あいうえお題

雷鳴の如く打ち据えるもの
(村越/ジャイアントキリング)

※前中後村越編その後です。


故郷での法事の後、久しぶりに村越が帰省するという事で知人友人が集まってくれた。
懐かしい人たちと酒を酌み交わし、ほろ酔い気分だった村越を一本の電話が奈落に突き落とした。
達海が倒れ、入院したというのだ。
過労と軽い育児ノイローゼだ。電話向こうの後藤の言葉に村越はまさか、と思う。
達海をせめて一週間、子育てから解放してやりたい。
その間は子供たちは連れてこないように、と後藤は言う。
酷な様だが、今の達海にはプレッシャーにしかならない、と。
『達海は自分が繁や健を虐待するんじゃないかと怯えてるんだ』
すぐに帰ります、と言う村越を後藤は制した。
『飲んでるだろ?飲酒運転はダメだ。お前にまで何かあったら子供たちはどうなる』
電話を切った後、村越は遣る瀬無い気持ちで天を仰いだ。
動きたくても動けない。
今すぐ達海の元へ行きたいのに、もどかしくて仕方ない。
双子が生まれてから常に時間に追われる様になり、夫婦の時間は次第に減っていった。
達海が子供部屋で眠るようになったのはいつからだったか。
気付けばセックスレスだ。
村越にとって、達海とはチームの監督であると同時に何よりも愛する妻だ。そのはずだ。
けれど最近ではどうだったのか。確信が持てない。
よりによって育児ノイローゼだと?
いつもけろっとしている達海からは程遠いものだと思えた。
けれど達海が誰よりも抱え込む性質だと忘れていたわけではあるまい。
それなのに、達海の異変に気付く事無く押し切るようにして出てきてしまった。
その結果がまさかこんな事になるなんて。
そしてまた後藤に出し抜かれたような居心地の悪さを噛み締めながら、じりじりと朝になるのを待った。



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後藤はナニーの資格でも取れば良いよ。ネタ提供ありがとうございました!





リコール・コール
(後藤&達海/ジャイアントキリング)

※前中後村越編その後です。


達海の枕元でうつらうつらしていた後藤ははっとして目を覚ました。
いつの間にか夜が明けている。
結構な時間眠ってしまったようだ。後藤は固まった身体をぱきぱきと身体を鳴らして大きく伸びをした。
子供たちはどうしているだろうか。
そっと個室を出て携帯電話の使えるブースへと移動する。
有里に電話をかけると、彼女は少し疲れたような声で猛人と幸乃は起きたと教えてくれた。
繁と健は泣き疲れて漸く眠ったらしかった。
一旦そっちへ行くよ、と告げて再び病室へと戻ると後藤は書き置きを残して達海の病室を後にした。
永田家に辿り着くと、猛人が飛びついてきた。
幸乃はまだ状況が良くわかってないようだったが、猛人は心配そうな面持ちで後藤を見上げてきた。
あの達海によく似た顔で「お母さんは大丈夫?」と尋ねられると良心の呵責を覚えた。
これから自分は一週間、この子達から母親を奪おうとしているのに。
かといって会わせてしまえば達海は悪化する気がする。
「お母さんを少し休ませてあげような」
そう言って保育園と小学校に送り出し、自分も軽くシャワーを浴びて着替えると再び病院へと向かった。
病室の前まで来ると、中から話し声が聞こえた。
この声は村越だ。
席を外そうかと踵を返し、しかし聞こえてきた達海の興奮した声に後藤は病室の扉を開けていた。
「村越、待ってくれ。こいつはまだ普通の状態じゃないんだ。興奮させないでくれ」
村越を押し退けて後藤はペットボトルのキャップを外し、達海の口元に当てる。
「落ち着け、達海。水だ」
一口、二口と口に含ませて落ち着かせるとごとう、と潤んだ目で見られた。
その視線に後藤は居た堪れなくなる。
村越もどうして達海を大事にしてやれないのだろう。
「村越、悪いが今日のところは帰ってくれないか」
村越を見る眼がきつくなってしまうのは仕方ない事だろう。
「それから、有里ちゃんちに繁と健を迎えにいって、これからの事を会長と話し合ってくれ」
村越は何か言いたげにしていたが、やがてわかりました、とだけ告げて病室を出て行った。
村越の気配が遠ざかると、漸く達海がほっと肩の力を抜いたのが分かった。
後藤がベッドサイドに座ると、達海が寄りかかってきた。
「達海……」
そっと達海を抱きしめる。達海は抗わない。
先程とは打って変わって、達海は酷く落ち着いた目で後藤の腕の中に居る。
それでも何かが磨り減っているようだと、後藤には思えた。



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折り返し地点かな。ネタ提供ありがとうございました!





