恋歌2
ジョウイが自分達の元を去り、そして自分達もミューズからコロネの村へ逃げてきて丸一日が経った。
タイ・ホーとの賭けに勝ち、船を出してもらえる事になったカッツェは、少し休もうと言うナナミの提案に同意した。頭の中を整理したかったのだ。ナナミとピリカは二人でアイテムを買いに行くと言っていた。
「…船着き場でも見に行こうかな…」
やっと手に入れた一人の時間。気が抜けたのも仕方ないと言えなくも無いのだが…。
「……お前、馬鹿か?」
「す、すみません……」
カッツェは船着き場にある柵の上に座っていたのだが、考えに没頭する余りバランスを崩したのだ。危うく冷たい水の中に落ちる所をある男に引き止められた。
「あ!」
カッツェは自分を助けた男の顔をまじまじと見つめる。
間違いない。
「?どうかしたか?」
いぶかしげな男にカッツェは慌てて頭を下げる。
「い、いえ!本当にありがとうございました!!」
(ソロン・ジーだ!!)
「…いや…」
ソロンは何かを思い出すようにじろじろとカッツェを眺める。実際、ハイランド軍から逃げ延びたカッツェはいつバレやしないかと心中穏やかではない。
「あ、あの、本当にありがとうございました、失礼します」
さっさと逃げようと踵を返すがその腕を掴まれてしまった。
「な、なんでしょう?」
「……お前、そのサークレットはいつから身につけている?」
カッツェは一瞬ぽかんとしたが、自分の事がばれたのではないと分かると少しほっとした。
「これ、ですか…?小さい頃からつけていますが…」
そう答えると、ソロンは暫く何かを考え込んだ後、「来い」とカッツェを引っ張っていく。
(え?え?何なの?!)
こんな逃げ場の無い村で暴れるほど馬鹿ではない。だが、何故この男にいきなり連行されなくてはいけないのか分からなかった。
(ばれたのかな?!あ、それとも、もしかしてサークレットってつけてちゃいけないの?!)
年齢制限があるとか?などパニックに陥りながらカッツェはソロンに引っ張られていった。
「座れ」
わけの分からないまま連れてこられたのは宿屋の一室だった。
(はあ〜、よかった〜…駐屯所まで連れていかれたらどうしようかと思ったよ…)
これはこれで十分窮地なのだが、まあ、何とかなるだろう。とカッツェは大人しく様子を見る事にした。
ソロンは備え付けのティーセットを使ってどうやら紅茶を入れているらしい。
「…お前、出身地は?」
葉を蒸らしている間、ソロンは様々な事を聞いてきた。出身地、サークレットの事、そして、
「お前、姉がいるだろう?」
「な、何でそれを!」
がたんっと大きな音を立ててカッツェは立ち上がるとソロンは「いいから座れ」と尊大に言い放つ。カッツェが渋々座ると彼はカップに紅茶を注いでカッツェの前に置く。琥珀色の液体から湯気と共に良い香りが漂ってくる。カッツェは「頂きます」とそっとそのカップを持ち上げる。
(…砂糖とか欲しいんだけどね…ホントはさ…)
甘党である自分としては紅茶をストレートで飲む事はあまり得意ではない。
「あ…美味しい…」
一口飲んだカッツェは驚いてその琥珀色の液体とソロンを見る。彼はそこで初めて微笑すると「甘いだろう」と言った。
「は、い…」
その紅茶は今まで飲んできた紅茶とは違い、何故か甘かった。その甘さは砂糖の甘さではなく果実が持つ独特の甘さだった。
「三種類の葉と二種類の果実を使用した我が家のオリジナルだ」
「そうなんですか」
感心しながらも、カッツェの頭の中はどんどん混乱していった。
(この男は何のために連れてきたんだろう。まさかただ一人で茶を飲むのが嫌だったからなのか?それともこの茶を誰でもいいから自慢したかったのか?ああ、そう言えばこのサークレットの所為で連れてこられたのに何で紅茶の話なんてしてるんだろう…ナナミ、心配してるかな……て、そうだ!)
「あの、何でナ…姉の事知ってるんですか?」
ソロンは音を立てずにカップをソーサーから持ち上げると、
「覚えてはいないかもしれないがお前がそう言ったのだぞ?」
と言い紅茶を飲む。
(…僕が…?)
