あいうえお題

なんで逃げるんだ
(成田×女達海/ジャイアントキリング)

※「だって独りは寂しい」とは別物です。


ホテルの洗面所を出た所で出会い頭に人とぶつかってしまった。
「ふぎゃ」
「すみませ……達海?」
踏まれた猫のような声を上げて尻餅をついたのは、達海だった。
「あたた……ん?成さんか」
十年ぶりに再会した達海はあの頃と比べて確かに老けていた。
けれど未だにどこか少年の面影を残したままで、成田を一瞬にして感傷的な気分にさせた。
やっと、日本に帰ってきたのだな。あの頃は言えなかったが、俺は……。
「成さん、手え貸して」
「あ、ああ」
はい、と差し出された手にはっとしてその手を引っ張る。
「うわっ」
すると達海は思った以上に軽くて、勢い余って成田の胸に飛び込む形になってしまった。
「だ、大丈夫か」
慌てて達海の腰を支えると、二の腕にむにっとした何かが当たった。
「……達海?」
元々細いからだの男だったからこの腰の細さはともかく、何だか全体的に柔らかいというか。
まるで女性を抱きしめたときのようだ。
「は、離せよ」
達海はじたばたと成田の腕からすり抜け、さっさと来た道を戻っていく。
「達海、おい」
「ちょっと成さん追いかけてこないでよ」
「俺だって会場に戻るんだよ」
「じゃあ俺トイレ行くから」
また洗面所へと戻ろうとする達海を捉えようと手を伸ばすと、べしっと手を叩かれた。
「しつこい」
「達海!」
再び会場へと戻ろうとする達海の腕を今度こそ捕まえると、達海、と離れた所から声が掛かった。
ぱっと達海の表情が輝く。
「後藤!」
ぴっと手を振り払って達海が後藤と呼んだ男の元へと足早に向かう。
「達海、そろそろ監督も準備しろってさ」
「りょーかいりょーかい。はいはいさっさと行こうな」
後藤がちらりとこちらを見て軽く会釈をする。ぼそぼそと何かを達海に囁くと、達海はいいのいいの、と手を振った。
取り残された成田は、何なんだ、一体、と悔し紛れに呟くしかなかった。



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カンファレンスの時ですよ。(爆)ネタ提供ありがとうございました!





逃げないで話をしよう
(成田×達海/ジャイアントキリング)

※「なんで逃げるんだ」続編です。


あれから達海の事が頭から離れない。
あの腕に感じた柔らかい感触に細い腰。まさか達海が女だった?馬鹿馬鹿しい、何を考えているんだ。
成田は首を振って雑念を払い落とそうとする。けれど浮かぶのは達海の事ばかり。
確かに達海は線は細いけれど、代表合宿でだって一緒に風呂に入ったことだってある。
まじまじと見たわけではないが男だったはずだ。
だが、この十年間で何かあったのだろうか。あの達海が、性転換?もう分けが分からない。
やはり達海に直接聞こう。成田は車のキィを握り締めマンションを出た。
そうしてETUの駐車場に車を入れたところでクラブハウスから出てくる達海を見つけた成田は慌てて車を降りた。
「達海」
突然押しかけてきた成田に達海はぎょっとしたようだった。
「……成さん」
「少し、話をしないか」
「……俺、出かけるんだけど」
「何処へだ。送ってやる」
成田が引くつもりがない事を示すと、達海は渋々というように小さな声でコンビニ、と呟いた。
「飯買いに行くんだよ」
「だったら達海、これから俺と飯食いに行かないか」
「……」
「勿論俺の奢りだ。中華でもフレンチでも、焼肉でも寿司でも好きなものを言ってくれ」
言いながら成田は何をこんなに必死になっているのだろうと思う。
女にだってこんな形振り構わず誘った事など無い。
だが何故か昔から達海には弱かった。
これが惚れた弱みというものなのだろうか。今もまだ、こんな気持ちが自分に残っていただなんて。
「……中華」
ぼそっと呟かれた言葉に成田ははっとした。
「中華なら、一緒に行ってあげてもいいよ」
「あ、ああ、わかった、中華だな」
諦めたように成田に歩み寄ってくる達海に、成田は大きく頷いた。



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情けない成さんが愛しいwwwネタ提供ありがとうございました!