流転せずただそこに在る
(達海/ジャイアントキリング)

※前中後村越編その後です。


夢を見ていた。
楽しい、フットボールの夢。
「達海!何してんだよ、早く蹴れよ」
ユニフォーム姿の松本が手を振る。その姿に達海はいいよ、と首を横に振った。
「俺、もうボール蹴れないもん」
けれど松本は「何言ってんだよ、うちの七番が」と笑って達海を指差した。
「え?」
自分の身体を見下ろしてみると、ETUのユニフォームを纏っていた。
脚の痛みも違和感すらも消えている。
周りを見回すと、そこには嘗てのチームメイトが微笑みながら達海を見ていた。
松っさん、フカさん、みんな。
「だって、俺、みんなの事、裏切ったんだよ」
怒ってないの、と問えば、バカだな、お前は。と深作が笑った。
「もう怒ってねえよ」
「悪かったな、達海。お前に全部背負わせて」
「お前が戻ってきてくれて、俺たち嬉しいんだぜ」
「ほら、早くサッカーしようぜ」
ほらよ、とボールが飛んできて咄嗟に足で受け止める。やっぱり脚が痛くない。
恐る恐るボールを蹴ると、綺麗なカーブを描いてチームメイトの元へと飛んでいく。
足が軽い。何処も痛くない。
また、みんなとフットボールが出来る。
嬉しくて嬉しくて、達海は思い切り芝を蹴って駆け出した。
そんな、幸せな夢を見た。



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私は深作が好きすぎる。(今言う事じゃない)ネタ提供ありがとうございました!





レクイエムにはまだ早い
(村越&ジーノ/ジャイアントキリング)

※前中後村越編その後です。


「相変わらず女心がわかって無いね、コッシーは」
やれやれ、と肩を竦めるジーノに何がだ、と村越はむっとしながら聞いた。
「タッツミーは赤ん坊が怖いんじゃなくて君が怖いんだよ。君の愛情を失ったと思ってね」
最近君、女性と親しくしたでしょう。
そんな青天の霹靂みたいなことをジーノに言われて村越は眼を丸くする。
「浮気でもしたの」
「するわけないだろう!」
「でも随分と長い間セックスもご無沙汰してるんじゃないの」
図星を指されてぐっと言葉を詰まらせる。
「……なんでそれを」
「だろうと思ったよ。で、いつからなの」
「……双子を妊娠した辺りからだが……妊婦相手に手を出して何かあったらいけないから自重していただけだ」
「出産してからもう半年以上経ってるじゃない。何言ってるの」
「それは……あの人が子供部屋で寝るようになったから……」
「じゃあキスは?愛してるのハグは?」
「……」
黙り込んだ村越に、ジーノはハア、と深い溜息を吐いた。
「コッシー……君、本当に男としてダメなんだね」
で、最近親しくしてる女性は誰なの。
「そんな人いないぞ」
ずばりと聞かれても本当に心当たりが無いのだから答えようが無い。
「君は鈍いからね。僕が知りたいのは真実じゃなくてタッツミーがそう思うようなことを君がしたんじゃないかって事だよ」
例えば、そう、最近誰か女性から電話が掛かってきたとか、会っていたとか。
「電話……ああ、従姉妹からなら法事の事で電話が何度かあったな」
それだよ、とジーノは村越を指差した。
「タッツミーは君が自分を置いてその従姉妹に会いに行ったんだと思ってるね」
「あれはたまたまアイツから電話があっただけで、俺は法事に行っただけだぞ」
「行くなって言うタッツミーを振り切ってね。君は後藤GMに感謝すべきだね。大事に至らなかったのは彼のおかげだ」
「大事?」
これ以上の大事があるのかと問えば、ジーノはもう面倒見切れないと言わんばかりの表情で肩を竦めた。
「君は楽観視してるみたいだけれど、最悪君は子供かタッツミー、またはその両方を失いかねなかったってことさ」
幼児虐待とか、自殺とか、ね。
「そんなバカな」
「その可能性もあったって事だよ」
いい加減にしなよ、コッシー。ジーノはトンと村越の胸元を軽く叩く。
「鈍感は罪だって、何度教えたら君は覚えるんだい?」
君がそんな風だからタッツミーは君の前では泣けないんだ。後藤GMのところでしかね。
「君のやる事は唯一つ」
ちゃんと愛してるって伝えて、キスをして抱きしめる事だよ。
「多少暴れて引っ掻かれてもね」
それくらい、自業自得だろう?
ジーノはそう笑って村越の前から去っていった。



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ジーノは村越の相談所wwwネタ提供ありがとうございました!





