あいうえお題

勿忘草を求めて
(成田→達海←後藤/ジャイアントキリング)


「なあ、後藤」
ゆっくりと押し倒されて達海は覆いかぶさってくる男を見上げた。
「何だ、達海」
その優しい笑顔にきゅっと顔を顰め、達海は本当に俺が好きなの、と問うた。
「当たり前じゃないか」
愛してるよ、と口付けてくる男をじっと見つめながら達海は思う。
お前のそれはただのエゴだ。俺の欲しい愛じゃない。
だけど。
「……いわけ、ないだろ」
「え?」
突然達海の表情が泣きそうなものへと歪んだので後藤はぎょっとした。
「た、達海?」
「……っ……」
達海は堪え切れなくて両手で顔を覆う。
そんな愛だって、嬉しくないわけがない。
だって、ずっと好きだったのだ。
十年想い続けた相手が自分の事を好きだと、愛していると囁いてくれる。
これがどうして嬉しくないと言えようか。
嬉しいに決まってる。
だけど。
「……った」
信じることが出来ないのだ。
後藤の愛を、信じることが出来ない。
「お前と、幸せになりたかった……」
こんなに辛いのに、愛しいのに、涙一つ溢れてこない。
この身はもう、それが叶わぬ願いだと知っているのだ。



***
おかしい、こんなはずじゃ。「平穏の足音は遠く」続編。





んん?初耳だぞそれ
(持田&達海/ジャイアントキリング)

※前中後その後です。


達海の診察が終わるのを待っていた持田は、やがてやってきた達海を乗せて車を走らせた。
「昨日さ、美幸が来たよ」
「ああ、そっちに居たんだ」
村越のマンションかと思ってた。そう暢気に言う人に「村越さんとの子供なんだって?」とずばり聞いてやった。
「……美幸、なんか言ってたか?」
「失恋したって」
「へ?」
きょとんとしてこちらを見てくる視線に、本気で知らないのか、と持田は唇の端を持ち上げた。こればばらし甲斐があるというものだ。
「村越さんだよ。気付いてなかったの」
はああ?と裏返った声を上げる達海にくひゃひゃと持田は笑う。
「ちょっと待て、マジでそういう意味で好きだったのあいつ」
「美幸はさ、後藤さんが実父じゃないことよりも長年の想い人である村越さんがそうだったってことの方がショックだったみたいだね」
あいつ、十八になったら村越さんちに押しかけ女房するつもりだったんだぜ。
誰にも言わないでね、と言われた気もするが、達海の反応を見るほうが楽しい持田は口も軽くぺらぺらとばらしていく。
「そんな恐ろしい計画知んない……」
「早めにばらしておいて良かったねー」
世の中には離れ離れに育った男女の双子が知らず惹かれあって結婚寸前までいったという話があるくらいだ。
そんな事にならなくて本当に良かった。達海はうわあ、と唇に指先を当てて慄いていた。
「美幸より、後藤さんは大丈夫なの」
「んんー……実の所、恒生の方が元気ないんだよなあ。だから今日はお茶せずこのまま帰るな、ごめん」
「いいよ。今度倍返ししてくれれば」
「するする、サービスしちゃう」
ヒヒッと笑う達海に、期待してるよ、と持田も笑った。
「あ、でもスーパーは寄って欲しいかも」
「お安い御用。何買うの」
「カレー作ろうと思って。……それにしてもさ、お前が恒生を心配するって笑えるね」
「達海さんの家族そのイチとそのニのことだからね」
「お前だってとっくにその一員だよ」
村越もね、と笑う達海に「俺、村越さんと家族なのは嫌かも」と持田も笑った。


「達海、今日のカレー、凄くないか。なんていうか、肉が」
食べやすいサイズに切られた肉がごろごろと入っているカレーの姿に後藤は首を傾げた。
「だろ。実は量だけじゃなくて質も凄いぜ」
俺こんな高い肉初めて食べるかもしんない。しかもカレーで。
「持田がさ、お前のために奮発してくれたんだぜ」
「持田が?」
「これで精つけてもう一人ぐらい頑張ってください、だってさ。俺もう五十だぜ?」
やってられっかって思って全部カレーに放り込んでやった。そう呆れ顔の達海に後藤はぽかんとした後、ふっと笑みを浮かべた。
「そうだな、頑張ってみるか、達海」
「バカ言うな!さっさと子供たち呼んで来い!」
笑う後藤を蹴りだして、達海はふう、と息を吐いた。
さんきゅな、持田。
恒生、笑ったぜ。
……三人目は作らないけどな!



***
カレー食べたくなってきた。(爆)ネタ提供ありがとうございました!

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