全く記憶に無い。
「…いつ言いました?」
「そうだな…もう、十年近く前になるな…」
カッツェは目の前で紅茶を啜りながら平然と言い放つこの男を無性に睨み付けたくなった。
(…覚えているわけないだろ…そんな小さい時の事なんて)
「あの時はキャロに避暑に行っていたのだ。その時、街近くの池に落ちてびしょ濡れになっているお前を偶然見つけてな」
そんな事あったかとカッツェは内心首を捻る。幼少の時の事などあまり覚えていなかったが、ハイランドの皇族達が避暑に来ているのは知っていたからもしかしたらそんな事もあったのかもしれないと思う。
「お前は姉が心配するから服が乾くまでは帰れないと言っていた」
その時の事を思い出したのか、ソロンは小さく咽喉で笑った。その表情が、戦場で見た時のあの、どこか追い詰められた様な表情とはかけ離れて優しく、カッツェはその笑顔に見入ってしまった。
(あ!そうじゃなくて!)
「昔話をするためにわざわざここまで連れてきたんですか?」
「ん?」
そう聞くと一瞬ソロンは笑みを引くと再び笑った。
カッツェは自分の発言を後悔した。その笑みは先程までとは違い、唇の端を歪めた、陰湿な笑みだったからだ。
「ああ、そうだった。忘れる所だった」
カップを置くと彼は「ある情報があってな」と薄く笑う。
「街外れにあるタイ・ホーという漁師の小屋がある。そこがどうやら無断で船を出しているらしいのだ」
「!!」
カッツェはソロンから視線を逸らし、自分の手の中にあるカップに視線を落とす。
「明日もどうやら船を出すらしくてな。今、その男を捕らえるかどうか検討中だ」
ソロンの声はどこか含みを持っているように聞える。自分の被害妄想なのだろうか。
見詰める琥珀色の液体がふるふると小刻みに揺れ始める。自分の手の震えが伝わっているのだ。
「まあ、漁師の一人や二人、見逃しても良いのだが……」
「それで…何が望みなんですか…」
震えそうになる声を必死で抑えてカッツェは問う。ソロンは「察しが良い」と面白そうに笑う。
「そうだな……今日一日、言う事を聞いてもらおうか」
「え……」
具体的な事がよく分からずソロンを見る。男の表情は先程までの、自分を脅すような笑みではなく、まるで悪戯を思い付いた少年のようだった。
「お前が逆らわなければあの漁師に手を出さんでおいてやろう」
「本当ですか?」
少しだけ明るさの戻った少年の声色に、ソロンは唇の端を歪めて笑う。
「ああ、だが、逆らった時点で約束は破棄される」
「……分かりました」
長いような、短いような、そんな一日になりそうだった。
「行くぞ」
「はっはい!」
カッツェは立ち上ると、さっさと食堂を出て行く男の後に慌ててついていく。
廊下を歩きながらカッツェは男に問う。
「…あの…本当にこんな事で見逃してもらえるんですか?」
言う事を聞けと言われた時、荷物持ちをさせられるのか、とか、何がモノマネでもやらされるのかとか様々な要求を考えてそれを受け入れる決心をしていたのだが…。
(実際は一緒にお茶飲んで、食事して、散歩して…)
後は駐屯所へ一旦帰った彼を、連れてこられた宿屋の一室でお風呂に入ったりお茶を飲んだりして待っていた事。
「ああ。俺は約束を違えるのは嫌いでな」
前を歩いていたソロンは部屋の前に着くとドアを開けて先に入れと促す。
「あ、ありがとうございます」
こうやってドアを開けてもらったりすると、余計わからなくなってくる。
この男の真意が。そして、この男を敵と思えなくなっている自分が。
「食べるか?」
渡された小さな包みをそっと開いてみる。すると中には一口サイズのチョコレートが出てきた。
「わあ、ありがとうございます!」
ぱあっと顔を綻ばせて菓子に夢中になっているカッツェを見てソロンは微笑んだ。
可笑しそうに笑う気配に気付いたカッツェは、頬をほんのりと紅く染めてソロンに再び問う。
「…あの、何でこんなに親切にしてくれるんですか…?」
「…聞き飽きたな、その質問は」
ソロンは苦笑すると「仕方ないな」とカッツェに本音を囁く。
