あいうえお題
仲良き事は (持田&??/ジャイアントキリング) ※前中後その後です。 とぼとぼと下を向いてい歩いていたら後ろから頭を小突かれた。 「よ、生海」 見上げた先に居たのは、母親の友人(というより信奉者)である持田だった。 「今帰りか?……ってお前、泥だらけじゃん。おい、もしかして苛められたのか」 生海はぐっと唇を噛み締めるとやがてぽつりと言った。 「……ゲイの息子だって言われた」 「ゲイって、達海さん半分女じゃん」 「……」 達海の特殊な体質は生海ぐらいの年頃の他人からすればからかいの対象になりやすい。 生海にとっては生まれた時からそうだったから、それが世間から見ておかしいのかどうかなんて事は本当のところ分からない。 けれど、突然投げつけられた言葉の暴力に呆気に取られた。 女になったり男になったり気持ちが悪いんだよ。なんて。 言葉の意味を理解した時にはもう取っ組み合いになっていた。 「他に何て言われたよ」 「かわいそうって」 「何が」 「ゲイの夫婦に育てられてかわいそうって」 はっと持田は鼻で笑った。 「そいつ馬鹿じゃん。お前、可哀想なのかよ」 「ううん、ちっとも」 速攻で首を振る生海に、持田は満足げに頷いた。 「俺なんか世の中の親が全部達海さんと後藤さんみたいだったら良いと思ってるけどな」 もし自分の親があんな人たちだったら。 あんなふうに愛情を存分に分け与えてくれたら。 世の中を斜めに見ることも、荒む事も、絶望する事もなかったのに、なんて思ってしまう。 全部?と見上げてくる生海の頭をそう、全部、と持田は笑って撫でる。 わしゃわしゃと髪を掻き混ぜられて生海がうわわ、と声を上げた。 「達海さん達はお前らを愛してんじゃん。それにさ、親が仲良いと子供は安心して家に帰って来れるんだよ」 達海の家は暖かい。 自由だし、無理矢理押し付けてくるもんのない理想の家だ。 「ま、一見へんてこかもしれねえけどな」 ぽんぽん、とくしゃくしゃになった頭を叩きながら持田は言う。 「やられたらやり返せ。親を悪く言われて黙ってるな。最後まで戦え」 男だろ?とウインクされて、生海は大きく頷いた。 「わかった。僕、戦うよ。言われっ放しなんて嫌だもん」 「それでこそ達海さんの息子だ」 けたけたと笑う持田に、生海はもしかして持田は達海たちの子供に生まれてきたかったのだろうか、とふと思う。 「ねえ、持田くん。もし持田くんがお父さんとお母さんの子供だったらどうするの?」 持田はきょとんとしたあと、そりゃお前、と生海を見下ろした。 「自慢するに決まってるだろ」 「そうなの?」 「俺が達海さんの子供ならあんな事もこんな事もやりたい放題なんだけどなあ」 「あんな事?こんな事?」 「まずはあの胸だな。あの胸を攻略して……」 手をわきわきさせて言う持田に、生海がダメ!と声を上げた。 「お母さんの胸は僕のなの!」 「後藤さんのじゃねえの?」 「夜はお父さんのだけど昼は僕のなの!」 「夜はって、見たことあんのかよ」 にやっとして聞いてくる持田に生海は幾ばか身を引きながらぽそりと答えた。 「……あるよ」 「へーえ。ショックだったんじゃねえの?」 「ううん、お母さんすっごくキレイだった……」 うっとりして遠くを見る生海に、持田が羨ましい!と声を上げて悔しがった。 「俺もそんなお宝シーン見たい!」 「だーめ!持田くんには見せないもん!」 そのまま二人はぎゃあぎゃあと騒ぎながら、マンションへと入っていった。 *** そして後藤家に居座る持田。ネタ提供ありがとうございました! 似たり寄ったり (??&達海/ジャイアントキリング) ※前中後その後です。 「なあ、こいつ知り合い?」 コンビニから帰ってきた母親は、何故か生海のクラスメイトの首根っこを掴んでいた。 