「こんなにあいたいと思うの、おかしいかなぁ…」
(宮田×一歩/はじめの一歩)




あれから、彼とは会っていない。


とん、とん、と危なげなくテトラポッドの上を移動していく姿があった。
彼は一番海に近い場所で立ち止まり、広がる海原を見つめた。
一直線に伸びる水平線。
あの向こうへ行けば何かが変わるだろうか。
いいや、水平線を越えるなど、できはしないのだ。

ぽつり、と冷たさが頬に口付けた。

あれ、と空を見上げると、小さな水滴がぱらりぱらりと落ちてくる。
予報より数時間だけ早い雨。
それは差し伸べた掌に触れた途端、弾けて落ちた。
指先で小さな珠を描く水滴は、胸に仕舞いこんだはずの傷口に染み込んでいく。
くすんだ色の空から視線を外し、じっと眼を閉じる。
この決断は間違いではないと、自分を隠した。
正しさなんて、わからずに。
けれどキミの名を呼んだ数だけ、好きだった。
これだけは言える。間違いじゃないって。
キミがいたから、勇気を育てることが出来た。

だけど、もう。

くるりと海原に背を向け、来た順を辿ってとん、とん、とテトラポッドの上を移動していく。
とん、と最後の一歩をやや跳躍気味に降り、堤防にたどり着いた。

ボクはもう、振り返らないよ。

キミとめぐり逢えた、この奇跡を抱きしめれば、不思議と不安は消えるから。
悴む心見つめて、痛みと迷いの中で強さの意味を見つけよう。
たとえ二度とめぐり逢えなくても、躊躇いのないこの想いだけがあればいいから。
もう、春は待たない。

だけど、どうして。

キスの仕方も、人の愛し方も教えてくれたのに。



「どうして、忘れ方も、教えてくれなかったの…」












***
ついでに一歩の方でも歌ネタやってみた。
元ネタの歌は明るい歌なのですが、気付いたら後ろ向きになってましたスマソ。(爆)

 

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