あいうえお題

まるで鏡のように
(乾&達海/テニスの王子様&ジャイアントキリング)

※テニプリ混合です。


再会した春江はあの頃と全く変わりが無かった。
多少老けた感はあったが、それはお互い様というもので。
逆に貞治の方は変わり過ぎていた。
足元でちょろちょろしていた小さな身体は今では後藤と同じくらいに育っていて。
屈んで視線を合わせてやっていたあの頃と比べ、今ではこちらが見上げる側になっている。
それに加えあの不可視眼鏡は何だ。度が強いにしても程がある。
記憶にある貞治はまだ度の軽い眼鏡を掛けていたはずだ。十年で随分と度が進んでしまったらしい。
彼もまた、いつかは春江のようになってしまうのだろうか。そう思うと何ともし難い気分になる。
それはさておき。問題はあの性格だ。
昔は無邪気にタケ兄、タケ兄と満面の笑みでじゃれ付いてきていたあの子供が。
今では謎のノート片手にデータがどうの、確立がどうのとぶつぶつ呟くのっぺりした男に育ってしまって。
十年って長いのね。達海は心底そう思った。


「で、俺はここにいて大丈夫なのかな」
達海のベッドに腰掛けてノートを広げている乾に達海は大丈夫だって、と笑ってその隣に腰掛けた。
「ここは俺の部屋なんだから誰を招こうと俺の自由」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
かりかりとペンを繰るその手元を覗き込み、あれ、と達海は声を上げた。
「お前テニスやってんの」
幼い乾がテニスに執着していたのを思い出してそう言うと、彼は曖昧な笑みを浮かべた。
「プレーヤーとしては中学で終わったよ。今はマネージャーとして関わってる」
「マネージャー?」
くい、と眼鏡を持ち上げて乾は小さく頷いた。
「視力の低下が著しくてね。これ以上コートに立つのは危険だと判断したんだ」
でも、と彼はまたあの曖昧な笑みを浮かべる。
「諦め切れなくてね。せめてマネージャーとして関わっていたくて」
少しだけ寂しげな色を宿したそれに、達海はそうか、と微笑んでその頭を抱き寄せた。
わしゃわしゃと硬めの黒髪を掻き混ぜるとタケ兄さん、と情け無い声が腕の中からする。
「テニスが好きなんだな、ハルは」
「……うん」
達海の肩に額をあて、乾は好きだよ、と囁いた。
「……兄さんは?」
「うん?」
「タケ兄さんはサッカー、好き?」
「ああ、好きだね」
大好きだ。そう淀みなく言い切ると、俺もだよ、俺も、テニスが大好きなんだ。そう乾は言った。
乾の事だ、恐らくは達海を襲った故障の事も知っているのだろう。
俺たちには重なる瑕がある。達海は乾の頭に己の頭を凭せ掛けながらそう思う。
だからこんなに、貞治の想いが流れ込んでくるのだ。
テニスがしたいと。もっとテニスがしていたかったのだと。
それはきっと、自分がフットボールをしたいと願う気持ちにとてもよく似ている。



***
乾さんはご都合弱視設定。




みどりのひとみ
(乾&達海/テニスの王子様&ジャイアントキリング)

※テニプリ混合です。


達海と再会し、フットボールへの興味も沸いて来た乾は暇を見ては達海の部屋を訪れた。
勿論、監督業の邪魔をするようなことはしてはならないので予め電話を入れるのだが。
大抵は二つ返事で来訪を受け入れられた。
達海からしても大人しくDVDを並んで観ている乾は分析をしながらでも邪魔にはならなかったし、寧ろ一度観た事は大抵覚えている乾の記憶力を利用しては便利だと思っていた。
そんな時、不意に乾が眼鏡を外したので達海の意識も画面からそちらに向いた。
眼が疲れたのだろう、瞼の上からそっと手をあてる仕草にちょっとした興味が沸いた。
「なあ、ハル、ちょっとこっち見てみろよ」
「え、なに?」
反射的に顔を上げた乾に、達海は思わず目を見張った。
バランスよく配置されたパーツ。通った鼻筋。薄い唇。
そして何より、緑がかった黒の瞳。
ああ、その色は。
「……お前、春江似だな、マジで」
思わずそう口にすると、乾はそうらしいよ、と柔らかく笑った。
眼鏡を掛けている時には気付かなかったけれど、そんな笑い方も彼女に似ていて。
何だか少しだけ、胸の奥が疼いた気がした。



***
センチメンタルさんじゅうごさい。




昔話、聞きたい?
(後藤×達海/テニスの王子様&ジャイアントキリング)