縫い合わせた感情
(成田×達海/ジャイアントキリング)

※「なんで逃げるんだ」続編です。


達海との食事は楽しいものだった。
店に着くまでは仏頂面だった達海も次第に笑顔を見せるようになり、満面の笑みでスープを啜る姿は子供のようだった。
食事を楽しむ達海の姿を素直に可愛いと思った。
こんな穏やかな気持ちはずっと忘れていた。
達海が渡英してすぐ、成田は結婚した。するにはしたが、一年も持たず別れる事になったのだが。
現役のモデルで美しい女だったがやれエステだブランドバッグだとおよそ家庭的とは言えない女だった。
別れた原因も相手の浮気だった。幸いな事に子供が出来る前だったという事もあって円満に別れたつもりだ。
今は気楽な独身生活を送っている。そう、気楽なはずだった。
だけどこうして達海と一緒に居ると、今までの年月が灰色に思い出される。
それほどまでに達海との時間は色鮮やかだった。
運ばれてくる料理に喜色を浮かべる達海を、成田は穏やかな表情で見守った。



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気付けばベタぼれ成さん。ネタ提供ありがとうございました!





ねえ、どうしよう
(成田×達海/ジャイアントキリング)

※「なんで逃げるんだ」続編です。


食事からの帰り際、思ったとおり成田は先日のカンファレンスでの事を聞いてきた。
もしかしてお前、女だったのか、と。
だが今日は男の体の日だったので堂々と胸を触らせてやった。
何なら下も触ってみる?と笑えば成田は顔をかすかに赤くしてからかうな、とそっぽを向いた。
バカだなあ成さん、合宿で一緒だったのにどうやって誤魔化すのよ。
そう笑うと成田は一応納得したようだった。
だけど。クラブハウスに着いて車を降りようとした時、腕を引かれて成田に抱きしめられた。
そうして言われたのだ。好きだ、と。
達海はただ呆然として抱かれるがままになっていた。
達海、と低い声で囁かれて漸くはっとして。
そのまま突き飛ばすようにして成田の腕から逃れると慌てて車を降りた。
成田はそれ以上追うつもりもなかったらしく、おやすみ、とだけ告げて去っていった。
誤魔化せたと思ったのに。男だとわかれば成田も興味を失って引くだろうと思っていたのに。
まずい事になったかもしれない。達海はがしがしと頭を掻いた。
何がまずいって。そんなの決まってる。
成田に好きだといわれて嬉しいと思っている自分がいることが、だ。
あーあ。達海は夜空を見上げて呟いた。
「どうすりゃいいのよ」



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好きの表現がストレートな成さん。ネタ提供ありがとうございました!





のっぴきならない事情により
(×達海/ジャイアントキリング)

※「なんで逃げるんだ」続編です。


達海の身体は今月もまた女のものへと変わった。
そうなると達海は成田と会うことが出来ない。
忙しい、用がある。そう断り続けて日々を凌いで。
まあ一週間程度なら何とかなる、そう思っていた。だが。
「…今月に限って予定通り戻らないってどういうことよ」
達海は女性体のままの自分を見下ろして溜息をついた。
いつもなら大抵一週間もすれば男の体に戻る。しかし今回に限ってどうやら長引いているようで。
「!」
そうこうしている内にベッドの上の携帯電話が軽快なメロディを奏でて着信を伝える。
「あーもうほらまた来た!」
成さんいい加減しつこい!達海は携帯の上に布団をかぶせて音を消そうとする。
成田からの連絡は嬉しい。会いたいと言ってくれるのも嬉しい。
だが今は駄目なのだ。女である間は会うことは出来ない。
「あーもう」
音の途絶えた携帯電話を布団の中から引きずり出し、テーブルの上に乗せる。
するとコンコン、と窓を叩く音がして達海はがばりと身を起こした。
『達海、開けてくれ』
そこには今さっき電話をしてきたはずの成田が立っていて。
「成さん?!何でいるの」
がらりと窓を開けると、携帯電話を片手に成田が気まずそうにしていた。
「……お前が会ってくれないからな」
「そんなの……!」
そこまで言ってはっとする。達海は今、スウェットと薄いシャツ一枚だ。
成田の視線もまた気付いたように達海の胸元に注がれる。
「……達海」
「……あーうん。わかった。わかったから、とりあえず、玄関から入ってきて」
達海は観念して成田をクラブハウス内へと招いた。



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三日と置かず会ってたらしいですよ。ネタ提供ありがとうございました!!

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