八千代に続く君への詩
(三雲×女達海/ジャイアントキリング)
先天性転換型両性具有という体質を持つ人達がこの広い世界には存在する。
女性の月経のように定期的に、または不定期に本来の性別とは逆の性別に変わってしまう人達のことだ。
男なら女に、女なら男に。
そんな御伽話のような体質の人が、三雲の身近にいた。
それが、達海猛。ライバルチームである、ETUの監督。
彼がそうであるということは彼が現役である頃から有名で。
どういう運命の導きか、三雲が彼と交流を持つようになってからも彼は平然とそれを口にしていた。
彼は元々細身であったが、女性である時の彼はいっそ華奢なくらいだった。
強く抱きしめたら折れてしまいそうな、そんなか弱さが彼、否、彼女にはあった。
初めてキスをしたのは彼が彼であるときだった。嫌悪感は全くなかった。
それから何度もキスを交わして、初めて体を重ねたのは彼が彼女である時だった。
最初は女の体の方がいいだろ?なんて彼女は笑っていたけれど。
男だとか、女だとか、そんなの関係ないです。達海さんが好きなんです。
三雲がそう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。
それから何度も体を重ねて、男の時でも構わず彼を抱いた。
可愛い三雲。そう囁いて三雲を抱き寄せる彼は、三雲の自意識過剰かもしれないが幸せそうで。
そんな彼を見ていると三雲もまた幸せな気分になるのだった。
しかし、そんな蜜月は長くは続かなかった。
夏の始まりの頃、達海の体が女から男に戻らなくなった。
最初は不摂生が祟ってホルモンバランスが崩れたんだろうと笑っていた達海も、一ヶ月を過ぎる頃には深刻そうな顔をしていた。
転換のサイクル自体よくわかっていない三雲には、その重大性がまだ分かっていなかった。
ただ、大丈夫だからと笑う達海を信じていた。
けれど、それからさらに一ヶ月。呼び出された先で三雲は思いもよらぬことを告げられる。
妊娠、したみたい。と。
達海とのセックスにはいつもスキンを使っていた。女性体の時は特に気を使った。
けれど思い当たる節がないわけでもない。
青くなった三雲に、達海は大丈夫だから、と笑った。
お前の足引っ張るわけにはいかない。堕ろすから安心しろ。
話はそれだけだ、と席を立った達海を三雲はただ見送ることしかできなかった。
***
はい、やらかしましたミクニョタッツ子供ネタ!あっちこっちで風呂敷広げるだけ広げて放置ですよ!(爆)
夢だった方が良かった?
(後藤&女達海/ジャイアントキリング)
※「八千代に続く君への詩」続編。
妊娠した、と軽く告げた達海に後藤は一瞬思考が真っ白になった。
そんで堕ろすことにした、と続けられて我に返る。
相手は三雲なんだな?と問えば、達海はこくりと頷いた。
三雲は知っているのか、と問えばまたこくりと頷く。
三雲はなんて?と問えば、ショック受けてた、と弱く笑った。
そりゃそうだよな。あいつはまだ若いんだ。フットボーラーとしてもこれからだ。
そんな時にこんなコト、ショックに決まってる。
あいつのプレーに支障がでなきゃいいんだけど、と視線を伏せる達海に馬鹿、と後藤は怒鳴った。
まずは自分の心配をしろよお前は。堕ろすって簡単に言うけど、本当にそれでいいのかよ。
けれど達海はいいんだ、と微笑う。
三雲にはたくさん幸せを貰ったから、それだけで、俺は生きていける。
この子には悪いけど、三雲の枷になるのだけはダメだ。だから、堕ろすよ。
そして長い沈黙の後、後藤はわかった、と頷いた。
***
眠い。(言いたいことはそれだけか)
良き日の為に
(三雲×女達海/ジャイアントキリング)
※「八千代に続く君への詩」続編
昼を廻った頃にその日の練習は終わり、それぞれクラブハウスへと戻っていった。
達海もまた手早く着替えると、後藤が迎えに来た。
「そろそろ時間だ」
「ん。行けるよ」
今日、これから達海は病院へ行き堕胎処置を受けてくる。それを知っているのは後藤だけだ。
「……本当にいいのか」
「……いーよ」
行こうぜ、と後藤の背を押して達海は部屋を出る。
「……え?」
そして駐車場へ向かうと、そこにはここにいるはずのない人物、三雲がいた。
どうしてここに、と呟くと、彼はこちらに駆け寄ってきて達海を見つめた。
「あのっ……!」
傍らの後藤には目もくれず、じっと達海を見つめた三雲は徐に膝を着きアスファルトに両手を着いて頭を下げた。
「堕ろすの、取り止めてください!お願いします!」
「え、ちょ、みく……」
「俺はまだプロになったばかりで、収入も安定してなくて、苦労させるかもしれないけど……でも一緒にいたいんです!達海さんと、子供と、三人で生きていきたいんです!」
お願いします、とアスファルトに額をこすりつけんばかりの三雲に達海がぽつりと呟く。
「……俺、産んでいいの」
その呟きに三雲はばっと顔を上げ、はい、と力強く頷いた。
「産んでください。お願いします」
「……」
達海はそっと片膝を付き、三雲を抱き寄せてありがとう、と囁いた。
「俺を……俺達を選んでくれて、ありがとう……」
その瞬間、三雲は目の奥から溢れてくるものに気づいたが、それを止めることはできなかった。
「達海さん、達海さん……!」
「うん、ありがとな、三雲……」
「幸せって、思ってもらえるように頑張りますから……!」
達海は三雲からゆっくりと体を離すと、ふわ、と笑った。
「うん、俺も頑張る」
その柔らかな笑みに三雲の涙腺は更に緩み、ぼろぼろと涙を零して頷いた。
***
三雲に土下座をさせたかっただけというか。
|