「……クラスメイトの大和君。どうしてここにいるの」 大和に険のある視線を向けると、彼は気まずそうに視線を逸らした。 「なんか俺の事ずっとつけてくるから連れてきた」 大和は何かと生海に突っかかってくるクラスメイトだ。 ゲイ夫婦に育てられて可哀想だの達海の事を男女で気持ち悪いだのと言われ、取っ組み合いになった記憶は未だ新しい。 「僕のお母さんをストーキングして何の用、大和君」 「べ、別にストーキングしてたわけじゃ……」 「人の後をつけるのをストーキングって言うんだよ」 ばっさり切り捨てるように言うと、大和はぐっと言葉を詰まらせる。 普段は温厚な息子の冷たい態度に、達海はにひーと笑うとばしんと大和の背中を叩いた。 「まあこんな所で立ち話もなんだし、上がっていけよ」 すると生海がこれ以上に無く嫌そうな顔をして、達海はますます楽しくなってくる。 そんな顔をしていても生海は達海に逆らわない。逆らいたいけれど、母親の意見を無碍には出来ない。そう表情が語っていた。 「……お母さんがそう言うなら。大和君、上がって」 生海が渋々スリッパを出し、さあ上がれと視線で促すが大和は戸惑ったように達海を見上げるばかりで。 「ほら、上がれって」 再度促され、大和は仕方なく靴を脱いでスリッパに履き替えたのだった。 「あ、お母さん、おかえり」 大事な事を忘れていた。生海が背伸びをすると達海が身を屈めて頬へのキスを受け入れる。 「ん。ただいま」 そして同じ様に生海の頬にキスを返す光景にぽかんとしている大和に「なにさ」と生海が声をかける。 「……ガイジンかよ」 ぼそりと呟かれたそれに、何が悪いの、と生海が鼻を鳴らす。 「お母さんは十年イングランドに居たんだし、これくらい普通だよ」 「なに、お前もして欲しいの?」 「お母さん!ダメ!」 とんでもないことを言い出した母親にめっと睨むと、達海はへいへいと笑ってリビングへとさっさと向かってしまった。 そしてリビングに入る直前に「そうだ」と思い出したように顔を出してにっと笑った。 「生海、俺ホットケーキ食べたい」 「オッケ。すぐ作るね」 ぽつんと立っている大和をどうしようかと思っていると、達海がお前も一緒に作んだよ、と大和に笑ってリビングに引っ込んでしまった。 「え、俺も?!」 驚いている大和を尻目に、やっぱり、と生海は溜息を吐いた。 「……この家ではお母さんが絶対だから一緒に焼くけど、大和君、ホットケーキ作ったことある?」 「……ねえよ」 「だと思った。じゃあ僕の言うとおりにしてよね」 もう一枚エプロンあったかな。生海はそんな事を思いながら大和を連れてキッチンへと向かった。 今日は三人分を焼くからフライパンは止めてホットプレートにした。 最初はぎこちなく言葉を交わしながら作っていた二人も、次第に笑い声が混じってきて。 そんな声を背に受け止めながら達海はほくそ笑む。 生海がクラスの男子と喧嘩した事は持田から聞いていた。 そして先ほどの生海の反応からしてその相手が大和だという事も察した。 けれど今の二人は楽しそうにホットケーキを焼いている。 喧嘩したり仲良くなったり、いいじゃん、それで。 達海はにんまりとしながら漂ってきた香ばしい匂いに鼻を鳴らした。 「お母さん、出来たよ!」 やがて生海が呼びに来て、達海はリモコンの一時停止ボタンを押して立ち上がった。 テーブルには三人分の皿が並んでおり、そこに一枚ずつ狐色をしたホットケーキが乗せられている。 「お、うまそうじゃん」 「お母さん、生クリームにする?メイプルシロップにする?ジャムもあるよ」 「うーん、じゃあ生クリームにする」 「了解」 甲斐甲斐しく生クリームを盛る生海にありがとな、と笑って椅子に座る。 