「…いや?きれいだなと思って」
(一歩、歩夢/はじめの一歩)




「まま、きれいなおはな」
娘が小さな指を指した先には他家の庭先で咲き誇るエンジェルトランペットの姿があった。
その小柄ながらもどっしりとした木は大きな葉と、これまた大きな純白の花を垂らしていた。
「ああ、本当だ。きれいだね」
名の通り、トランペットのような形をしたその大きな花は、純白を誇るように幾つもの首を垂れている。
「あの花はね、エンジェル・トランペットっていうんだよ」
娘の手を引きながら一歩は微笑んで説明した。
「えんじぇるとらんぺっと?」
「うん。まるで天使が持ってるラッパみたいにきれいだからそういうんだよ」
「ラッパっておうちにもあるやつ?」
歩夢が指先で家にある玩具のラッパの形を描いてみせると、そうそう、と一歩は笑った。
「あれを下に向けたらあんな感じでしょう?」
「うん。ラッパみたい」
そして息子を背負った母親と、小さな娘は再び歩き出す。
「でもあゆちゃん、あの花は絶対に触っちゃダメだよ」
「どうして?」
「毒があるから」
「しんじゃうの?」
きゅ、と強まる握る手を、一歩はやんわりと握り返してやる。
「そうかもしれないね。だから、絶対に触っちゃダメだよ」
いいね?と言い聞かせれば娘はこくりと頷く。
「てんごくのラッパだから、あゆたちはさわっちゃダメなのね?」
すると母はくすりと笑い、そうかもしれないね、と頷いた。






***
うちの母がこの花が好きで、現在玄関先で咲きまくってて、それを見てて思いついたネタ。
きっと母はこの花が毒を含む植物(しかも全草)だとは知らない。だって毎年数が増えてってるんだもん…キレイだけど囲まれると怖いんだよ…!(涙)うっかり触ってしまったら手を洗いましょう…。まあ手入れをしている母はぴんぴんしてるので多少触ったくらいなら過敏になるほどでもないのかもしれませんが。

 

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