朗々たる声に誘われ
(村越×達海/ジャイアントキリング)

※前中後村越編その後です。


サッカーに興じていた達海はふと誰かに呼ばれたような気がして足を止めた。
猛さん、猛さん。
その声は他の皆にも聞こえていたようで、誰もが足を止めて達海を見ていた。
「……呼んでるぜ」
しかし達海はふるふると首を横に振ってそれを拒む。
「いいよ。俺、まだみんなとフットボールしたいもん」
達海、と松本が笑う。
「俺たちはいつでもここでサッカーしてるから。だから行って来い」
「でも……」
「大丈夫だって」
くしゃりと髪を撫でられた。
「俺たちはいつでもここに居る。また、一緒にやろうぜ」
「うん……じゃあちょっと行ってくるね」
チームメイトの笑顔に見送られ、達海は目を閉じた。


ふっと目を開けると、暗い病室の中に見慣れた顔があった。
「茂幸……お前、何で……」
ちらりと時計を見ると、疾うに夜半を過ぎている。
すっと手を伸ばされ、反射的に身を引く。
それでも村越の手は達海を追いかけ、その肩を掴んだ。
「逃げないでくれ、猛さん。俺が愛しているのはアンタだ」
「……」
はっ。思わず笑いが漏れていた。
「いいんだぜ、無理しなくても」
「猛さん?」
「お前に嘘つかせてまで、引き止めようなんて思わねえよ」
「猛さん!」
もう、いいんだ。そう弱々しく笑う達海にそうじゃない、と抱きしめると達海が腕の中で身を捩る。
「離せよっ」
「離さない。アンタが好きだ。愛してる。愛してるんだっ」
「だったら何で俺を置いてった!」
「すまない。俺の認識が甘かったんだ。すまない、許してくれ」
きつく抱きしめていると次第に達海が大人しくなる。
本当だな、ジーノ。村越は達海を抱きしめながら思う。
こうして達海を抱きしめているだけで、満たされていくと同時にどれだけ自分がこの人を欲していたかを思い知らされる。
「……お前、いつまで抱きしめてんだよ」
「充電してる」
「は?充電?」
「俺にはアンタが不足してるんだ。だから充電してる」
すると腕の中で達海がばか、と小さく呟いた。
「俺だって、ずっとお前が不足してるよ」
「すまなかった」
ふと身体が離れ、お互いに見つめあう。そのまま導かれるように顔を寄せ、口付けた。
「……猛さん、早く退院してくれ」
久方ぶりに味わう唇はかさついていて、村越はそれを潤すように舌先で舐めた。
「ん……なんだよ、いきなり」
「したい。アンタを抱きたい。ここが病院じゃなければすぐにでもアンタを押し倒したいくらいだ」
達海はきょとんと眼を丸くした後、ふっと微笑った。
「ばか」
「ダメか?」
「ううん、ダメじゃない。ていうか、今、して」
巡回が、と躊躇う村越を引き倒し、ぎゅっと村越の身体をきつく抱きしめた。
「猛さん……」
村越の手が達海のシャツを捲くり上げ、ゆっくりと脱がしていく。
記憶にあるより痩せてしまった身体を優しく撫で、白さの眩しい胸元に口付ける。
「ぁっ……」
その声にスイッチが入ってしまい、後は無我夢中で達海を抱いた。
「あ、あっ、しげ、ゆきっ……!」
久しぶりに味わう達海の肉体に、村越は高揚する自分を抑えられない。
何故この甘い肉体を忘れていられたのだろう。
「ぅ、くっ……」
その最奥へ精を叩き付け、その細い身体を抱きしめる。
「猛さん……!」
「茂幸……」
「猛さん、お願いだ。夜はアンタを独占したい。子供部屋で寝るのをやめて俺の隣に戻ってきてくれ」
「……たっぷり充電してくれるの?」
「ああ、充電させてくれ」
拗ねたように尖らせた唇に村越はそう言って口付けた。

翌朝、看護師にこっぴどく説教されたことは言うまでも無い。



***
もう少し続きます。ネタ提供ありがとうございました!!

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