「大和だっけ?お前も初めてしちゃ上出来」 にっこりと笑う達海に大和が頬を赤く染めて俯いた。 「僕がサポートしたからだよ」 つんと唇を尖らせて言う生海に、そうかそうかと笑って達海は手を合わせた。 「「「いただきまーす」」」 結局達海は二回もおかわりをして三枚のホットケーキをぺろりと平らげた。 そして生海と大和が後片付けをしているうちにソファでうとうとと夢の国へと旅立ってしまった。 「寝ちゃったね」 生海がそっとブランケットをかけてやると、子供みたいな人だな、と大和が言った。 「なんていうか、親って感じがしねえ」 「うん。そこがお母さんの良い所なんだよ」 達海の跳ねた髪をそっと撫でると、大和が悪かったな、と謝った。 「その、色々言って……」 「……今でも僕の事、可哀想って思う?」 すると大和はぶんぶんと首を横に振ってそれを否定した。 「全然!想像してたのと違っててビビッた」 僕ね、と生海は母親を愛おしげに見下ろしながら言う。 「世界で一番お母さんが好きなんだ。だからお母さんを悪く言うヤツとは断固戦うからね」 「……もう言わないよ。お前がこの人の事すっげえ好きなのは分かったし」 けどさ、と大和が顔を寄せてくる。 「お前クラスの女子とか興味ないのかよ。バレンタインなんかチョコたくさん貰ってたじゃんか」 「貰ったけど……うーん、興味は無いなあ。悪いけど」 だって僕、誰を見てもお母さんより可愛いとかきれいとか思えないんだもん。 そうあっさりと言う生海に、大和はダメだこりゃ、と呆れながら身を起こした。 「筋金入りのマザコンだな、こりゃ」 そんな大和に生海はいいんだ、と笑う。 「マザコンって言われても僕は幸せだから」 「……お前って凄いマイペースなヤツだったんだな」 大和の言葉に生海はきょとんとした後、そうかもね、と笑った。 それからというもの、家が近い事もあって大和はちょくちょく後藤家を訪れた。 今では一番の仲良しとなった二人なのだが。 「で、何でお前らまた喧嘩してんの?」 ちょっとトイレに席を立って戻ってきたらホットプレートを前に二人が睨み合っていた。 「お母さん!お好み焼きは星型だよね!」 「何言ってんだよ!丸型に決まってんだろ!」 ギャーギャーと煩い二人に、達海は仕方ないなあと苦笑してタネの入ったボウルを奪った。 「今日は俺が作ってやんよ」 *** そしてハート型のお好み焼きを作る達海。ネタ提供ありがとうございました! 濡れた目許に (後藤×女達海/ジャイアントキリング) ※前中後その後です。 二人目の子供という事もあって油断していたのかもしれない。 「オラ椿ー!やる気あんのかお前はー!」 怒鳴った途端、ざっと何かが流れ出る感触がして達海は青くなった。 万が一の時の為に生理用ナプキンは当てていたが、まさか、この感触は。 「ま、松ちゃん……」 ぎぎぎ、と音がしそうなくらいの硬い動きで傍らの松原を見下ろす。 「なんか今、あそこから水みたいなのがざばって出てきたんだけど……」 これって破水?ねえ破水?引き攣った笑いと共に聞けば、いつかの様に松原が「後藤GMー!」と叫んだ。 「どうしました?!」 すぐにコート内に入ってきた後藤に青くなった松原が、破水したらしい事を告げると後藤もまた青くなった。 「ええ?!予定日までまだ一週間近くあるぞ!?」 「どうしよう、恒生、赤ちゃん……」 動揺して文章になっていない達海を支えながら後藤が大丈夫だ、と励ましながらゆっくりとコートを出て行く。 「松原さん、後は頼みました!」 やがて達海を乗せた車が駐車場を出て行った。 達海はそのまま入院する事になった。 陣痛もまだ弱く、子宮口も開ききっていないため今日は様子を見る事になりそうだという事だった。 