「…………………え、ええ?!」
カッツェは暫く言われた事を理解するのに時間がかかった。そしてそれを理解した時は顔が朱に染まるのを感じた。
ソロンの顔が近づき、カッツェの唇の端についていたチョコレートを舐める。
「!!!!」
カッツェは真っ赤になりながら何かを言おうと口を開く。だが、実際は声は出ずにパクパクと開閉されるだけであった。
「………逆らうなよ」
ソロンは念を押すように言うと、カッツェを軽々と抱きかかえてベッドに運ぶ。
「ソ、ソロンさ、んぅ…!」
二人分の体重を受け、ベッドが軋む。
カッツェは口内に侵入してくるソロンの舌の不快感から逃れようとするが、それが結果として余計彼の舌を口内奥深くへの侵入を許してしまう。
「う…ぅん……」
歯列をなぞられ、舌を絡められる。カッツェは背筋にぞくぞくと電流のようなものが流れるのがくすぐったくてその身を捩る。
「……っはぁ……」
ようやく解放され酸素を求め喘いでいると、スカーフが外され、そして服も脱がされていく。
カッツェはこれから起こる事に脅え、泣きそうな顔をする。
「そんな顔をするな……優しくしてやるから…」
「ひゃ、あ…!」
ソロンの舌がカッツェの首筋をなぞり、所々で止まってはきつく吸われた。その舌はゆっくりと降下していき、胸の突起にまで辿り着くと、その小さな突起を舐め上げる。
「やっ、ぁん…」
キスされた時と同じように背筋がぞくぞくして、ソロンの服をぎゅっと掴む。舌は愛撫によって固く立ち上がった突起に舌を絡め、時折強く吸った。
「!ゃ…そ、ろん、さ…」
ソロンの指が内腿を這い、その中心をズボン越しに撫で上げる。やんわりと刺激を与え、カッツェの幼いそれに熱を持たせていく。
「やぁ…んっ…」
布越しの愛撫にじれったさを感じたカッツェはふるふると首を振る。
「どうして欲しい?」
ソロンが胸の突起から舌を離し、耳元で囁く。それだけでカッツェはびくびくと背を撓らせる。
「そ…な言えな……やぁん!」
カリ、と固く発ちあがっているそれを引っかく。布が衝撃を和らげ、更なる快感へと繋がってしまう。
「逆らうな、と言った筈だ」
「…………さ、わって…変、になりそ…ぉ…」
初めての行為にカッツェは途惑いながらソロンに訴えた。ソロンは満足げに笑うと少年の下半身を覆っているズボンを取り払う。ピンクに色づいたそこは既に先走りの液を滲み出していた。
ソロンはカッツェの昂ぶったそれをしっとりと唇で包み込む。
「あっ?!いやぁ!そんなトコ、舐めちゃ…や、ぁ…」
カッツェは驚いて腰を引こうとするがソロンの手はしっかりとカッツェの腰を捕らえて離さない。
舌が前を弄りながら指が後部の蕾に侵入してくる。カッツェは舌で与えられる快感と、指が侵入してくる異物感に悶えた。
「あ……ぅう………はぁ……」
カッツェはいやいやをするように首を左右に小さく振る。だがソロンはお構いなしに指を奥へと進める。
「っあ、ぅう……ぁあっ…!!」
びくん、とまるで魚の様に跳ねてソロンの口内で達してし、カッツェは荒い息をつきながら両手で自分の顔を覆う。
「ご、ごめんなさ……」
謝るカッツェの手を顔から放させると、顔を真っ赤に染めて泣きそうなカッツェがソロンを見上げていた。ソロンは微笑むとカッツェの耳朶を甘噛みする。
「ゃ、ん!え…?!」
ぐいっと両脚を抱え上げられてカッツェはまさか、と言わんばかりの目で自分の脚を開かせている男を見る。
「力を抜かないと辛いのはお前だからな」
「や!いっ…あ、あぁ!!」
今まで当然誰も受け入れた事の無かったそこに、ゆっくりと押し入ってくるそれの熱さと質量にカッツェは目を見開いてその目尻からは涙がぼろぼろと落ちる。
ソロンは侵入を止め、大丈夫かと聞いてきた。カッツェは泣き声で一言、「痛い」とだけ答える。
無理も無い。元々そういう器官でない上にまだカッツェは成長途中なのだ。
固く瞳を閉じていると、自分を貫いているそれが抜かれるのを痛みと共に感じた。
(…やめちゃうのかな…)
