「…ちょっとくらい構ってくれたっていいじゃん…」
(宮田一家/はじめの一歩) 「もうパパなんてキライ!!」 甲高い叫び声と同時にばたばたと軽いが騒がしい足音が台所を通り過ぎて行く。 またか、と小さな溜息をついて洗い物をしていた手を止めて軽く手を洗った。 エプロンで手を拭いながらリビングを覗くと、訃報に接したかのような神妙な顔つきで腕を組み、座り込んでいた。(その背中に息子がきゃあきゃあ笑いながらよじ登っていることすら気付いていないようだ) 「どうしたの?」 すると彼は顔を上げ、訝しげな目で一歩を見上げた。 「…わかんねえ」 一歩は再び溜息をつき、夫の傍らに腰を下ろした。 「何がどうしたのか、教えて?」 数分前。 「パパ、パパ、きいて!」 「ぱぱ!ぱぱ!」 宮田は、リビングに入るなり子供たちに捕まった。 「あゆね、ゆーくんとぜっこうしたの!」 「あゆちゃんけんかしたのー」 ぷんすかと訴える娘とのんびりとした息子の言葉に、宮田は戸惑いながらも「そうか」とだけ返す。 「だってね、ゆーくんったらね、あゆのつくったおしろぐちゃぐちゃにしちゃったの!」 「ぐちゃぐちゃー」 「そうか」 「だからね、あゆ、ゆーくんのことなぐったの!」 「そうか」 「そしたらゆーくんがおこったの!ゆーくんがわるいのに!」 「殴ったんならそりゃ怒るだろ」 「だろー」 「〜〜〜〜〜!!!」 そして冒頭に戻る。 それを聞き終えて一歩は深い溜息をついた。 「お前の言ったとおり、頷いてみたんだが」 「一郎さん、あのね…うん。そうなんだけどね」 以前にも歩夢が話しかけ、宮田が無反応で歩夢が怒ったことがあった。 だから一歩は提案したのだ。 『話の合間にね、「そうか」って頷いてあげるだけで凄く違って来るんだよ』 どうやら夫はそれを素直に、というよりは愚直に守ったらしい。 しかし最後が良くない。 「あのね、あゆちゃんだって殴ったことが悪いってことはわかってるんだよ。でも、悔しかったって事を訴えたくて言ってるんだよ」 「…じゃあどうしろって言うんだよ」 すると一歩は「何もしなくていいんだよ」と笑った。 「ちゃんと話を聞いてあげて、肯定してあげれば満足してくれるよ」 「だが殴ったのはよくないだろ」 「それはそうなんだけど…うーん」 人差し指を唇に当てて考え込んだかと思えば、そうだ、と手を叩いた。 「じゃあ、ボクがやってみるから一郎さんは見ててよ」 「は?」 歩夢は子供部屋の隅っこでお気に入りのぬいぐるみを抱きしめて座り込んでいた。 「あゆちゃん」 声をかけても唇を尖らせたまま、ぬいぐるみの頭に顎を乗せたまま動かない。 「パパから聞いたよ。ゆーくんと喧嘩したんだって?」 傍らに膝を付き、問いかけると歩夢はこくりと小さく頷いた。 「どうして喧嘩したの?」 「…あゆがすなばでおしろつくってたら、ゆーくんが、あゆのおしろ、こわしちゃったの」 「そっかあ、じゃあ、あゆちゃんが怒るのも仕方ないよね」 「でしょ?!」 「でも、あゆちゃんがおともだちを殴っちゃうのはママ、悲しいなあ」 「……」 「ゆーくんはごめんなさいしてくれたの?」 「……うん」 「あゆちゃんはごめんなさいできたかな?」 「………ううん」 「そっかあ。ねえ、ママもパパもね、とっても元気で優しいあゆちゃんが大好きだよ。でも、殴っちゃったことは良くないことだから、明日ゆーくんにごめんなさい、しようね」 「うん」 「じゃあ、あそこで隠れてるパパにいってらっしゃいしようか」 にこり、と背後を指差せば、漸く開きっぱなしの扉の意味に気付いた歩夢が「あ!」と声を上げた。 *** 子供にどう接していいかよく分かってない一郎。 逆に一歩は子供が何をどう求めているのか何となく分かる人。 ということを書きたかったのですが、一歩が上手くお手本になれてるか心配。 いつもは真っ先に母親に報告するのですが、たまたまジムに向かおうとしていた父親と先にかちあってしまったのでこうなりました。(爆) |