翌朝の状態を見て陣痛誘発剤を使うか決めよう、と言われて後藤は余計に不安になった。 何せ破水してしまえば羊水に雑菌が入りやすくなる。つまり感染症に罹る可能性が高まったという事だ。 四十八時間以内に産まなければならないという医者の言葉にプレッシャーを感じつつ、後藤に出来る事と言えば達海の傍にいてやることだけだった。 今なら大丈夫だから、という達海の言葉に追い出されるようにして病院を後にした後藤は一旦マンションに戻った。 「赤ちゃん、産まれるの?」 小学校から帰宅していた美幸に子供が生まれそうなことを伝え、お泊りの準備をしなさい、と美幸の背を押した。 有里に美幸を頼めるだろうか、と思い携帯電話を手に取るとインターフォンの音が聞こえて後藤は携帯電話を置いた。 誰だこの忙しい時に。 後藤が内心で悪態を吐きながら玄関に出ると、そこには持田がいた。 「ちゃーす。達海さんいる?」 頻繁に後藤家を出入りする男が後藤を見上げて言う。 そうだ、と後藤は閃いた。 「持田君、頼みがあるんだが……」 後藤が事情を説明すると、いいぜ、と彼はあっさりと了承した。 すると準備を終えた美幸がぱたぱたと小走りにやってくる。 「あーモッチーだ!」 「おー美幸。今日は俺んちでお泊りだぞー」 「本当?お父さん!」 瞳を輝かせて見上げてくる美幸に、ああ、お利口にしているんだぞ、と笑って後藤は美幸を送り出した。 それから急いで病院に戻ったのだが、当の達海は案外けろっとしていてほっとしたような陣痛が進んでいなくて不安なような複雑な気持ちになった。 そして翌朝、達海は結局促進剤を使わず分娩室へと向かった。 美幸の時も初産のくせにスピード出産だったので、二人目も早いだろうとは思っていたがやはり医者の見立てより遥かに早く達海は元気な男児を出産した。 そして付き添っていた後藤はというと、美幸の時と同じくやはり大泣きをしていた。 やがて涙腺が落ち着くと、今度は頬の筋肉がにやにやとしっぱなしになり、夕方になって小学校を終えた美幸を連れて病室に現れた持田にからかわれる位に相好を崩していた。 結局その日も美幸は持田の家に泊まる事になり、二人きりになった病室で達海は後藤を見上げて言った。 「気付いたか?こどもさ、目許がお前に似てるんだぜ」 「そうか?」 自分では良くわからない、と小首を傾げる後藤に達海は笑う。 「ああ、お前によく似て優しい目許してるよ」 「……達海……」 後藤は達海の手を取ると、そっと頬を寄せて目を閉じた。途端にまた目頭が熱くなる。 「ありがとう、達海……よく頑張ったな」 「それ、もう何度も聞いたよ」 くつくつと喉を鳴らして笑いながら達海がその目尻に口付けてくる。それを受け止めながら後藤もそうかな、と笑った。 「でも、何度だって言いたいんだ。ありがとう、達海」 どういたしまして、と微笑んだ達海は、はっとするくらい綺麗だった。 *** 頂いたネタを元に色々調べてたら違う話になった。(爆)ネタ提供ありがとうございました! 眠りの向こうへ (??/ジャイアントキリング) ※前中後その後です。達海は死んでます注意。 母の通夜には大勢の人が訪れた。 私的な友人からサッカー関係者、報道関係者まで様々だった。 その一人一人に挨拶をして、大方の人が帰ってしまう頃には生海は疲れ果てて椅子に座り込んでしまった。 甥っ子の達也に至っては椅子に座ったままうとうととしている。 その時、目の前に誰かが立ったのがわかって生海は顔を上げた。 小学生以来の付き合いである大和が沈痛な面持ちで立っていた。 「……酷い顔してるな」 「……だろうね」 二人の間に沈黙が落ちる。悔やみの挨拶はもう来た時に済ませたから今更言うべきことでも無い。 