カッツェは安堵と共にどこか不満気に思いながら、少しだけ瞼を開けてみようかと思ったが、その瞳はすぐに固く閉じてしまう。
「ん、んぁ…!」
再び彼の性器が侵入してきたのだ。だが、先程と同じくらいしか侵入せず、彼の性器は決して無理に奥へは腰を進めず、入り口付近を緩やかにスライドさせていた。
「え…や、やだ…」
カッツェは体の奥で消えかけていた熱が再び蘇ってくるのを感じる。
もっと強い刺激が欲しくて、体の奥が刺激を欲しがって、体がうずうずしてくる。
「こ、れ…や……もっと奥…」
「痛いのだろう?」
カッツェの細々とした訴えにソロンは飄々と言いのける。カッツェは瞼を開けるとキッと薄い笑みを浮かべている男を睨みつける。
「……いじわる……」
「…お前が目を閉じるからだ」
ソロンはカッツェの瞼に口付けて囁く。
「言っただろう?俺はお前のその瞳に魅せられたのだと」
カッツェは頬を一層赤くしてソロンを見る。そして触れるだけだったが初めて、自分からキスをした。
「は、ん…あ、ああぁ…!」
先程より深く押し入ってくるソロンの背にカッツェは腕を回す。ソロンを根元まで受け入れたそこはキュウとソロンを締め付け、溶けるのではないかと思うほど熱かった。
「カッツェ…俺がどれだけお前と再会できる事を願っていたか……」
ずちゅ、と軽く前後させたかと思うと、すぐにそれは激しい物と変わる。痛みから萎えていたカッツェの中心は、後部への刺激から再び自分の中心が熱を持つ。
「あっ、んんっ…ソロッ…ンさ……!」
先程とは違って壊れそうなほど激しい律動。だが、カッツェはあの優しいだけの行為より、この方が満たされているような気がした。
この男がこんなちっぽけな存在を求めてくれる。
それが何より嬉しかった。
「は……ぁんっ……ああぁ!!」
カッツェはびくりと折れそうな程その背を撓らせると、自分の腹の上にその熱を解き放っていた。そしてそれを追う様に自分の最奥で放たれるその熱を全身で感じていた。
――……ェ……ちょ…、カッ……
「カッツェ!」
「はいぃ!!」
耳元で怒鳴られ、まだ夢の国に居たカッツェは慌てて飛び起きる。朝日の射すそこは、昨日と同じ宿屋の一室だったが自分を見詰めているのはあの男ではなかった。
「ナ…ナナミ、ピリカちゃん…どうしてここが…?」
目の前に立つ姉とピリカを交互に見ると、ナナミは「ドジねぇ、あんた」と笑った。
「おかみさんから聞いたわよ。階段から落ちたんですって?」
「え?」
「そ〜れで腰打って気絶したカッツェをこの部屋の人が介抱してくれたってんだってね。」
カッツェは一瞬、昨日の事は夢かと疑う。だがそんな迷いもすぐに吹き飛んだ。
(夢じゃ…ない)
耳に残る低い声は確かに自分を好きだと囁いてくれた。
「ホラ、ぼ〜っとしてないで早く行かないとタイ・ホーさんに置いて行かれちゃう!」
ナナミはカッツェの腕を引いて立たせる。そこでカッツェは自分が服をちゃんと着ている事に気付く。
(ああ、そうか)
腰を打ったと言う作り話も、服を着せてくれたのも、彼なりの気遣いだったのだ。
(ありがとう…ソロンさん)
痛みは気合で何とかならないだろうか、などと考えながらナナミとピリカの後をついて行く。
(また、会えるよね)
視線の先には、前を行く少女二人。そしてこちらに手を振るアイリとボルガン。婉然と微笑むリィナ。
「心配かけてゴメン!さあ、行こうか!!」
ばれる事も無く、船は無事出港した。
ザザ…と船が水を切り裂く音が鳴り響く。
遠ざかる街を眺めながら、カッツェは小さく手を振った。
「またね」
(恋歌3に続く)
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…いっそのこともうこれで終ってやろうかと思いました…今回、エロ書いてる時なんだかとても情けなくなってきた……なんども「もーぅいやだーーー!!」と叫びながら書いたエロは書き終わった時はホント疲れきってました…はあ…エロ読むのは好きだけど書くのは苦手だ…しかもバカばっか…(>_<)
2000/05/11/高槻桂