幸せを願うでしょう。 「幸せに、なってくださいね」 それが、私の幸せへと繋がるのだ。 *** 何だか着地地点を間違えた気がしてならないwwネタ提供ありがとうございました! 欲が出る程君が好き (後藤×達海/ジャイアントキリング) ※前中後の中の後くらい 「なあ、達海。後悔、してないか?」 美幸を寝かしつけ、リビングでのんびりとテレビを見ていると後藤が突然そんな事を言い出したので達海は何が、と小首を傾げて後藤を見た。 「俺と一緒になったこと」 達海はうーんとちょっと考えた後、後悔ねえ、とさっきとは反対側に首を傾げた。 「まあ、無い事もない」 「やっぱり、お前は今でも村越のこと……」 「それは違うよ。何で今更そんなこと聞くのさ」 考えてしまうんだ、と後藤は視線を逸らして言いにくそうに言う。 「あの時、お前の妊娠が発覚したとき、俺がするべきはお前と村越の間を取り持ってやる事じゃなかっただろうかって」 出来もしない事を未だに引きずっているんだ。 そう言う後藤に、達海は俺さ、とソファにゆったりと身を任せる。 「美幸が村越の子供って事、普段忘れてるんだよね」 妊娠が分かってから自分を支えてくれたのは後藤だったし、こうして一緒に暮らしているのも後藤だ。 「あの子は俺たち二人の子供なんだって記憶が上書きされててさ」 俺、薄情なのかな。そう無表情に言う達海にそれは違う、と後藤は思う。 きっと、それは自分がそうさせてしまったのだ。 「美幸と村越は確かに血の繋がった親子かもしれないけれど、家族じゃないんだ」 家族って一日でなれるもんじゃないよ、と達海は微笑う。 「俺はお前と家族になれたこと、後悔してない」 だから返品不可だからな。追い出されても回れ右して帰ってくるかんな。 冗談めかして笑う達海に、そんな事するわけがないと後藤は達海の手を取れば指が絡んでくる。 「じゃあ、お前が後悔した事って何なんだ」 「お前をマスコミの矢面に立たせてしまったこと」 「何だ、そんな事か」 ほっとして後藤もまたソファに身を預けると、そんな事なの?と達海が覗き込んできた。 「当たり前だ。お前だけマスコミの前に出させるなんて出来るわけないだろう」 「……俺、お前に守られてばっかだな」 苦笑する達海を引き寄せ、後藤はその細い体を抱きしめる。 「お前の事は俺が守りたいんだ。これだけは誰にも譲れない」 そう、お前だけは誰にも渡せない。 あの時、達海が後藤の手を取った時に全ては決まったのだ。 「達海、お前を愛してるよ」 どんなに考えても、行き着く答えはそこなのだ。 *** ごっさんは表に出さないだけで粘着質だと思う。ネタ提供ありがとうございました! |