「……香苗さんは」 香苗とは生海の伴侶の名前だ。 生海は少し前に結婚したばかりだった。左手の薬指に嵌められた指輪の輝きは新しい。 「向こうで父さんを手伝ってる」 「そうか……」 再び沈黙が落ちる。けれど付き合いの長い二人にとって沈黙は気まずいものではなかった。 「……母さんに結婚式、見せてあげれて良かった」 不意にぽつりと生海が呟いた。 「ああ、喜んでたな、達海さん」 「本当はさ、カナは結婚にはまだ時期尚早じゃないかって渋ってたんだ。でも俺が押し切った。母さんに残された時間が少ない事はわかってたから」 母を、安心させてやりたかった。 家庭を持って、もう大丈夫なのだと知らせたかった。 「俺の身勝手にカナを付き合わせちゃったんだ」 「でも、愛してんだろ?」 「……うん。カナの事は愛してるよ。だからパートナーに選んだんだ」 だけど、と生海は両手で顔を覆って俯いた。 「僕にとって、母さんの存在は余りにも大きすぎた……」 生海、生海と慈しむように名を呼ぶ声を、子供のように笑う笑顔を、頭や頬を撫でる掌の感触を、今でもはっきりと覚えている。 愛している。誰よりも。今この瞬間だって母を想って全身が叫んでいる。 「……知ってるさ」 大和がぐしゃりと生海の髪をかき混ぜる。 「お前は筋金入りのマザコンだもんな」 マザーコンプレックス。その一言で済ませてくれる大和の気遣いが今は嬉しい。 そして、同じ様に全てを受け入れて縁を結ぶ事を選んでくれた香苗にも感謝してもしきれない。 「僕、恵まれてるなあ」 「そうだぜ、お前は恵まれてるんだよ」 掌の下で、生海は小さく笑った。引き攣った笑みだったが、それでも母が亡くなって以来の初めての笑みだった。 *** 大和君。一話だけでさよならは寂しかったので出しちゃいました。 惚気か結局 (??&達海/ジャイアントキリング) ※前中後その後です。 何と呼んで良いか分からなかったので、迷った末におばさん、と呼んだら頭を叩かれた。 「だーれがオバサンだ」 達海がにまーとして大和を見下ろしている。あ、お母さん楽しそう。生海は無言でココアを啜った。 「えっと、じゃあ、生海のお母さん」 「長い」 「えー?」 ちらりと大和が視線で生海に助けを求めるが、生海はわざとらしく視線を逸らして合わそうとしない。 「……おじさん?」 「違う」 「後藤さん」 「それも違う」 「えー……」 もうお手上げ、と両手を挙げると、なってねえなあ、と達海はにまりと笑いながら大和を見下ろした。 「達海さん、って呼べばいいんだよ」 「たつみさん?」 「そ。俺の前の苗字。みんなそれで呼ぶぜ」 恒生もな、と笑ってリビングを振り返ると、ローテーブルの上でパソコンを打っていた後藤が「ん?」と顔を上げて振り返った。 「呼んだか?達海」 「何でもねえよ」 だろ?と大和を見下ろす達海に、大和はこくこくと頷く。 「でも変なの。夫婦なのに苗字で呼んでんの?」 「俺がそっちの方が良いって言ったからな。俺のカワイイオネガイなら何でも叶えてくれるんだよ、うちの旦那様は」 「ふーん」 あれ、俺さり気に惚気られてる?大和が生海を見ると生海は何かを悟ったような目で遠くを見ていた。 ……子供相手に惚気るなよな。大和はそう思いつつもじゃあさ、と後藤の後姿を指差して言った。 「あっちは後藤さんって呼べばいいわけ?」 「いや、アレはおじさんでいい」 即答する達海に、こら、とリビングから声が掛かる。 「今度は聞こえたぞ、達海」 「だっておじさんなのはホントだろー?」 楽しそうに笑う達海と、苦笑する後藤の姿に大和は、あ、俺今当てられてる、と悟って生海と同じ様に遠くを見る羽目になったのだった。 *** 余所の子の前でもいちゃこらする夫婦。 |