※テニプリ混合ネタです。


最近の達海は驚くべき事に携帯電話を携帯するようになった。
あれほど口を酸っぱくして注意しても持ち歩こうとしなかった達海が。
どうやらあの乾親子のおかげらしい。
乾親子と達海は余程懇意らしく、頻繁にメールや電話のやり取りをしているようだった。
春江が訪れたのは最初の一回だけだが、息子の貞治の方は頻繁に達海の部屋に招かれている。
顔を寄せ合って何事かを囁きあっている姿は微笑ましいと同時に羨望さえ感じる。
後藤の知る達海という人間は、いつもどこか独りで立っているようなところがある人間だった。
だが後藤と付き合うようになってからはそれが和らぎ、身を任せてくれるようになった。
後藤はそれが嬉しかった。自分だけの特権のような、優越感すら感じていた。
けれどそれは後藤一人のものではなかった。
後藤が知らなかっただけで、達海が身を寄せるのは後藤だけではなかったのだ。
「ごとう?」
ひょいと達海に顔を覗き込まれてはっとする。パソコンのキィボードに添えられた手は全く動いていない。
「なにぼーっとしてんの」
「いや……ちょっと考え事をしてた」
達海が事務室に入ってきた事すら気付かなかった。時計を見るとさほど時間は進んでいない。
「ふうん」
「それより、貞治君は放っておいていいのか?」
「帰ったよ」
そう言って達海は近くの椅子を引き寄せて後藤の隣に座った。
「もう終わる?」
「そうだな、もう切りの良い所まで行くぞ。何だ、晩飯か?」
「うん。で、お前んち泊まる」
珍しい達海からの申し出に眼を丸くすると、彼はにひーと人の悪い笑みを浮かべて後藤の眉間を突いた。
「悩めるごとーくんに少しだけ昔話をしてやろうかと思ってな」
「昔、話?」
「俺と春江のお話。気になるだろ?」
ぐっと言葉を詰まらせた後藤に、達海は一層可笑しそうに笑みを深めたのだった。



***
センチメンタルさんじゅうきゅうさい。




目新しいものなんて無い
(後藤×達海/テニスの王子様&ジャイアントキリング)

※テニプリ混合です。


「とゆーわけで、俺の初恋は終わったわけです。おわかり?」
ビールの缶を揺らしながらそう言う達海に、後藤は複雑な気分だった。
達海の話を要約するとこうだ。
大人になったら春江をお嫁さんにしようと思っていたのにお前を好きになっちまったんだよばーか。
「ええと、その、俺が悪い、のか?」
そんなはずは無いのだけれど、達海の口調はまるで後藤を責める様で。
「そーだぞ、ごとーが悪い」
くひひと笑いながら達海がビールの缶をローテーブルの上に置く。
そしてどっかと後藤の脚を跨いでその上に座り、顔を寄せてきた。
「お前が悪いんだから、責任とれよな」
にひっと笑う達海に、後藤は目を丸くした後、ふっと苦笑してその身体を抱き寄せた。
「……喜んで」



***
結局いつものゴトタツ。




もう一度、この腕に
(後藤×達海/ジャイアントキリング)


十年前、達海と俺は所謂恋人同士だった。
公に出来る関係ではなかったけれど、それでも十分だった。
俺が京都へ行くとなった時、あいつは笑って賛成してくれた。
少しくらい寂しがってくれてもいいんじゃないかと思ったけれど、それが達海なりの虚勢だと後で気づいた。
後に寂しい、と漏らした俺に、小さく頷いた達海。
すぐにしまった、という顔をしてそっぽを向いてしまったけれど。
それが達海の全てを物語っていた。
寂しくても、それが俺のためならばと全てを笑みに変えた達海。
だから達海がイングランドへ行くとそっと打ち明けてくれた時。
俺も笑ってその背を押した。
離れるのは寂しい。
況してや今度は国外だ。新幹線一本なんかとレベルが違う。
けれど達海も笑っていた。だからこれが正解だと思った。
まさかそれから十年も音信不通になるなんて思わなかったけれど。
それでも達海を想い続けることは止めなかった。止められなかった。
寂しいと漏らした俺に小さく頷いた達海の表情を、今も覚えているから。
なあ、達海。
お前がくれた手紙。それはお前からの俺への合図だと信じてる。
だから、お前を迎えに行くよ。
もう一度、お前をこの腕に抱くために。
お前を、迎えに行くよ。



***
5/10後藤の日用に考えていたネタ。

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